病院の処置室の前。凪杜は全身血まみれで、ぶるぶると震えていた。先ほどまで野々花の体から血が止まることなく流れ続け、その光景はあまりにも凄惨だった。頭の中はぐわんぐわんと鳴り、真っ白になる。廊下には那乃葉の泣き声が響いているのに、凪杜はまるで真空の中にいるかのようで、呼吸すら苦しかった。やがて伊藤がよろめきながら駆けつけてきた瞬間、彼は夢から覚めたように相手の首を掴み上げた。「伊藤、野々花はいったい何を食べた?!」伊藤は顔を赤くしながら苦しそうに答える。「ふ、普通の......晩ご飯です......」伊藤は彼の母親の実家の古い知り合いだ。どんなことがあっても、野々花に何かするはずがない。凪杜は力なく手を放した。やがて、救急室の扉が開く。千晶がマスクを外し、彼を隅へと引き寄せた。「薬、渡す相手を間違えたのか?」「そんなはずない!ちゃんと絃葉のバッグに――」言葉は途中で途切れ、瞳孔が急激に収縮する。「まさか......野々花が中絶薬を飲んだっていうのか?!」千晶は無力そうに肩をすくめた。「ああ。胚も完全に落ちた。残念だけど、男の子だった」その瞬間、凪杜の頭の中で「ドン」と何かが崩れ落ちた。よろめきながら二歩後ずさり、信じられないという顔で千晶を見る。「そ、そんな......そんなはずは......もう方法はないのか?」千晶は首を横に振った。「もう手は尽くした......が、ひとつだけはっきりさせたほうがいい。絃葉に渡したはずの中絶薬を、なぜ野々花が飲んだのか」凪杜はさらによろめき、手からスマホが「パタン」と床に落ちた。機械的に絃葉へ電話をかける。だが返ってきたのは、無機質な電源オフのアナウンスだけだった。――その頃、絃葉と悠、青波の三人は「マリア号」と名付けられたヨットに乗り込んでいた。青波は船を丸ごと貸し切り、誕生日パーティーを無理やりセレブたちの社交場へと変えてしまった。今回招かれているのは、全国各地から集まった一流のビジネスエリートや名家の令嬢・御曹司たちだ。しかも青波は遊び方が派手で、入場者には水着への着替えと仮面の着用を強制。本人いわく「アイスブレイク」らしい。こんなぶっ飛んだ演出になるとは思っていなかった絃葉は、思わず毒づきた
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