僕だってチートがあれば苦労なんてしていない のすべてのチャプター: チャプター 101 - チャプター 110

116 チャプター

それは前世で散々やってきたことだから-後篇-

 僕の家は一階は土足OKにしている。  ここら辺はこの世界の風習に合わせている。  二階へ上がる階段脇に靴箱があって、階段から上は土足厳禁だ。  ちなみにまだ残している小屋も風除室で靴を脱ぐことになってる。  四人は最初日本建築風味のこの家を興味深そうに物色していたけれど、料理が出てからは食べることと会話に集中し始めた。  ここら辺は接待慣れした中年サラリーマンの経験が役に立つってもんだ。  彼らとの会話で判ったことは、彼らにこの村を探ってきてもらうよう頼んだのがズラカルト男爵配下の人物らしいこと。  三人と一人のグループ(一人の側をグループと呼んでいいものか、モヤっとするけど)が一つのグループとして依頼を受けたこと。  二、三日滞在して帰るつもりだということだ。  二時間ほどの接待で聞き出せたのがそれっぽっちか? って?  いやいや、これだけ聞き出せれば十分でしょう。  本人たちは二、三日滞在して帰ることだけ話したつもりでいるよ。  あとのことは他愛ない会話をつなぎ合わせて得た知見だ。  本人たちは喋った記憶もないだろう。  そこはほれ、僕の接待技術とオギン、ザイーダの接待の賜物だ。  これ以上知る必要はないと見切りをつけて、僕は宴を締めることにした。「さて、話は尽きませんがなにせここは辺境の農村なので朝が早いものですから、ここらあたりでお開きとさせていただきたいのですが……」「おお、もう、そんな時間ですか。これは失礼。あまりにも楽しいもので……いやいや、では」 とか、自分でも何言ってっか判ってないよ、きっと。  この人。  まぁ、それを見越してしこたま飲ませたんだけど。  一人だけ量を抑えてる人がいるみたいだけど。「復興途中の村ですから、宿などもございませんし、今日はここに泊まっていってください」 もっとも、田舎の村に宿などそもそもなかったけど。「そうですか、ではお言葉に甘えて」 と、四人の旅人は立ち上がり、ザイーダに案
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怪しい人物

 ストゥラー夫妻が後片付けをする間、サビーとイラードがさりげなくもう一杯というていで僕の側によってくる。「男爵配下の指図というのは本当でしょうか?」「たぶんフェイクだね。三人はそのつもりかもしれないけど、彼は判ってるよ。いや、最初からグルの可能性の方が高いかな?」「それでオギンに指示を?」「そうだよ」「イラードは判ってたのか?」「いや、『一人酒量が少ないのがいるな』くらいの認識だった。思惑があるだろうくらいに用心するつもりだったが、村長はそこまで読まれていたのですね」 フフフ、もっと褒めていいよ。 …………コホン。「サビーもイラードも明日以降、あいさつ程度でなるべく近寄らないように」「なぜです?」「相手を警戒させるからだよ。特にサビーは雰囲気に出るから十分注意してね」「だそうだ」「ひどいな……」「ジャン様、片付け終わりました」 と、手を拭きながらカーゲが台所から出てくる。「ありがとう。遅くまでご苦労だったね。もう、帰ってもいいよ」「そうします。ガーブラ一人にいつまでも倉庫を任せているのは心配ですし」 どういう意味で言ったんだろう?  色々考えられる物言いだな。  客室に四人を案内したザイーダが戻ってくると、サビーがカップを抱えて台所へ向かう。「オレたちも帰るとしよう」「そうですね。ワタシたちがいると何かと気を使うでしょうから」「そうだな」 こっちは含まれている意味が判ったぞ。「ではうちも帰らせていただきます」 と、ザイーダが頭を下げると、オギンもそれに続く。  もっとも、二人とも今日は家には戻らないけどね。  そして誰もいなくなった……いやいや、オヤジくさい物言いだった。  僕は歯を磨いて明かりを手燭に移して二階に上がる。  寝床でまんじりともせずに目を閉じていると、やがて階下
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畑と牧場と

 僕はオギンたちを信頼して、寝ることにした。  酒が入ってることもあってか、寝ると決めたらあっという間だった。 目覚めたのはお日様が完全に昇ってから。  今日の予定は視察。  村の復興が一段落して次の計画を立てるために村の現状と課題を拾い上げるのが目的だ。  たまたま来訪者が来たタイミングなのが引っかかるけど、これはいい方に考えよう。  今日の視察、午前中はルダーと一緒に農業方面を見て回る。  畑は去年使った土地は休ませているけど、それ以外はすべてなにかしらを育てている。  面積としてはフレイラが全体の半分を占めている。  これは主食となる穀物だからだ。  春蒔きと秋蒔きがあって今は春蒔きのフレイラがすくすくと育っている。  秋の収穫分からは一部備蓄に回せるはずだ。  ポモイトは冬の主食だ。  おやつにもなる。  ただ、倉庫がなかったんで春までにほとんどが芽を出してしまって全量種ポモイトに回してしまった。  ルダーには長期保存の方策を考えてもらっている。  とはいえフレイラのような長期保存は難しいだろう。  野菜は根菜を中心に現在六種類植えている。  葉物をあと二、三種類作る計画で、ジョーに種子を仕入れてもらえるよう手配している。  こっちは村の畑じゃなく、各家で自分たちが食べる分として育てる用だ。  村の中は街のように家を立てれば百五十人くらいは住めるだろう。  もっとも、そんなに住んだら食料の確保が難しい。  今の畑で完全自給自足、誰にも食料を奪われないことを前提として最大人口百人までと計算している。  ルダーもおおむね同意してくれた。  南東の畑を後にして北の放牧地に移動すると、ジャスの指揮の下鳥小屋作りが進んでいた。  成鳥のクッカーは七羽だけど、雛が九羽生まれていて、順調に増えているといえそうだ。  春に生まれた仔ホルスが一頭、元気に跳ねている。  荷車を引いていたホルスで今は農耕ホルスとして活躍している他のホルスたちものんびりと草を食んでいる。  酪農用に飼育
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行ったり来たり

 ルダーと畑で別れてごはんを食べに戻ると、ザイーダが待っていた。「食べながらにしよう」 ちなみにこの世界は文明水準が近代に届いていない。  王都など中央部は近世に手がかかっているかもしれないが、農村部は中世水準だ。  炊事に関していえばまず火を熾すのが一苦労だし、なにより潤沢とはいえない食糧事情もあるから朝と夕にしか作らない。  朝といっても作物によって作業のタイミングがあるから日の出とともに農作業をして一段落ついてからということが多い。  なので大体昼前だ。  晩飯は日が暮れる前に食べ終わるように逆算して準備する。  灯りは贅沢品なので日が沈むと後は寝る以外にできることがないって事情もある。  肉体労働が基本の農村部で一日二食ってのは力が入んないよなぁと思わなくもないんだけど、少なくとも現状致し方ない。「で、彼らはどうだった?」 村長館には一階の奥座敷に囲炉裏を切っていて常時火を絶やさない、前の小屋を踏襲した一角がある。  今、僕はそこでザイーダと二人きりであったかいスープを飲みながら密談中だ。「お館様のいう通り、うちが見張っていた三人は村の中を興味深そうに見て回っているだけでしたが、オギンが尾行している男は時折三人と離れて細々と見て回っておりました」 余談だけど、村長館に住むようになってからオギンとザイーダは僕のことを「お館様」と呼ぶようになった。  最近じゃ一緒にいることの多いイラードが村長とお館様が半々で、ルダーも面白がってお館様と呼ぶ。  ルダー、前世で大河ドラマとか好きだったクチだろ。「どんなところを注目していたとか聞いているか?」「塀の高さやキャラバンの倉庫、ジャリの鍛治などを行ったり来たりと」「行ったり来たりね」「行ったり来たりが問題ですか? うちとしては塀の高さや鍛治の方が重要だと思ったんですけど」「行ったり来たりの方が問題だね。たぶんだけど、道順を覚えるために行ったり来たりしてるんだと思うよ」「……なるほど
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農作業を免除されている人々

「最短コースとか障害になるものの見極めとか、そういうところを調べてるんじゃないかな?」 もっとも家は点在だから狭い路地があるわけでも行き止まりがあるわけでもない。  この場合の障害ってのはサビーとかガーブラみたいな戦える村人の見極めとか、女の物色じゃないかと踏んでるけどね。「三人の方はいいや、例の男だけに注視してくれ」「かしこまりました」 午後は村を出て炭焼き小屋と窯の視察をする。  同行者はガーブラ。  村では現在、農作業を免除されている専門職が四人いる。  一人はジャリ。  毎日毎日鉄を打っている。  最近は出来のいい鎌や包丁を打てるようになってきた。  研ぎの技術も上がっているみたいだ。  もっともルダーのお墨付きが出る鎌は二十本に一、二本だからまだまだ研鑽を積んでもらいたい。  でも、なかなかどうして優秀じゃない?  もう一人はルンカーづくりの責任者。  村の復興が一段落したので最近はルンカーの他に素焼きの器作りに挑戦してもらっている。  前の村でも壺や甕を作っていたっていうからお願いしたんだ。  皿や杯は磁器がいいなんて贅沢な望みは前世持ちならではなんだろうか。  それに合わせて僕の前世知識とルダーの前世知識からルンカー窯のとなりに陶器用の窯を製作中だ。  もっとも僕がイメージしている陶器を作るためには釉薬が必要なんだけど、ここでは手に入らないから陶器製作はまだできないし、磁器に関してはネット知識だけじゃちょっと絶望的だ。  あとの二人は炭焼きだ。  だいぶん手慣れたようで、最近は良質な炭を生産してくれる。  黒炭だけじゃなく白炭も生産するようになった。  白炭は燃焼時間が長くて臭いも少ないから冬の暖房に向いてるんだ。  不用意に扱うと爆跳するのが玉に瑕。  ただし、冬の暖房としては村長館以外は暖炉で薪を使うことの方が多く、炭は村内の煮炊きと特産品の側面が強い。
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 な……なんだって──!!

 炭焼きには副産物として木酢液と木タールができる。  木酢液は強い臭いと「酢」の字が示す通り酸性なので動物避けや害虫対策、殺菌などに使われていたと、ルダーが言っていた。  木酢液は蒸留するとメタノールになることだけが知識としてある。  どうやればいいかの知識がないとこが惜しいな。  メタノールが精製できればアルコールランプが作れるのに……。  木タールの方は記憶が確かなら(前世知識は転生ボーナスだから確かなんだけど)正露丸の主成分だ。  北欧ではその昔万能薬と呼ばれていたってサウナ関連の記事で読んだ。  もちろん、樹種で成分や効果が違うだろうし、こっちの木タールに同等の効用があるかは試してみないと判らないけどね。  視察の限り生産に関しては怖いくらい順調だ。  問題があるとすれば、生産が順調すぎて雑木林が荒れていることかな。  元々の村の生活に必要な木材を調達するために人の手を入れていた場所なんだけど、村の復興のための建築材伐採やルンカー、炭の大量生産に想定以上のペースで切り出したせいだ。  そのせいもあってかラバトやデヤールなども森の奥に入っていて、最近雑木林での狩りはさっぱりだ。  これはまずいってことで去年の秋から冬にかけて北の森で木材を調達したので、荒廃はだいぶん抑えられたけれどもしばらく雑木林からは枯れ枝の柴刈りくらいしかできそうにない。  雑木林の奥には森が広がっているんだけど、そこは「主」のテリトリーだ。  これ以上東側で雑木林は広げられない。  西の山には植物型怪物スクリトゥリがいて(定期的に怪物退治の演習をすることになってるけど)危険だしな……。  少し遠いけどやっぱり北の森の一部を雑木林にするか。  そんなことを考えながら視察を終えて村に戻ってくると、今度はオギンが僕を待っていた。「お館様」「問題か?」「はい」「旅人関連?」「いえ、ジャスが建築中の物見櫓から落ちました」 な……なんだって──!!
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事件ですか? 事故ですか?

 ジャスの家に駆けつけると、ちょうどサビーとイラードが家を出てくるところだった。「容体は?」 中に入る前にサビーに尋ねると「左上腕骨と左大腿骨の骨折。肋骨も何本かヒビが入っているかも知れないな」 という返事だった。「詳しい状況を教えてくれ」「それはワタシがご説明します。村長の指示通り、正面門の左右に物見櫓を建設しておりました。右の櫓はすでに運用中で現在左の櫓を建設中です」 そこは僕も把握している。  足場を組んで骨組み中だった。「その足場が何かの拍子にぐらりと揺れたらしく、投げ出されたジャスともう一人が九シャッケンほどの高さから地面に落ちたそうです」「もう一人の安否は?」「両足の複雑骨折でした」 うわっ……。「そっちはがザイーダが付いています」「二人とも歩けるようになるか?」「ジャスの方は問題ないと思いますが、チャールズの方はうまく骨接ぎ出来なければあるいは……」 チャールズか……。  確か三十代の頭髪が薄い男だった。  多少魔力感応力がある男で、若いうちから修行していれば魔法が使えていたかも知れないと連れてきたときにジョーが紹介していた。「チャールズの処置が終わったら教えてくれ。あとで見舞いに行く」「判りました」 ジャスの家に入る際、ふと気になったので僕はリリムに小声で頼みごとをする。 中に入ると、ジャリがやってきた。「村長」 最近はジャリも僕のことを村長と呼ぶ。「様子はどうだ? 面会できそう?」「痛みで唸ってますが、受け答えはできてる」 ひとまず大丈夫かな?  ジャリに案内されて寝室に入ると、彼のいう通り痛みに脂汗を浮かべてベッドで痛みに耐えているジャスがいた。「村長……」「災難だったな」「ええ、午前中まではしっかり組まれていたんですけど、どうも縄が緩んでいたみたいです」 ……
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文明水準は医療に顕れる

 なるほどね。 四人のうち誰が登ると言い出したのか聞いてみたら、思った通りの男だった。  推理ものなら「犯人はお前だ!」ってふん縛るのもアリだけど、それをやっても仕方ないしな。「しばらくは病むだろうが、しっかり養生してまた働いてくれ」「ありがとうございます」 部屋を出たあと、ジャリと二、三話しをする。  腫れが引くまで冷やすこと、腫れが引いたら適度に体を動かすこと、バランスの良い食事をとることだ。  もっとも栄養成分は知りようがないのでバランスってのをどうとればいいかは僕にも判んない。  よく言うのは一汁三菜か……。  ルダーの奧さんになったヘレンに作ってもらえるように頼んどこう。  ジャリに任せるのは無理筋だろうからね。 田舎なせいで医療レベルはびっくりするほど遅れてる。  これは仕方ないことだ。  前世と比べちゃいけないことは重々承知の上でなにか対策を練らなきゃいけない。  ま・なにかもなにもないんだけど。  一にも二にも魔法使い、それも治癒魔法師を仲間に引き入れなきゃダメだ。  魔法さえあれば現代医療もびっくりの治療ができる。  人体構造は治癒魔法の技術に直結しているから相当なレベルまで研究されている。  今回サビーたちが素早く処置に当たれたのもそのおかげだ。  彼らは戦闘任務についてたんで怪我は日常茶飯事だったから、そこらへんに精通していたみたい。  とはいえこの世界、治療は基本魔法任せ。  魔法がなければ自然治癒力任せだ。  チャールズの見舞いに行くと、彼はベッドで眠っていた。  折れた骨を元の位置に戻す処置の痛みに耐えかねて気を失ったと言うのが正解だろう。「お館様」「ザイーダ、どうだ?」「右足は多分完治しますが……」「しますが?」「左の骨折は複雑すぎて元の位置に戻せきれていないんです」 切開手術なんて、この世界の医療技術じゃ無理だもんな……仕方ないって言っていいのか悩むけど、他に言
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インビジブルストーカー

 その夜、寝室で待っていると夜更けにリリムが帰ってきた。「待ってたよ」「先に寝ててもよかったのに。朝になってからじゃダメだったの?」「ダメだね。情報鮮度は重要だ」「はいはい」 リリムは灯りの魔法で部屋を明るくする。  僕は、くず炭をすりつぶして粘土に混ぜ、棒状に固めた筆記具と建築廃材の木片を用意する。  いわゆるチャコールペンと木簡だ。  木片はなるべく書きやすいものを揃えている。  皮紙は高級品でメモ書きなんかにはもったいないし、紙はこの国ではさらに高級品のようなので落ち着いたら紙漉きを試してみようと思ってるくらいだ。  準備ができたので、ペンを回しながらリリムを見る。「で、四人の様子はどうだった?」「どうって普通よ」「……それじゃリリムに頼んだ意味がないじゃないか。普通でいいから細かく教えてくれよ」「うーん、まずね……」 その報告によれば、四人はざわつく村の中を何事もなかったように散策していたという。  厚顔無恥とはこういうことだろうな。  会話内容は「特に見るべきところのないどこにでもある村だな」って、どこにでもある村じゃねーだろ。  城壁を備えた村は少なくとも王国にはないってジョーが言ってたぞ。  どこを見てんだこんちくしょう!「例の男もそれに賛同してたのか?」「っていうか、むしろそいつが積極的に『どってことない村』だってことにしようとしてたわよ」 なるほど、それならそれでこっちにも別の反応があるぞ。「あと『何日もいるような村じゃない』って」 「見るべきものは見た」ってことか。  ぼんくらトリオはどうでもいいや、もう一人が何を見て何を感じどう思ったかが問題だ。  そして、その情報をどう利用するのかもね。「じゃあ、明日には村を立つ可能性が高いね」「三人はどうか知らないけど、あいつはすぐにでも出発したがってる風だったわ」「なるほど。他に気づいたことは?」
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大きな背中に絵を描く-前篇-

「ありがとう。そろそろ灯りの魔法も尽きる頃だし、今日はここまでにしよう」 僕はメモ書きに使った木片をまとめて部屋の隅に片付けると、布団に潜り込む。  明日は村内視察の予定だったけど、予定を変更しよう。  などと思い悩む間も無く朝を迎えた。  農村の朝は早い(ナレーション)。  まだ日の明けきらぬうちに村人は起き出し朝餉の支度を始める(ナレーション)。  そんなわけで、僕は昨日のメモ書きを読み返しながら竈門に木片をくべていく。 「お館様」 ビビる。  音もなく背後にかしずいて声をかけてこられると、ドキっとするんですけど。「なにかあったの?」「はい。昨日から例の男が戻ってきておりません」 僕の館はこの村で唯一の客間を備えた家で、四人の旅人もおとといからここに泊まっている。  そのうちの一人が戻ってきていないということだ。「村から?」「出てはおりません」「てことはザイーダが尾行を?」「はい」 それはそれは……。「なにをしているんだ?」「夜の村をただ行ったり来たりしているだけです」 それは怪しいね。 厨は三和土になっているので地面に落書きできないし、持ってきた木片は全て竃に焼べちゃったな。「書かれるものないかな?」「は?」「いや、書くものはあるんだけど、書かれる方がなくて……」 と、懐に入っていたペンをフリフリしてみせる。  と、そこにガーブラがやってきた。「おはようございます。村長」 今日の村内視察の同行予定者だ。  すると、オギンはちらりと彼を一瞥して眉ひとつ動かさずに「ならば、ガーブラの背中にでも書けばよろしいかと……」 とか、さらっとひどいことを言う。「ん? え? 背中になんだって?」 まぁ、そんな反
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