夕暮れの空は、王都特有の紫がかった群青に染まっていた。高塔の影が学院の石壁に長く落ち、回廊を抜ける風がマントの裾をかすめていく。彼は長い廊下の突き当たりに立ち、遠くの訓練場に視線を向けていた。そこにいるのは、ひとりの騎士見習い。銀の鎧はまだすべてを装着しておらず、長剣は鞘に収められている。それでも、その立ち姿には無駄がない。踏み込みは正確で、振りは鋭く、まるで最初から“正解”としてこの世界に置かれていた光のようだった。——あれは、かつて自分が書いた人物。前世の記憶は、今も鮮明に残っている。未完に終わった長編小説。「王の騎士」と呼ばれた主人公。そして、その背後に静かに立ち続ける存在。物語は本来、悲劇へと向かうはずだった。王は国を守るためにすべてを犠牲にし、騎士はその決断を支えながらも、最後には己の剣を置く。彼は最終章の直前で筆を止めた。迷いがあったからだ。王と騎士の関係を、忠誠だけで終わらせていいのか。
最終更新日 : 2026-02-25 続きを読む