LOGINルダーと畑で別れてごはんを食べに戻ると、ザイーダが待っていた。
「食べながらにしよう」
ちなみにこの世界は文明水準が近代に届いていない。
王都など中央部は近世に手がかかっているかもしれないが、農村部は中世水準だ。 炊事に関していえばまず火を「で、彼らはどうだった?」
「明るい月夜だし、近づいたら判るかね?」「どうでしょう。暗闇の中なら松明でも持って近づいてくれたかもしれませんがね」 あー、そっちの方がありがたかったな。「お館様」「何?」「野盗の規模、どれくらいを想定してるんですか?」 お、おぅ……想定してなかった。「村の規模より大きいとは思ってない……かな?」 確か、あの日の野盗は十人ほどだった。 今回、サビーたちがいることを判ってなお村を襲おうと思っているんだから十人規模だろうなんて思っていない。 …………。 てことは、前回の野盗とは違う野盗ってことかな?「確かに三十人規模の野盗がこんな辺境の村なんて襲いませんね」 その発言はちょっと傷付くなぁ。 いや、ありがたいことなんだけどさ。「さて、そろそろ集中しましょうか」 サビーはそう言って通話を切り上げ、月明かりに照らされた道の先に視線を向ける。 僕は村に視線を向ける。 村の中はなんとなく緊張した気配がする。 櫓の足元にはイラードとガーブラが到着していたので、一旦降りることにした。「お館様」「準備完了?」「さあ、それは判りませんね」 む、そりゃそうか、進行状況を確認する伝令係が必要だな。 すっかり抜けていた。 反省反省。「じゃあ、手はずどおりに」 二人は頷いて門の両脇に陣取る。 野盗の目的は略奪だ。 無理して戦士と戦うとは思えない。 ……とまぁ、僕の想定が当を得ていれば、この作戦は図に当たる。 目論見どおり完勝できるかどうかはその一点にかかっている。 櫓を昇り直すと、サビーの様子が緊張しているのが見て取れた。 姿勢を低くして隠れているようにも見える。 同じ姿勢になって道の先に目をこらすと、粛々と近づく一団が月明かりにさらされていた。 ざっと数えて十九人。 かなりの規模だ。
この一年、木刀を振り続けてきたけど、まだまだ前世の感覚が戻ってこない。 現世の体のせいなのか、ブランクのせいなのか。 ともかく、僕は支度を整えて月明かりの下に飛び出す。 行き先は正面門。 途中でザイーダと出会う。 彼女が戻ってきたということは村の外へ出たということだ。 事前にそう指示を出している。「お館様の予想通り、男は村の外へ出て行きました」 予想というか、男が連絡用に用水路に流した「手紙」をリリムに確認してもらっていたからね。 押し込み強盗働こうと思っているんなら、迎えに行くより引き込んだ方が能率上がるのにね。 ここら辺は文化水準・知的水準の低さなんかな? こっちとしてはありがたいけどね。 ザイーダと別れて門に着くと、すでに東の櫓にサビーが登っている。 さすがに場慣れしているわ。 役割分担としてはサビーがいち早く正面門の櫓に登って警戒を、イラードとガーブラが中央通り沿いの家々を巡って戦闘準備を促すことになっていた。 それ以外の家は連絡を受けた家の住人が学校の連絡網のように次々と連絡に走ることになっている。 ほどなくみんなが所定の持ち場に着くだろう。 西の櫓に登ると、糸電話でサビーに連絡を取る。「状況は?」「まだ音も気配もありません」 かなり遠いところで合流する手はずになっていたようだ。 村に手練れの戦士が何人かいることはすでに知られている。 櫓は昼の見張りにしか使われていない。 というか、意図的に夜の監視に使ってこなかった。 まず一つに夜の監視は遠くが見通せないのでほとんど意味がないから。 夜警の人員を配する余裕がないのも理由だ。 外で暖をとったり篝火を焚く余裕もないしね。 でも最も意識したのは、男に夜の警戒はしていないと思わせるためだった。 こんなに図に当たるとは思わなかったけどね。
その日は僕の想定通りに訪れた。 それは誕生日の前日、秋晴れで月明かりの明るい夜だった。 照明器具の発達していない辺境の農村では、月明かりがあったとしても日がくれると程なく村人は寝床につく。 そんな人々が深い眠りについた頃、男は大胆にも寝泊まりしている僕の館を抜け出した。 もちろん、それに気づかない僕じゃない。 と言うか、ここ数日は抜け出しやすいように無防備にしていた。「お館様、動き出しました」 二階の窓から僕の寝室にオギンが入ってくる。「手筈通りにオギンはサビー達に連絡を。ザイーダは?」「お館様のご指示通り、男を尾行しております」 そういえば、誰も男の名前を覚えてないかも。 もちろん自己紹介はしてもらっている。 事情を知らない村人の中には名前を覚えている人がいるだろうけど、僕の意を汲んだメンバーは直接彼の名を呼ばないでいたから少なくとも僕は覚えてなかった。 さて、ここからの僕は村長というより隊長だ。 総人口三十三人のうち、この件で情報を共有しているのは、僕を含めてサビー、イラード、ガーブラ、ザイーダとオギンの六人だ。 これだけではさすがに野盗に対抗するのは難しい。 それが判っていてなぜ村人に話していないかといえば、村に野盗の仲間が一人入り込んでいたからに他ならない。 ただ、西の山での定期的な戦闘訓練はしていたし、クレタとカルホに回覧板を持たせて戸別訪問で野盗の襲撃に対する心構えを説いて回っていた。 ちなみに回覧板制度は僕が前世から持ち込んだ連絡手段だ。 まだ識字率が低いので今はクレタが口頭で説明をして回覧板に確認のサインをしてもらうだけなんだけど。 余談だけど、回覧板はお祭りの連絡など、村の行事報告にも利用している。 さて、それほど時間はない。 僕はジャリに作らせた額部分に鉄のプレートを縫い付けた革製の鉢金を巻き、木刀のような鉄剣を腰に佩き、長弓を小脇に抱えて箙を肩に掛ける。 鉄剣に刃はない。 ジャリの鍛冶技術で
男は手引き役としてなかなかどうして優秀だった。 時代劇でよくある押し込み強盗がお店に仲間を奉公にあげるあのやり方だ。 だからとてもよく気がつくし、よく働く。 信頼を得るためだけど、僕は騙されないよ。 だって、野盗の一味なの最初から知ってるからね。 でも、騙されたふりはするよ。 こっちが騙す方だからね。 やがて盛夏を過ぎ、収穫の時期に差し掛かる頃には、僕はすっかり彼を信頼(したフリ)をしてなにかと言うと仕事を任せたりする。 もちろん単独行動はさせないよ。 それは村のルールだからね。 本来の村のルールとしては、なにかあったときのためにコンビを組ませているんだけど、彼には監視の都合で誰かを一緒に行動させている。 主にイラードかザイーダだけど、時々わざと事情を知らない村人をつける。 その際はオギンやリリム(主にリリム)に尾行させる。 その日、残すところその男の分だけとなった家の建築資材であるルンカーの集荷に彼だけを使いにやった。 他の村人はフレイラの収穫に総動員させてだ。「悪いね、窯に行けばルンカー職人がいるから彼らとルンカー積んで持ってきて」「判りました、お館様」 と、荷車引いて裏門を出て行く。 ちなみに、今ではすっかり『お館様』が定着していて村人全員が僕をそう呼ぶ。「リリム」「任せて」 門まで見送った僕は、門を閉めながらリリムに尾行をお願いすると、裏門に建てられた三棟目の櫓に登る。 ルンカーの窯までは荷車が通りやすいように踏み固められている。 さすがに舗装はされてないけどね。 そのうち板ルンカーで舗装しようか、なんて考えながら荷車を引く男を眺める。 やがて男は荷車を離れて雑木林の中に入って行く。 そうこなくちゃ。 収穫も始まっているし、そろそろだと思ってたよ。 用水路に何かを流したように見える。 なるほどね、やるじゃない。 フレイラの収穫は村人総出(ルンカーと炭焼きの職人
「ジョーは一日にどれくらい食べる?」「なんだよ、藪から棒に」「まぁ、とりあえず想像してよ。それを単純に途中調達なしにこの村から一番近い村までの往復分と現地滞在、そうだな……一週間分用意するとしたらどれくらいの量になると思う?」「結構な量だな」「それを人数分用意すると……」「俺のキャラバンは今二十三人だからこれを基準に考えると……やばいな、荷車一台じゃ足りないぞ」「結構な量だろ? 攻める側はそれだけ用意しなきゃならないんだよ。動員する兵力だって村人町人だろ? 日本じゃ鎌倉時代くらいまでは侍が自前で用意することになってたらしいけど、戦国時代までには軍の大将が兵糧を用意するようになってる」「おぉ、思い出したぞ。一所懸命・御恩と奉公だな」「それそれ。だから今までは小競り合いですませてたんだよ。小競り合いですんでいたんじゃなくね」「なるほどね。長い間曲がりなりにも国王の元で安寧に過ごしてきた領主たちがこれまでの小競り合いで兵糧の重要性に気づいたとして、この秋の収穫を待たずに行動に移すことはない……か」「そういうこと」「この村はどうだ?」「今の所攻める気はないけど、守るにしたって備蓄量はまだ心許ないかな。だからこそ、野盗は積極的に排除する」「積極的にったってこっちから攻めてはいけないだろ?」「大丈夫、向こうから来るから」「あん?」 僕は持っている情報と、前世の知識からある程度予見できるんだよ。 そう、予見通りキャラバンが村を立った十日ほど後に例の男が一人で村を訪ねてきた。 ほらね、ガーブラたちに予言した通りになったでしょ。 男は「村の雰囲気が気に入った。ここらで腰を落ち着けたいので村に住ませてもらえないか」などとそれらしい理由をつけて村に入ってきた。 いいよ、いいよ。 想定通りに事が進むとニヤけてきちゃうな。 とりあえず、男には他の新しい村人同様、新居の建設と農作業を手伝ってもらうことにした。「オレの他にも新しい村人が入ったんですね」
結論から言うと僕の予言は当たるわけだけど、とりあえず四人は当初の予定通り三日目に村を出て行った。 その四日後に入れ替わるようにキャラバンが戻ってくる。 スカスカの倉庫が半分近く埋まるほどの荷物を持って。「おかえり」「なにか変わったことはなかったか?」「だいたい想像つくでしょ?」 ジョーは僕の返答に豪快に笑ってみせる。「確かにな。道中で四人の旅人とすれ違った」「この村に来た四人だよ」「やっぱりな……で? なんの用だった」 僕はジョーを彼の邸宅に促して情報交換をすることにした。 こちらからの情報はもちろん旅人の件だ。 事故についても報告をする。 ジョーは「……なるほど」 とだけ感想を呟いて、自分の方の情報を提供してきた。 個別案件でその都度検討して無駄に時間が潰れるのを嫌ったんだろう。 キャラバンがもたらしたのは牧畜のジップ六頭とクッカー十二羽、ホルス三頭。 長弓二丁に短弓五丁。 他に村ではまだ生産できない日用品や材料などだ。 あ・そうそう、村人として新たに六人連れてきた。 これで村の総人口が三十二人になった。 キャラバンの構成員も含めると五十人を超える。 これだけいれば、盗賊だってちょっとやそっとじゃ手を出せない規模だ。 新しい村人には技能持ちが多い。 一人は主に木工の職人で車輪が作れるらしい。 車輪が作れれば色々と便利になる。 一人は皮革の職人。 ジャリが鞣しをしていたんだけど、その都度鍛治を中断していたからこれで鍛治に専念できる。 それから牧畜の専門家というおじいさんとその奥さん。 たぶん今回仕入れた牧畜はこの人のものだな。 あと二人、弓を作る弓師と矢を作る矢師だ。「王国の情勢は小康状態だな。領主間で小競り合いはあっても争いが大きくなるところまではいってない」「本格的な軍事行動をとるとすれ
「で、僕のステータスはどうやったら確認できるの?」「なにそれ、美味しいの?」 え?「うそうそ、そんな便利機能現実世界にあるわけないじゃない」 だよねー。「数値が知りたいなら体力測定とかIQ検査でもしてみる?」「それって実際あてになるの?」「参考程度には」 だめじゃん、そんなの。「まぁまぁ。ホラ、そろそろ準備始めなきゃまた木の上で寝ることになるよ」 リリムに言われて気がついた。 お日様がだいぶ西に傾いているらしく、僕の影
「じゃあ次は概要ね」 と、リリムは言う。「世界の概要は現世の知識があるから割愛ね」 あらま。「あなたは転生の際にDNAってやつに細工されていてね、神様曰く人よりちょっと優秀になってるそうよ」 え? ちょっと?「そこはとても優秀になってんじゃないの? テンプレ的に」「いくら世界に干渉できる環境にある神様だってそんなことホイホイしたら世の中のバランスが狂っちゃうでしょう?」「異世界転生は世界のバランスを崩さないのか?」「崩すわよ。それなりに。そもそも
村に戻った僕は村人の埋葬をする。 人の死には慣れている。 現世の僕が、だけど。 この世界は前世の世界と違って文明水準が高くない。 当然医療水準も高くない。 田舎だからってのはあるかもしれない。 大きな街はもしかしたらすごく発展しているのかもしれない。 魔法のある世界だから、当然治癒魔法もあるはずだ。 でもそれがどれくらいの効果があるかもわからない。 だからこの村はよく人が死んだ。 子供は特によく死んだ。 僕にも姉と妹がいたらしい。 妹の方はかす
僕は十五歳の朝を木の枝の上で迎えた。 この世界の元服、つまり成人の儀式が行われる日だ。 確かに一生忘れられない日にはなったけど……切ない。 あまりにも切ない。 秋とはいえ、昼頃になればそれなりに暖かくなる。 今日は天気もいいので昼頃にはむしろ汗ばむほどの陽気になった。 慎重にあたりの気配を確認しつつ、木から降り集落に戻ると、まだプスプスとくすぶっている焼け跡の中を歩く。 あたり一面、嫌な臭いが立ち込めているのは、村人の焼けた臭いだろう。 昨日から何も食べてないのに込み上げてくる胃液を吐き出し







