All Chapters of 元カレの宿敵の腕で幸せになります!: Chapter 391 - Chapter 400

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第391話

「大丈夫?私たち、まだ一緒につるめるような関係じゃないでしょう」咲夜は呆れたように言い、洸に立場をわきまえるよう釘を刺した。一度助けて、一度お金を渡したからといって、それで友達になったとは思っていない。洸のことは、最初からどうしても好きになれなかった。洸は腕を組み、鼻で笑う。「あんたが前に言ったでしょ。『敵の敵は味方』って。安心して、私だってあんたのことを本音を打ち明けられる親友なんて思ってない。所詮は上辺だけの薄っぺらい付き合い。お互い利用し合ってるだけよ」その程度のことは、洸自身もよく分かっていた。咲夜は何も言わず、ただ静かに洸を見つめる。その視線に耐えきれなくなったのか、洸は最後には肩をすくめた。「分かったわ。森崎家に入り込む方法なんて簡単よ。今、森崎英樹と晴南が一番欲しがってるものは何だと思う?」そう言って、ヒントだけを与える。自分はただ、あの一家が何より欲しているものを握って、それを武器にしているだけだ。――森崎家が今、一番必要としているもの。その瞬間、咲夜の脳裏にある考えがよぎった。まさか……彼女は思わず洸の腹部に視線を落とす。その視線に気づいた洸は、平らな腹をそっと撫でながら唇を吊り上げた。「そのとおり。私、妊娠したの。晴南の子よ。正確には、彼の精子で体外受精して授かった子だけど。このところ姿を見せなかったのは、体外受精が成功するのを待ってたから。それに妊娠初期は流産を防ぐために安静にしてなきゃいけなかったしね。だって、この子は森崎家に入るための唯一の切り札なんだから。慎重に慎重を重ねて、絶対に失敗しないように準備しないと、自分の未来は切り開けないでしょ」咲夜は驚きを隠せなかった。「私から二千万円借りたのって、そのために体外受精をする資金だったの?」「じゃなきゃ何のため?」洸は逆に問い返す。「私、お金なんてなかったし、体外受精だって一回で成功する保証はない。何も持たない私が、どうやって晴南の子を妊娠できるっていうの?」洸には、そのすべてを実現するための資金が必要だったのだ。そう説明されると、咲夜も納得せざるを得なかった。だが、まだ一つ疑問が残っている。「お腹の子、本当に晴南の子なの?」森崎家の人間も、それを確認したのだろうか。洸は頷いた。「森崎英樹はそんな甘い相
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第392話

洸は、咲夜の言葉を否定しなかった。ただ目の前の女性を見つめ、微笑みながら言う。「でも、それは重要じゃないわ。大事なのは、今の私のお腹の子が、森崎家にとって何よりも大切な宝物だってこと」英樹も静香も、今では洸に対して実に丁重な態度を取っている。なにしろ、洸の腹に宿る子どもこそが、森崎家に残された唯一の希望なのだから。咲夜は否定も肯定もしなかった。ただ静かに忠告する。「でも、森崎家はそんな簡単に思いどおりにできる相手じゃないわ。気をつけて」「だからこうして、あなたに会いに来たのよ」洸は艶やかに微笑んだ。今回のファッションショーを晴南が視察すると知ったとき、洸は何としてでも同行すると言い張った。ショーそのものにはまったく興味がない。咲夜に会うことこそが、本当の目的だった。咲夜はじっと洸を見据える。「私に何の用?」「あなたは今、荻野千暁という後ろ盾を手に入れた。彼がいれば、森崎家を相手にするのも難しくないでしょう。私と手を組む気はある?」洸は率直に切り出した。そして、ゆっくりと言葉を続ける。「あなたも森崎家を潰したいと思ってるでしょう?少なくとも今この瞬間は、私たちの目的は同じ。私一人の力じゃ森崎家には到底敵わない。でも、あなたなら違う」洸は唇を強く噛みしめた。「咲夜、力を貸して。森崎家には、相応の報いを受けてもらいたいの」その瞳には、森崎家に対する激しい憎悪が燃えていた。目の奥に宿る憎しみは隠しようもない。その変わりように、咲夜は戸惑いを覚える。以前会ったときの洸は、ここまで森崎家を憎んではいなかった。自分の知らない間に、一体何があったのだろう。咲夜の視線に気づいたのか、洸はすぐに表情を整えた。「返事はゆっくり考えてくれていいわ。急がないから」洸の望みはただ一つ。森崎家を破滅させること。そのためには、咲夜との協力が最善の選択だった。もちろん、断られたとしても仕方がない。今日はただ、可能性を試しに来ただけなのだから。咲夜は洸を見つめながら問いかける。「どうしてあなたを信用できるの?」向こうから協力を持ちかけてきたからといって、信頼できるとは限らない。洸は静かに口を開いた。「水野澄江を探す必要はないわ。あの人は、もう死んでる」そう言うと、スマートフォンを取り出し、何
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第393話

洸がその一連の事実を突き止めたとき、真っ先に思い浮かべたのは静香だった。こんな陰惨なやり方で人を苦しめることを思いつくのは、あの悪辣な女しかいない。洸がそこまで確信していたのには理由があった。彼女自身も、かつて静香から同じような目に遭わされたことがあったからだ。以前、晴南に追い出され、責任を追及されたあと、洸は何者かに廃倉庫に連れ去られ、何日もの間、凄惨な拷問を受けた。命からがら逃げ出したあと、彼女はあらゆる手段を尽くして晴南の子を身ごもった。それは決して金目当てだけではない。洸が望んでいたのは、ただ森崎家の人間を心の底から苦しめること。そして、森崎家を滅ぼすことだった。それ以外は、もうどうでもよかった。咲夜もずっと澄江の行方を追っていた。だが、まさか澄江がすでに亡くなっていたとは思いもしなかった。これで手がかりは、再び途絶えてしまった。洸はスマートフォンをしまう。「森崎静香がどうして水野澄江をあんな目に遭わせたか分かる?水野澄江が森崎静香に隠れて、森崎英樹と関係を持っていたからよ。自分の夫と浮気した女が、平然と目の前をうろつくなんて、森崎静香が許すわけないでしょう」そう言うと、彼女はバッグからUSBメモリを一本取り出した。「この中には、水野澄江と森崎英樹の親密な写真や動画がたくさん入ってる。きっと、いつか役に立つわ」そう言ってUSBメモリを咲夜の手のひらに押し込む。「私の誠意は見せたつもりよ。今の私は森崎家の中にいる。だから森崎家の犯罪の証拠も集められる。私の望みは一つだけ。森崎家の人間全員を社会的に破滅させること。もう一つ教えてあげる。あの女を使って晴南を陥れたのは私よ。彼女は子宮を損傷していて、摘出しなきゃいけない状態だった。私は大金を払って、晴南が生殖能力を失うように仕向けたの」あれは、本当にただの事故だったのか。咲夜は以前からそう疑っていた。今、洸が自らの仕業だと認めたことで、すべての辻褄が合った。晴南から生殖能力を奪い、英樹の隠し子の存在を暴き、事態を大きく混乱させる。そして、その混乱の最中に、晴南の子を身ごもった洸が現れる。そうすれば、洸は森崎家に堂々と入り込み、森崎家に頭を下げさせ、自分を大切に扱わせることができる。もちろん洸も理解していた。
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第394話

洸は、言うべきことはすべて話し終えていた。これほど多くの情報を一度に明かせば、咲夜が整理し、じっくり考える時間が必要になることも分かっている。それ以上は何も言わず、洸は踵を返して化粧室を後にした。咲夜に考えるための時間を残して。咲夜は手のひらにあるUSBメモリに視線を落とした。頭の中は確かに混乱していた。だが、いつまでも思い悩むことはしなかった。ほどなくして気持ちを切り替え、会場に戻る。USBメモリを自分のバッグにしまうと、何気なくスマートフォンを手に取った。そこには見知らぬ番号からメッセージが一通届いていた。【連絡したくなったら、この番号に】送信時刻は二分前。差出人の名前はなかったが、咲夜には洸からだとすぐに分かった。彼女はしばらく画面を見つめたあと、その番号を保存する。登録名は、ただ【*】マークだけだった。それを終えると、咲夜はスマートフォンをしまった。ふと見ると、短い間に香織と真奈美がすっかり打ち解けていた。二人はときおり顔を寄せ合いながら、ショーで披露された作品について熱心に語り合っている。真奈美の表情には、久しぶりに見る穏やかな笑みが浮かんでいた。香織は咲夜に気づくと、微笑みながら軽く頷く。今回のショーは大成功だった。とりわけ花江グループの作品は高い評価を受け、多くの来場者から絶賛された。すべて、咲夜の予想どおりだった。ショー終了から二日後、咲夜は自社の広報チームに作品の予約販売告知を公開させた。反響は予想以上に大きく、予約も好調だった。ここ数日、皆で必死に積み重ねてきた努力が報われた瞬間だった。詩乃率いるデザインチームの作品も高い評価を得た。彼女は所属デザイナー全員の了承を得たうえで、それらのデザインを正当な価格で咲夜に一括譲渡した。その後はチームの引っ越し準備に追われることになる。景浦市に滞在している間に、市中心部の高級オフィスビルを借り、新たにブランドデザインスタジオも設立していた。以前から口にしていた「景浦市で活動する」という言葉は、本気だったのだ。拠点も決まり、咲夜への協力も果たし、詩乃は見事に約束を果たした。ショー終了から三日後――金曜日の夜。咲夜は荻野グループ傘下のホテルで祝賀パーティーを開いた。今回の成功は、詩
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第395話

しかし、あの日の騒ぎはひどいものだった。事務所の人たちは皆、瞳が元彼の家族から受けた胸くそ悪い嫌がらせの一部始終を知った。全員が彼女の味方に立ち、琉安の婚約者を徹底的に責め立てて追い払ったのだ。あの女が惨めそうに尻尾を巻いて逃げていった姿を思い出すと、瞳は思わず笑いが込み上げてきた。彼女は冷ややかに笑いながら言った。「そういえば、誰かが琉安をこっぴどく叩きのめして、『景浦市から出て行け』って警告したらしいの。で、昨日の夜には一家そろって夜逃げ同然で逃げたって聞いたわ」その話を聞いて、咲夜は以前千暁が言っていた言葉を思い出した。――向井琉安には、それなりの報いを受けてもらう。まさか……瞳は少し離れた場所で良太や智之と談笑している千暁に視線を向け、苦笑した。「考えなくても分かるでしょ。あれは間違いなくお兄ちゃんの仕業。私があんな目に遭わされてるのを、黙って見てるような人じゃないもの」誰の仕業なのか。瞳自身が一番よく分かっていた。なにしろ、これまで琉安と何度も別れてはヨリを戻してきたが、別れるたびに琉安は痛い目を見ていた。そして毎回、袖をまくって自ら制裁を加えていたのは、兄である千暁だった。瞳は、そんな兄が大好きだった。いざという時、本当に体を張って守ってくれる人だから。咲夜は「やっぱり千暁だったの?」と言いかけたが、瞳の言葉を聞いて飲み込んだ。……まあ、あれだけ分かりやすければ否定しようもない。咲夜は手を伸ばし、瞳の頭を軽く撫でる。「よしよし、これで百人力ね。もう何も心配することないよ」瞳はおとなしく撫でられながら、気楽そうに肩をすくめた。「世の中にはイケメンなんて掃いて捨てるほどいるんだから。私、お金もあるし、その気になれば毎日違う人と付き合えるわ。別に琉安じゃなきゃダメなんてことないし。男なんていくらでもいる。私がその気になれば、指を一本動かすだけで寄ってくるわよ」そう言いかけたところで、ふと表情がわずかに曇る。その変化を見逃さなかった咲夜が、小声で尋ねた。「ん?もしかして……何かあった?」「ないない!」瞳は慌てて首を振る。「何もないって。ただ、年下のワンコ系男子と、結婚抜きの気楽な恋愛でもしてみようかなって思っただけ」そう口では言いながらも、一人の青年の顔が脳裏をよぎる。色
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第396話

咲夜は、親友がスマホを手にしたまま、まるで魂でも抜かれたような顔をしているのに気づいた。いったいどんな相手なんだろう。そんなにうっとりした顔をさせるなんて。気になった咲夜は、思わず瞳のそばに身を寄せた。「どうしたの?何見てるの?」瞳は慌ててチャット画面を閉じ、首を横に振った。「別に。何も見てないよ」まさか、自分が年下の純朴な男子大学生とずるずる関係を続けているなんて、咲夜に話せるはずがない。そんな話が兄の耳に入ったら、ただじゃ済まない。本気で叩かれるに決まっている。もちろん、罪のない年下の子を弄ぶつもりなんて最初からなかった。ただ……あの子、ほんとにツボなんだよね。しかも、とびきり刺さる。瞳は心の中で思う。恋愛をするつもりは今もない。でも、ちゃんと向き合って付き合って、その代わりにお金を渡すくらいなら、そこまでひどいことでもないんじゃない?あんなに可愛い子だし、気づけば結構気に入っている。癒やし系の年下男子がそばにいて、退屈しのぎになってくれるくらいなら、それも悪くない。考えれば考えるほど、何も問題ない気がしてきた。よし。今夜帰ったら、一度ちゃんと話してみよう。恋愛感情さえ求められなければ、いくら欲しいと言われても構わない。私が欲しいのは、お金じゃなくて、心を満たしてくれる存在なんだから。――そうしよう。瞳は一人で勝手に結論を出し、すっかり上機嫌だった。そんな親友の満面の笑みを見つめながら、咲夜は心の中でツッコミを入れる。――これのどこが「何もない」なの?恋する乙女そのものじゃない。心なんて、とっくにここにはないだろう。実際、瞳の心はもうずっと遠くに飛んでいた。祝賀パーティーも終盤に差しかかると、咲夜に一言だけ声をかけ、そのまま足取りも軽く会場を後にした。千暁は片手をポケットに入れ、もう片方の腕で咲夜の細い腰を抱き寄せながら、軽やかに去っていく妹の背中を見送る。「……あの子にも、ようやく春が来たのか?」低く落ち着いた声でそう尋ねると、隣にいた良太がすかさず口を挟んだ。「春になれば万物が芽吹くし、猫ちゃんだって発情期になるからね」言い終わるや否や、千暁は迷わず足を振り上げた。「黙れ。発情してんのはお前だろ。これ以上くだらないこと言うなら、その発情猫を先に
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第397話

天志はこれまで何度も、期待を裏切られたと言わんばかりに瞳を指差し、怒鳴りつけてきた。「どうして分からないんだ」と、彼女が自分の苦労や思いを理解しようとしないことを責め、なぜか貧乏な男ひとりに執着して人生を棒に振ろうとしているのだと罵った。天志は琉安を見下していた。徹底的に。彼の目には、琉安は何の価値もない役立たずとしか映っていない。瞳に何一つ与えられず、ましてや荻野家にさらなる利益をもたらすことなど到底できない男だった。……祝賀パーティーが終わると、咲夜と千暁は家に戻った。ここ数日、張り詰めた状態で休みなく働き続けていた咲夜は、帰りの車の中で千暁にもたれかかると、そのまま深い眠りに落ちてしまう。車が家の前に停まると、千暁は真澄に「帰りも気をつけて」と声をかけ、身をかがめて眠る咲夜をそっと抱き上げた。抱きかかえられたことに気づいた咲夜は、うつらうつらしたまま彼の首に腕を回し、頬を深く胸元に埋める。「……眠い」小さく漏らしたその声に、千暁は額に優しく口づけた。「着いたよ」咲夜の家の電子ロックには、すでに千暁の指紋が登録されている。指を当てると解錠音が鳴り、彼は室内の明かりをつけ、そのまま咲夜を抱えて二階に上がった。ベッドにそっと寝かせると、咲夜はほとんど反射的に寝返りを打ち、布団を抱き寄せて頬をすり寄せる。目は閉じたままだ。窓辺に立っていた千暁は、彼女の様子を見て、思わず小さく笑った。「お風呂をためてくる。入ってから寝よう」彼はもう咲夜の生活習慣をよく知っている。眠る前に風呂に入らないと、夜中に気持ち悪くなって目を覚まし、結局シャワーを浴びに行くことになるのだ。返事を待たず、クローゼットから二人分のパジャマを取り出して浴室に向かった。浴槽に湯を張り始めると、水の流れる音が寝室まで聞こえてくる。咲夜は眠気こそ強かったが、実際には布団にくるまって目を閉じているだけだった。千暁ができるだけ音を立てないよう、自分のためにあれこれ動いてくれている気配を感じ、重たいまぶたをゆっくりと開く。裸足のまま浴室に向かって歩き出した。次の瞬間――ゴンッ。額がガラス扉に思いきりぶつかった。鈍い音に気づき、ちょうど湯加減を確かめていた千暁が振り返る。上着はすでに脱いでランドリーバス
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第398話

祝賀パーティーの後、咲夜は久しぶりに実家に顔を出した。雅紀の体調は以前よりもずいぶん回復していた。少なくとも、今では言葉もかなり滑らかに話せるようになっている。娘の姿を見ると、雅紀は彼女を手招きした。「せっかくの週末で会社も休みなんだ。家でゆっくりしていればよかったのに」「お父さんとお母さんの顔を見に来たの」そう言って咲夜は父の隣に腰を下ろし、穏やかに話し相手を務める。真奈美は朝早くから外出していた。友人の孫の生後一か月のお祝いに招かれていて、その贈り物を選びに行ったのだという。雅紀は病気になって以来、ほとんど外出しなくなったが、真奈美も無理に連れ出そうとはしなかった。「荻野家のあの子とは……うまくいってるのか?」雅紀は自ら、咲夜と千暁のことを切り出した。咲夜は隠すことなく答える。「今のところ順調だよ。落ち着いてる」隠すようなことではないと思っていた。その答えを聞き、雅紀はようやく安心したように頷く。「あの日のファッションショーで分かったよ。あの子は、お前のことしか見えていない。それなら安心だ。愛してくれない男のそばにいるより、お前を心から愛してくれる相手と一緒にいるほうが、ずっといい」ショーの日、雅紀が本当に見ていたのは、ランウェイを彩る作品ではなかった。この歳になるまで数々の経験を重ね、彼はもう悟っている。財産は所詮、身の外にあるもの。何より大切なのは、家族が元気でいることだ。だから彼が目で追っていたのは、千暁と咲夜のやり取りだった。千暁が無意識のうちに咲夜を気遣う姿。その一つひとつを見れば、そこにあるのが本心なのか、見せかけなのかくらいは分かる。見届けたことで、彼は安心できた。咲夜も、父の言葉の意味を理解していた。それは、かつて自分が晴南のそばで耐え続けていた日々を思い出しているのだ。彼女は微笑みながら頷く。「うん。本当に大切にしてくれてるから。だから心配しなくて大丈夫」その言葉を聞くと、雅紀はじっと娘を見つめた。どこか複雑な眼差しだった。幼い頃、自分の腕にしがみついて甘えていた小さな娘。その子が今では、一人で立ち、自分の身を守れるほど強く成長している。成長というものは、長く、苦しいものだ。その過程で払ってきた代償は、父親である自分にはきっと想像しき
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第399話

雅紀は、かつて花江グループを襲ったあの混乱の裏で、英樹が暗躍していたことまでは知らなかった。彼はただ、咲夜が森崎家の「火事場泥棒」のようなやり方に怒りを抱いているだけだと思っていたのだ。弱肉強食のこの世界では、強い者が勝ち、弱い者が敗れる。力が足りずに飲み込まれるのも、ある意味では当然のこと。だからこそ彼が本当に心配していたのは、咲夜が復讐心に囚われ、その感情に振り回されてしまうことだった。本来なら、森崎家がしてきた卑劣な行いを父に打ち明けるつもりはなかった。だが、父がそこまで口にした以上、咲夜は少し考えた末、英樹がこれまでしてきたことをすべて雅紀に話すことにした。話している間も、彼女は何度も父の表情を盗み見る。再び刺激を受けて体調を崩すのではないか――それだけが心配だった。幸い、すべてを聞き終えた雅紀は、感情こそ揺れていたものの、取り乱すことはなかった。彼は両手を固く組み合わせる。手の甲には青い血管がくっきりと浮かび上がっていた。怒っていないはずがない。誰が想像できるだろう。表では肩を組み、兄弟のように親しく振る舞っていた友人が、裏では陰で手を回し、自分の会社を破綻寸前まで追い込み、自身までも脳卒中で長い間苦しめていたなどと。それだけではない。英樹は療養所に見舞いに来るたび、体調を気遣う言葉をかけ、親身な態度を見せていた。だが今となっては、その一つひとつが偽善にしか思えない。吐き気がするほどだった。ここまで冷酷になれる人間がいるとは。結局、自分は人間というものを甘く見ていたのだ。雅紀は自嘲気味に笑う。「もっと早く気づくべきだった。お前は昔から、人と争うことを嫌う子だった。何事にも執着せず、流れに任せるような性格だったのに、突然会社を引き継いで、迷いなく改革を進め、森崎家と真っ向から対立した。そこには、必ず理由があったんだな。私は本当に病気で頭まで鈍っていたらしい。お前が森崎家と争うのは、感情に流されているせいだなんて心配していたんだから」その瞬間、これまで点だった出来事が、次々と一本の線になって頭の中でつながっていく。雅紀は静かに首を振った。「もういい。ここまで来た以上、お前に森崎家を許せなんて、父さんには言えない。たとえこちらが手を引いたとしても、向こ
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第400話

咲夜は実家で昼食を済ませた。そして、澄江が亡くなったことを真奈美にも伝えた。澄江の名前を耳にした瞬間、真奈美の表情は見る見るうちに険しくなる。だが、しばらく黙っていたあと、冷え切った声でただ一言だけ返した。「自業自得よ」それだけ言うと、澄江についての話は終わった。真奈美には、彼女の死を哀れむ気持ちは一切なかった。どれほど情に流される性格だったとしても、花江家をここまで追い込んだ元凶に同情などできるはずがない。むしろ、澄江はもう死んでいてよかった。もしまだこの世に生きていて、再び自分の前に現れたなら――真奈美は、自分の手で引き裂いてやりたいとさえ思っていた。そんな母の様子を見て、咲夜はようやく胸をなで下ろす。しばらく実家で過ごしたあと、彼女は帰路についた。帰る途中、スマートフォンが鳴る。画面には【福島夏樹】の名前が表示されていた。電話に出ると、夏樹が切り出す。「花江さん、お時間をいただけませんか。一度お会いしたいんです」咲夜が雅紀を自宅に連れ帰って以来、夏樹とは一度も連絡を取っていなかった。彼が一連の件に関わっていないことは確認済みだったし、もともと連絡を取っていたのも父の容体を知るためだった。今では主治医も替わり、彼とやり取りを続ける理由はほとんどない。それでも、ここまで真剣に会いたいと言われ、咲夜は最終的に了承した。二人はカフェで落ち合うことになった。咲夜が到着したときには、夏樹はすでに来ていた。個室を予約していたらしい。だが、その顔色は明らかに優れない。咲夜が扉を開けると、彼は慌てて立ち上がった。「花江さん、お越しいただきありがとうございます」「いえいえ」咲夜は向かいに腰を下ろす。その様子を見ただけで、かなり憔悴していることが分かった。夏樹は両手を落ち着きなく擦り合わせると、前置きもなく口を開く。「……申し訳ありません。こんなに時間が経ってからお話しすることになってしまって。小松杏奈が、お父さんの薬を勝手に替えていたことを、今日初めて知りました。花江さん、私は本当に何も知らなかったんです」杏奈はいまもなお華和総合病院で昏睡状態のままだった。夜勤明けだった夏樹は、容体を確認しようと病室に向かった。そのとき偶然、病室の外で杏奈の弟夫婦が薬の
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