分享

処分

作者: 影畑凛星
last update publish date: 2026-08-10 17:19:06

 三日後。

 悟は再び会社へ呼び出されていた。

 応接室の扉を開くと、部長と人事部長、それに内部監査担当者が席についている。

「失礼します」

 悟は静かに頭を下げ、椅子へ腰を下ろした。

 重苦しい沈黙が流れる。

 やがて人事部長が口を開いた。

「藤倉さん」

「はい」

「内部監査の結果ですが、経費処理において不適切な申請が複数確認されました」

 悟は黙って頷く。

 もう結果は分かっていた。

「また、ご本人からも事実関係について認める発言がありました」

 机の上に一枚の書類が置かれる。

「会社として協議した結果、本日付で懲戒解雇といたします」

 その一言で、部屋が静まり返る。

「……はい」

 悟は驚くほど冷静だった。

 覚悟はしていた。

 だから叫ぶことも、取り乱すこともなかった。

在 APP 繼續免費閱讀本書
掃碼下載 APP
已鎖定章節

最新章節

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   消えてほしいんでしょう?

    「佳苗さん、本当は私に消えてほしいんでしょう?」 絢子は涙を浮かべたまま、佳苗を見つめた。「雄吾さんの前からも。おばさまの前からも」「違います」 佳苗ははっきり答えた。「そんなこと、一度も思っていません」「でも、私が雄吾さんと一緒にいると嫌なんでしょう?」「二人きりで食事をしたり、必要以上に触れたりするのは嫌です」 絢子の顔が強張った。 以前なら、ここでも曖昧にしていた。 けれど佳苗はもう逃げなかった。「だって一条さんは、自分でも言いましたよね。今も雄吾さんを好きじゃないとは言い切れないって」「……」「そんな人が私の恋人に触れるのを嫌だと思うことと、一条さんに消えてほしいと思うことは同じじゃありません」「佳苗さん……」「お母様と会うことなんて、もっと関係ありません」 美佐子が黙って佳苗を見ている。「だから、私が言っていないことまで私の気持ちにしないでください」「……ごめんなさい」 絢子は俯いた。「やっぱり私、邪魔なのね」「だから!」 思わず佳苗の声が大きくなる。 絢子の肩がびくりと揺れた。 周囲の視線が集まる。「佳苗」 雄吾がそっと佳苗の肩に手を置いた。 佳苗は唇を噛んだ。「……すみません」「違う。謝らなくていい」「でも……」「同じ話を繰り返してるだけだ」 雄吾は絢子を見る。「佳苗は、消えろとは言ってない」「……」「なのに絢子は、何を言われてもそこへ話を戻す」「そんなつもりじゃないわ」「じゃあ、佳苗が言ったことだけ聞け」 絢子は何も答えなかった。     ◇「今日はもう帰るわ」 しばらくして、絢子がバッグを手に取った。「絢子ちゃん」 美佐子が心配そうに立ち上がる。「大丈夫です、おばさま」「でも……」「私がいたら、また雰囲気を悪くしてしまうから」「そんなことないわ」「ありがとうございます」 絢子は寂しそうに微笑んだ。「でも、少し一人になりたいんです」「送るわ」「大丈夫です」「こんな状態で一人にできないでしょう?」 美佐子が言う。 絢子は一度断ったものの、最後には小さく頷いた。「……じゃあ、駅まで」「ええ」 美佐子が佳苗を見る。 その表情には、先ほどまでの険しさはなかった。 けれど困惑は残っていた。「佳苗さん」「はい」「ごめんなさいね。私も少し

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   私が追い出したの?

    「佳苗さんを責めないでください」 絢子の言葉が、佳苗の胸に重くのしかかった。 美佐子は困惑した表情のまま、佳苗を見る。「でも……私にはよく分からないわ」「母さん」「雄吾は少し黙っていて」 美佐子は息子を制した。「佳苗さん。あなたが絢子ちゃんを嫌なのは分かるの」「嫌だなんて……」「だって、不安なんでしょう?」「それは……」 否定できなかった。 絢子が今も雄吾を好きかもしれないと知ってから、不安になったのは事実だ。「でも、それとお母様とのことは関係ありません」「だったら絢子ちゃんは、今まで通り私に会ってもいいのよね?」「もちろんです」 佳苗は即座に答えた。「私にそんなことを決める権利はありません」「ほら、絢子ちゃん」 美佐子が絢子の手を握る。「佳苗さんもこう言ってるでしょう?」「……はい」 絢子は小さく頷いた。 けれど、その表情は晴れなかった。「でも、やっぱりしばらくは控えます」「どうして?」「これ以上、誰かを傷つけたくないから」「一条さん」「佳苗さんは優しいから、きっと嫌でも嫌だって言えないでしょう?」「……え?」「だから、私がちゃんと考えないと」 佳苗は言葉を失った。 自分が「会っていい」と言っても。 それすら本心ではないことにされてしまう。「違います」 佳苗は首を横に振った。「本当に、お母様と一条さんのことは関係ありません」「ありがとう」 絢子は寂しそうに微笑んだ。「そう言ってくれるだけで十分よ」「そうじゃなくて――」「もういい」 雄吾の低い声が響いた。 佳苗が振り返る。 雄吾は絢子を見ていた。「絢子。佳苗が関係ないと言ってるんだから、それ以上勝手に佳苗の気持ちを決めるな」「……勝手に?」「ああ」「私はそんなつもりじゃ……」「さっきからそうだろ」 雄吾は淡々と続けた。「佳苗は母と会うなとは言ってない。仕事から外れろとも言ってない。なのに全部、佳苗を理由にしてる」「それは、私が気を遣って――」「頼まれてもいないのに?」 絢子が黙る。「雄吾」 美佐子が険しい顔をした。「そんな言い方しなくてもいいでしょう?」「母さんこそ、佳苗に何を聞いてた?」「何って……」「絢子と会うのが嫌なのか。母さんと絢子が会うのも嫌なのか。全部、絢子が言い出したことだろ」「

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   私が悪かったんです

    「違うって言ってるでしょう!」 絢子の鋭い声が廊下に響いた。 佳苗は息を呑む。 絢子自身も、自分の声に驚いたように目を見開いた。「……ごめんなさい」 すぐに俯く。「大きな声を出して」「一条さん……」「でも、悲しかったの」 絢子の声が震えた。「佳苗さんなら、分かってくれると思ってたから」「……」「私、確かに雄吾さんのことが好きだったわ。今だって、完全に気持ちがなくなったのかって聞かれたら……分からない」 絢子の目に涙が浮かぶ。「でも、それってそんなに悪いこと?」「悪いなんて言ってません」「だったら、どうすればよかったの?」 絢子が佳苗を見る。「私は雄吾さんに気持ちを伝えてない。二人が付き合ってから、告白しようとしたことだって一度もない」「……」「雄吾さんと会ったときも、隠したくなかったから佳苗さんにちゃんと話したわ」「でも、それが私は――」「じゃあ、黙っていればよかった?」 佳苗の言葉が止まった。「雄吾さんと二人で食事をしても、送ってもらっても、仕事で夜まで一緒にいても。佳苗さんには何も言わずにいた方がよかったの?」「それは……」「あとから知ったら、もっと嫌だったでしょう?」 返せない。 確かに、そうだったかもしれない。「だから私は全部話したの」 絢子の頬を涙が伝った。「隠れて会っているって思われたくなかったから」「……」「それなのに、全部悪意だったって言われたら……私はどうすればよかったの?」「絢子」

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   その顔を知ってしまった

     絢子の顔に浮かんだ苛立ちは、ほんの一瞬だった。「……ひどいわ」 次の瞬間には、いつもの柔らかな表情へ戻っている。「私が雄吾さんを試すなんて」「じゃあ、何をしたかった?」「だから、昔みたいに――」「それをやめろと言ってる」 雄吾の声は冷たい。「昔は昔だ」「……分かってるわ」「分かってないから、こんなことしてるんだろ」 絢子が黙り込む。 佳苗は物陰から、二人のやり取りを聞いていた。 本当なら、ここにいることを知らせるべきなのかもしれない。 けれど動けなかった。 さっき見た絢子の顔が、頭から離れない。(今の……) 見間違いではない。 雄吾に拒絶された瞬間。 絢子は確かに苛立っていた。「雄吾さんは」 絢子が静かに口を開く。「佳苗さんと出会ってから、本当に変わった」「そうかもな」「昔は、私が何をしてもそんな顔しなかったのに」「だから?」「……寂しいって思うくらい、いいでしょう?」 絢子の声が震えた。「ずっと友達だったんだから」「友達だからこそ、今の俺の立場を理解してくれ」「……」「俺には佳苗がいる」 はっきりと告げられる。「佳苗が嫌がるような距離で接するつもりはない」「分かったわ」 絢子は俯いた。「ごめんなさい」 その声は弱々しい。 いつもの絢子だった。 けれど佳苗には、もう以前と同じようには見えなかった。     ◇「先に戻る」「あ……」 雄吾がこちらへ歩いてくる。 まずい。 そう思ったときには遅かった。 曲がり角を曲がった雄吾と目が合った。「佳苗?」「……」「どうした?」 その声に、絢子も顔を上げる。「佳苗さん……?」 三人の間に、沈黙が落ちた。「ごめんなさい」 佳苗は小さく頭を下げた。「聞くつもりはなかったんです。でも、声が聞こえて……」「どこから?」「……途中からです」 絢子の顔がわずかに強張る。「そう……」「一条さん」「なあに?」 佳苗は迷った。 今までなら、何も言わなかっただろう。 けれど。「どうして、雄吾さんに触ろうとしたんですか?」 絢子が目を見開いた。「え?」「さっきもネクタイを直そうとしていましたよね」「それは……」「雄吾さんが嫌がったのに、どうしてまた?」「佳苗」 雄吾が何か言おうとする。 けれど佳苗は、絢

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   昔の癖

     数日後。「今度の土曜日、母の付き合いで食事会がある」 夕食を終えたところで、雄吾が口を開いた。「来るか?」「お母様の?」「ああ。堅い会じゃない。母の知人が何人か集まるだけだ」「私が行ってもいいんですか?」「母が佳苗も連れてこいと言ってる」 佳苗は少し迷った。 美佐子とはもっと話をしたい。 前回はいろいろあったものの、自分を嫌っているわけではないことも分かっている。「行きます」「そうか」「はい」 雄吾が頷く。「絢子も来ると思う」 佳苗の表情がわずかに止まった。「……一条さんも」「ああ」「分かりました」「嫌なら――」「大丈夫です」 佳苗は首を横に振った。「一条さんがいるから行きたくない、とは思いません」 以前なら、自分に言い聞かせるための言葉だったかもしれない。 けれど今は少し違う。 絢子が何をするのか。 自分自身の目で見てみたい。 そんな気持ちも生まれていた。     ◇ 土曜日。 食事会が開かれたのは、ホテルのレストランにある個室だった。「佳苗さん、来てくれたのね」 美佐子が嬉しそうに迎えてくれる。「お招きいただいてありがとうございます」「今日は気楽にしてね」「はい」 すでに何人かの客が集まっていた。 そして、その中には――。「佳苗さん」 絢子もいた。「こんにちは」「こんにちは、一条さん」 久しぶりに顔を合わせる。 絢子は以前と変わらない笑顔だった。「この前はごめんなさいね」「……

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   初めて見えた本音

     その夜。「一条さんに、言いました」 夕食のあと、佳苗は雄吾にそう報告した。「何を?」「昨日のことです」 佳苗は少し緊張しながら続ける。「雄吾さんが言っていないことを、言ったように私へ伝えるのはやめてくださいって」「そうか」「……怒ってませんか?」「なんで俺が怒るんだ?」「だって、一条さんとは昔からのお友達ですし」「それとこれとは関係ない」 雄吾はきっぱりと言った。「事実と違うことを伝えられて嫌だったなら、そう言っていい」「……はい」 佳苗は少しだけ笑った。 以前なら、こんなことはできなかった。 誰かを不快にさせるくらいなら、自分が我慢すればいい。 そう思っていたから。「絢子からも電話があった」「え?」 佳苗の表情が変わる。「何て……?」「仕事の担当を外れた方がいいと思うって」「どうして?」「佳苗が嫌がっていると思うから、だそうだ」「そんなこと、私……!」「分かってる」 雄吾が遮る。「だから言った。佳苗を理由にするなって」「……」 まただった。 絢子は自分が何も言っていないことまで、自分の気持ちとして雄吾へ伝えようとしている。「私、一条さんに近づかないでなんて言ってません」「ああ」「仕事をやめてほしいとも」「分かってる」「なのに……」 佳苗はそこで言葉を止めた。 今までなら。『一条さんは私を気遣ってくれただけ』 そう考えただろう。 けれ

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   監視する妹

     ホテルへ入る佳苗と雄吾。 暗い夜道で撮られたはずなのに、驚くほど鮮明だった。「……どうして」 佳苗の指先が震える。 まるで誰かに見張られていたみたいだった。『ねぇお姉ちゃん』『その人、誰?』『もしかして浮気?』 次々届くメッセージ。 佳苗は顔を青ざめさせた。 浮気。 その言葉に胸が痛む。 裏切っていたのは悟たちの方なのに、なぜ自分が責められなければいけないのだろう。「見せろ」 雄吾が静かにスマホを受け取る。 メッセージ画面を見た瞬間、その目が冷えた。「……なるほど」「先輩」「撮られていたな」 低い声。 感情を押し殺したような響き。「どうしよう……」

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   今夜だけでも、俺を頼れ

    「俺は昔から、お前しか欲しくない」 低い声が耳元で響く。 佳苗は息を呑んだ。 車内の空気が熱い。 逃げ場がない。 雄吾の視線は真っ直ぐで、冗談の気配なんて微塵もなかった。「……先輩」 喉が震える。 理解が追いつかない。 昔から? ずっと? そんなはずない。 自分は特別な人間じゃない。 妹みたいに愛嬌があるわけでも、美人なわけでもない。 ただ都合よく利用されるだけの女だった。「信じられないか」 雄吾が静かに言う。 佳苗は答えられなかった。 すると雄吾は小さく息を吐き、身体を離す。「まあいい」「え……」「今すぐ答えを求める気はない」 その言葉に、佳苗は

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   監視されていた女

     もう二度と、お前をあいつらのところへ戻したりしない。 その言葉が、佳苗の胸に重く落ちる。「……どうして」 気づけば口にしていた。 雄吾が視線を向ける。「どうして、そこまでしてくれるんですか」 本当に分からなかった。 大学時代、少し関わりがあっただけ。 卒業後は一度も会っていない。 それなのに、この男は突然現れて、自分を助けると言う。 しかも、まるで最初から全部知っていたみたいに。「昔世話になった」 雄吾は短く答えた。「レポート、覚えてるか」 佳苗は目を瞬く。 大学二年の頃。 雄吾が長期入院していた時期があった。 単位が危ないと聞いて、佳苗は講義ノートをまと

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   逃がすつもりはない

    「やっと捕まえた」 耳元で囁かれた低い声に、佳苗の心臓が大きく跳ねた。 捕まえた。 その言葉は、優しいのにどこか危険だった。「榊原、先輩……?」 佳苗が戸惑う中、雄吾は佳苗の手首を掴んだまま、ゆっくり顔を上げる。 その視線の先には、こちらへ歩いてくる悟がいた。「佳苗!」 苛立った声。 悟は佳苗を見るなり、露骨に顔をしかめた。「何やってんだよ」 だが次の瞬間、雄吾の姿に気づき、動きが止まる。「……誰?」 警戒した声音。 雄吾は答えない。 ただ静かに佳苗の前へ立った。 庇うように。 その背中の広さに、佳苗は息を呑む。「佳苗、こっち来い」 悟が手を伸ばす。 

更多章節
探索並免費閱讀 優質小說
GoodNovel APP 免費暢讀海量優秀小說,下載喜歡的書籍,隨時隨地閱讀。
在 APP 免費閱讀書籍
掃碼在 APP 閱讀
DMCA.com Protection Status