「……確か、こっちに戻って『運命の人』を追いかけるって言ってたわよね?その様子だと、首尾よくいったようじゃない」海浜市において、黒田家は瀬戸家や高城家と肩を並べる屈指の名門だ。情報の回りは早い。凛と和真の間にある複雑な因縁など、この界隈の住人にとっては公然の秘密だった。凛が戻り、和真の隣に収まろうとしている以上――和真の妻の座にいる女の末路など、沙耶に言わせれば「お気の毒に」という一言で済む話だ。もっとも、沙耶の同情はその程度でしかない。彼女は道徳で人を裁くような真似はしない。重要なのは「結果」であって、そこに至る過程でどのような手段を用いたかは、取るに足らない問題だった。凛は頬を恥じらわせ、曖昧に微笑んだ。「もう、からかわないでください。……ええ、おかげさまで順調です」オーダーした料理が運ばれ、給仕が静かにドアを閉めて退出した。それを見届けると、沙耶はグラスを軽く揺らしながら、単刀直入に切り出した。「それで?単なる積もる話ってわけじゃないんでしょ」凛はグラスの縁を指先でなぞりながら、言葉を選ぶようにして口を開いた。「沙耶さん、前に少しお話しされていましたよね。今回の全国芸術コンクールに招待されているって」「ええ、そうよ。……興味があるの?」沙耶が片方の眉を上げる。「いえ、私じゃなくて。……兄と和真くんなんです。二人は、篠宮グループの動向を追っていて……今回のコンクール、メインスポンサーが篠宮家だという話を耳にしたものですから」「篠宮家?なるほど、あそこが狙いなのね」沙耶は小さく鼻を鳴らした。「でも、当主の篠宮湊様に取り入ろうなんて、そう簡単にできることじゃないわよ」「分かっています」凛は澄んだ瞳で沙耶を見つめた。「だからこそ、沙耶さんを頼りにしちゃったんです」沙耶は二、三秒ほど凛を静かに見つめていたが、やがてくすりと笑い声を漏らした。「本当に、人を見る目があるわね。湊様とはそれなりに親しくさせてもらっているわ。海外にいた頃、いくつかプロジェクトを共にしたこともあるし」さらりと言ってのけたが、実際は規約に則った事務的なやり取りを重ねただけに過ぎない。ましてや、湊と直接言葉を交わしたことなど一度もなかった。かつて黒田家が篠宮家に施した恩義のおかげで、個人的なツテがないわけではない。だが湊のガードは鉄壁で、何度か接触を
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