外がまだ騒然としている隙をついて、一条は来た時と同じように静かに病室を抜け出した。 その姿を鋭く捉えた陽菜は、一条が離れたのを確認した瞬間、先ほどまでの勢いが嘘のように弱まっていく。男に食ってかかる気迫も急速にしぼみ、やがて看護師たちのやわらかな説得に押される形で、完全におとなしくなった。 立ち去る直前、陽菜は男を睨みつけるように一瞥した。だが、感情を一切映さない無機質な視線を受けると、それ以上は何も言えず、どこか気まずそうにその場を離れた。 安全な場所で一条と合流した瞬間、陽菜はようやく張り詰めていたものを解いたように、深く息を吐いた。 膝はまだわずかに震え、手も先ほどの騒動の余韻を引きずるようにかすかに揺れている。「一条くん……こんなこと……もう二度と、したくないです……」 弱々しくこぼれた言葉に、一条は思わず小さく笑みを浮かべた。衝動を抑えきれず、そっと片手を伸ばして彼女の肩を支える。「でも藤野、いい知らせがある。お父さんは見た感じ問題なさそうだったし――契約書の原本も、ちゃんと手に入れた」 そう言って、一条は手にした書類を軽く振って見せる。 陽菜はすぐにそれを受け取り、数ページめくった。目に映る文字を追うほどに、表情は次第に明るくなっていく。「よかった……! 一条くん、本当にありがとうございます……!」 心からの安堵と喜びが、その声に滲んでいた。 一条はそんな彼女を見つめ、穏やかに笑う。「礼はいらないよ。むしろ――今回の立役者は藤野のほうだろ。ちゃんとご褒美、考えないとな」 契約書を手に入れたことで、帰り道の空気は明らかに軽くなっていた。 行きの車内に漂っていた重苦しさは消え、二人の会話も自然と他愛のないものへと変わっていく。 道の途中、ふいに陽菜のスマートフォンが鳴った。 一条の話に耳を傾けていた彼女は、画面をよく確認しないまま、反射的に通話ボタンを押す。その間も、一条は拾ったばかりの白い子猫の話を、楽しそうに続けていた。「はい……」「陽菜さん? 今日……あっ、もしかして今、修司と一緒にいるのか?」 受話口から聞こえた声に、陽菜ははっと我に返った。 鷹宮の声だ。 思わず一条を一瞬だけ見てから、背筋を伸ばし、きちんと答える。「はい……今日は一条くんに、父のお見舞いに連れてきてもらって……」「お父さん? 何か
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