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Ep.4 学校という試練

Author: いろは杏
last update Petsa ng paglalathala: 2026-05-13 11:00:00

朝、鏡の前で女子制服を着た自分を見つめる。

どう見ても、普通の女子高生だ。

「本当に、僕なんだよね……」

呟いてみても、高くなった声が残酷な現実を突きつけてくる。

「翼、準備はできた?」

理子先輩が部屋の外から声をかけてくれる。今日から、女子として学校生活が始まるのだ。

「はい……でも、やっぱり不安です」

「大丈夫よ。何かあったら、すぐに私を呼んで」

理子先輩の力強い言葉に、少しだけ勇気をもらう。

「――やってみます」

* * *

学校の校門をくぐる時、心臓が破裂しそうなくらいドキドキしていた。

通学路では、すれ違う男子生徒たちの視線がやけに気になった。

「翼、緊張してる?」

「少し……」

「大丈夫。私が一緒にいるから」

理子先輩の優しさが、今日も僕を支えてくれる――そう思いながら、まずは職員室に向かった。

「おはようございます」

担任の田村先生と校長先生が、端の方にある打合せスペースで待っていてくれた。

「白石さん、おはよう。そして……佐藤、で間違いないんだな?」

理子先輩はあらかじめ電話で事情を説明してくれていたようで、改めて僕たちの口から詳細を話した。実験事故のこと、今の身体の状況のこと、これからのサポートのこと。

「なるほど……本当にそんなことが。大変でしたね。学校としては、できる限りの配慮をさせていただきます」

校長先生の理解ある言葉に、僕は安堵した。

「体育の授業や健康診断など、特別な配慮が必要な場面もあると思いますが……」

「もちろんです。佐藤くん、いや、佐藤さんが安心して学校生活を送れるよう、我々も最大限協力します」

田村先生も力強く頷いてくれる。

「ありがとうございます」

その時、職員室の扉が開いた。

「失礼します。2年C組の鍵を取りに――」

入ってきたのは、桜井さんだった。

「あ……」

桜井さんと目が合う。僕を見て、不思議そうに首を傾げている。

「桜井、ちょうどよかった。少し頼みがあってな――」

田村先生が桜井さんを呼ぶ。

「実は、佐藤の学校生活をサポートしてもらえないか? 同じクラスの女子として」

「え……っと、どういう……?」

桜井さんが、戸惑ったように僕を見る。その瞬間、僕の目元や顔立ちを見て、何かに気づいたような表情を見せた。

「あの……もしかして……翼、くん? 本当に……?」

「う、うん……」

僕は小さく頷いた。

「実は……ちょっと特殊な事故で、完全に女性の身体になっちゃったみたいで……」

「信じられない……でも、面影があるし……」

桜井さんはしばらく目を丸くして言葉を失っていたが、やがて優しく微笑んで頷いた。

「……わかりました。どこまで力になれるかわかりませんが……私でよろしければ」

「ありがとう、桜井さん」

嫌な顔一つせず受け入れてくれた彼女に、僕は心から感謝した。

* * *

桜井さん、それから担任の田村先生と一緒に教室に向かう。

「……あの、本当に翼くんなんだね……まだ信じられないけど」

「僕も、全然慣れなくて……」

「でも……その、とても可愛いと思う……よ」

桜井さんの言葉に、一気に顔が熱くなる。

「あ、ありがとう……」

教室の前で立ち止まる。

――いよいよだ。

「それじゃあ、桜井は先に教室に入ってくれ。佐藤は……とりあえず事情を説明するから、俺の後に続いてくれ」

田村先生がそう言うと、桜井さんは後ろのドアから教室へと入っていく。

僕は田村先生に続いて、前のドアから教室へと足を踏み入れた。

クラスメイトたちの視線が一斉に僕に集まる。

「あれ? 新しい子?」

「転校生? すげー可愛い!」

ざわつくクラスメイトの反応を尻目に、田村先生が教壇に立ち、口を開く。

「おはようさん。今日はちょっとばかし、大事な話がある」

先生がそう言うと、教室が静まり返る。

「色々と配慮して隠すこともできたが、本人の希望もあって包み隠さず話す。実は……信じられないだろうが、佐藤は特殊な事故により、女性の身体になってしまった。ここにいるのが、あの佐藤翼だ」

「えぇぇぇぇ!?」

教室が爆発したような大騒ぎになった。

「嘘でしょ!?」

「マジで!?」

「佐藤って、あの佐藤くん!?」

僕は田村先生に促されるようにして、教壇の中央へ進み出る。

「僕は……今説明してもらった通り、佐藤翼です。改めて……よろしくお願いします」

元々高くなった声が、緊張で上ずったことでより一層高くなる。

「本当に翼くんなの!?」

クラスメイトの女子が前のめりになって聞いてくる。

「はい……信じられないかもしれませんが」

「すげー! 本当に女の子になってる!」

「でも、どうして!?」

「えっと、それは……ちょっとした化学薬品のアレルギー反応みたいな事故で……」

理子先輩に迷惑がかからないよう、少し言葉を濁して説明しようとしたが、興奮したクラスメイトたちから質問が次々と飛んできた。

「どのくらい変わったの?」

「痛くなかった!?」

「気持ちも女の子になったの?」

「恋愛対象は変わった!?」

予想以上に踏み込んだ質問ばかりで、僕は完全に困惑してしまった。

「えーっと……」

「トイレはどうすんの?」

「お風呂は!?」

特に、男子からの質問がどんどんエスカレートしていく。

「胸はあるの?」

「ちょっと触らせてよ!」

「女の子の身体ってどんな感じ? 自分で触って気持ちいいの?」

あまりにも無神経でデリカシーのない質問に、僕は顔を真っ赤にして固まってしまった。

「あの……それは……」

答えられない。どう答えていいのかわからないし、恥ずかしくて泣きそうだ。

桜井さんも、オロオロとしてどうフォローしたらいいのか困っているようだった。

――その時だった。

「おい、いい加減にしろよ!」

怒気を孕んだ大きな声が教室に響いた。

親友である大輔が立ち上がり、机をドンッと叩いていた。

「大輔……」

「翼が困ってんじゃねえか。そういうデリカシーない質問はやめろ!」

大輔が、ニヤニヤしていた男子たちを鋭く睨みつける。

「なんだよ、大輔だって気になるだろ?」

「友達を困らせて何が楽しいんだよ。空気読めよ」

大輔の正義感あふれる真っ直ぐな言葉に、男子たちもバツが悪そうに黙り込んだ。

「ありがとう……大輔」

僕は、助けてくれた親友に心から感謝した。

「おう……別に、当たり前のことしただけだし」

大輔はそっぽを向きながら、照れたように頭をかいた。

でも、その時の大輔の表情が、男時代の僕に向けていたものとは少し違って――どこか、女の子を扱うようなぎこちなさを含んで見えたのは、きっと僕の気のせいだろう。

* * *

「お前ら、そろそろ朝のホームルーム終わるから、授業の準備しろよ――」

田村先生の言葉で、ようやく怒涛の質問攻めが終わった。

「なんとか乗り切れた……」

自席に座ってほっと一息つくと同時に、黒板の時間割に目を向ける。

「げ……一時間目、いきなり体育の授業か……」

新たな不安が襲ってきた。女子として体育に参加するなんて、考えただけで恐ろしい。

「着替えは……女子更衣室だよね。女子たちも、中身が男の僕が入ってきたら嫌がるだろうし……どうしよう……」

「大丈夫だよ――」

隣の席の桜井さんが、優しく声をかけてくれる。

「私も一緒にいるし。翼ちゃんはもう立派な女の子なんだから、女子更衣室で着替えるのは自然なことだよ」

「でも……」

「美月ちゃんの言うとおり! あたしらは気にしないって!」

前の席の女子からも、明るい声がかかる。

「男子に覗かれたりリークしたりしたら怒るけど、翼ちゃんならむしろ歓迎かも?」

「ええっ……」

からかうような笑顔に、少しだけ肩の力が抜けた。

「ありがとう、みんな」

僕は素直に感謝した。

大輔への感謝の気持ち、桜井さんのサポート、そして理子先輩との約束。

みんながいてくれるから、きっと大丈夫。

そう思いながら、僕は不安と期待が入り混じる、最初の授業に向かう準備を始めたのだった。

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