「パパぁ、おかえりー!」 プレイマットから陽菜が駆け寄っていく。 ピンク色のウサギのぬいぐるみを振り回しながら、和也の足にしがみついた。「おお、陽菜。ただいま」 和也はスマホから目を離さず、空いた片手で適当に陽菜の頭を撫でた。 たったそれだけだ。 陽菜が今日保育園で何をして遊んだのか聞くわけでもなく、抱きしめるわけでもない。 すぐにスマホの画面に戻り、親指を激しく動かし始める。 ピコピコ、ピロリロリン、という間の抜けた電子音が、和也の手元から響いてくる。「和也、目悪くなるわよぉ。ゲームばかりしてないで、こっちでお話ししましょう?」「んー、ちょっと待って。今限定イベント中でさ、これクリアしないとアイテムもらえないんだよ」「まあ、仕方ないわねぇ。和也は疲れているんだもの、息抜きは必要よね」 義母の甘やかすような注意も、和也の耳には届いていないらしい。 この空間に、私の居場所はどこにもないように思えた。 私は無言でティーカップに温かいお茶を2つ注ぎ、お盆に乗せてリビングへ向かった。「お義母さん、和也さん、お茶が入りました」 ローテーブルの上に、音を立てないようにカップを置く。「あら、ありがとう。真由美さん、お茶くらいもっと早く出せないの? 和也が喉を渇かして待っていたじゃないの。気が利かないわねえ」 義母が嫌味を刺してくる。「……申し訳ありません。すぐにお夕食にしますね」 私は軽く頭を下げて、キッチンへ逃げるように戻った。 足の裏のジンジンとした痛みが、疲労とともに全身に回っていく。 早く食事を終わらせて、陽菜をお風呂に入れて、少しでも早く横になりたい。 それだけが今の私のささやかな願いだった。 醤油で煮詰められた煮物については、もう考えないことにした。 義母から押し付けられた、もとい、受け取った以上は食卓に出さないわけにはいかない。 せめて陽菜には食べさせない
Last Updated : 2026-04-07 Read more