マンションの車寄せでタクシーを拾い、行き先を告げる。けれど、走り出して十数分も経たないうちに、車は赤いテールランプの列に完全に飲み込まれてしまった。本降りになった雨がフロントガラスを激しく打ち付け、ワイパーがせわしなく視界を拭い去っていく。「ひどい渋滞ですねぇ」「あの……あとどれくらいで着きそうでしょうか」じわりと滲む焦燥感を抑えきれず、私は運転席の背もたれ越しに声をかけた。「この先を抜けられれば、あと20分というところですが……」「20分……」心の中で素早く時間を計算する。20分で着くのなら、まだ開演の10分前には滑り込めるはずだ。「分かりました。お願いします」祈るような気持ちで、膝の上の小さなバッグをきつく握りしめた。無情にも時計の針だけが冷酷に進んでいく。車は数メートル進んでは止まることを繰り返し、エンジン音と雨音だけが車内に響き続けていた。やがて運転手が告げた20分が経過した。パーティー開始まで、あと10分。それなのに、雨に霞む窓の向こうに、会場であるホテルの影すら見えない。これ以上、ここでただ待っているわけにはいかない。「運転手さん、ここで降ろしてください」「えっ? ここでですか?」バックミラー越しに、運転手が驚いたように目を丸くした。「お客さん、こんな土砂降りですよ!? 会場まではまだ歩くには距離がありますし、そんなお召し物で……」「構いません。このままだと、間に合わないので」私の声は、自分でも驚くほど落ち着いていて、きっぱりとしていた。急いで財布からお札を取り出してトレイに置き、戸棚から持ち出したあの上等な傘を固く握りしめた。「お釣りは結構です。ありがとうございました」運転手が戸惑う声を背中に受けながら、私は躊躇うことなくドアを開ける。容赦のない冷たい雨風が吹き込み
Terakhir Diperbarui : 2026-05-28 Baca selengkapnya