絃葉の姿が階段の角に消えるまで見送っていた凪杜は、ようやく視線を引き戻し、野々花へ向き直った。「彼女には父親も母親もいない。この世で身内と呼べるのは、故郷にいる祖父以外、俺しかいないんだ。俺は彼女のすべてなんだ。だから彼女が俺のために何でも捧げる覚悟を持っていることは、俺は信じている」野々花は信じられないというように凪杜を見つめた。目の前の男は相変わらず穏やかで端正な顔立ちをしていて、確かに彼女の記憶の中の凪杜そのままだ。けれど今、この人は目の前にいるのに、ひどく見知らぬ存在に思える。彼の心は、少しずつ絃葉へと傾いているようだった。爪が手のひらに食い込むほど強く握り締めながら、野々花は胸の奥の憎しみを押し込める。そして今回は、もう「愛しているのかどうか」という問いを口にしなかった。「一度も彼女の故郷に行ったことがないし、その祖父という人に会ったこともないでしょう?彼女が両親はいないって言えば、そのまま信じるの?」「俺と結婚するために、彼女は故郷との縁を切ったんだ」その話になると、凪杜の胸にはさらに強い罪悪感が込み上げる。「彼女はずっと家族の温もりを欲しかった......だから、もしかしたら......子どもを産ませてあげるべきなのかもしれない」野々花の瞳が激しく揺れた。「......!!」顔を押さえたまま彼女は駆け出していった。だが今回は、凪杜は珍しく追いかけようとしなかった。――絃葉は一気に2階へ駆け上がり、後ろ手で部屋のドアに鍵を掛けた。その途端、口元を押さえながら笑いが込み上げる。そして待ちきれず、先ほどの「戦果」を悠へ送った。悠【どれだけ自信過剰なら、その木の根っこ2本をプレゼントだと信じられるの】絃葉【それだけ私の「一途な女」というイメージが、あの人の中で根付いてるってこと】悠【あいつが後悔する顔、楽しみになってきた】絃葉【もうすぐよ。あと6日】悠【記念品は全部捨てて、絵も持ち出したのに、あのクズ全然気付いてなかったの?】絃葉【うん。そもそもあの記念品を何度も見返していたのは私だけ。絵に関しては、『芸術的すぎてわからない』って言って、一枚も興味を持たなかった】悠【天才画家と結婚したのに、もったいないよ!!】......やり取りを続けていると、悠と
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