Lahat ng Kabanata ng 元夫の後悔をよそに、天才妻は御曹司と溺愛婚: Kabanata 601 - Kabanata 610

838 Kabanata

第601話

半分ほど閉まっていた寝室のドアの隙間から、凛がまず目にしたのは、すっと伸びたあの蘭だった。一瞬、はっと息を呑んだが、そのまま続ける。「ここが、私の寝室です」柑奈は軽く部屋を見渡すと、微笑んだ。「あなたが子どもの頃に描いていた絵と、そっくりね」凛は小さく頷く。柑奈の前にいる時の凛は、いつもどこか素直でおとなしい子どものようになる。傍らで見ていた海斗には、今の彼女が妙に愛らしく映った。猫を抱きしめて、思いきり構いたくなるような感情に襲われる。柑奈と康平がソファに腰を下ろし、お茶を飲み始めたので、海斗は邪魔をしないよう帰ることにした。それでも、視線だけはずっと凛を追っている。ここまでしてもらった以上、凛としても海斗を見送らないわけにはいかない。海斗と一緒に外に出て、玄関のドアをしっかり閉めたその瞬間、海斗が振り返り、またしても狭い空間へ追い込まれた。この後の予定を直接聞くのではなく、海斗はこう尋ねた。「予定表は作ったのか?」そんな聞き方をされたら、凛に答えられるのは「作った」か「作ってない」のどちらかしかない。「作った」「俺にも送れ。君はまだ免許も車もないから、いちいちタクシーを呼ぶのも面倒だ。あのセンチュリーなら登録も済んでるし、俺が運転手をやる」教官の次は、運転手までやるつもりらしい。凛は海斗と目を合わせないよう顔を横へ背ける。「配車アプリですぐ呼べるから大丈夫」「大丈夫?」海斗が一歩近づき、二人の距離がまた一気に縮まった。大きな影と、男の温かな気配が迫ってきたが、凛は身体を強張らせながらも、譲らない。「本当、大丈夫だから」「俺が運転してやろうか?それでも、大丈夫って言うなら……今ここで君にキスするからな」凛の瞳が大きく見開かれた。この人、ほんとに……海斗が顔を伏せ、少しかすれた低い声で囁く。「俺が運転してやろうか?」今にも唇が触れそうになり、凛は慌てて答えた。「お、お願い!運転お願いするね!」「君が言ったんだからな」と、海斗が低く笑う。その笑い声には、人を惑わせるような妙な色気があった。「今送る。あとで気が変わったなんて言われたら困る」凛は内心むっとしながらも携帯を取り出し、予定表のスクリーンショットを送った。「送ったよ。海斗、少し下がって」熱い。海斗はじっと凛を見つ
Magbasa pa

第602話

美穂子はG県の料理をたくさん作ってくれたが、康平が病み上がりであるのを考慮して、あっさりとした献立や栄養のあるものも用意していた。柑奈は一口食べて感嘆の声を上げる。「美穂子さん、この味、本格的ですね」「ありがとうございます、柑奈さん。凛さんもお好きでよく召し上がるんですよ」美穂子は笑顔で続けた。「だから食材も調味料も全部G県から取り寄せているんですよ」凛の箸が止まる。美穂子をじっと見つめた。誰の指示なのかなど、考えるまでもない。柑奈はただ微笑み、隣の康平の皿に料理を取り分けた。夕食後、凛と美穂子が柑奈と康平をホテルまで送り届けている最中、明日の午前、紗枝に空き時間ができたので、康平を連れて行けるとの、メッセージが海斗から届いた。凛はその旨を柑奈に伝え、明日の午前9時半にホテルのロビーで合流し、そのまま千石鍼灸院へ向かう約束をする。別れ際、凛は康平の頭を撫で、彼のキッズ携帯を見ながら言った。「寂しくなったら、いつでも電話してきてね」「姉ちゃん、ばい、ばい」「うん、また明日ね」康平は頷いた。「あした、ね」帰宅後、凛は2ヶ月分の給料として、美穂子に80万円を振り込んだ。「美穂子さん、一般的な家政婦さんのお給料がどれくらいなのか、私にはよく分からなくて……でも、美穂子さんは海斗のご両親や海斗のところで働いていたぐらいなので、本当はもっとお給料が高いと思うのですが、今の私はこれくらいしかご用意できなくて……すみません」凛は柚葉から返還された金を寄付するつもりで、自分の手元に残す気は一切なかった。美穂子は困ったような表情を浮かべる。「凛さん……」「美穂子さんが受け取ってくれないと、私が落ち着かないんです」美穂子が何を気にしているのか、凛にも分かっていた。だから、こう続ける。「一度海斗に聞いてみてもらっても構いません。でも、これ以上美穂子さんの厚意に甘えていたら、私が美穂子さんのご飯を食べられなくなってしまいますので」ため息をついた美穂子。「分かりました。海斗様に聞いておきますね」「あ、それと、前に話してた食材代も」「まだ一区切りついておりませんので、凛さん、そんなにお急ぎにならなくても……」とはいえ、そう長くもないだろう。凛も焦っているが、美穂子だって焦っている。寝室に入り、美穂子は声を
Magbasa pa

第603話

……翌日。凛がホテルの入り口に行くと、黒塗りのセンチュリーが止まっていた。彼の姿はない。ホテルのロビーに入ると、予想通り海斗がそこにいた。脚を組んで何やら通話中だったが、凛の姿を見つけるとすぐに電話を切り、歩み寄ってきた。午前9時10分。柑奈と康平はまだ下りてきていない。近づいてくる海斗のその手には、書類の束が握られていた。書類が、凛に差し出される。表紙には、こうあった。【A市市立病院健康診断結果報告書。竹内海斗】凛は一瞬、動きを止めた。胸の奥がわずかに揺れる。これは、海斗なりに示した誠意の一つだった。竹内グループ傘下の柊病院を使わなかったのは、検査結果を都合よく操作したと思われる余地をなくすため。「一昨日受けて、今日結果が届いた」海斗は骨ばった指で書類を差し出しながら、続けた。「健康。感染症もなし。君以外に好きな女はいないし、元恋人もいない。忘れられない初恋相手もいないし、未練のあるような女もいない」この手の言葉は、海斗が日和から聞いて覚えたものだった。凛がいつまでも受け取らないので、海斗はさらに強調する。「心身ともに潔白だ」凛は呆然と彼を見つめたまま、手を動かさなかった。だが、問題解決が得意な海斗がそれくらいで困るはずもない。紙の診断書を引っ込めると、今度は携帯を取り出す。「デジタル版も送れる」次の瞬間凛の携帯が震え、海斗から診断結果のデジタルデータが送られてきた。携帯を握りしめる凛の指に力がこめられる。まるで見合いでもしているようだ。「姉ちゃん」康平が、柑奈と共に姿を現した。黒いリュックを背負っている康平は、15歳とは思えないほど痩せて小柄だったが、肌は日に焼け、瞳はきらきらと輝いている。凛は携帯をポケットに入れ、二人がすでに朝食を済ませたと聞き、そのまま策の鍼灸院へ向かうことにした。策は診療所にいた。ただし、身体はそこにあっても、心がどこにあるのか分からないかのように、凛が声をかけても反応しなかった。海斗が冷たい視線を向けた瞬間、策はびくっと肩を震わせ、ようやく笑みを作る。「ああ、奥に案内するよ」「ばあちゃん、この前話してた子が来たよ」紗枝がゆっくりと近づいてくる。凛と柑奈が康平を見ていると、康平はリュックを開け、中からお土産を取り出し、おずおずと紗枝に差し出
Magbasa pa

第604話

漢方医の診察方法として四診――望・聞・問・切というものがある。紗枝は望診だけを用い、康平の過去の経緯を尋ねることもなく、ただ康平の様子をじっと観察している。少しずつ自分のところへ物を持ってきてもらったり、何かを渡してもらったりした。康平はそのたびに柑奈や凛へ視線を向け、許可を得てから動き、もし探している物が見つからなくても、焦ってその場をぐるぐる回ったりはしない。ただ少し困ったように立ち尽くし、辺りを見回す。この子は、本当はとても賢い。ただ、霧の中にいるように、進む方向を見失っているだけ。康平に必要なのは、道を示してくれる人と、教えてくれる人。昨夜、康平が薬草のドキュメンタリーを熱心に見ていたと凛が話すと、紗枝は目を光らせた。そして策を呼び寄せ、耳元で何かを伝える。策は康平を、鍼灸院の調剤場へ連れていった。「ここでは、何をしていてもいいよ」何もせず、ただ薬を量り、包んでいく人たちの作業を見つめていた康平。それも、かなり長い間だったが、とても面白いものを見ているようだった。当初、策は話しかけずに見守っていたが、しばらくして彼自身も薬を調合し始める。薬草を秤に乗せると、突然、康平が動き出した。康平はすっと手を伸ばすと、その中から一つの薬草の欠片を取り出した。策は尋ねる。「どうした?」しかし、康平は何も言わない。ただその一枚を横へ置くと、薬棚の端へ戻り、少し身体を縮めて立った。策がその薬草を戻しても、康平は近づいてきて再びよけてしまう。策は思わず笑った。「じゃあ、それを持って、君の姉ちゃんのところへ行ってきな」「姉ちゃん」という言葉に反応し、康平はその薬草の欠片を握りしめて歩き出した。策は秤の薬草を袋へ移し、別の引き出しからもう一種類の薬草を少し取り出して後を追う。凛は差し出された薬草を見て、首をかしげた。「ばあちゃん、面白いことがあったんだ」策が歩きながら、話しはじめる。「康平くん、見た目がほぼ同じ『ドクダミ』と『ツルドクダミ』を判断できたんだよ」策はドクダミとツルドクダミを一つの器の中に混ぜた。そうすると、康平は再びゆっくりとした動作で、薬草を分け始める。凛と海斗も顔を近づけて見てみたが、二人にはその違いが判断できなかった。すると、紗枝が葉の付け根を指差して説明する。「ドクダミの葉の付け根
Magbasa pa

第605話

凛は、それを負担だとは思わなかった。康平の頭を優しく撫でながら尋ねる。「ここに残って、紗枝先生のところで勉強してみない?」医学を学ぶと言っても、康平にはまだよく分からないかもしれないから、「勉強する」という言葉を使う。康平が柑奈を見ると、柑奈はやってみたいなら頷くようにと教えた。紗枝が口を開いた。「安心してください。この子にここで肩身の狭い思いなんてさせませんから。康平くんは私が孫だと思って、食べるものも寝るところもきちんと面倒を見ます。ただ、医学を学ぶのは根気が必要ですがね」すると、柑奈が答える。「うちの施設の子達は苦労することに慣れていますから。紗枝先生、康平に道を与えてくださって、本当にありがとうございます」紗枝は笑って首を振った。「これもご縁ですので。もしこの子が一人前になれなくても、ここで働いて自分の力で食べていくくらいはできるようになりますから」凛は真剣な眼差しで言った。「紗枝先生、また数日後、正式に挨拶に来ますね」紗枝は微笑んだ。今さらそんな堅苦しいことはいらないと思ったが、凛の心遣いはやはり嬉しかった。ちょうどその時、千石鍼灸院の従業員が入ってきて告げた。「千石先生、外にお客様がお見えです」千石鍼灸院で、「千石先生」というのは紗枝を指した。現代では、結婚してからも職場では旧姓を名乗る女性も多いが、紗枝が嫁いできた頃には、そのような習慣が無かったため、「千石先生」と呼ばれている。また、策や霞、裕二も皆医者だったが、紗枝が「千石先生」と呼ばれるのは、周囲に浸透しているため、今更変える必要もなく、彼女は皆にそう呼ばせていた。策は紗枝を支えながら外へ出た。そこにいたのは、茂と剛。策は思わず立ち止まる。しかし、茂は策のことを知らないため、彼は年老いてなお黒髪を保つ紗枝に視線を向け、丁重に声をかけた。「こんにちは」紗枝は二人を見つめた。「どちら様でしょうか?」茂は軽く会釈する。「神谷茂と申します。最近どうも眠りが浅いため、一度診ていただこうと思いまして」ちょうど手が空いていた紗枝は、診察台の方へ歩き、腰を下ろした。「では、こちらへ」茂も腰掛ける。剛は辺りをきょろきょろと見回したが、凛の姿は見当たらない。策は神谷一族の妙な雰囲気に気づき、裏庭へと回った。剛がその背中を目で追う。
Magbasa pa

第606話

だが、柑奈は長くは立ち止まらなかった。電話をかけてきたのは、施設を出た子の一人で、今はA市で働いていて、職場がこの近くだから、少しだけ顔を見に来たいという連絡だったのだ。柑奈が道路脇まで出ると、その子は原付バイクに乗ってやってきた。手にパンの袋を提げているその女性は、嬉しそうでありながら、どこか遠慮がちに言った。「先生、これ、私が働いてるお店のパンです。よかったら食べてくださいね。でも忙しくて……ちゃんと食事に誘う時間が取れなくてごめんなさい」「気にしなくていいの。私も用事で来てるだけだし、終わったらすぐ帰らないと。施設でもやることが山ほどあるから」柑奈は目の前の女性を抱きしめた。相手は途端に目を潤ませる。「ごめんなさい、先生。私、立派になれていなくて……」柑奈は涙を拭ってやった。「ちゃんと部屋は借りてる?」「はい」「毎日ご飯食べてる?」「はい」「寒くてつらい思いはしてない?」女性はやはり頷いた。「だったら十分立派よ」柑奈は再び彼女を抱きしめた。「自分の力で生きているだけで、十分すごいことなの。この世界のほとんどの人は、ごく普通の人なんだから」女性は納得がいかない様子でつぶやいた。「でも私、普通になるだけでも、すごく苦労したんです」柑奈はその背中を優しく叩く。「なら、これからは平凡で、幸せな普通の人になればいい」少し話したところで、女性の携帯に店から電話がかかってきたため、彼女は慌てて戻っていった。走り出したばかりの原付バイクは少しふらついていたが、やがて安定して進んでいく。柑奈は目頭を熱くして、その背中が角を曲がって見えなくなるのを見送った。忙しい中、わざわざ届けてくれたパンを手に、鍼灸院へ戻る。茂たちはまだいた。柑奈が茂をもう一度見ると、茂も礼儀正しく軽く会釈をした。柑奈はとうとう好奇心を抑えきれず、海斗に尋ねた。「海斗さん、こちらの方は?」海斗が茂を紹介する。「家族ぐるみでよくしてもらっている、神谷家の方です」「神谷?」柑奈は記憶の糸を手繰り寄せ、はっとした。「神谷副市長?」柑奈は思い出した。20年以上前、K市の副市長だった人物だ。母親と一緒に、施設の手続きで役所へ行った際、一度だけ顔を合わせたことがある。柑奈の印象に残っていたのは、母親が茂をとても高く評価していたから
Magbasa pa

第607話

茂はほっとしたように息をついた。「ご迷惑をおかけしていないなら何よりです。施設の院長をなさっているんですね。お名前を伺ってもよろしいですか?」そう言って手を差し出す。柑奈も手を伸ばし、軽く握手を交わした。「唐沢と申します」柑奈は母親のことには触れなかった。茂が20年以上も前にG県で出会った人間を、いちいち覚えているはずがない。わざわざ話せば、かえって相手を困らせてしまうだろう。茂は、柑奈を「唐沢院長」と呼び、連絡先を交換した。その一連のやり取りを、海斗はすべて見ていた。どこか引っかかるものを感じながら、考え込む。その頃には紗枝が薬を用意し終えていたので、剛がそれを受け取り、茂へ目を向ける。茂もそれ以上長居せず、そのまま鍼灸院を後にした。車へ乗り込むと、茂の表情は次第に険しくなった。「美雪の行動を、もう一度徹底的に調べてくれるか?景山グループにも確認を取って、関係する情報は一つも漏らすなよ」剛も頷く。茂は携帯を取り出し、溜め息を一つ吐くと、美雪に電話をかけた。「美雪、今は何をしてる?」美雪は答えた。「お兄ちゃんとか陸たちとスキーしてるよ」「景山グループの撮影は、いつ終わるんだ?」神谷家と景山家には付き合いがあるため、この件で美雪が嘘をつけばすぐに分かる。だから、美雪は正直に答えた。「もう撮り終えたよ」「そうか」茂は笑って言った。「なら明日の飛行機のチケットをとっておくよ。今日はスキーを楽しんで、明日は家へ帰って母さんのそばにいてやりなさい。そうしないと、この連休中、お母さんが一人になってしまうだろう?」父親が意図的に自分をA市から遠ざけようとしていることに気づいた美雪の胸の内に、不安が広がる。だが父親の言葉をあからさまに拒むわけにもいかない。「お父さんは明日帰らないの?」「俺はあと数日かかるかもしれない。隆さんと瑶子が戻ってきたら、一度食事をしてから帰るつもりだからね」「じゃあ、私もお父さんと一緒に帰りたい」「お前は先に帰って、母さんについていてやりなさい」それで話は決まった。電話を切った美雪は睫毛を伏せた。何か、大きなことが起きそうな気がする。スキーウェアに着替えた柚葉が近づいてきた。「どうしたの?そんなに暗い顔して」美雪は携帯の画面を消し、利明のいる方に視線を向けた。利明はちょ
Magbasa pa

第608話

「陸、お兄ちゃんと何をこそこそ話してるの?」美雪が近づいてきて、話を遮った。陸は美雪を一瞥した。美雪の目の前では、ある程度の顔は立ててやらなければならない。「何でもないよ」そう答えながら、陸は前方の柚葉をじっと見つめた。その目には、怒りに近いほどの軽蔑が浮かんでいる。「美雪ちゃんは柚葉さんと先に行ってて。俺は利明と少し話があるから」陸の「柚葉さん」という呼び方に妙な棘があり、利明は眉を寄せた。美雪は笑った。「一緒に行こうよ。柚葉さんはお兄ちゃんを待ってるし、今日の私たち二人は完全にお邪魔虫なんだから」そこまで言われれば、陸も強くは言えないため、仕方なく一緒に歩き出した。陸の足取りは重い。目の前で友人が騙されているのを見ているしかないこの状況では、自分が正人と同じ立場になったような気がする。だが自分は、正人ではない。そして利明も智也などではない。神谷家の御曹司である利明は、法学に関心がなくとも自らの実力で司法試験を突破し、大手事務所のパートナー弁護士まで上り詰めた男だ。それでも、嘘ばかりつく金目当ての女に、ここまで簡単に振り回されているのか?利明、お前の脳みそはどこにやった?相手の過去がどれほど酷くても、それでも受け入れて初めて「本当の愛」と呼ぶのだろうか。だとしたら、自分には一生そんなくだらない愛なんて理解できそうにない。スキーボードに足を固定した陸は、利明と柚葉が親密そうに寄り添っているのを見て、頭から煙が出そうになるほど腹を立てたまま、そのまま一気に滑り降りていった。美雪は、その苛立ちに満ちた背中を見つめた――やっぱり、陸は何かを知っているらしい。手袋をしっかりはめ、自分も滑り出す。柚葉はスキーがあまり得意ではないと言い、利明が手取り足取り教えていた。屋外スキー場はいつも人が多く、腕前もまちまちだ。初心者が「危ない!」「どいて!」と叫びながら突っ込んでくることも珍しくない。一人の初心者が柚葉たちの方へ滑り込んできたため、利明は咄嗟に柚葉を胸元へ引き寄せ、急停止する。その反動でバランスを崩し、冷たい雪の上へ尻もちをついた。体勢を崩した柚葉も、利明の胸に完全に倒れ込む。利明の鼻先に、やや強めの香水の匂いが漂った。以前の淡い薔薇の香りではない。柔らかな身体を胸に抱くと、利明の心臓が激し
Magbasa pa

第609話

美雪は軽く肩をすくめた。「私には無理」陸は、さっきから美雪の態度がどこか引っかかっていたが、何がおかしいのかまではわからない。しかし、少し迷った末、もう利明に気を遣っている場合ではないと腹をくくり、美雪にはっきり告げた。「利明を止めたほうがいい。柚葉さんはやめとけって。あの女、病気持ちだって噂だからな」美雪の胸がざわついた。本当に病気だったの?まさか?美雪は顔を上げ、眉をひそめた。「陸、それ誰から聞いたの?噂なんて当てにならないでしょ?」「ほかの奴が言ってるだけなら、俺だって信じない。でも、谷口の友達の望月がそう言ってたんだよ。あの女ともずっと付き合いがあった。望月がグループチャットでこのことを言って、その翌日には自分で検査まで受けて、結果もグループに上げてたんだから」美雪の眉間のしわが深くなる。柚葉は、智也だけでなく正人まで完全に敵に回したらしい。しかも正人自身がわざわざ検査を受けたということは、身近にいる智也がすでに感染している可能性が高いだろう。「美雪ちゃん、これは放っておけないだろ?利明は昔から一番に美雪ちゃんを可愛がってきたんだから」「分かってる」と美雪は声を張り上げた。「お兄ちゃん!」利明と柚葉がこちらを見た。呼び止めたはいいものの、美雪はとっさに言い訳が思いつかなかった。すると陸がすかさず声を上げる。「利明!美雪ちゃんが足首をひねったみたい!」利明は柚葉と一緒にゆっくり滑り降り、美雪のそばで止まると、心配そうに足元を見た。「大丈夫か?」美雪は小さく頷いた。利明がグローブを外し、スキー板から降りる。「今日はもう切り上げよう。また今度来ればいいからな」真っ先に賛成したのは柚葉だった。柚葉にとっては、美雪は味方。結局、4人はスキー場に着いて30分もしないうちに引き上げることになった。車の中で、美雪は「もう痛くないみたいだから病院はいい」と言い、そのままホテルへ戻ることにした。ホテルに着くと、美雪は柚葉だけに部屋まで付き添ってもらい、男二人は連れていかなかった。陸は内心ほっとする。さすが美雪ちゃん。うまく利明と二人にしてくれた。利明のホテルの部屋に入ってドアが閉まるなり、陸は早速口を開く。「利明。あの女は性病を持ってる。あんなのと関わるとロクなことにならないから
Magbasa pa

第610話

一方、美雪は部屋に入った途端、それまで足をかばっていたのが嘘のように普通に歩き始めた。柚葉が驚く。「美雪ちゃん、足……」「柚葉さん」美雪は表情を曇らせた。「正直に答えて。あなた、感染症にかかってるの?」柚葉の顔から一気に血の気が引いた。驚愕のあとに、隠しきれない動揺が浮かぶ。「み、美雪ちゃん、一体どこでそんなデタラメを聞いたの?」「望月さん」美雪は柚葉から目をそらさなかった。「望月さんが言ってるってことが、どういう意味かわかるよね?谷口さんもあなたから感染したんでしょ?だから1円も助けてくれなかった。それに、あなたは谷口さんの子供まで妊娠して、その子を失ってる。しかも、そのせいで今後妊娠できる可能性まで低くなった。そこまであなたの体を傷つけたなら、普通は罪悪感から少しくらい補償するはずなのに、それすらしなかったのは、理由があるからでしょ?」美雪が一歩近づく。柚葉は後ずさるしかなかった。この小柄な美雪は、普段見せているような、ただ優しくて付き合いやすい女の子ではない。それ以上に衝撃だったのは、智也が正人に病気のことを話し、正人がそれを周囲にまで広めていたことだった。美雪がそこで足を止める。「あなたが昔、誰とどう付き合ってたかなんて私はどうでもいいし、あなたとお兄ちゃんが付き合うのを後押ししたのだって、私なりの事情があったから。それでも一番は、お兄ちゃんが幸せならいいと思ってたからなの。でも、病気をうつす可能性があるなら話は別」声が一段と低くなった。「お兄ちゃんの体を傷つけることだけは、絶対に許さない」柚葉は慌てて止めた。「何をしようというの?利明に話す気?付き合い始めたばかりなのよ。私たち、付き合い始めたばかりなのよ。それだって利明から付き合おうって言われて、私は試してみようって答えただけ。今そんなことを言ったら、利明がどう思うか考えた?それに、私たちは何もしてない。手をつないだだけ。手を繋いだくらいで感染したりしないし、ちゃんと治療もしてる。薬を飲めば治るの」ただ、抗体検査はずっと陽性のままだった。美雪の表情がわずかに緩んだのを見て、柚葉はさらに畳みかける。「忘れたの?私たちには共通の敵がいる。私とあなたは仲間でしょ?」「治るまでは、本当にお兄ちゃんと手をつなぐだけ?」美雪は柚葉の思惑など見抜いてい
Magbasa pa
PREV
1
...
5960616263
...
84
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status