Lahat ng Kabanata ng 愛人の死に耐えられなかった夫、お前が死ねばよかったのにと言い残し自死ー妻は回帰したー: Kabanata 81 - Kabanata 90

101 Kabanata

第81話

今、由利たちが訪れていたのはハワイ最大級のショッピングセンターだ。百を超えるショップやレストランが集まり、世界的に有名なブランドたちが立ち並んでいる。流石は有名な観光地というべきか、様々な国からの観光客で賑わっている。日本では見慣れないアパレルの店舗に、紫苑は釘付けになっていた。「姉さん、義兄さんはどこにいるの?」「碧斗はちょっと疲れているようだから、休んでるって。私と二人じゃ不安かしら?」「ううん、そういうわけではないの」紫苑はニコッと笑みを浮かべながら首を横に振った。彼女が何を考えているのか、最近は特に読みづらくなっている。(昔から誰よりも紫苑の傍にいてきたはずなのに……どうしてこんなにも居心地が悪いのかしら)由利はできるだけ離れないように、紫苑の隣を歩いていた。彼女たちが今いるショッピングモールはかなり大型であるため、何時間いても飽きないだろう。「姉さん、あとで父さんと母さんへのお土産を買いましょうよ」「そうね……私も個人的にあげたい人がいるし」そのときに由利の脳裏をよぎったのは、親しくしている職場の同僚たちと――涼介の笑顔だった。彼女と目を合わせて優しく微笑みかける彼の顔が、しばらく頭から離れなかった。(……こんなときにまで兄さんのことを考えてしまうだなんて)そういえば、昨日送ったメールは読んでくれたかな。後できちんと確認して返事をしないと。彼のことを考えると、由利の口元に自然と笑みが浮かんだ。そんな姉の顔を、紫苑が覗き込んだ。「――姉さん、何か良いことでもあったの?」訝しそうに自身を見つめる紫苑に、由利は慌てて我に返った。「良いことがあっただなんて、どうしてそんな……?」「ただ何となく嬉しそうに見えたから……まるで――好きな人のことでも想像しているみたい」「……」前から思っていたが、紫苑はやけに鋭いときがある。涼介から貰ったプレゼントのことも疑っていたようだし、最近は特に些細な由利の変化にも気付くようになった。紫苑は鋭い目で由利を問い質した。「ねぇ、姉さん……それってきっと、碧斗義兄さんのことじゃないわよね?」「な、何を言っているの……碧斗のことに決まってるでしょう……」本当はすでに碧斗に気持ちなんて無かったが、他の誰かを愛していると答えるよりかはマシだろう。彼のことはいずれ紫苑に譲ろうと思っているが、今はま
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第82話

由利は呆然としながら、目の前にいる紫苑をじっと見つめていた。彼女は一切表情を崩すことなく、ただ何の感情も宿さない瞳で由利を見つめ返している。紫苑が放った何気ない一言に、由利は動揺していた。今回は勘が鋭いどころの話ではない。―――今、また死んでしまうって言ったの?由利が時を巻き戻ってきていることは、彼女しか知らないことだ。それなのに、どうして紫苑が。「紫苑……一体あなたは何を言っているの?人が二回も死ねるわけないでしょう?」「誤魔化す必要は無いわ、姉さん。私知ってるのよ、姉さんがすでに何度も回帰していて、そのたびに惨めな思いをしていることをね」紫苑は確信しているかのように、そう言い放った。由利はもはや、言い訳することができなかった。「どうしてそれを……」何故、彼女がそのことを知っているのか。もしかすると、紫苑もまた死ぬたびに時を巻き戻ってきているのだろうか。しかし、紫苑はそんな由利の疑問に気付いていながらもそのことについては触れなかった。「安心して、姉さん。このことを誰かに言う気なんて無いから。もちろん碧斗義兄さんにもね」「紫苑……」紫苑は由利に向かってニコッと微笑んだ。いつも通りの穏やかで愛らしい笑みではあるものの、由利は全く笑えなかった。「ただ、私は姉さんが心配なのよ。碧斗義兄さんと結婚していながら別の男性を慕っているなんて、そんなことがあったら大変でしょう?」「………誰のせいでそうなったと」由利はそこまで言いかけて口を噤んだ。紫苑はそんな彼女の心情に気付いたのだろう、呆れたように口を開いた。「姉さん、義兄さんに捨てられたのを私のせいにしているようね」「……そういうわけじゃ」ない――とは言い切れなかった。前世で碧斗が由利を蔑ろにし、紫苑と関係を持っていたのはたしかだったからだ。(いくら好意を寄せられたとしてもね、既婚者だと知りながら受け入れた時点であなたにも罪があるのよ……)浮気したパートナーよりも、相手の方に怒りが向くというのはどうやら本当だったらしい。由利は今になってそのことを知った。「……紫苑、あなたは一体どこまで知っているの?前の世界の記憶があるの?」「姉さん、私から言えることは何も無いわ」紫苑は何故か、その質問には答えなかった。自分から記憶があることを暴露したようなものなのに、何故核心に迫るようなことには触
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第83話

由利は前を歩く紫苑の後ろ姿から、目が離せずにいた。今日の彼女は長い髪の毛をゆるくアイロンで巻いてハーフアップにしている。その髪が吹き抜ける風でユラユラと揺れるたびに、由利は複雑な気持ちになった。旅行先で妹から重大な秘密を打ち明けられるとは、一体誰が想像できただろうか。それに、紫苑は由利が何も言わずとも彼女が回帰していることに気付いているようだった。(紫苑に前世の記憶があるのだとしたら……厄介だわ)もし、彼女が今世で何か仕掛けてきたとしたら――長く時間を共にしたからこそわかる。紫苑は絶対に由利に平穏な暮らしなどさせるつもりは無いのだということを。彼女に対する警戒を強めていたそのとき、紫苑が振り返った。丸い大きな瞳が自身を捉えると、由利はドキッとした。「――ねぇ、姉さん。このお菓子父さんと母さんに買っていきましょうよ」何の違和感も無い、いつものように愛らしい笑顔だった。しかし、どこかゾッとするのは気のせいだろうか。わからない、紫苑はこんなにも感情の掴めない子だったのか。「……そ、そうね」由利は頷き、紫苑が手に持っていたお土産用のお菓子をショッピングバスケットに入れた。紫苑が選んだのはマカデミアナッツ入りのオシャレなクッキーだった。(……父さんと母さんへのお土産は紫苑に任せよう)たとえお土産だったとしても、由利はとてもあの二人に対して何かを贈れる気にはなれなかった。「せっかくハワイに来たんだから、もう一つくらい買ってく?」「……父さんと母さんはあまり甘い物を食べないでしょう?一つで十分よ」「それもそうね」それから紫苑は気に入ったものをいくつかバスケットに入れて行った。チョコレートブラウニーやコーヒー好きな父親のためのコーヒー豆など、カゴはあっという間にいっぱいになる。一方で、由利は職場の人たちへのお土産用に大き目のお菓子の詰め合わせを一つ選んだ。そして、そのあとは――(……涼介兄さんには、何を贈ろうかしら)ネックレスのお礼も兼ねて、涼介にはきちんとしたものを渡したかった。「……あら、このTシャツ兄さんにとっても似合いそうだわ」由利は近くにあった白いTシャツを手に取って呟いた。白を基調としたクルーネックTシャツには、左側にハワイの文字とロゴが入っている。涼介に似合いそうと由利は目を引かれ、購入を決意した。バスケットにTシャツを入
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第84話

由利は紫苑の発言の意味がわからず、ただ彼女をじっと見つめていた。(……どういうこと?私が碧斗を愛していないのがそんなに悲しいの?)由利はその言葉を理解できずにいた。前世では紛れもなく、碧斗と紫苑の二人は愛し合っていた。由利の入る隙なんて無いくらい、お互いがお互いだけを見つめていた。それなのに、何故由利が碧斗への気持ちが無くなったことに対してショックを受けているのか。彼女が碧斗を愛しているのならば、むしろ喜ぶべきだろう。由利という邪魔者がいなくなったおかげで、二人の恋に障害は無くなった。両親も彼らの仲に反対などしないのだから、紫苑にとってこれ以上都合の良いことは無い。由利が身を引くことにより、紫苑にメリットはあってもデメリットは一切無かった。彼女は確信しているようだったし、由利はわざわざ嘘をつく理由も無いと思い、彼女の疑念を素直に認めた。「……そうね、私はもう碧斗をあまり愛していないわ」「姉さん……やっぱりそうだったのね。どうして?姉さんはずっと碧斗義兄さんのことが好きだったでしょう?」好きだったでしょう?――と言われた由利は、思わず拳を握りしめた。――あなたは、私が碧斗を愛していることに気付いていて彼と不倫をしていたのか。愛する碧斗と可愛がっていた実の妹からの裏切りで、彼女がどれだけ心を抉られたか。紫苑はきっと何もわかっていないのだろう。彼女は元々人の気持ちを慮って行動することのできない子だった。だからといって、不倫をしても仕方が無いとは言えなかった。「……人の気持ちに永遠なんてものは存在しないのよ、紫苑」「……姉さん」そう、この世に永遠なんてものは存在しない。結婚式の日、由利は碧斗と永遠の愛を誓った。しかし、二人の間にはそんなもの最初から存在せず、由利が立てた永遠の誓いは裏切りとなって返ってきた。――彼女はもう、永遠を信じてはいなかった。絶対に変わるはずがないと信じていた自分の気持ちも、結局は移り変わって跡形もなく消えてしまったのだから。「あなたの言う通り、昔は碧斗のことを心から愛していたわ。でもね、それはすべて過去の話なのよ。今はもうあの人のことを愛してない」「義兄さんの何がそこまで気に入らないというの?」「気に入らないところがあるわけではないわ……ただ、私の気持ちの問題なのよ」由利は紫苑を安心させるように、これは全て
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第85話

来た道を戻ると、だいぶ顔色がマシになった碧斗の姿が視界に入った。「――碧斗義兄さん!」紫苑はそんな彼に、真っ先に駆け寄った。買ったお土産の袋を全て由利に持たせ、自分は堂々と碧斗の手を取った。(さっき私があんなことを言ったから……遠慮しなくていいって思ったのかもしれないわね)傍から見れば、二人はとてもお似合いだった。地味な由利より、華やかな紫苑の方が碧斗の隣には相応しい。紫苑と碧斗が横に並ぶのを見るたびに、最初からあの子の居場所は彼の隣だったのだと感じられた。由利は両手に荷物を抱えながら、二人をじっと見つめていた。この頃には、彼女は最初から碧斗と紫苑の二人だけで来ればよかったのではないかとまで思い始めていた。――そんな彼女を現実に引き戻したのは、紫苑と話していたはずの碧斗だった。彼は紫苑の腕を引きはがし、由利の元へやって来た。「重いだろう?俺が持つ」彼はそう言いながら、由利が手に持っていた紙袋を奪い去った。いつも紫苑のことしか見てこなかった彼が、このような気遣いをするのは珍しかった。「いえ……平気よ、気にしないで」由利は取り返そうとしたが、碧斗はそんな彼女の手をさっと避けた。「碧斗、体調が良くないんでしょう?」「もう平気だ、妻に重いものを持たせるだなんて夫として失格だからな」だから今日くらいは俺に持たせてよ――と碧斗は口元に笑みを浮かべて由利を見下ろした。そのように言われてしまえば、彼女は受け入れるほかなかった。「………ありがとう、碧斗。助かるわ」そんな二人の仲睦まじい様子を、紫苑は眉間にシワを寄せながら見ていた。愛する碧斗を取られたとでも思っているのだろうか。しかし、そんなことは絶対にありえない。いつの人生も、結局最後は碧斗は彼女のものになるのだから。いや、思えば最初から由利のものだったことなんて一度もなかった。「そろそろ行こうか、二人とも」「そうね、行きましょう」「……」返事をした由利とは対照的に、紫苑は何が気に入らないのか黙り込んだままだった。しかし、碧斗が彼女に微笑みかけると機嫌を直したようで、彼に満面の笑みを返した。その笑顔はあまりにも愛らしく、万人を一瞬で虜にしてしまうだろう。(……やっぱり、紫苑は碧斗のことが好きなのよ)この旅行で二人の仲が深まったらいいな――とそう思いながら、由利は二人について行った。
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第86話

~??視点~それは、今からおよそ二十四年前のこと。一人の可愛らしい少女が、大豪邸に住む裕福な夫妻の下に誕生した。少女は生まれつき体が弱かったが、両親は彼女をそれはそれは大切に育てた。彼女には二つ年上の姉がいたが、父も母も彼女には目もくれなかった。二人はいつも体の弱い彼女につきっきりで、姉の方まで気にかけている余裕は無かったからだ。「さぁ、こっちにおいで。私の可愛いプリンセス」母親が、まだ幼い彼女に向かって両手を広げた。少女は妙な違和感を感じたが、その胸に飛び込んだ。「あぁ、何て可愛いのかしら……私の小さなお姫様……」母は彼女を抱きしめながら、そう呟いた。可愛い、愛していると言いながらも、彼女の顔を一切見ない。いつものことだったため、特に気にもならない。母親は彼女をしばらく抱きしめたあと、突然体を離し、視線を合わせた。そして、まるで呪いのように囁いた。「――あなたはこの家の次の社長になるのよ」その瞳には、愛情など微塵も込められていなかった。何が何でも絶対になれ――と言われているも同然で、少女には最初から拒否権など与えられていないようだった。「社長……?」何故、そんなものにならなければならないのか。彼女は社長の座になど興味は無かった。「いいわね?社長になりなさい――絶対に、由利にその座を渡すようなことがあってはならないわ」「……」由利、とは彼女の二歳上の姉だ。わだかまりが無いわけではなかったが、二人はそれなりに仲の良い姉妹だった。母親が、彼女を異様なほどに敵対視していることは知っていた。何故、血の繋がった娘を毛嫌いしているのか。彼女はどうしてもそのことが理解できなかった。彼女は、目の前の母親の瞳をじっと見つめた。愛おしくてたまらないという純粋な愛情ではない、歪んだ執着だった。彼女は昔から、人の心を読むのが得意だった。そのため、両親が自分に抱いている感情を瞬時に見抜いていたのだ。父はいつも彼女を可愛らしいお気に入りの人形のように扱い、母は歪な執着を向けていた。それはとても、愛情と呼べるようなものではない。周囲にいる大人たちは愛されているのだと言うが、本人だけが複雑な家庭環境に気付いていた。そして、歪んでいたのは両親だけではなかった。「お嬢様は天才です!この歳でそんなにも難しい問題を解いてしまうだなんて!」「紫苑ちゃんはい
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第87話

紫苑にとって光と呼べる存在――それは二つ年上の姉である由利だった。由利は母親似の紫苑と違って、父親に似ている。そのため、ぱっと見では姉妹だと気付かれないことの方が多かった。由利と紫苑は姉妹でありながら、どこまでも正反対だった。華やかな容姿をしている紫苑と、地味でパッとしない由利。明るく人当たりの良い紫苑と、暗く陰鬱な由利。例えるなら、二人は光と影のような存在だった。当然、紫苑が光で由利が影。まるで似ていない夏目家の姉妹は、学校でも近所でも常に注目を浴びていた。両親を含むほとんどの人間は紫苑を褒め称え、由利を批判した。あの子にもあなたくらいの愛らしさがあればいいのにと、何度言われたかわからない。そのたびに由利の表情が暗く変化していることに、大人たちは気付いていなかった。元々感情が無い子だから、何を言ったところで傷付かないと彼らは本気で思っているらしい。その言葉を聞いた紫苑は、嘲笑うように口角を上げた。(……馬鹿馬鹿しい、何を言っているのよ。そんなわけないでしょう?)姉を侮辱するような発言を耳にするたびに、紫苑は不快感を抑えきれずにいた。あなたたちに彼女の何がわかるのか――と言いたくなるのを毎回寸でのところで呑み込んでいた。そう、紫苑は由利を嫌っているというわけではなかった。―――むしろ、執着とも呼べる歪な愛情を抱いていた。そのような感情を抱くようになったのは、いつからだっただろうか。誰もが彼女を褒め称える狂った世界の中で、由利だけが唯一彼女を一人の人間として見ていた。褒めるだけではなく、時には姉として𠮟りつけたりもした。「紫苑、そんなことしたらダメでしょう!お友達が悲しむわ」「……姉さん、本気で言ってるの?」両親にも叱られたことなんて一度も無かったのに。紫苑は呆気に取られた。「当然でしょう!私はあなたのためを思って言っているのよ!」「……私のために?」紫苑は呆然と、眉間にシワを寄せる由利を見つめていた。――少なくとも、彼女にそんなことを言ったのは由利が初めてだった。その日から、紫苑は由利に執着するようになった。紫苑は周囲にはあまり気付かれていないことだが、かなり異常な人格の持ち主だった。紫苑は何かと我儘を言っては由利を自分の元に引き留めた。他の人間のところになど行ってほしくなかったのだ。――そう、彼女は私だけのもの。ち
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第88話

紫苑はこの世界にいる誰よりも由利のことを愛していた。彼女だけが希望の光で、彼女がいない人生は考えられなかった。毎日のように彼女だけを思い、彼女の気を引くための努力は欠かさなかった。紫苑の由利を思う気持ちは嘘偽りのないものだったが、そのカタチはハッキリ言ってかなり歪んでいた。そんなある日、由利と二人だけの世界に、ある男が現れた。「初めまして……薄井碧斗です」頬を染めながら照れ臭そうに挨拶をする由利や紫苑と同年代の少年。父親の知り合いの子であり、二人のために連れて来た遊び相手なのだという。紫苑はハッキリ言って、碧斗のことを煩わしいと初対面ながらに感じた。姉さんの傍にいるのは私だけでいいのに。それに、姉さんのあの男を見る目。嫌な予感がしてならない。紫苑の予感は、運悪く的中してしまう。「紫苑……私、あの人のことが好きみたいなの」これまで見たことが無いくらい幸せそうな笑顔でそう口にした由利。常に行動を共にしてきた紫苑ですら、そのような顔を向けられたことは一度も無かった。紫苑はショックだった。愛する姉が、別の人間を想っているというその状況が。誰からも愛されてきた紫苑が、唯一愛を返してもらえなかった。こんなのは初めてだったせいか、紫苑はどうすればいいのかわからなかった。ただ、悔しくてたまらなかった。――私はこんなにも姉さんを愛しているというのに、どうして姉さんはその男を想っているの?***その後、碧斗が由利の許嫁であり、将来は結婚する仲であることを紫苑は父親から聞いた。そのとき、彼女の胸を支配したのは巨大な嫉妬心。(姉さんには結婚なんてせず、ずっと私の傍にいてほしかったのに……!)このような事態になったのは、全て父親のせいだった。何でも父は母と違って、紫苑ではなく由利を後継者にしようと考えているらしい。二人の体の状況や勉学の出来を思えば、当然のことだろう。将来会社を継ぐことになる由利のために、優秀な婿を用意したのだという。(父さんったら、ずいぶんと余計なことをしてくれるのね……)父親に対する憎しみが日に日に募っていく。当人も叱ったことすら一度も無い娘に、そのような理由で憎まれているとは思いもしないだろう。しかし、紫苑にとっては由利以外の人間の安否などハッキリ言ってどうだってよかったのだ。彼女からしたら、由利以外の人間は全て似たようなもの
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第89話

紫苑が由利に抱く感情は、あまりにも複雑で歪んでいた。愛のカタチは人それぞれだというものの、彼女のような歪な愛情を持っている人間はそう多くはないだろう。人は生まれ育った家庭環境によって人格が形成されるというが、案外そうでもないのかもしれない。両親から愛された紫苑が歪み、愛されなかった由利が真っ当な人間に育ったのだから。そのことを考えると、紫苑は生まれながらの異常者ともいえた。(何だか、ずいぶんと昔のことを思い出していたみたいね……)紫苑はバスの中から、碧斗と由利の姿を眺めていた。嬉しそうな顔で彼女に話しかける碧斗と、表情を変えることなくそれを聞いているだけの由利。本当なら紫苑が碧斗の隣に座るはずだったが、彼自身が由利の横に座りたいと言ったため、紫苑は特別に譲ってあげることにしたのだ。――だけど、あんな光景を見せられるくらいなら譲らない方がよかったかな。紫苑は碧斗に席を譲ったことを、早々に後悔した。何とか由利の気を引こうと、躍起になっているのが紫苑にも伝わってくる。不快だった、彼女にアプローチをする男を目に入れるのは。しかし、相手にされていないところが何とも笑える。由利の一線を引いた態度だけが、紫苑にとって唯一の安心材料だった。二人の間に流れているのは、とても夫婦とは思えないような微妙な空気だった。由利が碧斗を見つめるその目は、これ以上ないくらい冷めきっていた。その光景は気持ちの冷めた妻を、夫が何とか繋ぎ止めようとしている風にしか見えない。(姉さんはやっぱり……もう義兄さんのことを愛していないのね)てっきり由利は碧斗をずっと愛し続けると思っていたのに。由利がほかの誰かを愛しているのは気に入らなかったが、相手が碧斗ならまだよかった。碧斗は夏目家に婿入りしたため、彼が生きている限り由利は紫苑から離れることはできない。しかし、もし二人が離婚ということにでもなれば、由利は本当に家を出て行ってしまうかもしれない。愛してもいない夫や、自身を虐待していた両親を見限ることなど一抹の迷いすら生じないだろう。しかし、それでは困る。――由利はずっと、紫苑の傍にいてもらわなければならなかった。(姉さんが新しく愛した男は一体誰なのかしら?何が何でも突き止めないといけないわね……)紫苑は碧斗と話す由利の後ろ姿を見つめながら、ニヤリと口角を上げた。由利は紫苑がこ
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第90話

昼食を済ませ、一通り観光を終えた由利たちは、再びホテルへと戻った。持って帰ってきた紙袋には、両親や涼介へのお土産が入っている。「姉さんは、父さんと母さんにお土産を買わなかったのね」「……ええ、買っていないわ」由利が家で置かれた立場を考えれば、両親にお土産など買うはずがない。そのことを紫苑もよくわかっているはずなのに、何故わざわざ聞いてくるのか。そんな彼女の疑問を読んだかのように、紫苑は挑発的に口角を上げた。「――父さんと母さんには買わなかったくせに、赤の他人の分はちゃんとしたものを選んだのね」「………紫苑」そう言いながら彼女が視線を向けたのは、由利が涼介のために購入したTシャツだった。渡す相手が涼介だということは知らないだろうが、勘の良い紫苑は何かに気付いているようだ。まるで由利の心の内を探るような目だった。そんな風に見つめられると、彼女は内面まで透かされているような気がしてならない。二人の間に流れる不穏な空気を感じ取ったのか、碧斗が間に入った。何を話しているんだと、由利に近付いた碧斗は、彼女の手に持つ涼介へのプレゼントに気付いたようだった。「男物のシャツ……?」「……碧斗、違うのよ」由利は彼の嫌疑を晴らそうと、慌てて否定した。しかし、弁明するより先に紫苑がふざけた様子で口を開いた。「――やだ姉さんったら、不倫相手へのプレゼントでも買ったのかしら?」「な……紫苑……!」その言葉が碧斗の癇に触れてしまうだけであることなど、誰にでもわかることだった。それでもそんな風に煽るということは、そのような状況になることを望んでいるのだろうか。「不倫相手だと……?」碧斗の眉がピクリと動いた。彼は自分は堂々と不倫をしているわりには、由利が少しでも男の影があると不機嫌になるような人間だった。「碧斗……違うのよ、ただの友人よ。だからそんなに怒らないで」「…………そうか」由利は彼の肩に手を置き、そっと撫でた。その行動により、険しかった碧斗の顔が僅かに柔らかくなった。「ね?碧斗にも女友達の一人や二人いるでしょう?」「……そうだな、妻をいちいち疑ったりはしないよ」由利は何とか碧斗を宥めることに成功し、そんな二人が気に入らなかったのか、紫苑は拗ねたように頬を膨らませた。(一体何がそんなに不快だというの?)由利は解せないと言う顔で、妹を横目で見つ
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