LOGIN一方、花見台にて。 午後三時から弥一たちによって開かれた新商品の下着の展示会には、各界のセレブや有名人、それを取材に来た記者たちが大勢集まり、大変な賑わいをみせていた。 [Le Cygne ル・シーニュ]のスタッフたちは、来てくれた人々にウェルカムドリンクやフードを配りながら、自身たちが手掛けた作品である下着を手に、その魅力を説明していた。 その聞き手である令嬢や芸能界で活躍するモデルやタレントたちは、その美しいデザインに魅了された。 [Le Cygne ル・シーニュ]の下着の良さはデザインだけではない。 八重子がこの会社を立ち上げた時から、下着は一番最初に肌に触れるものであるからこそ、着心地の良さだったり、どうやったらバストを綺麗に見せつつ、ストレスフリーで着られるかといったことにも非常にこだわっていた。 そしてその信念は、孫である弥一も常に念頭に置いては、大事に守ってきたのであった。 そんな下着に実際に触れた女性たちは、しっかりとしていながら滑らかな肌触りに驚くと、皆が皆、 「これ、試着してみてもいいですか?」 と言い、スタッフが、 「もちろんです!では、お客様のサイズをお測りいたしますので、どうぞこちらへ。」 そう言って、バストのサイズを測り、彼女らにピッタリのサイズの下着を渡す。 渡された彼女らは、試着室にこぞって向かい、ウキウキとしながらその下着を着けたら最後、 「お買い上げいただきありがとうございます♪」 そういう流れなわけで、新商品の下着たちはたちまち飛ぶように売れていった。 「ねえねえ、愛蘭。ミコ様はまだ来てないのかな?」 そう友人に聞かれた愛蘭が声のほうへ振り返ると、 会場内をお目当ての人物はいないかとキョロキョロと見回す友人が目に入る。 「清々しいまでのミーハー魂ね。」 そう愛蘭が言うと、 「ミーハーとか言わないでくれる?私はれっきとしたミコラブなんだから!」と、友達。 ミコラブとは、その名の通り、御子柴をこよなく愛してる人々のことを指す。 愛羅は呆れたようにため息を吐くと、 「そんなにもミコラブだって言うのなら、推しのためにも下着の一つや二つでも買ってあげたら?」 言われた友達は、ぎくりとすると、 「そんな簡単に言わないでよ〜。この下着たち、ワ
まさかとは思いつつ、かすみは探るような口調で、 「へぇ〜、そうなんですね。ちなみに、そのかぼちゃのサラダというのは、デパ地下のデリのような甘い味つけの、ですか?」 そう小笠原に聞くと、彼は眉根を下げて、 「いや、違います。というのも、そのかぼちゃのサラダが好物だという方は、どうやら甘い味付けのものが苦手らしくて。」 言われたかすみは瞬時に、 "御子柴さんだ。絶対、御子柴さんだ" そう思うと、途端にそわそわとし始める。 小笠原から加島伝いに、今日のパーティーの主催者はどこぞのお金持ちだとは聞いていたが、彼らの態度を聞くに、そこから弥一を連想することはなかった。 まさか、こんなにすぐ会うかもしれないことになるとは。 どの面下げて彼と対面すればいいというのだろう。 いや、そもそもで自分如きが彼に会おうとしてること自体がおこがましい。彼に合わせる顔なんて元よりあるわけないじゃないか。 そう考えたかすみは、準備だけしてはちゃんとして、パーティーが始まる前にお暇しよう、そう心に決めると、 「小笠原さん。よければそのかぼちゃのサラダ、私に作らせてもらえませんか?」 あの日できなかったリベンジをここで果たそう、そう思って小笠原に提案する。 言われた小笠原は、パッと顔を輝かせると、 「ぜひぜひ!加島から、白石さんが料理上手だということを聞いた時から食べたいなって思ってたんです!それと、近々お店も出されると聞きましたけど、本当ですか?」 「プロのフレンチシェフの前でおこがましい話しだとは思うんですけど、カフェを開くことが、私の長年の夢だったんです。ある方との出会いでそれを叶えることができました。」 "その出会いのせいで迷惑をかけてしまった人もいたけれど" 「大丈夫ですか?」 かすみの表情が急に曇ったように見えた小笠原が、心配そうにそう尋ねると、かすみは「大丈夫です!すみません、ちょっと昔を思い出して。」と、返す。 「かぼちゃのサラダ、めちゃくちゃ美味しく作れるよう頑張りますので、出来上がった際は味見をお願いしますね?」 そう言って、かすみはかぼちゃを手に笑うと、さっそく調理に取り掛かるのだった。 "私が作ったとは気づかないだろうけど、だからこそ!御子柴さんが食べて美味しいって思ってもらえるように
「ニヤけている暇があったら、手を動かしてくださいね。そのチャウチャウ顔をいくら動かしたところで、やることは一つも減らないですよ?」 と、深見沢は、先輩相手とはいえ、いつも通りの容赦ないイジリをかます。 「誰がチャウチャウ顔だっ!」と、深見沢にツッコミながらも、小笠原の目は、深見沢の奥で自分をすごい目で見据えている加島へと注がれていた。 小笠原と加島、そして今日この場にはいないが、円城寺(愛蘭)とは料理の専門学校で出会ったことがきっかけで仲良くなった。 加島は当時からえげつないほどモテていたのだが、なぜか彼女らしき人の気配がなかった。 加島目当ての女の子たちから頼まれ(限りなく脅しに近かったが)、特定の相手がいないのかと尋ねたところ、 「いるよ。中学からずっと片想いの子が。」 「片想い⁉︎お前が?嘘つけ!何をビビってるのか知らないが、お前が気持ちを伝えたら速攻でカップル成立じゃないか!」 小笠原はそう言って、"そうだろう?"と同意を求めるよう、傍らにいた愛蘭に目を向けたのだが、愛蘭は彼のその問いに、"さあ?"とでも言うように肩をすくめて見せただけだった。 そんな二人に加島は苦笑すると、 「この顔で釣れるような相手なら苦労しないんだけどね。彼女とはもうかれこれ八年の付き合いになるけど、そもそもで俺が自分に好意を持っているなんて微塵も思ってないし、なんなら愛蘭のことを好きだって勘違いされてるくらいだから。な?」 と、加島も愛蘭に同意を求めたが、愛蘭は今度は苦虫を噛み潰したような顔をしたので、 「いや、冗談でもお前のことなんて好きになんてならないからな?わかったならその顔やめろ。」 愛蘭はツンとしてそっぽを向くと、 「冗談でもそんな風に思ったなら最後、その鼻へし折ってやるから。」 「来世でも思わないから安心しろっ!そしてすぐその暴力に訴えようとするクセもやめなさい!」 そう言っていつも通りの掛け合いを見せつけてくる彼らを横目に、小笠原は加島ほどのイケメンを以ってしても落とせない女の子もいるんだなあ、とそう思ったものだったがー まさかそれが目の前にいる彼女のことだったとは。 未だかつて見たことのない加島の牽制顔に、小笠原は"滅相もありません"というように、顔を振って見せると、加島は"本当か?"というよう
それぞれにとって勝負となる日となるであろう、土曜日がやって来た。 かすみは加島と共に、パーティー会場であるフレンチレストランで料理に使う肉や魚や野菜など、具材の下準備をしていた。 作る品数は全部で十八品。 パーティー開始時刻である午後六時までにそれらの料理五十人分を、かすみと加島、それからこの店のオーナー兼シェフである小笠原と他二名のスタッフ、計五人で仕上げなければならないとあって、厨房はなかなかの慌ただしさだった。 「小笠原さん、新玉ねぎの皮は剥いて、ピーマンとにんじんと一緒に千切りにしておきました。次はどうしましょう?」 かすみに声を掛けられた小笠原は驚いたように振り返ると、 「もう終わったんですか?」 かすみはふわりと笑うと、 「まこちゃんと一緒でしたから。」 と、何でもないことのように答える。 小笠原はそのかすみの笑顔に釣られて自分もへにゃりと笑うと、 「加島には感謝しないとだな。こんなにも協力な助っ人を連れてきてくれたんだから。」 今回急に入れられたこのパーティーの予約は、相手が名の知れたお金持ちとあって断ることが許されなかった。 小笠原のそのフレンチの店は、スペースはあるものの、クオリティの観点から完全予約制とし、さらに一日の客の上限を三十人としていた。 そんなわけで、いつもより人数も多ければ、ビュッフェスタイルとあって、作る品数も量も多いわけで。 さらには、それだけで大変だっていうのに、今回の客は世間が抱く嫌なお金持ちのイメージの代表格みたいな奴らで、パーティーで出す料理のことや、店内の飾り付けなどに関して何かと面倒な要望を付け足してきては、小笠原を始め、スタッフたちを掻き乱してくるのであった。 そんな中、ついにスタッフの一人である女の子の狩野が、 「オーナー、いくらなんでも情けなさ過ぎますよ!金持ちとはいえ、あんなイキっただけのガキ共相手にいい大人がへりくだっちゃって。情けなさすぎて見てらんなかったです。」 と、盛大な愚痴を漏らす。 小笠原はその自覚があったからこそ、自分よりも五歳も若い女の子にそう指摘されたことが恥ずかしくて、 「なっ、誰がへり下ってて情けないだよ!」 と、動揺したように言い返してしまう。 それを見ていたもう一人のスタッフである深見沢(ふかみざ
「おい、なんだよ弥一。もしかして怒ってるのか?」 電話先で冬馬は茶化すようにそう言った。 弥一は細めた目はそのままに、口元だけで笑ってみせると、 「まさか。それとも、何か俺に怒られるようなことをしたとでも言うのか?ん?」 電話越しにも弥一の冷え切った空気が伝わってくるようだった。 だが、冬馬はそんな弥一に怯むどころか、ニヤリと笑うと、 "どうやらとうとうバレたみたいだな" そう思うと、満足気に舌なめずりした。 彼は今にも高揚感丸出しの声色になりそうになるのを必死に抑えると、 「お前のことを誰よりもわかってるのはこの俺だ。そんな俺がお前を怒らせるようなことをわざわざすると思うか?」 実際には大いにしてやったわけだが、冬馬は一切悪びれる様子もなくそう言った。 弥一はふっと笑ってみせると、 「そういえば何日か前に雪菜から電話が掛かってきていたが、出なかったんだ。もしかしてこの電話はそれと何か関係しているのか?」 普段仲の良い人には決して話さないような喋り方で弥一はそう問いかける。 冬馬はその話し方には反応せず、代わりに弥一が先程言った〈電話は掛かってきいたが、出なかった〉という部分に、反応すると、 「出られなかったんじゃなくて、出なかったのか?」と、敢えて聞いた。 そしてその問いに、弥一が「ああ。」と言って答えると、冬馬はいよいよ感情を抑え切れなくなったようで、携帯電話のスピーカー部分を手でを抑えると、「くっ、ふ、っふ。」と笑いながら、ソファの上で手足をバタバタとさせた。 あの弥一が俺に嫉妬している! そう感じた冬馬は、優越感からくるゾクゾクとした感覚に全身で酔いしれた。 長年、夢見てきた感覚を実際に体験できたことに、彼は笑いが止まらなくなる。 そんな冬馬を訝しんだ弥一が、「で、一体何の要件だ?」と言ったことで、さすがの冬馬も笑いを必死に抑えると、 「ああ、悪い悪い。少しネット環境が良くないみたいで、聞き取り辛かったんだ。」そう言い訳をしてから、 「弥一、長らくお待ちかねだったお前の想い人がついに帰ってきたぞ!で、今週の土曜日、金白で人気なフレンチの店で、雪菜の歓迎パーティーをやるんだ。雪菜はお前を真っ先にそのことを伝えようとしたのに、お前が電話に出ないから、あいつ相当気にしてたん
そう言われた弥一は、直後にはきょとんとした顔をしていたものの、言葉の意味を理解したのか、瞬間、その顔を赤らめると、 「バカかっ!ありえない!」 そう叫ぶ弥一に、三雲は、 「いーや、バカはお前だ!」 「なっ。口が悪いぞっ、三雲!」 お互いさまだ、と三雲は心の中で返すと、 「じゃあ、何でここまでしてかすみさんを探したいんだよっ!好きだからだろっ!」 「違うっ!!」 と、弥一は瞬時に否定し、その後も自分に言い聞かせるように、「違う、違う、そんなんじゃ…そんなんじゃない。」と、ぶつぶつ呟く。 "またこのパターンか"そう思った三雲は、さすがにうんざりした様子で、 「じゃあ、何でだよ?」 そう尋ねる三雲に、弥一はキョロキョロと視線を彷徨わせた後に、どうやら体のいい答えを思いついたようで、 「彼女に料理を作らせるためだ!」 三雲はもう呆れてものが言えなかった。なので、顔の表情だけで、気持ちを伝えた。 こんな風に。 (・Д・) そんな三雲の表情に、弥一は狼狽えると、 「な、何だよその顔。こっちはちゃんと答えたんだ、何とか言えよ!」 三雲は疲れたように頭を振ると、 「料理なら早苗さんが作ってくれるんじゃないのか?もしかしてお前の口に合わないのか?」 「いや、そんなことはない。小さい時から食べている慣れ親しんだ味なんだ。」 「なら、早苗さんが作ってくれる料理で十分じゃないか。お前はただ、料理を作る人が欲しいってだけなんだろ?」 「違う!」 「何が違うんだ?」 「そうじゃなくて、彼女に作らせたいんだよ!わかるだろ?」 もちろん、三雲には分かった。むしろ、 "そうまで言っててなぜわからない?" と、それが不思議でならなかった。 「それに、彼女にはわからせてやらなきゃどうにも気が済まないんだよ!」 「はい?」 「彼女は俺をあっさり捨てていった!この俺を、だ!彼女は俺が何者なのかをちっともわかってない!逃した人物の大きさも、どれだけそれが勿体ないかってことも!」 逃した人物の大きさを痛いほどわかっているのは、むしろ自分のほうじゃないか。いや、痛感してるからこそムキになってるのか? そんなことを頭で思いながら、三雲が 「それをわからせてやりたい、と?」 と、聞くと