だが、一体いつからだろうか。かつて実家にいた頃の飛鳥なら、夏蓮や都子が何を言おうと黙って従っていたというのに。今の彼は、『翼』という名前で呼ばれることを――特に夏蓮の口からそう呼ばれることを、異常なまでに忌み嫌うようになっていた。その眼差しには、隠しきれない嫌悪の色がくっきりと浮かんでいる。今のこの瞬間もそうだった。飛鳥は、冷ややかで軽蔑に満ちた視線を夏蓮へと突き刺した。「子供に本当に必要なのは、強く、そして善良な母親だ。夏蓮さん、くれぐれも変な『悪知惠』など働かせないことだな」「……っ」都子が息を呑む。「……」夏蓮の顔色から、サッと血の気が引いた。『悪知恵』という言葉に、明らかに顔がこわばっている。「翼さん……?どうしてそんなひどいことを言うの?私が悪知恵を働かせる?私が善良じゃないって言うの……!?私……っ!」夏蓮が悲痛な声を張り上げるが、飛鳥は彼女の言葉を最後まで聞くことすらなく、あっさりと視線を外した。そのまま振り返り、傍らに立つ医師たちに向かって事務的に言い放つ。「子供の治療には、全力を尽くしてくれ」飛鳥のあまりにも冷酷な態度は、夏蓮の胸をえぐるように深く突き刺さった。息が詰まるほど苦しく、ただ絶望だけが広がっていく。そんな息子の態度を見て、都子も怒りで震えていた。これもすべて、あの星歌のせいだ!忌々しい……あの女、一体いつからあんなに生意気に図に乗るようになったのか。何より腹立たしいのは、星歌がどれだけ傍若無人に振る舞おうと、飛鳥が絶対に離婚しようとしないことだ。それどころか、ますますあの女を甘やかし、執着を深めているではないか!院長は深く頷いた。「もちろんです。お子様の治療には病院を挙げて全力を尽くします。ただ……」そこで言葉を濁し、院長は困惑したような顔でチラリと夏蓮の方へ視線をやった。どうやら、子供の病状は極めて思わしくないらしい。それに加え、まだ生まれたばかりの小さな体だ。手術や治療に耐えられるかどうかも未知数なのだろう。「やれ!」飛鳥は短く言い放った。院長が何を危惧しているかなど、大体想像はつく。体が小さすぎると言いたいのだろうが……それがどうしたというのだ。どんな手を使ってでも生かすこと、それこそが夏蓮と母がどうしても望んでいることではないか。
Read more