部屋は静まり返っていた。 悟はソファへ座ったまま、スマートフォンを見つめていた。 画面は暗いまま。 もう電話が鳴ることはない。「……終わった」 佳苗の声は優しかった。 責めることも、怒鳴ることもなかった。 だからこそ痛かった。『私には、もう何もできません』 その一言が何度も頭の中で繰り返される。「当たり前だよな……」 思わず苦笑が漏れる。 助けてもらえると思った自分が、おかしかった。 佳苗はもう、自分の人生を歩いている。 そこへ今さら踏み込む資格などない。 そのとき、スマートフォンが震えた。 画面には、恵 の文字。 悟は慌てて電話へ出る。「恵!」『……何』 どこか面倒そうな声だった。「今、少し話せるか?」『用件だけ言って』 悟は一瞬ためらった。「会社で問題が起きて……」『ふーん』 興味のない返事。「自宅待機になった」『それで?』「少し気分が滅入っててさ……」 電話の向こうで、小さくため息が聞こえた。『私にどうしろって言うの?』「いや……」『この前、自分で言ったよね』 恵の声が冷たくなる。『もう俺には関係ないって』 悟は言葉を失った。『私も同じ』『もう私には関係ないから』 その一言で、胸が締めつけられる。「恵……」『それじゃ』 プツッ。 通話は一方的に切れた。「……」 悟はしばらくスマートフォンを耳へ当てたまま動けなかった。 誰も助けてくれない。 佳苗も。
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