All Chapters of 元カレの宿敵の腕で幸せになります!: Chapter 321 - Chapter 330

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第321話

千雪は咲夜にニュースのリンクを送ってきた。そこには、この数日間の千暁と咲夜が一緒にいる様子を写した写真が並んでいた。二人が病院に出入りする姿、同じ屋敷に出入りする姿、さらには荻野家の本家にも連れ立って出入りする姿まで収められている。記事の内容は、これまでの千暁のインタビューや咲夜を擁護する発言と結びつけ、「荻野家の御曹司はついに意中の女性を射止めたのではないか」と憶測を呼ぶものばかりだった。だが、咲夜と千暁の交際報道は、それほど大きな話題にはなっていなかった。というのも、それ以前に、晴南が見知らぬ女性と深夜に寄り添ったまま緊急搬送されたというニュースが大きな注目を集めており、その騒ぎの勢いは咲夜たちのほうまで及ばなかったのだ。千雪が連絡してきたのは、この話題を取り下げるべきかどうかを咲夜に確認するためだった。咲夜はそのまま記事のリンクを千暁に転送した。目を通した千暁は言った。「灰原に頼んで記事を下げさせる」「必要ないわ」咲夜は穏やかに制した。「このニュースもそこまで話題になってないし、今までだって私たちについて書かれたことは何度もあったでしょう?わざわざ削除する必要はないわ。それに、私たちの関係はいずれ公になることだし」以前から彼女は言っていた。無理に隠す必要はない。流れに任せればいい、と。こうして少しずつ人々の目に触れていけば、世間も徐々に受け入れてくれるはずだ。咲夜の言いたいことを理解した千暁は、小さくうなずいた。彼女が「必要ない」と言うのなら、自分もこの件にはもう手を出さない。咲夜の考えは、何よりも尊重したかった。咲夜も千雪に返信した。【気にしなくていいわ】すると千雪から、【森崎風一がどうしても退院すると言い張っていて、森崎晴南も彼と同じ病院に転院したそうです。着いた途端、森崎風一に杖で何発も叩かれたみたいです】という返信が届いた。咲夜は、【白羽洸のほうは?まだ動きはないの?】と尋ねた。ここ数日、咲夜はずっと千雪に洸の動向を追わせていた。金を受け取って以来、洸は完全に姿をくらましている。峯という男は、おとなしくしていられる性格ではない。静香からいくら金を受け取ったのかは分からないが、今は狂ったように洸の居場所を探し回っていた。咲夜は洸に手を貸し、峯が洸を見つけられないよう情
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第322話

「朝霧市の小川村。森崎英樹にはあそこに隠し子がいるの。児童養護施設で育てられていたわ」洸は、森崎家の秘密を暴露した。咲夜は驚きを隠せず尋ねる。「どうしてそんなことまで知ってるの?」洸は冷ややかに笑った。「森崎英樹本人が口を滑らせたのよ。晴南はもう子どもを作れない。だから、森崎英樹に隠し子がいるってことをあなたに大きく騒いでほしいの。できれば、誰もが知るくらいにね」その隠し子こそ、英樹にとって最後の切り札だった。なぜ自分がその事実を知っているのか――思い出すたび、洸は歯ぎしりするほどの憎しみに駆られた。まだ晴南と付き合っていた頃のことだ。酒に酔った英樹が突然晴南の家に押しかけ、危うく洸を襲おうとした。必死に抵抗した洸は、とっさに物を振り下ろし、英樹を気絶させた。そのとき床に落ちたスマートフォンを拾い、気を失った英樹の指紋でロックを解除する。そこで初めて、その端末が英樹の予備のスマートフォンだと知った。中には児童養護施設から送られてきた報告が大量に保存されており、その内容はすべて、ある青年の近況についてだった。その瞬間、洸ははっと息をのんだ。――英樹の秘密を知ってしまった。恐ろしくて誰にも言えなかった。ただ、児童養護施設の住所だけは密かに記憶した。その後、静香に追われて晴南のもとを去った洸は、一度その児童養護施設を訪れた。遠くから、その青年の姿を見た。顔立ちは英樹によく似ていた。実は、あの日英樹を気絶させた際、洸は彼の髪をひと束抜き取っていた。さらに、何とかしてその青年の髪も手に入れた。誰にも知られないよう、英樹とその青年の極秘で親子鑑定を依頼したのだ。電話を切るとすぐに、洸は親子鑑定書を咲夜のスマートフォンに送信した。これらの証拠は、すべて自分の命を守るために残しておいたものだった。しかし洸も分かっている。森崎家の秘密をこれほど握っていても、信頼できる後ろ盾がなければ何の意味もない。森崎家が自分を人知れず消すことなど、造作もないことなのだから。洸の森崎家への憎しみは、静香が最初から自分を生かしておくつもりなどなかったと知った瞬間、頂点に達していた。だからこそ、彼女は再び晴南のもとに戻った。その目的はただ一つ――森崎家への復讐。そして今、咲夜が手を組む
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第323話

咲夜の説明を聞き終えても、千暁の視線はなおも彼女に向けられたままだった。その眼差しからは、明らかに彼女の説明を完全には信じていないことがうかがえた。もちろん、咲夜にもその意味は分かっている。彼女は片手を耳元まで上げると、誓うように言った。「誓うわ。本当に嘘はついてない。ただそれだけのことなの。仮に白羽洸と何か協力することがあったとしても、私は絶対に自分のことを一番に考えるから」そう言い終えると、咲夜は少し困ったような、どこか無垢な眼差しで千暁を見つめた。まるで――もし信じてもらえなかったら、次の瞬間には大泣きしてしまいそうな表情だった。「……分かった」結局、千暁はその視線に負けた。彼女が「違う」と言うのなら、それでいい。その代わり、真澄に咲夜の動きをもう少し注意して見ておくよう頼めば済む話だ。真澄が引き続き千雪と接触していれば、いずれ千雪の口から何か聞き出せるだろう。咲夜には咲夜の策があり、千暁にも千暁のやり方があった。ようやく信じてもらえたと分かり、咲夜は誰にも気づかれないよう、そっと胸をなで下ろした。ほどなくして車は埠頭に到着した。千暁に案内され、二人は豪華客船に乗り込んだ。部屋に入った咲夜は、室内を見回して思わず足を止めた。「私たち……同じ部屋なの?」千暁は彼女を一瞥し、淡々と言った。「ベッドは君が使ってくれ。俺はソファで寝る」一晩くらい、ソファで寝てもどうということはない。その言葉に、咲夜は部屋の隅にある小さなソファに視線を向けた。身長190センチ近い千暁が、あそこで寝るなんて。想像しただけで窮屈そうで、気の毒になってしまう。何か言おうと口を開きかけた、その時だった。千暁はネクタイを軽く緩めながら言った。「少し外を見て回ろうか?」その拍子に、ネクタイが少し曲がってしまう。咲夜は一歩近づき、そのネクタイをそっとつまむ。千暁も彼女の動きに合わせるように、自然と腰をかがめた。二人の距離が一気に縮まる。「ネクタイ、曲がってるわ」そう言うと、咲夜は細い指先でネクタイをほどき、丁寧に結び直していく。千暁は何も言わず、ただ静かに身を任せていた。ほどなくして結び終えると、咲夜はそのまま彼の襟元を整え、スーツの上着のボタンまで留めてあげる。一歩下がって全体を見渡
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第324話

咲夜は詩乃に連れられ、一階のバンケットホールにやって来た。すでに多くの招待客が集まっており、あと三十分ほどで豪華客船は出航する予定だった。詩乃は咲夜の手を引いてホールの隅に腰を下ろし、頬杖をつく。「まだ若林さんとケンカ中なの?」先ほど二人とも険しい表情をしていたのを思い出し、咲夜は尋ねた。智之の名前が出た途端、詩乃はうんざりしたように眉を寄せる。「本当は今日なんて来るつもりなかったの。でも、あの人が『咲夜も来るし、千暁も咲夜に付き添ってあげてほしいって言ってた』って言うから」今日のチャリティーオークションは、ちょうど若林家が主催しているものだった。智之は心臓病患者を支援するための基金を設立しており、経済的な援助だけでなく、合法的な心臓提供の支援まで行っている。若林家は毎年場所を変えながらチャリティーオークションを開催し、その収益をすべて基金に寄付していた。今年の会場が豪華客船になったのも、詩乃が何気なく「海が見たい」と口にしたことがきっかけだった。それでも詩乃自身は、この催しに参加する気はなかった。千暁は咲夜を連れてこの場に来ていたが、知り合いの少ない咲夜が気まずい思いをしないか心配していた。だから智之に頼み、詩乃も一緒に連れて来てもらったのだ。話を聞いた咲夜は、千暁がそこまで自分のことを気遣ってくれていたとは思わず、胸が少し温かくなった。微笑みながら詩乃に言った。「でも、若林さんって本当に詩乃さんのことを大切にしてると思うよ。一度ちゃんと胸の内を話してみたら?」咲夜は何度も見てきた。智之の視線は、いつも詩乃だけを追っている。詩乃は首を傾げ、逆に笑いながら問い返した。「千暁だって、咲夜さんにはすごく優しいよね。じゃあ、彼にチャンスをあげようって思ったことはある?あんなに誰かに夢中な千暁、私初めて見たよ」その一言に、咲夜は一瞬言葉を失った。詩乃たちのことを話していたはずなのに、どうして急に自分の話になるのだろう。返事を考える間もなく、詩乃は続けた。「誰かが自分に優しいっていうだけじゃ、付き合う理由にはならないよ。本当に大事なのは、その人の気持ちだから。私ね、あの人には何か隠してることがある気がするの。だから、本心が見えない」それこそが、詩乃がずっと智之とぎくしゃくしている理由だった
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第325話

その後、うっすらと気づき始めてはいた。けれど、それでも「考えすぎかもしれない」と思ってしまった。千暁ほどの人が、自分を好きになるはずがない、と。だからこそ、彼に想いを告げられたとき、咲夜はようやくそれが現実なのだと信じられた。千暁はあまりにも優秀だった。だからこそ、咲夜は自分があまりにも平凡に思えた。そんな自分が彼の隣に立てば、きっと見劣りしてしまう。――もう少し、彼にふさわしい人になりたい。そんな気持ちがあった。咲夜の言葉を聞いた詩乃は、すぐに咲夜の本心を理解した。微笑みながら言った。「私は咲夜さんも十分素敵だと思うよ。好きなら付き合えばいいじゃない。そんなに難しく考えなくていいの。それに、結婚するわけじゃないんだし。まずは恋人として付き合ってみればいいでしょ?恋愛って幸せなものだし、誰かに愛されるってすごく素敵なことなんだから」咲夜は返す言葉に詰まった。目の前の詩乃を見ながら、思わず本当のことを話したくなる。――実は私と千暁、普通の恋愛の順番じゃないの。恋人期間なんて飛ばして、もう結婚してしまったの。だが、少し考えた末、やはりやめることにした。咲夜は笑って話題を変え、そのまましばらく詩乃と過ごした後、二人で千暁たちのところに戻ることにした。戻る途中、向こうから勢いよく歩いてきた人影が、咲夜にぶつかった。「っ……」勢いで体勢を崩し、腰を後ろの手すりにぶつけた。鈍い痛みがじわりと腰に広がった。「ごめんなさい!」ぶつかってきたのは、上品な雰囲気をまとった中年の女性だった。年齢は真奈美と同じくらいだろう。丁寧に手入れされた顔には、焦りと申し訳なさが浮かんでいる。「どこかぶつけたりしてない?本当にごめんね」「大丈夫です」咲夜が顔を上げた。相手もその声につられて顔を上げ、咲夜の顔を見た瞬間、表情がわずかに固まった。しかし、その変化は一瞬だった。すぐにいつもの落ち着きを取り戻す。咲夜が「大丈夫です」と言っても、女性は申し訳なさそうな表情を崩さなかった。バッグから名刺を一枚取り出し、咲夜に差し出した。「これは私の連絡先。船にはお医者さんも同行してるから、何かあったらすぐ連絡してね」咲夜は「本当に大丈夫です」と断ろうとした。しかし口を開くより早く、その女
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第326話

数人でしばらく談笑したあと、詩乃が部屋に戻って休むことになり、その場はお開きとなった。咲夜と千暁も部屋に戻る。オークションが始まるのは夜になってからだ。豪華客船はすでに港を離れ、大海原へと航路を進めていた。「少し休んだらどうだ?」千暁はやはりベッドを咲夜に譲り、自分はタブレットを手にソファへ腰を下ろした。意識がはっきりした状態で、千暁と二人きりで同じ部屋にいるのは、咲夜にとってこれが初めてだ。どこか気まずそうな表情を浮かべる。目の前に千暁がいるのに、そのままベッドに横になって休むというのは、どうにも落ち着かず、気恥ずかしかった。そんな彼女の気持ちを察したのか、千暁は一言そう告げると、それ以上何も言わず、視線を落として手元のタブレットに意識を向けた。そのおかげで、咲夜も最初のぎこちなさが少しずつ薄れ、肩の力が抜けていく。うつ伏せになってスマートフォンを眺めているうちに、まぶたが次第に重くなり、眠気に抗えなくなっていった。枕を抱きかかえたまま、スマートフォンを手にした咲夜は、眠りに落ちてしまう。千暁は視界の端でずっと彼女の様子を気にかけていた。彼はタブレットを置くと立ち上がり、ベッドに歩み寄る。咲夜の手からそっとスマートフォンを取り上げ、起こさないように優しく体勢を整えて仰向けに寝かせると、布団を引き寄せて丁寧に掛けてやった。ベッドサイドに立ったまま、眠る咲夜の穏やかな寝顔を静かに見つめる。しばらくしてようやく視線を離すと、千暁はドアを開け、部屋を出ていった。ちょうどその時、隣の部屋のドアも開き、出てきた千尋と鉢合わせになった。「千暁さん」千尋は、千暁の後ろで閉まったドアを一瞥すると、自分から声をかけた。千暁は彼を見て微笑む。「どうだ?もう慣れたか?」千尋がこういう賑やかな場を好まないことは、千暁もよく知っていた。千尋は一人で静かに過ごすことを好む。だからこそ、毎週末になると明覚寺に足を運び、静寂を求めていたのだ。そんな千尋が今回のオークションに参加したことは、千暁にとっても意外だった。いったい何が、静けさを好む彼の気持ちを変えたのだろうか。千尋は笑みを浮かべて答える。「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。ところで、花江さんとはご一緒じゃないんですか?」さりげない口
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第327話

千尋はそれほど露骨には態度に出していなかった。それでも千暁には、千尋が咲夜に対して特別な感情を抱いていることが感じ取れた。それが単なる好奇心であれ、それ以外の感情であれ、千暁は千尋が咲夜に抱くべきではない想いを抱くことを許すつもりはなかった。実際、千尋は咲夜に強い興味を抱いていた。咲夜に「千野千鶴ではないか」と疑われて以来、気づけば視線はいつも彼女を追ってしまっていた。もちろん、咲夜が千暁の想い人であることは分かっている。だから彼女を口説こうとも、自分の気持ちを打ち明けようとも考えたことは一度もない。自分では十分に隠し通せていると思っていた。それなのに、ほんの一言、咲夜のことを尋ねただけで、千暁には敏感に察知されてしまった。そう思うと、千尋は自嘲気味に口元を緩めた。「千暁さん、何をおっしゃっているのか分かりません。でも、自分の立場くらいはちゃんと理解しています。他人のものに手を出したことなんて、一度もありません。安心してください」それが、千暁への返答でもあった。千尋は千暁を一瞥すると、そのまま背を向けて立ち去っていった。彼が去った直後、今度は千尋の隣の部屋のドアが開く。「……今の、聞き間違いじゃないよな?」驚愕した表情の良太が千暁のもとに歩み寄ってきた。別に従弟と親友の会話を盗み聞きするつもりだったわけではない。ただ部屋の中が少し息苦しく感じて、外の空気でも吸おうと思っただけだ。ドアを少し開けた途端、二人の会話が耳に飛び込んできたのである。良太はまさか、千尋が咲夜にそんな感情を抱いているとは夢にも思っていなかった。なるほど、だから今回あいつは自ら「僕も一緒に行く」と言い出したのか。そう思うと、良太は額を叩いた。「本当に知らなかったんだ!知ってたら、絶対に連れて来なかった!」まさか従弟が、親友の好きな女性に想いを寄せていたなんて。これは一度、千尋ときちんと話をしなければならない。親友の好きな女性に手を出すような真似だけは、絶対にさせられない。あの馬鹿には、そのことをしっかり肝に銘じさせなければ。これ以上話をややこしくするわけにはいかない。なにより、今の千暁の視線が恐ろしい。まるで今にも無人島に飛ばされそうな気分だった。千暁は静かに良太を見つめると、淡々と言う。「
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第328話

千暁が部屋に戻ると、ちょうど咲夜がぼんやりと目を覚ましたところだった。目を開けた瞬間、自分がクルーズ船の中にいることをすっかり忘れてしまっていた。見慣れない部屋を見回し、どこか呆然とした表情を浮かべる。そこに、千暁がドアを開けて入ってきた。その姿を見て、ようやく咲夜は我に返った。「起きたか?もう少し寝なくていいのか?」寝起きでぼんやりしている咲夜の様子があまりにも愛らしく、千暁は思わず口元を緩めた。咲夜は一度目を閉じてから再び開き、尋ねる。「今、何時?」「五時半だ」千暁は腕時計に目を落として答えた。その時刻を聞いた咲夜は目を丸くする。「そんなに寝ちゃったの?」少なくとも三時間以上は眠っていたことになる。昨夜は農場でほとんど眠れなかった。眠りについても、次から次へとまとまりのない夢ばかり見ていた。完全に目が覚めると、咲夜は少し気まずそうに笑った。「小林千雪から電話があった。俺が切っておいたけど、折り返すかどうか見てみるといい」千暁にそう言われ、咲夜はスマートフォンを手に取る。画面には確かに千雪からの着信履歴があり、そのほかにもメッセージが届いていた。【森崎英樹に隠し子がいる件は、もう表に出ました。すぐには拡散させなかったので、森崎英樹も気づいて報道を止めようとしてきましたが、お断りしました。今夜のゴールデンタイムには、一気に話題にする予定です】【それと、小川村のことも調べてもらいました。白羽洸が言った人物は実在していて、名前は神谷航(かみや わたる)です。でも、今は行方が分かりません。森崎英樹側も神谷航を探しているようです】ニュースを見た英樹は、誰かがこの件を利用して自分を狙っていることに気づき、慌てて人を小川村に向かわせ、航を捜し始めたのだろう。しかし、村の事情を知る住民によれば、航は二年ほど前に出稼ぎに出たまま戻らず、それ以来ずっと連絡も取れていないという。メッセージを読み終えた咲夜は、千暁に視線を向けた。「神谷航って、白羽洸と一緒にいる可能性はないかな?」洸は航の素性を知っている。彼を自分の手元に置こうと思えば、それほど難しいことではないはずだ。「灰原に頼んで、白羽洸のここ数年の交友関係を調べさせる」そう言うと、千暁はすぐにスマートフォンを取り出し、真澄に連絡を入れた。咲
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第329話

咲夜の左隣には千暁、右隣には詩乃が座っていた。そして詩乃の隣は、言うまでもなく智之。一方、千暁の隣には良太と千尋が並んでいた。最終的に咲夜が落札したのは、一幅の書画だった。以前、農場で啓介の書斎を訪れた際、彼が数多くの書画を収集していることを目にしていたし、啓介自身も毎日書道をたしなんでいることを知っていた。この書画なら、お礼の品として啓介に贈るには申し分ない。洋平との縁を取り持ってくれた啓介と秀子への感謝の気持ちでもあった。一方、千暁が落札したのは、咲夜が冊子の中で思わず見入っていたあの帯留めだった。しかも、その場で咲夜に贈ってしまう。思いがけないことに、咲夜は驚いたように彼を見つめた。今日、自分がほんの少し長く見つめてしまったことを思い出す。――やっぱり、気づいていたんだ。そう思うと自然と笑みがこぼれ、帯留めの入った紫檀の箱を受け取りながら微笑む。「ありがとう」千暁はただ静かに笑うだけで、何も答えなかった。オークションが終わると、宴会場ではそのまま晩餐会が開かれることになっていた。千暁と智之はそのまま会場に残り、詩乃も智之に連れられて一緒に残った。咲夜は千暁に一声かけると、先に落札品を部屋に置きに戻る。そして再び宴会場に向かおうとしたところで、昼間にぶつかった香織と鉢合わせになった。香織は深い墨緑色のスリットドレスをまとい、上品で気品あふれる装いをしている。咲夜の姿を見つけると、柔らかな笑みを浮かべた。「あなただったのね。大丈夫だった?同行していたお医者さんには診てもらった?」咲夜が昼間に自分が誤ってぶつかってしまった相手だと気づき、香織は自分から声をかけてきた。実はオークションの最中、三列目に座っていた香織はすでに咲夜に気づいていた。とくに、千暁が落札した帯留めをその場で咲夜に贈る様子を目にしたときは、思わず何度も彼女に視線を向けてしまっていた。「鷹司さん、私はもう大丈夫です」咲夜も礼儀正しく挨拶を返す。香織は柔らかく微笑んだ。「そういえば、まだあなたのお名前を聞いていなかったわ」「花江咲夜と申します」咲夜は素直に名乗る。それを聞いた香織は、もう一度柔らかく微笑む。「咲夜って呼んでもいいかしら?」「もちろんです」咲夜は素直にうなずく。その返事に、香織
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第330話

宴会場に戻った咲夜は、あたりを見回していた。探しているのは千暁だ。しかし、会場の中に彼の姿は見当たらない。智之たちの姿も見えなかった。「咲夜さん」そこに詩乃が咲夜のもとに歩み寄ってきた。咲夜は詩乃を見ると、ほっとしたように息をつく。「よかったわ。ちょうどみんなを探してたの」詩乃が来てくれて助かった。詩乃は咲夜の手首を軽くつかみながら言う。「智之が別に個室を用意してくれたの。千暁は心配だからって、咲夜さんを迎えに外に出て行ったけど……どうしたの?会わなかった?」咲夜はブドウアレルギーがある。そのため、事情を知らない人に無理やり酒を勧められることを千暁は心配し、早めに宴会場を出て咲夜を待つことにしていたのだ。一方その頃、個室では良太が「千暁がまだ戻ってこないのは、咲夜をどこかに連れて行って告白でもしてるんじゃないか」と面白がっていた。「現場を押さえてやる!」と今にも飛び出しそうになったものの、詩乃に止められた。もし本当に告白の最中だったら、良太のあの落ち着きのない性格では、千暁が丹精込めて準備した告白を台無しにしかねない。さらにしばらく待ってから、詩乃は「少し空気を吸ってくる」と言って部屋を出た。すると、宴会場で咲夜の姿を見つけた。だが、その隣にいるはずの千暁はいない。詩乃はすぐに咲夜のもとに向かったのだった。「会わなかったの」咲夜は正直に答える。本当に千暁の姿は見ていなかった。「おかしいわね……」詩乃は首をかしげる。「咲夜さんを迎えに行くって言ってたのに。もう戻っちゃったのかな?一度部屋に戻ってみる?」とはいえ、詩乃自身もたった今個室から出てきたばかりだ。個室に向かう通路は一本しかない。その途中で千暁とはすれ違っていない。咲夜は詩乃の指先をそっとつまんだ。「外で少し風に当たらない?」もともと、こういう賑やかな場所はあまり得意ではない。せっかく詩乃も外に出てきたのだから、と咲夜は提案した。詩乃もまた、人の多い場所は好きではない。体が弱かったこともあり、幼い頃から静かな環境を好んで育ってきた。両親に連れられてパーティーに出席することはあっても、いつも過保護なほど大切に扱われていた。そして何より嫌だったのは、人々が向ける同情の視線だった。まるで自分がひ
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