幸い、咲夜が今日着ていたのは黒いロングワンピースだったため、コーヒーをこぼされた跡はそれほど目立たなかった。ただ、アイスコーヒーだったうえに店内の冷房もかなり効いていたせいで、彼女は肌寒さを覚え、腕にはうっすらと鳥肌が立っていた。咲夜にコーヒーをかけてしまったのは、愛らしい雰囲気の若い女性だった。肩まであるふわりとした巻き髪をハーフアップにし、黒い小さなクリスタルのヘアピンを留めている。身にまとっているのは、膝丈の白いワンピースだった。女性は慌ててバッグからポケットティッシュを取り出すと、今にも泣きそうな顔で咲夜の服についたコーヒーを拭き始めた。目元まで赤くしながら、焦った声で言う。「本当にすみません!その服、いくらでしたか?弁償します!」あたふたしながら自分の服を拭く彼女に、咲夜のほうが少し戸惑ってしまった。咲夜は笑みを浮かべて相手を見る。「大丈夫ですよ。自分で拭きますから」そう言って差し出されたティッシュを受け取り、穏やかな笑みを浮かべたまま服を拭き始めた。「黒い服だから、そんなに目立ちませんし、帰って洗えば大丈夫です。本当に気にしないでください」咲夜は顔を上げ、目を赤くしている女性を見つめながら、落ち着いた口調で続けた。「本当に大したことじゃありませんから」そこまで言われて、女性はようやく胸を撫で下ろした。「よかった……でも、本当にごめんなさい。すみませんでした」そう言うなり、彼女は咲夜に向かって深々と頭を下げた。その勢いに驚き、咲夜は思わず後ろへ下がりそうになった。そこで初めて、咲夜は自分の車椅子が通路側へ少し出ていて、それに女性がつまずいたのだと気づいた。途端に申し訳ない気持ちになり、「よく考えたら、私も悪かったですね。私の車椅子が通路にはみ出してたから……どこかぶつけたりしてませんか?」と、逆に相手を気遣った。咲夜に心配され、女性は首を横に振った。「大丈夫です」そう答えたあと、彼女は咲夜の車椅子に目をやり、遠慮がちに尋ねた。「足、かなりひどい怪我なんですか?さっきぶつからなくて本当によかった……あっ、私、た……鷹司瀬里(たかつかさ せり)っていいます。よろしく!」瀬里は人懐っこく咲夜へ手を差し出した。咲夜もその手を軽く握る。「花江咲夜です。よろしくね」目の前の瀬里の明
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