若い夫婦にやり直す機会を与えるべきであり、些細な衝突をいちいち離婚に結びつけるべきではない。これ以上の司法リソースの浪費は避けるべきだと、我々は考えます」調停員はしばらく考え込んでいたが、やがてゆっくりと頷いた。「不貞の事実がないとなれば……やはり、夫婦間の内輪の問題の域を出ないと言わざるを得ませんな」調停員も、近頃の若い娘たちのことは分かっているつもりだった。少しでも気に食わないことがあれば、すぐに甘えて離婚だのと騒ぎ立てる。これまで似たような夫婦を、それこそ何十組と見てきたのだ。この瞬間、結論は出た。薫が何度も反論を試みるものの、そのすべてが熟練の弁護士と、保守的な調停員の壁に撥ね返されてしまった。「相手側の不貞行為をあくまで主張されるのでしたら、より決定的な証拠、あるいは胎児との親子関係を証明するDNA鑑定書を提出してください」調停委員の無機質な声が響く。「よって今回の調停は、不成立といたします」薫の顔色が、その場でさっと険しくなった。修羅場には慣れているはずのベテラン弁護士でも、今回ばかりはあまりに理不尽で、腹に据えかねているようだ。だが、当事者である実花はひどく冷静だった。不成立を言い渡された瞬間、ほんのわずかに口角を上げたほどだ。薫の落ち度ではない。瀬戸家の力は絶大だ。相手が用意した弁護士も、当然ながら一筋縄でいく相手ではなかった。ただ、和真側の弁護士が「夫としての愛情と経済的支援の証明」として、プレゼントや送金履歴を次々と提示したときには、実花は激しい吐き気を覚えた。あれらのどこが愛情の証拠だというのか。ピアスホールがないと知っていながら贈ってきた、的外れなピアス。土砂降りの夜に私を置き去りにし、あとから罪悪感に駆られて振り込んできた哀れみのようなタクシー代。調停が完全に打ち切られる直前。実花はふと顔を上げ、和真を真っ直ぐに見据えた。「和真。一つだけ聞かせて。あなたと凛は、本当に何もないの?」和真は躊躇なく頷いた。「ああ」実花はじっと彼から目を逸らさず、さらに問い詰める。「じゃあ、どうしてそこまで凛を庇うの?あなたにとって、凛はどんな特別な存在だっていうの?」和真は一瞬、口をつぐんだ。やがて、わずかな疲労感と、彼なりの奇妙な誠実さを滲ませた声で口を開く。「すまない、実花。凛は僕にとって
Read more