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インビジブルストーカー

مؤلف: 結城慎二
last update تاريخ النشر: 2026-07-21 06:00:23

 その夜、寝室で待っていると夜更けにリリムが帰ってきた。

「待ってたよ」

「先に寝ててもよかったのに。朝になってからじゃダメだったの?」

「ダメだね。情報鮮度は重要だ」

「はいはい」

 リリムは灯りの魔法で部屋を明るくする。

 僕は、くず炭をすりつぶして粘土に混ぜ、棒状に固めた筆記具と建築廃材の木片を用意する。

 いわゆるチャコールペンと木簡だ。

 木片はなるべく書きやすいものを揃えている。

 皮紙は高級品でメモ書きなんかにはもったいないし、紙はこの国ではさらに高級品のようなので落ち着いたら紙漉きを試してみようと思ってるくらいだ。

 準備ができたので、ペンを回しながらリリムを見る。

「で、四人の様子はどうだった?」

「どうって普通よ」

「……それじゃリリムに頼んだ意味がないじゃないか。普通でいいから細かく教えてくれよ」

「うーん、まずね……」

 その報告によれば、四人はざわつく村の中を何事もな

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  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    五人揃ってカシオペア

     盛夏、キャラバンがまたひと組の父子家庭の家族を連れて村に戻ってきた。「そこで一緒になってな」 とジョーは言っていたが、多分表向きの話だ。  だってどうみても「できるっ!」って家族なんだもん。  親父はいかにも歴戦の戦士だし、三人の息子も畑仕事の体つきじゃない。  唯一の娘だって平凡に暮らしてきたらできっこない鋭い目つきで周囲を伺っている。  そもそもみんな似ていない。「いやいや、その設定はさすがに無理があるだろ」 と言うツッコミにニタニタと笑うだけなのが腹がたつ。「年の順にカイジョー、シメイ、オオダイ、ペギー、アーシカだ」 へー……頭文字がカシオペアかぁ(棒)「聞いたぞ。ついに男爵に目をつけられたんだって」「そうなんだ、参ったよ。オルバック様のお世継ぎ様、とか言うのがやってきたと思ったら『村が復興したなら税を払え。納税額は特別に前回並みにしといてやる。ありがたく思え』だってさ」「あー……そりゃまた残念な奴が当たったな」「まぁ、残念な奴のおかげで村の中に踏み込まれなかったから『物怪の幸い』だったんだけど」「年寄り臭い言い回しだな、前世はいくつまで生きてたんだよ」「四十の半ばだよ。ばあちゃん子だったんで言葉や趣味が多少、年寄り臭いのかもしれないけどさ。そっちは?」「天寿まっとう、七十二歳の大往生だ。明治大正昭和と生きてきたし、前世に思い残すことはない」 え? 明治大正!?「え? ジョーって僕のばあちゃん世代なの?」「なに!? そんなに世代が違うのか?」「僕は団塊ジュニア世代。ルダーは戦中派だって」「団塊ジュニア……それが四十半ばってことは未来人だな。まぁいいや前世の話はルダーも呼んで今度じっくり思い出話をするとして、男爵と事を構えるんなら必要だと思ってな。本物の戦士を連れてきてやったわけだ」

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    あれも足りない これも足りない

     弓が使えると言えるのはサビーたち主要戦力の他は四、五人。  ガーブラは白兵戦の中心に置きたいし、ザイーダにはオギンと同様に僕のそばで伝令や諜報に回したい。  塀に囲まれた村にこもっての戦闘だとしても弓の撃ち合いだけで勝負が決まるわけがないから、サビーにもイラードにも白兵戦に参加してもらいたいところだ。  でも、そんなことしたら今度は射手の絶対数が足りなくなる。  命中精度も心許ないのに数撃ちができないんじゃ意味がない。  むーん……。  所詮農民兵団ってことだよねぇ。「女性陣に弓のできるのはいないの?」「女を戦さに駆り出すんですか?」 む〜ん……まだ文化レベルがその位置なのだね。  確かに白兵戦で力勝負とかなったら圧倒的不利だろうけどさ、弓ならいいんじゃないかなぁ?  強弓が引けなくてもいいんだよ。  命中精度も並なら十分だ。「声をかけるくらいいいだろ?」「お館様がそうすると言うなら従いますがね」 不服そうだな。  オギンだってザイーダだって女だろうに。  話題を変えるか。「防具の方はどうなってる?」 この国の基本防具は鎖帷子だ。  そんなもの作る技術はない。  だから革の鎧を作った。  膠を溶かしたお湯に浸した革を重ねて叩いて接着し鎧の形に成形して乾かすとあら不思議、胴鎧の完成だ。  ないよりまし、ないよりまし。「なかなか大変な作業とかで、秋までに十領揃えられるかどうかと言うことです」 同じ作り方で、木の板に革を張った盾も作らせているし、人数分なんてとてもじゃないけど揃えられないか。「その十領も革の確保ができてないんですけどね」 なんと!? 毛皮不足か!

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    武器の調達は戦の行方を左右する

     それだけじゃない。  戦が続けば戦闘員が不足する。  最初は家の子郎等だけで戦っていた武士も農民兵を徴収しだす。  いわゆる足軽だ。  ちなみに、こっからは歴史オタク的うんちくなんだけど、『足軽』の記述は平家物語にすでにあるんだ。  当時の足軽は戦闘員ではなく後方支援部隊として輜重や陣の設営を担当していたらしい。  源平合戦の頃は「やあやあ我こそは……」でお馴染みの一騎打ちの時代だったから通常は直接戦闘に参加しなかったんだろう。  それが『悪党』の戦力となり、集団戦の時代の重要戦力として組み込まれる。  まさに「戦さは兵力ですな」だ。  もちろんこれは日本の事例であって、異世界の話だ。  けど、人の歴史なんて似たようなもんだろ。  今は志願兵で揃えられている各領主の戦力もいずれ徴兵で揃えられることになる。 ──というのが僕の見立てなんたけど、こんな前世知識をもとにした分析で村人を説得できるわけもない。  ないんだけど僕には、もう一つの知見がある。  オギンやジョーたちが持ち込む情報だ。  今年になって村に来た人たちの体験も侮れないよ。  そう言った様々な情報を出し、出させて自分たちが置かれている状況を理解してもらう。  議論は深夜まで及んだ。  こういう危機を煽るやり方は、さじ加減を間違えると暴発するんでできれば使いたくないんだけど、効果的なのも事実なのよね。  ということで、村は秋の徴収まで面従腹背を通し領主に対して叛旗を翻すことになった。「去年の野盗との戦いは村の男のほとんどが戦闘に参加したわけだけど、今回はどうしようね」 と、サビーに訊ねると「弓師と矢師は外してください」 と、明確だ。「他の職人も大事ですが、武器の調達・メンテナンスは最重要です」「それをいうなら、ジャリもじゃないのか?」「殴ればある程度ダメージを与えられる剣と違って、飛び道具は命中精度に響きます。それに、率直に言ってジャリ程度の鍛治師ならいくらでも調達できます」

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    緊急集会

     肚が決まれば行動は早い。  その日の夜には村人全員を緊急集会に招集して昼の一件を報告する。  村の人口は八十に近い。  キャラバン不在でさえだ。  キャラバンの隊員を含めれば優に百人を超える。  そんな村人が口々にざわめくのだからなかなか収拾がつかない。  ここは一番、声の大きなガーブラに騒ぎを納めてもらおう。「あー、静かに、静かにっ!」 すげーでけー声で突然言われたので、中央広場はしんと静まりかえる。  先生に一喝されてしゅんとなる児童みたいだ。「みんなにも色々意見はあると思うけど、村は当初から自治独立を目指していた。この件については一応全員説明を受けていたと思う」 説明を受けていたからと言って納得していたとは限らない。「王国の北西の僻地に隠れ里的な村があるらしい」 的な噂を頼りに戦火を逃れてきたような人たちが、「すわ、男爵が徴税に来たから武力で追い返すぞ」 なんて言われても「おいおい待ってくれ、俺たちは戦いから逃げてきたんだ。おとなしく税を払ってなにが問題なんだ?」 とか思っても仕方ない。  でも、納税したからと言って安泰なんてありえない。  『ご領主様』の要求なんてエスカレートするのが前提だ。  やがて税額が高騰する。  戦ってのはとにかく金がかかるものだ。  前世日本では米本位制の期間が長くて歴代政府は主に米で税を徴収していた。  教科書では江戸時代の年貢は一般に五公五民と教わった。  実際には中期以降四公六民だったみたいだけど、実に収穫量の半分を徴収されていたことになる。  ところが安土桃山時代、例えば有名な太閤検地後の年貢率は基本「領主が三分の二」という法令が出ていた。  戦国の時代が収束してなお、三分の二も持って行かれていたのだから、戦国期はどれだけ取られていたか判ったもんじゃない。  もちろん、地域によって条件も違っていて、穀倉地帯なら五公五民だったかもしれないけど、土地の痩せたところでは八割持って行かれてい

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    開いた口が塞がらないとはまさにこのこと

     村の税は秋に穀物で納税していた。  収穫量ではなく畑の大きさで収める量が決められていて、例年だと収穫量の四割くらいを納めていたはずだ。  これが不作の年なら収穫量が減るわけで、僕が十二歳の年は総収穫量の六割近くを徴税されて大人たちが青くなってた。  納税額が三割り増しになったら平年どおりの収穫量だったとしても半分以上をもっていかれることになる。  数字でしかものを見ていないだろ。  こっちは生活がかかってんだ。  そんな横暴許されると思ってるんなら、早晩下から追い落とされるんだからな。「しかと申し渡したぞ」 若様はそれだけ言い残してとっとと帰っていく。  お連れのおじさんはじっと僕を見下ろしてこう言った。「これでも他領に比べるとましな方と聞いた。戦をしているところなど……いや、お前に言っても詮ないな」 この人は話が通じそうだ。「あの、お名前は?」「ワシか? ズラカルト男爵様の側近オルバック様に使えるルビレルだ。お世継ぎ様の失礼はワシが謝る。では」 と、頭を下げて後を追う。  苦労してるんだな。  うん、ありゃあ典型的な世間知らずの坊ちゃんだ。  都市からも出たことがないと見た。  この旅が初めてで田舎のあばら家(この村は違うけど)は汚くて入りたくないとか思ってたんだろ?  だからって野宿もできそうにない。  てか、そもそも野宿の準備をしてたように見えないからな。  隣村まで歩きで三日くらいだったろ?  ホルスを飛ばしゃ日暮れまでには着くはずだ。  だから用件だけ済ましてとっとと帰ったんだぜ、きっと。 さて。 僕はリリムを見る。「なに?」「秋までの時間が稼げた」「うそ? あんなやり取りで?」「な? あんなやり取りでさ」「でも、秋までなのね?」「それは仕方ないな。覚悟してたことだ。だけど、デッドラインが決まったことは悪いことばかりじゃない」「そうなの?」

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    紅顔の小太り

    「そこの男、止まれ!」 と、使者の一人が鋭く僕を呼び止める。  肩をすくめてビクリとこわばる。  あ、これは演技じゃない。  なにせこちらは丸腰の農夫、向こうはホルス上で帯剣した男爵の部下だ。  こわごわとゆっくり振り向くと、相手は紅顔のでっぷり肥えた少年と白髪交じりのおじさんだった。「この村のものだな?」 高圧的な態度なのは少年の方。  いやいや、使者なんて仕事についてることを考えれば成人してるか。  一年目の新兵か、いいとこ自分と同年ってとこだろうな。「はぁ……」 と、曖昧に応えとこう。  リリムが僕の横で腹を抱えて笑ってる。  チッ、いい気なもんだよ。「村長を呼べ!」 おやおや、それでいいんですか?  どうやって、中に入れずに済ますか考えてたのに。「あー、それ、僕です」 ここは素直に答えとくべきだろう。「なに!?」 あー……いつものリアクションですね。  いいんですよ、慣れてますから。「この村の唯一の生き残りで、それが縁で村長させてもらってます」「そうか」 と応えたのはおじさん使者の方。  鞍や身につけているものが若い方より質素なのは身分の差だろうか?  だとすれば若様のお目付役ってとこか。  交渉の一切は若様がやるらしい。「なら話が早い。村が復興したと聞いてきた。事実か?」 下手か?  交渉ド下手か!?「……復興ってのがどういうものか知りませんがね、野盗や戦を避けてやってきた人たちが住み着いてるのを復興っていうならそうなんでしょう?」 リリム、気になるから僕の視界に入らないで。  できれば笑い声も抑えてくんないかな?  今後を左右する大事な駆け引きやってんだからさ。「では、今年から税を納めてもらおう」 オフゥ……なんだその説明一切吹っ飛ばした結論のみの伝達は。  

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    五日ぶりの温かい飯

    「で、僕のステータスはどうやったら確認できるの?」「なにそれ、美味しいの?」 え?「うそうそ、そんな便利機能現実世界にあるわけないじゃない」 だよねー。「数値が知りたいなら体力測定とかIQ検査でもしてみる?」「それって実際あてになるの?」「参考程度には」 だめじゃん、そんなの。「まぁまぁ。ホラ、そろそろ準備始めなきゃまた木の上で寝ることになるよ」 リリムに言われて気がついた。  お日様がだいぶ西に傾いているらしく、僕の影

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    泣ぬれるは枝の上

    「逃げたのはガキ一匹か」 と、僕の真下で傷だらけのごつい男が言っている。  こいつが盗賊団の頭目と見た。「へい、多分」「多分だと!?」「へ、へ……」 あたふたした下っ端が頭目にぶん殴られ、仰向けにぶっ倒れる。  気絶してろ!  盛大に気絶してろよ、でなきゃここにいることがバレる。  僕の祈りは天に通じたのか、そいつは白目をむいて動かない。「このさらに奥に行ったかもしれませんぜ」「ならいい」 頭目は、一言吐き捨てて踵

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    晩秋の枝の上で八方塞がり

     さて、ここからは前世の記憶をフル活用だ。  襲ってきたのは、十数人の盗賊団。村には女子供を含めて三十人ちょっと。ここは本当に農村の一集落だった。  ん? この世界は前世知識的にどれくらいの文明水準なんだ?  くそっ、ど田舎の未成年じゃ参照知識がなさすぎる。  異世界転生ものならそれなりの環境に生まれ直させろっての。  ──って言っても仕方ないわけで、そもそもテンプレの神様にあった記憶がない。  現世の記憶を手繰り寄せてもなろう系のお作法である知ってるゲーム世界的な場所でもなさそうだ。  あ、もっとも僕、

  • 僕だってチートがあれば苦労なんてしていない    朱夏-ある中年のつぶやき-

    「人生やり直せたらなぁ……」 そう思っていたことが僕にもありました。 ありましたが……。 だからってこれはないんじゃないでしょうか? こんな状態で前世の記憶が蘇るとか、神様の仕業だとしたら「あんたバカぁ!?」って罵ってやりたい。 いいや、一発殴らせろ。 こんな切羽詰まった状態だが、現在の状況を冷静に確認分析だ。 まず、ここは村はずれの雑木林をちょっと入

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