All Chapters of 間違い人生のトリガーを破壊して新しい人生を謳歌します!: Chapter 11 - Chapter 20

35 Chapters

第11話

叔母の言葉に、『まだ母とあの人は関係ないんだ。』と思い、ほっとした。もしかしたら今世ではあの人たちと家族にならずにすむかもしれない。母もあんなに窶れて療養に追い込まれる事もなく、健康なままで本当の父と幸せになれるかもしれない。凛華はどんどん気持ちが高揚していくのを感じた。「凛ちゃん、やっぱり様子が変よ。具合が悪いなら別の部屋で休みましょう。」祖母の華織が心配して声を掛けてくれるが、母から目を離すわけにはいかない。「だいじょうぶ。ここにいます。」ふんすっと荒い鼻息を一つ吐いて、組みきれない腕を組み、口を一文字に引き締め母の方を見つめ始めた。華織と清麗は首を傾げお互いに意見を求めるように顔を見合わせたが、訳が分からず首を横に振った。いつもはおっとりしている凛華がなぜか何かに意気込んでいる。本人の真剣さは伝わるのだが、何だか可愛い。仕方がないので、暫く見守ることにした。少しして、颯生と彩愛がやってきて、凛華の様子を見るなりくすっと笑った。颯生が「凛ちゃん、お誕生日おめでとう。今日は何かご機嫌斜めなのかい?」と声をかけると彩愛も、「私達がいなくて寂しかったのかしら?」と笑顔で顔をのぞき込んできた。凛華は張り切りすぎていたことに気づいて、慌てて腕をほどいて表情を戻し、照れくさそうに返事をした。「なんでもないです。ありがとごじゃます。」あっ、噛んだ。凛華はかなりちゃんと話せるようになっているが、驚いたり慌てると幼児の言葉になってしまう。颯生たちも叔母たちも思わず笑ってしまい、彩愛は 、「やっぱり凛ちゃんは可愛いわぁ。」と頭を撫でてくれた。そんなやり取りをしていて母から少し目を離しているうちに、いつの間にか和真が母と話をしている姿が目に入った。驚いてまた母たちの方を見ていると、和真が母に飲み物を勧めて母がそれを飲んでしまった。!まさか…。前世で時折読んでいた小説にあった母の危機!?思わず椅子から飛び降りた。颯生が、「凛ちゃん、どうしたの?」と驚いた。彩愛は耳元で「お手洗いに行きたくなった?」と尋ねてくれた。取り敢えず今は母に変化はなく、和真も母から離れて行った。考えすぎかと思い直して、「ちょっとびっくりしただけです。だいじょぶです。」と言って座り直そうとした。すると、素早く颯生が抱き上げて座らせてくれた。「お
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第12話

「はい、この辺りで待っています。」と言ってそばにいてくれる事になった。叔母が急いで去った後ろ姿を見送りながら廊下で待っていると、颯生が凛華に尋ねた。「凛ちゃん、何か気になる事でもあったの?随分心配しているようだけど。」「………。」凛華は何て言おうか迷った。今はまだ幼児の自分が母の貞操の心配をしているなど言える訳がない。でも、真剣に心配してくれる颯生に何も言わないのも悪い気がした。せめてさっき見た様子だけでも伝えようと、「さっきね、」と言いかけた所で、斜め右向かいの部屋からガチャン!と何かが壊れる音がした。「やめて!来ないで!」と言う女性の声が小さく聞こえる。それに続いて、「うるさい!騒ぐな!」と言う男性の声も聞こえてきた。颯生は真剣な目でドアを見つめて、「凛ちゃん。今のは……。」と聞いてきたので、凛華は迷わず、「お母さん!お母さんたいへん!」と言ってドアを叩き始めた。「お母さん!あけて、お母さん!」「おばさん!だいじょうぶですか!」颯生も一緒になって叩き始めた。二人の子供がドアの前で騒いでいるのを聞きつけて、近くの部屋の中にいた大人たちも何事かと出てきた。「どうしたの。」と声を掛けてくれた女性に、凛華が訴えた。「お母さんが中にいるの!やめてって言ったの!」「間違いないの?」「はい!」と問答していると、ドアが開いて中から男が顔を出した。「何事ですか。」男が迷惑そうに言い始めた隙に、凛華が足元からするりと中に入って行った。すると、ベッドの上で和真に押さえつられている芙美華の姿が見えた。「お母さん!」「凛華!来ちゃダメ!」「このガキ!」駆け寄った凛華を和真が何の躊躇いもなく蹴り飛ばした。が、前世で散々こんな暴力を受けてきた凛華は手前で止まり、身体を少しずらした為、掠っただけで済んだ。とはいえ、大の大人の男に幼児が蹴られたのだから、ひとたまりもない。思いっきり倒れてしまった。「凛華!」「凛ちゃん!」一足遅れてすき間から入り込んだ颯生が凛華を抱き起こして怪我がないか確認していると、騒ぎを聞きつけた叔父夫婦が駆けつけてくれた。「何をしている!」怒りを露わにした叔父の厳しい怒鳴り声に、ようやく和真たちも威勢を削がれた。和真は芙美華から離れて気まずそうな作り笑いを浮かべて、「ち、違うんです。芙美華さ
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第13話

呼吸も荒くますます苦しそうな様子に、何かに気づいた清麗は慌てて誠太郎に電話をかけた。小声でひと言二言話してすぐに電話を切った清麗は、「お姉さん、すぐにお医者様がいらっしゃるわ。つらいでしょうけど頑張って。」と、触れてもいいのか分からずオロオロしながら励ました。凛華は、『やっぱりアレか。』と思い、前世の父の卑劣さに怒りが込み上げてきた。母の向かい側の椅子に座り、心配そうな顔でじっとしている凛華に気づいた清麗は、「凛ちゃんびっくりしたわね。もうすぐお手伝いさんが迎えに来てくれるから先にお家に帰りましょうね。」と言った。これ以上自分がここにいると、母の治療の邪魔になると思った凛華は素直に、「はい。」と答えて大人しく待つことにした。会場では誠太郎の秘書が、祖父に小声で報告をした。一瞬険しい表情になったものの、すぐに表情を平静に戻して、「こちらは任せなさい。しっかり対応するようにと伝えてくれ。」と言って、華織と共に来客への対応に戻って行った。一方、千登勢は何だか不安になってきていた。そろそろ和真たちが戻って来てもいい頃だ。計画では、今日和真が芙美華をものにして、その様子を写真やビデオに収める。そしてそれをネタに芙美華を脅して結婚し、若桜家の養子に収まるつもりだった。そのうちほとぼりが覚めたら芙美華を追い出して、自分が若桜家の妻の座につく、そういう約束で今日のパーティーに和真を招待する事に協力した。和真は戻って来ない。若桜家の面々も平然として過ごしている。息子夫婦と芙美華は休憩らしく席を外しているが、特に問題はなさそうだ。もしかして、失敗した?もしそうで、自分が関わった事もバレたら今度こそ追い出される。それだけは避けなければ。そうだ!楓香は?楓香が上手く立ち回って東雲家との繋がりができれば何とかなるかも。千登勢は、急いで楓香の姿を探した。楓香は、部屋の端の方のデザートコーナーにいた。数人の子供たちと一緒にテーブルを囲んで座っていた。隣には翔月がいる。楓香は翔月と椅子を並べて座っているが、他の子たちよりも幼いため話には入れないようだ。頑張れ、楓香。しかし、千登勢の願いも空しくパーティーは終わりに近づき、子供たちはそれぞれの親の元に戻って行った。翔月も颯生たちが迎えに来て戻ってしまった。一人残され不安そうな楓香を、千登勢が仕方な
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第14話

生まれ変わったのが幼児で良かった。これからはいろいろなものを見聞きして、自分らしさを見つけて行こう。1週間後、母と叔母と一緒に颯生さんへのお礼を伝えるために、東雲家へ訪ねて行った。東雲家は山の斜面の高級住宅街の一角にあり、一際広大な敷地を有する和風建築の豪邸だった。表門前で車を降りて庭を巡りながら少し歩くと、玄関が見えてきた。玄関前では既に颯生と彩愛が外に出て待っていてくれた。「「いらっしゃいませ、若桜さん。」」二人の声と共に上品な着物姿の女性が使用人さん達と出てきて丁寧に出迎えてくれた。「わざわざご丁寧においでくださり、ありがとうございます。」「いえ、こちらこそ。この度は大変お世話になり、ありがとうございました。すぐにでもお伺いすべき所、遅くなり失礼いたしました。」「お気になさらず、ご無事で何よりでした。堅苦しいご挨拶はこれくらいにして、さぁ、中へどうぞ。」玄関から中庭に沿って廊下を歩き、和室にカーペットを敷いた上に、少しレトロなテーブルと椅子が置かれた客間に通された。一同が席に着くと、和服の女性が気遣わしげに芙美華に話しかけた。「この度は、大変でしたね。お体の具合はいかがですか。 」「ありがとうございます、澪那(れいな)さん。颯生君のおかげで大事に至らずに済みました。もう、すっかり大丈夫です。これ、颯生君に、お礼の気持ちです。こちらは皆さんでどうぞ。」「あら 、お気遣いありがとうございます。いただきますね。」大人たちの話に飽きてしまった彩愛が、「ねぇ、お母様。私達あちらで遊んで来てもいい?凛華ちゃんに見て欲しい髪飾りやお人形があるの。」と言って椅子から立ち上がり凛華の隣に移動した。そして凛華の手を取り、「お兄様も一緒に行きましょう。」と、颯生を誘った。颯生はちょっと戸惑って母の方を見ると、母が軽く頷いたので、「わかったよ。あっちで遊ぼう。では、失礼します。」と言って隣の間に移動した。子供たちが去ってしまうと、澪那は砕けた感じになり、声を落として話し出した。「やっぱりあの女が関係していたんでしょ。もっと早く追い出すべきだったのよ。」「そうは言っても、小さな娘さんがいるから何だか気の毒で。人ごとに思えなかったのよ。」「でも相手はそこに付け込んでお姉さんにとって代わろうとしたらしいんですよ。全く。」「それで、その娘
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第15話

家に帰り、母と離れの家で一息付くと、母が凛華に話してくれた。「颯生君、秋から遠くの学校に行ってしまうのだって。」「遠く?会えなくなるの?」「そうね。よその国にある特別な学校よ。もしかしたら、大人になるまで会えなくなるかもしれないわ。」それを聞いて凛華は固まった。前世で颯生の記憶がほとんど無かったのはそういうことか。せっかく頼りになる大兄ちゃまができたと嬉しかったのに。でも、今世はあの家族とは無縁の生活が送れそうだし、会えなくなっても大丈夫だろう。寂しいけど、彩愛お姉ちゃまもいるし。そう言えば、そろそろ”ちゃま“はやめよう。「お母さん、大兄さまが行く前に会える?」「多分、一度くらいなら大丈夫だと思うわ。」「だったら、大兄さまに今までありがとうって、何か渡したい。私に作れるものあるかな。」「そうねぇ。簡単な刺繍かお守り袋とかどうかしら。」「凛華は器用だから私が手伝えば何とかなると思うわ。」「だったら作る!」前世の私は手芸は得意だった。でも、今の身体でどれだけ出来るか自信はない。幼児の無邪気な思いなら笑って受け取ってもらえるだろう。今世はどうなるかわからないけど、前世での彼の気遣いは本当に嬉しかったので、何かお礼がしたかった。翌日から1週間かけて練習して、更に1週間かけて颯生と彩愛の為にハンカチに誕生日月の花とイニシャルの刺繍をした物と、小さな袋に、『大兄さま(お姉さま)が怪我や病気にならずに元気で会えますように りんか』と書いた紙を、心が休まる香りのお香と一緒に入れて紐で閉じたお守り袋らしき物を作った。7月の半ば過ぎに、颯生と彩愛に会いに行くことになった。手作り小物をクマのぬいぐるみに持たせてラッピングをしてもらって、可愛いプレゼントを用意することができた。凛華は嬉しくて、大きな包みを自分で抱えて玄関に向かって歩いて行くと、今回も颯生と彩愛が待っていてくれた。が、今回は2人だけではなかった。なぜか翔月も一緒にいたのだ。驚いて母の方を見ると、母は既に気づいていたらしく少し困ったような顔になっていた。「凛ちゃん、プレゼントを渡すのは後にしましょうね。」 母が小さな声で囁いた。凛華も目立たないように小さく頷いた。「凛ちゃん、こんにちは。」彩愛がいつものように駆け寄ってきてくれた。「お姉様、こんにちは。」「あら、凛ちゃん
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第16話

その事をずっと後悔していた。私があの時約束を守って、誰にも進学の事を言わずにこっそり留学できていればあんな人生にはならなかったのに。母も行方不明になることも無かったのに。でも、現実はちょっと違っていたらしい。私達母娘の人生の分岐点はそれ以前にあった。その上、私一人が海外へ逃れたら母だけが更に過酷な目に遭っていたかもしれない。そうなっていたら、いくら自分が解放されても心の痛みはもっと酷かったかもしれない。今世は、母と一緒に幸せに生きよう。学校の話で盛り上がっている3人に凛華は聞いてみた。「私も行けますか。」「えっ?凛ちゃん行きたいの?」「はい。」「いっぱい勉強して試験に合格しないといけないんだよ。行ってしまえば中々帰って来られないから、お母さんにもたまにしか会えなくなるし。」翔月が心配そうに説明してくれた。この頃の翔月は、まだ穏やかで優しい美少年だった。楓香はいつ彼の命の恩人になったのだろう。今の彼に罪はないと思いながらも、つい態度がよそよそしくなってしまう。「それはだいじょぶです。がんばります。」「それだけじゃないわ。あの学校に行くのにはご家族の協力がたくさん必要だから、まずは家の人たちに賛成してもらわないとむずかしいと思うわ。」彩愛もあまり賛成ではなさそうだ。だが、颯生だけは、「凛ちゃんも来るのなら僕は歓迎するよ。年が離れているから、たまにしか会えないとは思うけど、何かあった時にはすぐに力にはなってあげられる。でも、どうして凛ちゃんはあの学校に行きたいの?」と、好意的に聞いてきた。「いっぱいお勉強して、早くなりたいおしごとがあります。」「ええ?凛ちゃんもうなりたいお仕事があるの?よかったら教えて。」彩愛が興味津々で聞いてきた。「それは……、ナイショです。」「あら残念。でも偉いわね。がんばって叶うといいわね。」「はい、ありがとございます。」凛華は前世では勉強する機会に恵まれなかった。楓香は小学校から大学まで、私立の裕福な家庭の子供たちが通う学校に通って、望むままに様々な教育を受けた。結局、大して身につかなかったようだが。それに対して凛華は高校までは公立校で、使用人のように働かされながらの通学だった。毎年進級ギリギリの出席日数だったが、成績は中の上を維持していた。大学も公立で奨学金を受けつつ、アルバイトで残りの
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第17話

凛華は、母や祖父母や叔父夫婦に颯生と同じ学校へ行きたいと相談してみた。「お母さん、私も大兄さまと同じ学校に行きたい。」「大兄さまと同じ学校?とっても遠くて中々お家に帰ってこれないのよ。」「がまんする。」「どうしてその学校に行きたいと思ったの。」「なりたいお仕事があるの。」「ここにいてもなれるでしょう?」「早くなりたいの。」「そんなに慌てなくてもいいんじゃないの?」「ちょっとでも早くなって、やりたいことがあるの。」「その学校に行ったからと言って絶対に早くなれるとは決まっていないのよ。」「がんばるの。」最初は、颯生に会えなくなったのを寂しがって言っているのだろうと誰にも相手にしてもらえなかった。しかし、諦めずに何度も言うので、取り敢えず幾つかの習い事を始める事にした。まずは審査で不可欠の語学から始めると、凛華は誰もが驚くほどの速さで習得していった。実は前世の記憶がかなり残っているので、少し習っただけで思い出すため幼児に必要程度の力はすぐに身に付いていくのである。家族は、凛華の優秀さに驚いてあれもこれもと挑戦してみた結果、ピアノ、ダンスは教室に通い、語学は家庭教師、母からも絵画を習うことになった。凛華は、のんびり過ごしていた日々から一転して忙しい毎日になったが、次々にいろんなことが学べることが楽しくてどれも熱心に取り組んでいった。ある日、いつものようにシッターさんに付き添ってもらって音楽教室に行った。凛華はピアノの個人レッスンのコースを選んでいる。少し早く着いたのでフリースペースで待っていると、レッスンを終えた男の子と女の子が教室から出てきた。凛華は何気なくその子たちの顔を見て驚いた。男の子は翔月で、女の子はどこかで見覚えがある。誰だったか………、!。 楓香?なぜ楓香が?凛華は考える間もなく声をかけた。「ちい兄様?」声に気づいて翔月が振り返った。「凛ちゃん。どうしてここに?」「少し前から通い始めました。」「そうなんだ、楽器は何?」「ピアノです。」「そう、僕はバイオリンだよ。」「ちい兄様、その子はだれですか?」「ん?あぁ、この子は少し前から住み込みで僕の世話係になってくれた人の娘さんだよ。覚えているかな。凛ちゃんの家へ遊びに行った時に池に落ちちゃった子。一緒に病院に行った時に助けてもらったんだ。」「?助けて貰った
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第18話

あの時、側にいたのは私とお姉様だけだった。お姉様が背中を叩いて、私が口の中に指を入れた。大人の人達が来た時、翔月は既に喉のお菓子を吐き出していたと思ったが、まだ残っていたのだろうか。そもそも翔月と楓香は同じ車で移動したのか?何かおかしい気がする。千登勢は元父に協力したことが知られて実家に帰されたはずである。なのに今は翔月の家にいる。楓香が翔月と仲良くなるため?それとも、まさか………!翔月の母と翔月が危ない?どうしよう。男女の愛情は無かったし、散々な扱いをされた翔月だが、2年間夫婦として過ごし、たまに優しく気遣ってくれたこともあった。自分が自由を得た代わりに彼が酷い人生に堕ちていくなんて寝覚めが悪すぎる。誰かに相談しなくては。誰がいい?やっぱり母かな。それともあの日家にいたおばあさま。いや、まずは母だ。凛華は家に帰るなりシッターさんへの挨拶もそこそこに、母のもとに急いだ。「お母さん!ただいま。」母はちょうど休憩中だった。「凛ちゃん、おかえり。今日はどうだった?」「今日ね、ちい兄様に会ったの。同じ教室に通っているんだって。」「翔月君もピアノを練習しているの?」「ちい兄様はバイオリンだって。それでね……。」「どうしたの?凛ちゃんもバイオリンが習いたい?」微笑みながら尋ねてくれる母に、首を横に振って答えた。「あのね……。」しまった。何て言うか考えていなかった。まさか翔月の父が楓香の母に誘惑されるかも、なんて言えない。そもそも元義父の女性の好みなんて考えたこともない。どうしよう。そうだ!千登勢が東雲家にいる理由を言ってみよう。「前に家にいた女の子とそのお母さんがね、今はちい兄様のお世話係さんになってちい兄様のお家にいるんだって。」「なんですって?宮本さん親子が東雲家に?」「うん。ちい兄様がお菓子を喉に詰まられた時に病院へ行く途中の車の中で女の子に助けてもらったって。」「どうやって?」「お口に指を入れて。」「それは凛ちゃんがしたんじゃなかったの?」「そうなの。お姉様がお背中トントンして私がペッてして!ってお口の中をぎゅっとしたの。」「お母さんもそう聞いているわ。それがなぜ…。」「女の子のお母さんがちい兄様に、ちい兄様が助かったのは女の子のおかげだって言ったんだって。」「そんな……。凛ちゃん、このことは誰かに言っ
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第19話

華織はすぐに東雲家の本家の女主人である、友人の万紗子(まさこ)に電話をした。万紗子は、話を聞いて驚いた。「圭悟や柚莉愛さんからは何も聞いていないわ。」万紗子は芙美華の件について聞き及んでいる為、千登勢に対する評価は厳しい。「思いがけない事故で記憶が曖昧だった翔月を騙すなんて、なんて卑劣な。あの件は、彩愛から直接聞いたから間違いないわ。翔月を助けたのは彩愛と凛華ちゃんよ。二人のおかげですぐに吐き出せたから、翔月は何ともなかったのよ。」「私もそう聞いているわ。なのに、今日凛華が音楽教室で翔月君に会った時、隣にあの女の娘がいたそうよ。余計なお世話かもしれないけれど、家にいた者が迷惑を掛けているかもしれないなら見過ごせないわ。」「ありがとう。すぐに調べさせて対処するわ。」万紗子が調べた結果、かなり危険な状況になりつつあったらしい。予想した通り、圭悟は何度も千登勢と二人で食事に行ったり買い物に行って高価なプレゼントまでしていたらしい。更に、それを知った柚莉愛と何度か口論にまでなっていたと言う。母の万紗子から千登勢についての事実を聞かされた圭悟は騙されたと知って激怒したが、逆に万紗子から見る目のなさに叱責を受けて面目丸潰れだった。当然の事ながら、千登勢と楓香はすぐに解雇され東雲家から追い出された。凛華は後日、母から千登勢親子が翔月の家から出て行ったことだけを知らされたが、それだけでおよその事は推測できたので、ほっとした。母には、「そうですか。」とだけ言った。どうやら凛華の人生と”あの家族“はまだ縁が切れていないのかもしれない。気をつけよう。凛華の4歳の誕生日のひと月前のことだった。叔父夫婦の間に長男が誕生した。これも凛華にとっては記憶にない出来事であるが、生まれたばかりの赤ん坊に会うのは前世今世通じて初めての事でとてもワクワクした。「お母さん、私も早く赤ちゃんに会いたい。」初めて会った従兄弟の俊誠(としまさ)は、とても小さくて目は閉じたままだった。口元をきゅっと引き結んだ気の強そうな顔がとても愛らしくて早く一緒に遊びたいと思った。しかしそれ以上に、若桜家はこれで安心なので自分は自分の思うような人生を楽しもうという思いが強くなった。4歳になった凛華は、ますます習い事に励み、語学は基礎ではあるが4か国語目に挑戦し、ダンスとピアノは発表会にも
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第20話

「わかりました。お母さんに話して聴きに行きます。楽しみにしていますね。」「よかった、ありがとう。僕、頑張るからね。」「はい。」母に翔月からの話を伝えると、「翔月君が気にすることでもないと思うけど…、凛華は行くと返事をしたのでしょう?」「うん…、お姉様も来るって言ってたし、聴いてみたいなとも思ったの。」「そう。だったら彩愛ちゃんと相談して“ご招待”のお礼を用意しましょうね。」「はい。」当日、午前の早い時間に自分の発表を終えた凛華は早々に着替えを済ませて客席で他の人の演奏を聞いていた。会が進むにつれ、演奏される曲も徐々に難易度の高い曲になっていくので、退屈せずにいられた。小学校上級生位の少年が素晴らしい演奏を終え、立ち上がって挨拶をしたその時、凛華は驚いて目を瞠った。大きな拍手の中、客席から一人の少女が華やかな花束を少年に差し出したのだ。少年は一瞬驚いた顔をしたがすぐに笑顔になってしゃがみ込み花束を受け取ると、もう一度挨拶をして舞台を後にした。。その事自体は時折あることで珍しくはない。驚いたのはその少年と、女の子にだ。少年は、凛華の3歳の誕生日会にも来ていた颯生の友人だ。確か来栖家の長男だったか。来栖家は大きな病院と医薬関係の会社を幾つか経営している名家だ。そして女の子は、楓香だった。なぜあの子が?凛華は思わず母の方を見たが、母は不審な顔をするだけで何も言わなかった。次の演奏者が発表を終えた後、「凛ちゃん、そろそろ彩愛ちゃん達との約束の時間だから行きましょう。」と言って会場から出て行った。会場の近くのレストランに着くと、店員さんが出迎えてくれて、「若桜様ですね。お連れの方はもういらっしゃっています。ご案内いたします。」と言って、個室へと案内してくれた。室内には既に澪那と彩愛、柚莉愛と翔月が席に着いていた。「お待たせしてすみません。」芙美華が謝罪しながら中に入って行った。「いいえ、大丈夫よ。私達が早く着いただけよ。」澪那が笑顔で答えた。彩愛が、「私達少し前に来たところなの。凛ちゃんの演奏も聴きたかったわ。」と言った。凛華は、首を横に振って「まだ上手に弾けないので、上手になったらご招待させてください。」「あら、嬉しいわ。約束よ。」「はい、がんばります!」「その時は僕も一緒にいいかな。」「はい、ちい兄様もご招待さ
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