夜になると、アルが桶に湯を持って部屋にやってくる。「こんなに毎晩。そんなにお湯を使ったら、本当に貴族みたいじゃないか」 瘴気に侵された土地で、飲料水は貴重だ。「井戸に浄化の付与して、安全な飲水確保してあるじゃないですか」「私はちゃんとした結界師じゃない。浄化を付与した石を井戸に置いてあるが、充分と言い切るのは危険だろう」 ジュリアンの答えに、アルは肩を竦める。「この水は、俺が術を掛けて作ったものです。別に特別贅沢じゃないですよ」 タオルを絞り、ジュリアンの背中を拭こうとして、アルは手を止めた。 片側に寄せ、肩の前へと垂らした金糸の髪は、以前の輝きを失っている。 それでも、痩せたうなじにはらはらと掛かるその姿は、変わらず美しい。 どれほど奪われ、虐げられても── この背中は、常に誰かを守るためにきりと背筋を伸ばしている。 湯気の立つタオルをそっとあて、背を柔らかく撫でた。 今も生々しく盛り上がり痕を残している、魔獣の爪痕。 スタンピードのさなかとはいえ、もっときちんとした治癒を施されていれば、ジュリアンの左腕はまだ動いたかもしれない。 それとも──? ジュリアンの騎士としての高い能力を妬んだ誰かが、わざと雑な治癒しかさせなかったのだろうか……と疑ってしまう。「痛い……ですか?」「いや、今更なんともないよ?」 タオルを湯につけ、絞る。 肩を、腕を、脇を、順々に丁寧に清めながら── アルは、いつしか目線をそらしたまま、ジュリアンを見られなくなっていた。「アル?」「え? ……あ、はい?」 いつの間にかこちらを向いていたジュリアンが、スウッと右手を伸ばして、アルの顎を捉えた。「手伝って、あげようか?」「な……にを……」 ジュリアンの目線が、下に落ちる。
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