あの大雨の夜、車の中で「話の続きは家に帰ってからだ」と言われたはずだった。それなのに、到着するなり智哉さんは足早に自室へと入り、そのまま鍵を下ろしてしまった。あの強引な保留から今日で五日が過ぎた。話し合いの場が設けられるどころか、私たちは同じ屋根の下に住んでいながら一度も顔を合わせていない。私が「何時に帰りますか?」とメッセージを送っても、返ってくるのは決まって「飯はいらない。先に寝ていろ」という冷たい定型文だけだ。「避けられてる…?」そう考えるのが自然な状況。だけど、私はハッとして首を振る。いけない、また一人で勝手に勘違いをして、彼の気持ちを決めつけようとしている。前回の紫苑さんの件で学んだはずだ。だから今日こそは、逃げずにちゃんと顔を見て話し合うんだ。…なんて思っていたけど、時計の針はとっくに深夜の二時を回っていた。重たいまぶたを必死に擦りながら、徹夜をしてでも彼を捕まえると心に決めていたその時。静まり返った屋敷の玄関で、重厚な扉の鍵がガチャリと開く音が響いた。私はソファから立ち上がり、急いでリビングの扉を開けて廊下へと飛び出した。「おかえりなさい」深夜に出迎えられるとは思っていなかったのか、革靴を脱ごうとしていた智哉さんの広い背中がビクッと大きく揺れる。私と目が合った瞬間、彼の表情からスッと感情が抜け落ち、まるで見てはいけないものを見てしまったかのように気まずそうに視線を逸らした。重い沈黙が降りた後、彼は気怠げにネクタイに手をかけながら、低く掠れた声でぽつりと呟いた。「……まだ起きていたのか」この五日間、彼からの連絡を待ちわびて、どれだけ不安な夜を一人で過ごしてきたか。あの夜、私が言いかけた「契約破棄」の言葉を有耶無耶にしようと、意図的に時間を稼いでいるようにしか思えない彼の不誠実な態度に、私の中で燻っていた悲しみが徐々に静かな怒りへと変わっていくのを感じた。「まるで、寝ていて欲しかったような言い方ですね」
Terakhir Diperbarui : 2026-06-07 Baca selengkapnya