All Chapters of 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した: Chapter 91 - Chapter 100

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91話

◇ その日の夜──。 もみじは、祖父母に用意してもらった布団の上に座り、目の前の低いテーブルにパソコンを置いてコンテスト用のデザインを作成していた。 デザインに集中しすぎて目が疲れて来た頃。 ようやく区切りが良い所までデザインが進み、もみじは一旦疲れた目を休ませようと目を閉じて頭上を見上げた。 「こんな風に集中出来たのはいつぶりかしら……」 そう言えば、祖父母の家にやって来てから1度もスマホを確認していない。 電車に乗る時にマナーモードにしたまま、鞄にしまいっぱなしになっていたのだ。 「誠司くらいしか連絡は来ないだろうけど……一応確認しておこうかしら」 もみじはそう呟くと、もそもそと布団の上を移動し、鞄の中からスマホを取り出した。 電源をつけてみようとしたが、うんともすんとも言わない。 充電が切れてしまったようだった。 「ああ、もう……面倒だし、明日の朝に充電すれば良いか……」 誠司には書き置きを残してあるのだ。 そのため、もみじが祖父母の家に行っている事は知っているはず。 「あの様子じゃあ、誠司はきっとこの家には来ないわ」 一緒に行こうと言っていたけど、もみじと誠司は喧嘩をしたばかりだ。 しかも誠司は、怒ってもみじを社長室に置いて出て行ってしまったのだから、結婚式の話も。週末に祖父母の家に行こうと行っていた事もきっと全て忘れているだろう。 「ここだったら、誠司と胡桃の姿を見ないで済むわ。嫌な事を考えないで済むし、思い出さないで済む」 もみじは布団に横になると、天井を見上げたまま続ける。 「ここで過ごす2日間の間に、コンテスト用のデザインを完成させないと……。資料は……お母さんが持っていたものを借りればいいか……。明日、お母さんの仕事部屋に行ってみよう」 もみじが体勢を変えると、棚の上に置かれているトロフィーや盾が目に入る。 数々のトロフィーや盾に刻まれている名前は、もみじの母、舞奈の名前だった。 その名前の上には、国内外で開催されている沢山のデザインコンテスト名が記載されていた。 もみじの母親は、世界的にも有名なデザイナーだったのだ。 ◇ 「──ふざけた事をっ!」 場所は変わり、もみじと誠司の家。 誠司は仕事が終わり、帰宅した先でもみじが残した書き置きを見た瞬間昼間の怒りがぶり返し、誠司の手の中でもみじが
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92話

胡桃は、誠司と通話を切った後いそいそと支度を始めた。 うきうきと自室で部屋着から気合いの入った下着に着替え直し、誠司が好きそうな露出の多い服装に着替える。 香水をたっぷり吹き掛け、メイクも直して鏡の前で自分の姿を確認した胡桃は、真っ赤な唇をにんまりと歪めた。 「──うん、可愛い♡もみじなんかより、私の方が全然可愛い♡」 胡桃は軽い足取りで階段を降りると、リビングのソファでゆったりと足を組んで座り、雑誌を読んでいた母親に近付いて行く。 足音に気が付いたのだろう。 母親が雑誌から顔を上げた。 「あら、胡桃?出かけるの?」 「うん。誠司から呼び出されちゃった。もみじの奴が今あの死にかけのじいさんとばあさんの所に泊まってるんだって。だから今日と明日は誠司の家に泊まるわ」 「あら、あの死に損ないの所に泊まってるの?それはちょうど良いわね」 「うん。誠司も今はもう私の体に夢中だから、そのうちもみじに離婚を切り出すんじゃないかしら?」 ふふふ、と笑いつつ胡桃は母親の後ろから抱きつく。 母親は胡桃の頭を撫でつつ、満足そうに頷いた。 「そうね。玖渡川の人間はみんな不幸にならないと。学生の時に誠司がもみじに惚れるのを阻止出来ていれば良かったんだけど……」 「でも、しょうがないわ。あの頃はまだ私も子供だったから誠司に色仕掛けも何も出来なかったもの。せいぜい可愛い妹を演じる事しかできなかった。だけど、今はもう私も大人だし♡」 「早くあんたが誠司の子供を妊娠してくれればね……」 「うーん……そこなのよね……。誠司ったら絶対に避妊するから……。今日、お酒に酔わせて避妊しないように誘導するわ」 「ええ、そうしてみて。事が済んだら、もみじの部屋を探してみて。あいつの母親が死んだ時、娘のために未発表のデザインを残しているはずよ。それを早く手に入れなさい」 「──うん。分かってる。それを手に入れたら、私も世界的デザイナーになれるもんね?」 「ええ、そうよ。あんなクソ女が世界的デザイナー?冗談じゃないわ。もみじも、大学でデザインを勉強していたんでしょう?もみじが何かしらの賞を取る前に、早くデザインを見つけて胡桃が有名デザイナーになりなさい」 「分かってる、お母さん」 そんな事を話しているうちに、大分時間が経ったのだろう。 胡桃のスマホに運転手が到着した知ら
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93話

深夜──。 胡桃はパチリ、と目を開けると隣で眠る誠司に目を向けた。 室内には、先程まで情事に耽っていた名残りが色濃く残っていた。 「んん……体べたべた……シャワー浴びたあい……」 胡桃は自分の体に巻き付く誠司の腕をどかそうとした。 だが、ふとある事を思い付く。 誠司の腕を掴んでいた胡桃は、にやりと笑みを浮かべ、スマホを探した。 運良く近くにあったスマホを引き寄せ、電源を付けると自撮り写真を撮る。 顔や見えてはいけない所は映さず、けれど見る人が見れば、男が「誠司だ」と分かるように自撮りを撮る。 そして撮った写真を加工し、コメントを付けてSNSに投稿する。 【彼ったら、激しく私を求めて離してくれない♡明日がお休みの日だから良かった♡彼も疲れて眠っちゃってる。寝顔がとっても可愛いの♡】 写真だけでも情事後だと言う事がはっきりと分かる。 だが、コメントを付けてそれを確実なものにすると、胡桃はにたり、と笑みを浮かべてからスマホを閉じた。 今度こそ自分の体に絡み付く誠司の腕をどかし、胡桃はゆっくりとベッドから抜け出した。 ベッドの下には、誠司が剥ぎ取った胡桃の下着が散らばっていて。 それを見につける気にもならず、胡桃は誠司のシャツを羽織りシャワーを浴びに向かった。 シャワーを浴びてさっぱりした胡桃は、誠司の寝室ではなく、もみじの部屋に足を向けた。 「私が海外に行く前に、もみじに遺されたデザインを見つけられればいいんだけど……」 もみじの母親、舞奈が最後にデザインしていた未発表作。 遺作、だとも言われているそのデザインは未だ見つかっていない。 当時、祖父母の元に残っているんじゃないか、と胡桃の母親は考え祖父母の家を人を使って探させたが結局見つかる事はなかった。 それから、今まで。舞奈の遺作は見つかっていない。 「もしそれを見つけて、私が手を加えて発表出来れば……!私は一躍世界的なデザイナーになれる!誠司の会社だって、私のお陰で成長出来るわ。……私は社長夫人になれるし、国内で誠司のデザイン会社は1番の企業になる!私がいる場所が、国で1番有名なデザイン会社になれるの。そうなったら、どんなに気持ちいいか……!」 胡桃はぶつぶつと呟きながらもみじの部屋の扉を開け、中に入り込むと鍵をかけた。 万が一、誠司が起きてきた時に。邪魔をされたら面
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94話

◇ 「──あっ、これとか良さそう……!お母さん、これ借りるね」 翌朝。 祖父母の家で目覚めたもみじは、朝食前に母親の仕事部屋に来ていた。 本棚からデザイン雑誌を複数取り出すと、もみじはその中を軽く確認し素晴らしい作品達に刺激を受けた。 自分の頭の中に、素晴らしい作品達を見たお陰でインスピレーションが湧く。 「お母さんは普段どんな風にデザインしてたのかしら。どんな事から着想を得ていたの?日記か何かが残っていれば良かったんだけど……」 もみじはくるりと母親の作業部屋を軽く見回してみたが、日記に当たるような物は見つからない。 母親がデザインの仕事をしている時などのルーティンや、どんな風に仕事をしていたか。 その様子があれば。 残っていれば。 母親の存在を近くに感じられるような気がしていた。 そうすれば、背を押してもらえるような気がしたのだ。 元気付けられるような気がしていたのだが──。 「何もないって事も、お母さんの意志なのかもしれないわね」 もみじは小さく笑みを浮かべると、先程手に取った雑誌数冊だけを借りる事にして、部屋に戻った。 ◇ 朝食を食べ終え、もみじは祖父母の家事の手伝いをしつつ、穏やかな1日を過ごしていた。 昼前になり、昼食の準備を手伝おうとしたもみじだったが、祖母に大丈夫だから仕事をしなさい、と言われ部屋に戻ってきた。 部屋に戻ってくるなりもみじは充電器に繋げられた自分のスマホを目にして「あっ」と声を出す。 「そう言えば、今日は朝からスマホを見ていないわ。この家に帰って来てからあまり必要ないから忘れてた……」 流石にそろそろスマホを確認した方がいいだろう。 仕事関係のメールはパソコンでも確認出来るが、朝食を食べてからは手伝いに回っていて確認していなかったのだ。 「緊急のメールとかは……多分大丈夫よね……」 スマホの電源を付け、画面を確認したもみじの目に、1件の通知が目に入る。 それは、もみじもやっているSNSの通知。 仕事柄、こういったSNSでの情報収集は欠かせない。 そのために入れて、日々チェックはしているのだが、その際に胡桃の連絡先が同期されているため、彼女が投稿すると通知が来るようになってしまっているのだ。 今回の通知も、胡桃が新規投稿をしたからだった。 「──最悪」 見たくなくても、小さ
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95話

もみじは連絡用のSNSを確認してみたが、予想していた通り、やはり誠司からの連絡は一切無かった。 誠司は、もみじがあんな書き置きをして家を出た事を根に持っているのだろう。 だからこそ胡桃を呼び、泊まらせたのだ。 「──だけど、馬鹿ね。胡桃にこんな写真を撮られて、SNSに投稿されるなんて」 誠司には、既婚者という自覚がないのだろうか。 会社の社長という席に着いているのに、妻以外の女性とこんな事をしている場面を写真に残され、しかも投稿されている。 「こんなに危機管理能力が無い人だった……?」 それとも、ともみじは考える。 「胡桃可愛さに、判断能力が落ちているのかしら……」 会社の社長が、こんな事をしているとバレてしまったら。 そうしたら、会社の信用だって失ってしまうと言うのに。 「それとも誠司は、私が絶対に離れていかない、誰にも喋らないとでも思っているの……?」 確かに、誠司の事を盲目に愛していた以前の自分だったら。 こんな投稿を見てしまったら、誠司に問い詰めていただろう。 そして泣きながら責めて、誠司から返ってくる言葉に怯えていたかもしれない。 「離婚」の言葉に怯えていた昔のもみじだったら、誠司からそんな言葉を言われたらすぐに謝っていたかもしれない。 大好きな人だからこそ、そんな事をされても離れたくないと必死に縋っていただろう。 だが、今となってはこんな写真を見れば見るほどに誠司への熱も、愛情も冷めていくのを、もみじは感じていた。 「もしかしたら、家に帰ったら私の部屋とかに胡桃の形跡が残っているかも……。胡桃の香水、強くて嫌なのよね」 1度ハウスクリーニングを頼んだ方がいいだろうか。 そんな事を考えつつ、もみじはスマホの画面を消してテーブルに置いた。 もみじがスマホを置き、パソコンの電源を付けて仕事に取り掛かって少し。 廊下の方から祖母のもみじを呼ぶ声が聞こえてきた。 「もみじちゃん、昼食ができましたよ。ご飯にしましょうか」 「はーい、今いくねおばあちゃん」 もみじはパソコンを閉じて立ち上がる。 パタパタと駆け足で居間に向かった。 もみじが居間に到着すると、ご飯の支度がすっかり終わっていたようで。 美味しそうな和食が温かな湯気を立てているのが見えた。 真っ白なご飯に、湯気を立てている焼き鮭、黄色い卵焼きに菜の
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96話

「もみじちゃん、おかわりもあるからね。沢山食べなさい」 「ふふっ、ありがとうおばあちゃん。だけど、沢山食べたらお腹がぱんぱんになっちゃうわ」 「腹が痛くなったらわしが診てやるし、良く効く薬もあるからな。たっぷり食べなさい。もみじ、お前は少し細過ぎるぞ」 もっと太れ、と言わんばかりにもみじのお茶碗にご飯をよそう祖父。 もみじは困ったように笑いながら、答える。 「おじいちゃん、私の胃腸が強いの知っているくせに。薬だって必要ないわ。私は健康だけが取り柄だから」 「そうだな。体が弱いのはどこぞの馬鹿だけだ」 祖父はふん、と鼻を鳴らして食事を進める。 そしてふと思い出したように祖母に顔を向け、話し出した。 「そうだ、お前。どこぞの馬鹿用に調薬した胃薬はもう必要無い。全て捨ててしまえ。あれはあの馬鹿用だからな、他の患者には使えん」 「はいはい、あなた。分かりましたよ」 「おじいちゃん、おばあちゃん。薬を無駄にしてしまってごめんなさい……」 もみじは、箸を置いて祖父母に頭を下げようとした。 だが、祖父はすぐに首を横に振って答える。 「もみじ、お前が謝る事じゃない。あの馬鹿の行動にうんざりしたわしが勝手に決めた事だ。もう、あの馬鹿の胃腸に関してもみじが気にしてやる必要はないからな」 「──うん、おじいちゃん。今まで沢山相談に乗ってくれてありがとう」 「なに、気にするな。今後はもみじが自分自身の健康に気をつけなさい」 「うん。そうするね」 誠司のせいで一瞬、食卓の雰囲気が悪くなったがそれもすぐに変わる。 それ以降は、和やかに穏やかに食事の時間は終わった。 明日の朝には祖父母の家を出る。 もみじは、祖父母の家に居る間は誠司の事を思い出す事なく、亡くなった母の思い出話や、祖父母の仕事の事などに花を咲かせた。 もみじは、久しぶりに心から安心して笑う事が出来た。 ◇ 翌朝。 もみじは、荷物を持って祖父母の家から出てくる。 「おじいちゃん、おばあちゃん。色々とありがとう。急に帰って来ちゃってごめんね」 「謝る事はない。お前の実家はここだ。いつでも帰ってきていいんだからな」 「そうよ、もみじちゃん」 もみじの言葉に、祖父母は優しい笑みを浮かべて言葉を返してくれる。 祖母はにこにこと笑みを浮かべ、もみじの両手を優しく包み込んだ。 「
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97話

もみじが何度も電車を乗り換え、自宅のある駅に着いたのはお昼頃になっていた。 「もうこの時間は誠司も出社してて家には居ないわね。自宅でゆっくり応募作品を考えられる」 もみじは帰宅途中、チェーン店のカフェに立ち寄った。 昼食を軽くテイクアウトして、家で食べながらデザインを考えよう。 そう考え、キャリーバッグをコロコロと転がし、お店に入ったもみじの視界に、見知った人物の後ろ姿を捉えた。 「──あれ、髙野辺さん?」 もみじの声に反応し、視線の先にあった背中が振り返る。 振り返った男性──髙野辺は、もみじの姿を見つけた瞬間、ぱっと表情を明るくした。 「新島さん!奇遇ですね」 「ええ、本当に。今日もお仕事でこの辺りに来られていたんですか?」 「ええ、そうなんです……新島さんは、お出かけですか?」 髙野辺はもみじの横にあるキャリーバッグに視線を向け、首を傾げた。 もみじも自分のキャリーバッグに視線を落としつつ、口を開く。 「週末、実家に……。今さっきこちらに戻って来たんです」 「ご実家に?そうだったんですね」 世間話をしつつ、レジに並ぶ2人。 髙野辺もテイクアウトをする予定だったのだろう。 もみじが引いているキャリーバッグをさり気なく受け取り引いてくれる髙野辺に、もみじはお礼を告げた。 「新島さん、もし良ければご自宅まで車で送りますよ。荷物を持って、ここでテイクアウトした商品も持って徒歩で帰るのは大変でしょう?」 「だ、だけど髙野辺さんはお仕事があるし……」 「ちょうど仕事も一段落したんです。新島さんをお送りする時間くらいはありますよ」 にこり、と笑みを浮かべた髙野辺に提案されたもみじは、正直とても有難いと思った。 髙野辺の言う通り、キャリーバッグを引き、テイクアウトをした品物を持って歩いて帰るのは少し大変だと思っていたのだ。 だが、本当に頼んでしまっていいのだろうか。 もみじが悩んでいると、自分達のレジの順番が来てしまった。 「新島さんは何を頼みますか?あ、俺はアイスコーヒーのショートサイズで」 スムーズに注文を入れる髙野辺に、もみじも自然と注文を口にする。 彼が一緒に注文をしてくれて、もみじが自分の料金を払おうと財布を出した所で髙野辺がカードで支払ってしまった。 「た、髙野辺さん!」 「あ、新島さん後ろの人が注文す
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98話

どうして会社に出社しているはずの誠司が家に居るのか──。 もみじが驚き、唖然としていると更に誠司は言葉を続けた。 「──はっ、図星だから何も言えないのか!?お前は結婚している自覚が無いのか、お前は俺の妻だろう!?それなのに、夫である俺に嘘をついてこんな男と旅行に行くなんて……!このっ、アバズレが!」 「──なっ」 どうして誠司にこんなに酷い事を言われなくてはならないのか。 もみじは頭に血が登り、怒りで目の前が真っ赤に染まった。 だが、もみじが言い返すより早く、もみじを後ろで支えてくれていた髙野辺が恐ろしく低い声で言葉を発した。 「何を勘違いしていらっしゃるのか分かりませんが、新島さんとはさっきカフェで会いました。荷物が多く、大変そうだったので車で送ってきただけです」 「──お前には聞いていない!俺はもみじに聞いている!不倫をしている汚い奴は、平気で嘘をつけるだろう!もみじ、ちゃんと俺の顔を見て、目を見て同じ事が言えるのか!?」 髙野辺に支えられているもみじの腕を強い力で掴み、もみじに詰め寄る誠司。 誠司に強い力で腕を掴まれたもみじは、痛みで顔を歪めた。 「ほら見ろ!すぐに説明出来ないだろう!?それに、俺から目を逸らした!疚しい事をしている証拠だ!俺が相手をしてやらないからと言って、こんな男にすぐ靡くなんてとんだアバズレだ!ろくでもない事をしやがって!」 口汚い言葉で罵る誠司。 誠司の暴言は止まらない。 「こんなアバズレだったとはな!初心で清楚な胡桃とは大違いだ!こんなアバズレは俺の妻に相応しくない!お前は不倫したんだ、お前有責で離婚出来るんだぞ!」 「──なして」 「少し優しくしていれば付け上がって……!もみじ、お前はとんでもない性悪女だ!胡桃の言う通りだ──」 「離してって言っているでしょう!」 誠司の言葉を遮るように、もみじの大きな声が響き、誠司の腕を思い切り叩き落とす。 ばしん!と大きな音が響き、もみじに叩かれた誠司の手がじんじんと痛みを発し、誠司は唖然ともみじを見つめた。 もみじは怒りに満ちた目で誠司を見つめ返し、その瞳には感情の昂りからか、涙が滲んでいた。 「私が髙野辺さんと不倫……?私と髙野辺さんを馬鹿にしているの?誰もがあなたと胡桃みたいに不倫すると思わないで」 「──は」 「髙野辺さんとはさっきカフェ
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99話

「確か、胡桃と言う名前の女性は新島さんの妹さん、ですよね……?」 髙野辺の低く、冷静な声がぽつりと落ちる。 それまで興奮し、誠司に言葉を紡いでいたもみじは髙野辺の声にハッとして荒ぶった感情を落ち着かせ、髙野辺に振り返った。 「──ええ、そうなんです。胡桃は、私の妹……。夫の誠司からしたら、義妹ですね」 「義妹を、妻が不在の間に家に呼んだんですか……?そして、泊まらせていた……?」 「ええ。しかも、昨夜が初めてではありません。私が以前入院していた期間も、夫は義妹を家に泊まらせていました。私が入院していて世話を出来ないから、と言っていましたけど」 もみじが吐き捨てるようにそう言うと、髙野辺は信じられない物を見るような目で誠司を見つめる。 髙野辺の瞳には、ありありと不快感や軽蔑するような感情が浮かんでいる。 そんな目を向けられた誠司は、あまりにも強い髙野辺の視線に押され、ぐっと言葉に詰まる。 「なんて不潔な人達なんだ……。そんな人が、新島さん──いえ、もみじさんを罵ったって言うんですか?自分の事を棚に上げて……?信じられない」 「おっ、お前には関係ないだろう!夫婦の事に首を突っ込むな!」 「あなたが俺を巻き込んだのでしょう。もみじさんと俺はただの友人のようなものです。それなのに、ご自身の不潔な男女関係の基準に俺ともみじさんを当て嵌めないでください。不愉快だ」 「──なっ、なっ、お前っ」 髙野辺のはっきりとした物言いに、誠司は屈辱やら怒りで顔を真っ赤にしながら言葉にならない声を上げる。 ぷるぷる震える手で髙野辺を指差し、誠司が何かを言おうと口を開いた所で──。 「──誠司っ!せ、誠司さん!大変なの、大変な事が起きて──……えっ、お姉ちゃん!?」 バタバタ、と慌ただしい足音で走ってくる音と胡桃の声が聞こえ、もみじは驚いて振り向いた。 そこには、息を切らし顔色を真っ青に変えた胡桃が、肩で息をしながら外から玄関にやって来た姿があった。 ◇ 胡桃は、会社に出勤していたのだろう。 そして何かしら問題が発生して急いで誠司が居る家に戻ってきたようだった。 「誠司さん、電話が繋がらないから……!今、会社が大変な事になっているのよ!?」 あのまま玄関で話していても、埒が明かない。 それに、もみじと誠司の口論は近所の人に目撃されていた。 あの
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100話

「そっ、そうなのよ誠司さん大変なの!私の──えっと、会社で企画進行中だった例の事業の……私のデザインが流出してたの……!」 「──何だと!?」 胡桃の言葉に、誠司がガタリと勢い良く椅子から立ち上がる。 (デザインの流出……?胡桃のデザインが……?) 胡桃の叫びを聞いた瞬間、もみじは怪訝気に眉を寄せた。 (胡桃は、まだ正式なデザイナーじゃないわ。それなのに、胡桃のデザインが流出……?まさか、Seaを騙っているから、Seaのデザインが流出したとでも言うの……?) もし、もみじが考えている事が当たっているなら。 事件所の騒ぎじゃない。 【Sea】のデザインが流出したとあれば。 そして、それが誠司の会社で新たに始めようとしていた新事業に関わっているデザインであるのなら。 損害は億に上るだろう。 だからこそ、胡桃の言葉を聞いた誠司の顔色は真っ青になったのだろう。 今、彼の頭の中ではどれだけの損害を被り、被害をどれだけ抑えられるか。 恐ろしくて、もみじはそれ以上の考えを放棄した。 (まあ……本物のSeaが関わっている訳じゃないから……好きにさせましょう) もみじが淡々とした表情で居ると、胡桃の言葉で立ち上がった誠司は慌てて口を開く。 「流出したって、どうして……!?Sea……っ、いや、お前のデザインは厳重にパスをかけて保管していただろう!?」 「そっ、それが……社内の人が……ライバル会社に情報を売っちゃったみたいで……」 胡桃はちらり、ともみじと同席している髙野辺の存在を気にするように視線を向ける。 そこでようやく誠司ももみじと──部外者である髙野辺の存在を思い出し、慌てて胡桃の口を自分の手のひらで塞いだ。 「胡桃。その話は社に向かう車の中で詳しく聞く。着替えてくるから待ってろ!」 「わ、分かったわ……」 慌ただしく部屋に戻る誠司。 もう、もみじと髙野辺の事など誠司の頭の中から消えているだろう。 それだけ、胡桃が齎した話の方が衝撃が大きい。 「あ……ごめんね、お姉ちゃん。それに、髙野辺さん……仕事の話なんて意味が分からないよね……?」 気にする所はそこでは無い──。 もみじも、髙野辺も同時に思った。 だが、特に胡桃に言葉を返す事はせず、だんまりを貫いた。 もみじも、髙野辺も何も反応を返してくれない事を不満に思ったのだ
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