All Chapters of 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した: Chapter 131 - Chapter 140

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131話

◇ 「髙野辺社長」 「──田島秘書か」 もみじと別れた後。 髙野辺が車でぼうっとしていると、外から窓を叩かれた。 誰だ、と思った髙野辺が窓の外を見ると、そこには田島が何とも言えない表情で立っていた。 ドアを開けた髙野辺は、田島に問う。 「どうした、何か憂慮する事案でもあるのか?」 田島が購入したコーヒーは、既に冷めてしまっている。 だが、髙野辺はそれを気にせずに田島から受け取ると、運転席から後方の後部座席に移動した。 髙野辺と入れ替わるように運転席に乗り込んだ田島は、タブレットを取り出して操作し、それを髙野辺に差し出した。 「……このような事が。……かなり広まって来ております。その内、奥様の目にも止まるやもしれません」 「──?」 差し出されたタブレットを受け取った髙野辺は、画面に映る男女の姿に目を見開いた。 どこからどう見ても隠し撮りだろうその写真。 場所は、飛行機の中だと分かった。 それに、ピントがボケてぶれてしまってはいるが、その男女が絡み合い、キスをしている様子ははっきりと分かる。 「……まさか、これは」 「……画像は数枚、拡散されております」 「本当か?」 田島の言葉に、髙野辺は画面を操作する。 横にスワイプすると、新しい写真が画面に表示された。 次に表示された写真は、ピンぼけもしておらず、男女の顔がはっきりと映ってしまっていた。 「──新島さんの夫と、妹だな」 「ええ。はっきりと映っています」 「……不倫の決定的な証拠じゃないか。URLは?」 「既に社長のメールアドレスにお送りしております」 「分かった」 田島の言葉を受け、髙野辺は自分の社用スマホを取り出すと、画面を付けた。 メールを開き、URLから写真を表示すると画像を一括保存した。 「奥様がこの事に気が付いたら、傷付いてしまうはずです。最初は拡散速度は緩やかでしたが、今はもうかなりの速度で広がっています」 「そのようだな」 「奥様は、大丈夫でしょうか」 「多分、新島さんは大丈夫だろう。……離婚するための証拠が1つ増えた、と喜ぶんじゃないか」 「えっ、離婚ですか!?」 髙野辺の言葉に、田島はぎょっとして後ろを振り向く。 「えっ、えっ、奥様は離婚を……?」 「ああ。さっきそう聞いた。それより、前を向いて運転に集中してくれよ?」
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132話

◇ 歴史的な建造物。 有名な観光スポット。 そして有名な美術館──。 E国に降り立った胡桃は、目を輝かせて隣を歩く誠司の腕に抱きついた。 「誠司っ!凄い、凄いわね!」 「胡桃……、はしゃぎ過ぎだ。転ぶぞ」 「だって、デザインに強い本場のE国に来れたのよ!誠司、ありがとう♡私、この国で一生懸命勉強して、Seaとして今まで以上の力を付けるわね」 「ああ、頼むぞ」 「ふふふっ、これからはSeaの能力も、宣伝力も、全部誠司のものよ。私の作品を沢山使ってね♡」 Seaの全てが自分の物になる──。 その言葉を聞いた瞬間、誠司は口元を笑みの形に緩めた。 ここ、E国でもSeaの知名度はかなり高い。 それだけSeaは世界中から注目されている人物なのだ。 (そんなSeaが、俺のために、俺の会社のために……!) 胡桃は、Seaとして誠司の会社と専属契約を結ぶと言ってくれた。 そして、独占的に誠司の会社にSeaが描いたデザインの使用許可を出す、とまで言ってくれたのだ。 競合他社からしたら、喉から手が出る程欲しいSeaのデザイン使用権。 それを、誠司はこれからほぼ独占的に使用出来る。 (ああ……。帰国したらどんな仕事を始めようか。Seaは確か建造物のデザインもしていたな?今までとは全く違ったアプローチ方法も取れる。新規開拓も出来ると言う事か……!) 今回の騒ぎで被った被害は大きい。 だが、それを凌駕するほどの莫大な利益を得られるだろう。 「ねえ、誠司!お腹が空いちゃったわ。どこかでご飯を食べてからホテルに行かない?」 「ああ、確かにそうだな。そうしようか」 楽しげにはしゃぐ胡桃に手を引かれながら、誠司と胡桃は食事のためにホテルから近いレストランに向かった。 「ああ、お腹いっぱいだわ!」 ぽふり、と大きなベッドに横になる胡桃は声を上げる。 「胡桃、シャワーはどうする?いつもは早く浴びたいって言うだろう?」 ワイシャツを脱ぎつつ誠司に話しかけられた胡桃だったが、胡桃は天井を見上げながら答えた。 「誠司が先にどうぞ。私はこの国に来たと言う感動と興奮を忘れない内に、デザインを少しするわ」 「──そうか!それじゃあ、俺は邪魔をしないようにシャワーを浴びてくる。シャワーを浴びたらリビングにいるから、デザインが終わったら声をかけてくれ」 「
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133話

◇ 国内、もみじの家。 時刻は深夜。 もみじは自分の寝室でぐっすりと眠っていた。 だが、枕元に置いていたスマホが突然着信音を響かせる。 「──えっ、何……!?」 びっくりしてがばり、と飛び起きたもみじは電話の着信音を鳴らすスマホを手に取り、画面を確認する。 すると、そこに表示されていた名前は──。 「誠司!?こんな時間に一体どう言うつもり!?」 時差がある事など、誠司の頭の中にはちっともないのだろうか。 向こうが夕方から夜の時間だとしても、こっちは既に夜中だ。 もみじは怒ったように声を上げ、スマホをサイレントモードにするとスマホの画面を下にしてもう1度ベッドに入る。 もみじがベッドに入り直し、目を瞑っても裏返されたスマホはいつまでも鳴り続けていた。 翌朝。 もみじはいつもの時間に目が覚め、いつものようにスマホを確認した。 すると。 「──うわっ」 思わず嫌そうな顔で、嫌そうな声が出てしまった。 もみじのスマホにはずらっと不在着信の通知が並んでおり、メールも何通も届いていた。 一体何の用なのだろうか。 だが、今誠司に連絡しても相手は夜中だろう。 「何の用だったんだろう……」 もみじはそう呟きながら誠司から届いたメールの一通を開封してみる。 【電話に出ろ!】 【どうして電話に出ない!】 【薬の配達はどうした!】 【食事は!?】 そんな言葉ばかりが羅列されており、もみじは呆れたため息を吐き出した。 「忘れているのかしら……誠司がギリギリまでホテルを教えてくれなかったから、配達が間に合う訳ないじゃない。E国までどれだけ離れてると思っているのよ」 また胃痛が発生したのだろう。 胃が弱いと言うのに、どうして海外で無茶な食生活を送るのだろう、ともみじは誠司の行動の甘さに呆れてしまう。 「知らないわよ。私はちゃんと薬も、食事も手配したから」 もみじは誠司宛のメールに同じ事を打ち込むと、送信した。 「さて、私はデザインを描こうかな」 Seaには国内、海外問わず案件の依頼が入ってくるのだ。 コンテストの結果を待っている今でも、引き受けたいくつかの仕事の納期が迫っている。 ジュエリーのデザインに、会社のロゴのデザイン、コラボ商品のデザインに──。 「今回、1番力を入れるのはこれよね……」 もみじは気合いを入れ
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134話

思い立ったが吉日、とばかりにもみじは早速身支度をする。 その駅舎は都心部の乗り換え主要駅のため、毎日多くの人が利用する。 その駅の近くには小さな公園や、遊歩道などが設置されており、観光目的にわざわざ駅までやって来る人も国内外から多く居る。 そんな駅舎のデザインに関わらせてもらえるなんて、最初もみじの元に来た依頼メールを見た時には、驚きぎょっとしたものだ。 だが、何度かオンラインで打ち合わせをしていく内にじわじわと実感が伴ってきたのだ。 「既に提出しているラフの内、どれになるかは分からないけど……皆が笑顔になってくれるようなデザインを完成させたいなぁ……」 支度を終えたもみじは、現地に向かうために家を出た。 もみじの住む地域から、その駅までは電車に乗って10分ほど。 電車に揺られ、目的の駅に降り立ったもみじは改札を出て、駅前にある広場に出てきていた。 平日の昼間の今でさえ、都心部は仕事で駅を利用している人や観光の人、沢山の学生などで賑わっている。 「あら……修学旅行生かしら?」 高校生の団体と思われる学生たちが駅舎前の広場に集まり、引率の教師の話を聞いているのが分かる。 その横を、スマホを耳にあて話しながら急ぎ足で通過する営業の人。 これから遊びに出かける予定なのか、大学生くらいの若い子達が待ち合わせ場所で合流し、楽しそうに話している人達。 駅舎の写真を撮る海外から来た観光客。 駅舎を振り返り、仰ぎ見る年配の老夫婦。 「……本当に沢山の人がこの駅を利用しているわね」 実際、自分の目で見てどんな人達が利用しているのか。 それを知れてとても良かった、ともみじは近くにあるベンチに腰を下ろした。 駅舎の写真を撮ったり、既に提出したラフ案に手を加えたり。 そうした事を、もみじは時間も忘れて夢中になって行っていた。 もみじがどれくらいの間、そんな事をしていただろうか。 硬いベンチに座りっぱなしだったため、少しお尻が痛くなって来た。 「うう……ちょっと休憩……」 タブレットに落ちていた視線をふっと上げた時。 もみじの足元に蹲っている何かが視界に入った。 「──え?」 じぃーっともみじを見上げる、大きくてつぶらな瞳。 その子──小さな女の子は、タブレットに集中しているもみじを興味深そうに見つめていた。 「えっ、え……?」
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135話

「タブレットでお絵描きしてるの?」 「そうよ。お絵描きしてみる?」 「いいの!?」 もみじと女の子が話し始めて10分ほどは経っている。 だが、その間も女の子の母親はこの場には見えず、もみじの心に焦りが募り始める。 (もしかしてこの子……お母さんとはぐれてしまったのかしら……) この駅舎はとても大きく、広い。 駅ナカには沢山のお店が入っていて、子供の身からしたら迷路のように複雑だ。 (駅ナカをお母さんと一緒に買い物していたのかも……それなら、構内放送をしてもらったほうがいいかしら。それとも、交番に一緒に行って、迷子の届出をした方がいい?) もみじの焦りなど女の子には一切伝わっておらず、女の子はもみじから渡されたタッチペンで楽しそうにタブレットにお絵描きをしている。 もみじがどうしよう、と考えているとふ、と自分達が座っているベンチに影が落ちた。 「──新島さん?」 「えっ」 自分の苗字を呼ばれ、もみじはぱっと顔を上げる。 すると、そこには──。 「髙野辺さんと、田島さん?どうしてここに……」 「本社に用が──いや、仕事でここに来たんですが……。新島さん、この子は……?」 髙野辺の少し後ろに田島が控えていて、もみじに向かってぺこりと頭を下げている。 まさか、田島が髙野辺と一緒にいるなんて──。 もみじはその事に驚きを覚えていたが、髙野辺に女の子の事を聞かれてはっとした。 今は、それどころじゃない。 もしかしたら、この子は迷子かもしれないのだ。 もみじはベンチから立ち上がると、小声で髙野辺に事情を説明した。 もみじの説明を聞いていくほどに、髙野辺の目が驚きに見開かれて行く。 「それで、どうしたら……と思っていまして……」 「そうだったんですね。それだったら、交番と駅には田島が……田島さん、に届けてもらいましょう。いい?田島さん」 「も、もちろんでございます!」 髙野辺が振り返り、田島に話しかける。 すると、田島はかしこまったように返事をして、慌てて交番の方向へ走って行ってしまう。 「──あっ」 「お母さんが探しに来るまで、この場所を離れない方がいいかもしれませんね」 走り去る田島を目で追っていたもみじに、髙野辺の柔らかい声が落ちる。 もみじは一瞬感じた違和感をすぐに忘れ、女の子に向き直った。 「そう、です
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136話

田島が交番と駅に迷子の報告をしに行ってくれている間、もみじと髙野辺は2人で女の子を見ていた。 「あのね、梨花ねお花が大好きなの。お母さんがお花が大好きだから、梨花もお花が大好きなのよ」 女の子──梨花が楽しそうにタブレットに花の絵を沢山描いている。 タブレットには、色とりどりの花が所狭しと描かれていて、もみじは梨花の隣でその花を覗き込みつつ相槌を打つ。 「そうなのね、梨花ちゃんはどのお色のお花が好き?」 「うーん……青いのとか、ピンクとか……それが好き!」 タブレット用のペンを持ち、もみじに向かって笑顔で報告をしてくれる梨花。 その笑顔がとても可愛く、もみじも自然と梨花につられて笑顔になってしまった。 「梨花ちゃん、あっちの花壇にお花が沢山咲いているよ。お花を見てみる?」 「本当!?お兄ちゃん!見る!」 髙野辺の言葉に梨花は興奮したように答えると、ベンチからぴょんと飛び降りた。 そのまま駆けて行ってしまいそうな梨花に、もみじは慌てて後を追おうとしたが、髙野辺が先に動いた。 「梨花ちゃん、走ったら危ないよ。それにここは沢山人がいるから走ったら人にぶつかっちゃうかも。転んじゃったら痛いだろう?」 「うん……」 「梨花ちゃんの身長だと、人に埋もれちゃうかもしれないから俺が抱っこしても大丈夫?」 「お兄ちゃんが……?うん!抱っこして!」 「ははは、分かったよ」 髙野辺は梨花に優しく笑いかけ、そのまま彼女を抱き上げる。 視界が高くなった事に梨花は大興奮で、歓声を上げてはしゃいでいる。 「こうした方が、お母さんから見つけやすいかもしれません。すみません、新島さん。俺の荷物をお願いしてもいいですか?」 こそり、ともみじに耳打ちする髙野辺。 もみじは強く頷いた。 髙野辺の荷物、ともみじがベンチを振り向くと小さなタブレットケースがそこにあって、もみじは自分のタブレットと一緒にバッグに入れて髙野辺と梨花を追いかける。 髙野辺と一緒にもみじが歩いていると、観光客だろうか。 老夫婦がもみじ達を見て、微笑ましそうに笑いつつ「仲の良い家族ね」と話しているのがちょうどもみじの耳に届いた。 その言葉に、もみじは何だか胸がざわつくのを感じた。 (傍から見たら、私と髙野辺さんと梨花ちゃんは家族に見えているのかしら。髙野辺さんは独身なのに、申し訳な
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137話

「Buongiorno Vorrei andare qui. 」 イタリア語──。 どうやら道に迷ってしまい、困っているらしい観光客。 その観光客は、もみじに話しかけつつ地図を広げていた。 もみじは笑顔で観光客に向き直ると、イタリア語で返答した。 【どこに向かいたいのですか?】 【ああ!助かったよ、ありがとう!この公園に行きたいのだけど──】 【ああ、この公園は……】 もみじが道順を観光客に教え、道が分かった観光客が嬉しそうにお礼を口にして、もみじを軽く抱きしめる。 【ありがとう!君が素敵な1日を送れますように!】 【旅行を楽しんで!】 手を振って去って行く観光客を見送り、もみじがさて、と髙野辺と梨花の方へ振り向くと。 梨花はキラキラと瞳を輝かせ、もみじを熱い眼差しで見つめていた。 「お姉ちゃん、凄い!外国語を話せるのね!」 「──ええ、少しだけね」 ふふ、ともみじが笑いながら答えると、梨花は凄い凄い!と飛び跳ねてもみじに抱きつく。 楽しげに笑うもみじと梨花を見つめていた髙野辺は、語学堪能なもみじを流石だな、と胸中で呟いていた。 (そうか、新島さんはSeaだから……海外の言語も堪能なのは当然か。海外のデザイナーとも交流があるだろうし、海外からの依頼も受けているもんな……) 髙野辺がそんな事をひとりごちている間に、もみじと梨花の会話は盛り上がり、駅ナカにある花屋へ行こうと話が変わっていた。 「うーん……、だけどここを離れるのはちょっと……」 「どうして?お母さんに綺麗なお花をあげたいの!お姉ちゃん、一緒にお花屋さんに行こうよ?」 ぐいぐい、ともみじの手を引いて駅へ向かおうとしている梨花に、もみじは困ったように眉を下げる。 母親がもしかしたら梨花を探しに来るかもしれないのだ。 あまりあちこち移動して、母親から見つけにくくなってしまうのはよろしくない。 もみじのそんな考えを読んだのだろう。 髙野辺は駅へ向かおうとしている梨花をひょい、と抱き上げると言い聞かせるように告げた。 「梨花ちゃん。君のお母さんは今、梨花ちゃんを必死に探していると思うんだ。お母さんと早く会いたいだろう?」 「──う、ん……」 梨花も、自分が母親とはぐれてしまった事をしっかりと理解しているのだろう。 髙野辺の言葉にハッとしたような顔になり、
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138話

「梨花──!!」 あれから、10分程が経った頃だろうか。 もみじが髙野辺と一緒に梨花と花壇の花を見ていると、梨花の名前を叫びながらもみじ達に走り寄る女性が居た。 女性の後ろからは警察官が1人と、田島が一緒に歩いて来ていた。 「──お母さん!」 梨花は母親と思わしき女性の声を聞くなり、ぶわりと瞳に涙を溜めて母親に駆け寄る。 「お母さん、お母さん!」 「もうっ!1人で勝手にどっか行って!離れないでって言ったでしょう!」 母親も、梨花も会えた嬉しさで泣き笑いのような表情を浮かべている。 田島と一緒にやって来た警察官は「まあまあお母さん」と母親を宥めつつ、交番まで来てくれるように促している。 母親は警察官に返事をすると、慌ててもみじと髙野辺に振り返った。 「あの!娘がご迷惑をおかけして、申し訳ございません!本当にありがとうございました!」 物凄い勢いで頭を下げる母親に、もみじは気後れしてしまって慌てて両手を振る。 「いえいえとんでもないです!無事にお母さんと会えて良かったです」 「ああ、もう本当にありがとうございます!是非お礼を……!」 「だ、大丈夫ですよ!ただ一緒にお絵描きしたり、お花を見ていただけなので──」 そこまで話していたもみじは、はっと思い出す。 「そ、そうだお母さん!梨花ちゃんがお絵描きしたお花の絵があるんです。ちょっと待っててくださいね」 もみじはそう言うなり鞄から機械を取り出すとタブレットと接続し、梨花が描いた花の絵をプリントした。 「もし良かったら、これをどうぞ。とっても上手にお絵描きしていたので」 「──!こんな素敵な物まで!何から何まですみません……!ほら、梨花もお姉さんにお礼を言って」 母親に促された梨花が、プリントされた自分の絵を見て瞳を輝かせる。 「わあ!お姉ちゃん、ありがとう!お兄ちゃんもお花を一緒に見てくれてありがとうございます!」 ぺこり、と頭を下げる梨花に髙野辺が優しい笑みを浮かべながら頭を撫でてやる。 「もうお母さんとはぐれないようにな。手を繋いでおくんだよ?」 「うん!」 「ああ、そうだ梨花ちゃん」 髙野辺に手招きされた梨花は、髙野辺から1輪のチューリップを渡される。 駅ナカの花屋で売っているのを見た覚えがあるもみじは、いつの間に、と驚いた顔で髙野辺を見た。 「お母さんに
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139話

その場に残されたもみじと髙野辺、そして少し離れた場所に田島。 髙野辺は後頭部をかきつつ、もみじに向き直った。 「まさか迷子の女の子に会うとは思いませんでしたね」 「ええ、でも梨花ちゃんがお母さんに会えて良かったです」 「ええ。すぐに見つかって良かったです。交番に迷子の届出をしていた事も、すぐに見つかる要因となりましたね」 「ええ、本当に」 お互い顔を見合わせて笑い合う。 もみじと髙野辺が談笑していると、申し訳なさそうに田島が髙野辺に近付いた。 「社──、髙野辺さん……」 「……ああ、そろそろ時間か」 「ええ、すみません」 「いや、大丈夫だ。……新島さん」 髙野辺はもみじに振り返ると、申し訳なさそうに話す。 「すみません、俺たちはまだ行かなきゃいけない所があって……」 「──あっ、そうですよね、お仕事中ですよね!?引き止めてしまってごめんなさい、私はそろそろ帰りますね」 「えっ、あ……」 「梨花ちゃんのお母さんを一緒に待ってくれてありがとうございました。また!」 もみじは髙野辺と田島に手を振り、そのまま颯爽と去って行ってしまう。 もみじに向かって話を続けようとしていた髙野辺は、ただ彼女が帰って行く後ろ姿を見送る事しかできなかった。 そんな髙野辺に、田島が躊躇いがちに近付き、話しかける。 「社長……奥様に新島社長と妹の胡桃さんの事を伝えなくていいんですか……?」 「せっかく今日は梨花ちゃんのお陰で晴れ晴れとした気分だろう……?あんな人達の話をして、新島さんが嫌な気持ちになったら……、と思うとな……」 髙野辺は困ったように後頭部をかき、苦笑いを浮かべる。 「ですが社長。あの写真は物凄い速度で拡散されていますし……奥様の目に入るのも、時間の問題なのでは……」 「ああ。いつかは知る事になるだろうな。……だが、それは今じゃない。彼女は、俺の知り合いの弁護士に連絡をしてくれたみたいだし、弁護士との初回話し合いの時に、弁護士側から今回拡散されている写真をそれとなく話してもらうよ」 「そう、ですか……」 「出来るだけ、新島さんが傷付かないように終わればいいんだが……」 「私も、そう思います。奥様は本当にとても優しい方ですからね……」 髙野辺と田島は暫ししんみり、とした後、気を取り直して仕事に戻る事にした。 デザインコンテ
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140話

久保田法律事務所。 久保田 時陽弁護士は、国内でも有名な離婚に強い弁護士だ。 彼に依頼したい人は大勢居る。 そして、久保田弁護士は再来年まで依頼で埋まっていて、中々依頼を受けてもらえない、とネットでは噂になっていたのだ。 だが、いざもみじが髙野辺からもらった久保田の名刺に連絡を入れてみると、とんとんと話は進み、あっという間に初回相談日がやって来たのだ。 「新島 もみじさん、お待たせしました。こちらへどうぞ」 「──は、はいっ!」 スタッフだろうか。 もみじの元にやって来た男性が個室に案内してくれて、椅子に座るように促してくれる。 もみじの目の前にお茶を出した男性スタッフは、一礼して部屋を出て行ってしまった。 久保田法律事務所は、何人もの弁護士を抱えている大きな法律事務所だ。 そのため、もみじが案内された部屋以外でも、今まさに弁護士と話をしている人の声が漏れ聞こえて来る。 話している内容までは流石に聞こえないが、もみじは人の多さに緊張していた。 緊張のせいか、酷く喉が乾いたように感じたもみじは用意してもらったお茶を一口飲む。 そうしていると、もみじが居る個室に近付いて来る足音が聞こえ、扉がノックされた。 「は、はい……!」 「失礼します」 扉を開けて姿を現したのは、歳の頃が30そこそこ程の男性。 スラッとした体躯に、ぴしりと隙なくスーツを着こなした知的な印象の男性だった。 「初めまして、新島さん。弁護士の久保田と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします」 「新島 もみじです。こちらこそ、本日はよろしくお願いいたします」 部屋に入ってきた久保田弁護士は、名刺ケースから名刺を取り出すともみじに渡す。 名刺を受け取ったもみじに、久保田は座るよう促した。 そして久保田も椅子に座ると、手帳といくつかの書類をテーブルに出して話し出す。 「新島様、本日はお話を頂いていた通り、離婚についての弁護依頼でお間違いないですか?」 「はい。夫と離婚したいと考えております。円滑に離婚が進むようにご相談を、と思います」 「かしこまりました」 どうぞ緊張なさらずに、と柔らかい笑みを浮かべてくれる久保田に、知らず知らずの内に緊張で強ばっていた肩から力が抜け、もみじも笑い返した。 「では、新島様。早速ですが私の方でも新島様の夫・新島 誠
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