閉じられた社長室の扉を見つめていた胡桃は、少し不服そうにしながら、再び誠司に抱きついた。 「誠司さん……田島さん、どうして私の事を奥様じゃなくて……名前で呼ぶの……?それに何だか……彼の視線が冷たかったわ……」 「──言っていなかったか?もみじが入院している事を知らなかった時に彼にもみじを探させるために妻だと教えた。田島は胡桃が妻の妹だともう知っているからな」 誠司の言葉に、胡桃はむっとした顔のまま誠司にしなだれかかる。 「何だか、嫌な目で見て来たわ、田島さん……。あの目、凄く怖い……」 「──そうか?いつも通りだと思うが……」 胡桃の言葉に、誠司は適当に流しながら渡された薬の袋を開けて胃薬を取り出すと、飲み込んだ。 胡桃は誠司の態度には構わず、彼の首に自分の両腕を絡ませ、再び誠司の膝に乗り上げて甘えるように抱きついた。 「何か……凄く嫌よ、あの人の目……。ねぇ、誠司さん。誠司さんの妻がお姉ちゃんだって知ってる人が近くにいるのは危険だわ。それに、私……あの人に何かされそうでとても怖いの……」 「何を、胡桃──」 「ねえ、誠司さん。あの人クビにしちゃったらどう?誠司さんとお姉ちゃんの関係を知っているなら、周囲にバラしちゃうかも……」 胡桃は誠司にそう告げると、驚いた表情を浮かべる誠司に口を近付け、何かを言おうとする前に誠司の唇を塞ぎ、そのままのしかかった──。 ◇ 「今日はいい天気だし、どこか出かけようかな……」 遅い朝食を食べ終えたもみじは、テーブルから立ち上がると食器をシンクに運ぶ。 以前だったら、こんな風に天気の良い日は洗濯や掃除に時間を費やしていた。 だが、もみじはもう誠司のために自分の時間を尽くして生きて行くのはやめよう、と考えた。 「足がまだ治ってないから、あまり遠出はしないようにして……公園を散歩でもしようかな……?」 せっかくの天気が良い日だ。 もみじは気持ちよさそうに窓の外を見ると、室内に脱ぎ散らかされた誠司の服や、食べ終えた食器は全て業者を手配して任せ、着替えて外に出かけた。 ◇ ゆっくり歩きながらもみじがやって来たのは、自宅からほど近い場所にある大きな公園だった。 休日になると、多くの家族連れで賑わうこの場所だが、平日の今は子供を遊ばせている母親や、散歩をしている老夫婦。 営業職だろう人がベンチに
最終更新日 : 2026-02-28 続きを読む