「そうなんです!」理紗の胸に、嫌な予感がよぎった。理紗は目を細めて尋ねた。「その人が指名したのは誰?」「特徴はこうです。いつもマスクをしていて、口をきかない。髪は肩くらいで、紫のヘアゴムで結んでいるって……それ、瀬戸さんのことですよね!」瀬戸夕凪。やっぱり、あの女だ。理紗の心臓が大きく跳ねた。理由は分からない。けれど、さっきから理紗は、指名されたのは夕凪ではないかと薄々勘づいていた。こめかみが激しく脈打ち、内側から押し広げられるように痛み出す。この瀬戸夕凪、特別きれいなわけでもない。いつも地味な格好で、灰をかぶったように薄汚くて目立たない。普段からほとんど口をきかず、そこにいるのかどうかさえ分からないような女だ。それなのに、二人もの男が彼女に興味を示している。一人は司、もう一人は峻!しかも二人とも、誰もが振り返るような男だ。金も地位も容姿もそろっていて、そう簡単に手が届く相手ではない。いったい何が起きているのか。あの女のどこにそんな魅力があるというのか。夕凪はもともと口数が少なく、存在感も薄い。そのせいで、店の従業員の中には本当に彼女を声の出せない障害者だと思い込んでいる者も少なくなかった。「理紗さん?理紗さん!」理紗は、はっと我に返った。「……お客様の希望が最優先よ。御堂社長が彼女を指名したなら、行かせればいいでしょう」理紗は胸の奥にこみ上げる妬みを、どうにか押し殺した。「でも……」従業員は困った顔をした。「瀬戸さんは清掃員です。接客はお店の業務に入っていません。さっき本人に話したんですが、断られました」理紗は鼻で笑った。目元に冷たい光が差す。「それなら伝えなさい。行かないなら、今日でクビだって」夕凪がこの仕事にしがみついていることを、理紗は見抜いていた。そうでなければ、あの若さで、もっと見栄えのする仕事を探しもせず、こんな場所で毎日こき使われているはずがない。清掃員の中には、夕凪より若くて見た目のいい者もいる。けれど、彼女たちがここに残る理由は、金のある客を捕まえて玉の輿に乗るためだ。夕凪だけは違う。毎日、ただ下を向いて働いている。誰もやりたがらない汚れ仕事もきつい仕事も、自分から抱え込む。まるで、少しでも手を抜けばすぐに追い出されると怯えているみたいだった。だから
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