西園寺聖(さいおんじ ひじり)を数え切れないほど誘惑した。それでも初夜を迎えることに失敗した後、秋月鹿乃子(あきづき かのこ)は兄に電話をかけた。「兄さん、私、離婚しようと思う」電話の向こうで沈黙が流れ、やがて秋月臨也(あきづき いざや)の低い声が響いた。「言っただろう。西園寺聖という男は、お前が俗世に引きずり下ろせるような相手じゃないんだ」鹿乃子は赤い目をして笑った。「そうね。私が身の程知らずだったわ」「D国に来い」臨也の声は明るかった。「こっちにはいい男が山ほどいる。聖なんかに負けやしない。俺のこんなに可愛くて手のかかる妹を大事にしないなんてな。あいつについては、一生孤独のまま腐ればいいさ」「うん、手続きが終わったら行く」彼女は静かにそう答えた。電話を切った鹿乃子は深く息を吸い、廊下の突き当たりにある聖の部屋を通りかかったとき、ふと中から押し殺したようなうめき声を耳にした。扉は完全に閉まっておらず、隙間から一筋の光が漏れている。彼女は吸い寄せられるように、震える瞳で中を覗き込んだ。立ち込める香の煙の中、聖は祭壇の前に跪いていた。純白の和装の胸元は乱れ、手首には古びた念珠が巻き付いている。しかし、彼の体は微かに揺れ動いていた。その身の下にあるのは、一体の人形だった。揺らめく光に照らされたその人形の顔は、はっきりと見て取れた。大きな瞳、桜色の唇、左目の泣きぼくろ。それは紛れもなく、彼の義理の妹、西園寺梨花(さいおんじ りか)の姿そのものだった。鹿乃子は血の味がするほど強く下唇を噛み締めた。これで、目撃するのはもう三度目だ。一度目は部屋を飛び出し、二度目は一晩中眠れなかった。そして今夜、彼女が感じるのはただの麻痺だけだった。なんて滑稽なのだろう。彼に情欲がないわけではない。ただ彼の欲望が、自分に向けられることは決してないというだけなのだ。冷たい壁に背を預け、彼女はふと、初めて聖に出会った日のことを思い出した。あの年、彼女は二十歳だった。兄に連れられて会員制クラブのパーティーに行き、兄の親友を紹介されたのだ。あの日、聖は白いスーツの姿で、襟元には蓮の飾りをつけ、手首には念珠をはめていた。享楽にふける御曹司たちの中で、彼だけが目の前に茶を置いていた。伏し目がちにお茶を淹れる長い
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