「ジュリアン・ヴァレンティン。此度の功績をもって、そちを準男爵に任ずる」 重々しい王の声が、広間に響き渡った。 ぽつぽつと上がった拍手が、やがて集まった貴族たち全ての喝采に変わる。 王から爵位章を受け取った側近が、ジュリアンの元へと降りてきた。 力の入らない右足を杖で支え、よろめきながら立ち上がり、メダルを受けるためにジュリアンは頭を下げる。 同時に、役に立たない左腕がぶらりとだらしなく揺れた。「拝領仕ります」 首のメダルに触れるふりをして、垂れ下がった左腕を右手でそっと整える。 響き渡る拍手の中、ジュリアンは内心で嘆息した。──まるで、道化だな……。 式典が終わると、そこにヴァレンティン伯爵家の使いと称する者が待っている。「こちらで馬車を手配いたしました」 父・ヴァレンティン伯爵が手配したというそれは、街で雇える貸し馬車だった。 今更ヴァレンティンの姓を名乗れと言っておきながら、家紋の入った車すら寄越さない。 ジュリアンは小さな鞄一つの荷物を御者に預けた。──せめて、アルに伝言の一つも残せばよかったかな……。 ジュリアンが騎士団に入る前から、慕ってくれていた栗色の髪の少年。 今や第二騎士団の有望株として称えられるアルフォンスは、遠征に行って王都を留守にしている。 走り出した馬車は王都の華やかな街並みを抜け、大門を出る。 森を抜け、丘を抜け、馬車は走った。 拝領された領地までは、七日の道のりだ。 粗野だが親切な御者と二人、途中の町で宿を取り、疲れが抜けぬままひた走る。 辛うじて装備されている魔物避けの灯りのおかげで、途中、襲撃されるようなこともなく、ジュリアンはローデンフェルまで無事に運ばれた。 領境を越えた辺りから、急激に気温が下がる。 夏とも思えぬ冷気が、魔獣に傷つけられた背中の傷を思い出させ、折れた右足をずうんと重く感じさせた。 一帯を包む薄紫色の濃い霧が、閉じた扉の隙間から客車の中に忍び込んでくるようだ。 窓の向こうを流れていく景色は、モノクロームのように色を失っている。 草木は枯れ、葉は黒ずみ、霧の中に沈んでいた。 進む馬の蹄の音が、重く湿った土をかき混ぜるように聞こえた。「旦那、見えてきましたぜ」 口数の少ない御者が告げる。 窓の外を見やると、黒く雨を吸った節だらけの壁に、厚手の布が垂らされ
Last Updated : 2026-03-19 Read more