夕方になってようやく車が止まり、陽菜はバッグを手に降り立った。 ここへ来るのは、もう十年近くぶりになる。かすかな記憶をたどりながら、母の実家へと足を向けた。 幸い、あたりの風景は昔とほとんど変わっていない。迷うこともなく、目的の家に辿り着くことができた。 玄関の鍵はかかっていなかった。「お母さん?」 そう声をかけながら中に入ると、家の中はひっそりと静まり返っている。 一階も二階も見て回ったが、人の気配はない。母の姿はどこにもなかった。 電話も相変わらず繋がらないまま。 陽菜は居間の畳に腰を下ろし、どうしたものかと考えていると、手にしていたスマートフォンが震えた。 母からかと思ったが、表示された名前は立花だった。 立花はよほどのことがない限り、休日に連絡をしてくるような人ではない。 そのことをよく分かっているからこそ、通話ボタンを押す指先に自然と力がこもる。「立花先輩……」『ああ、藤野。今どこにいる? ちょっとな、直接話したいことがあって。今回の件についてだ』「急ぎですか? 今、母の実家に来ていて……戻るには少し時間がかかります」『そうか……いや、今すぐってほどじゃない。ただ、俺の見立てが当たってるなら、少し厄介なことになるかもしれない。最初に想定していた範囲を、もう超えてる可能性がある』 一瞬、陽菜の胸がきゅっと締めつけられた。 間を置かず、立花が言葉を重ねる。『それと、この件で外部の協力を頼むことになるかもしれない。君の同意をもらっておきたくてな。……正直、俺一人じゃ判断しきれない部分が出てきてる』「そんなに……悪い状況なんですか。外部の方については、私は問題ありません。先輩が必要だと思うなら、お願いします」 気づけば背筋がぴんと伸びていた。両手に持ったスマートフォンを、無意識に強く握りしめる。 その変化を感じ取ったのか、立花の声が少し柔らかくなる。『せっかく向こうにいるんだ。あまり考えすぎるな。少しは気分を休めろ。……たしか、母親の実家ってこのあたりだったよな?』 記憶をたどるように、地名を口にする。「はい、そこです」 大学時代に一度話したことがあったのだろう。立花の記憶力の良さには、今さら驚かない。 方向感覚以外は。『空気がいいところだよな。俺も少し前に証拠を追って行ったことがある。藤野、ゆっくり休め。今
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