All Chapters of 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています: Chapter 301 - Chapter 310

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気になる会社

 パーティーがお開きとなり、招待客たちが次々と帰路につく。「今日はありがとうございました」 佳苗も一人ひとりに頭を下げながら、会場を後にしようとしていた。「朝倉さん」 後ろから声を掛けられる。 振り返ると、西園寺が笑顔で立っていた。「今日はお疲れ様でした」「西園寺さんも、お疲れ様でした」「少しお話しできて嬉しかったです」「私もです」 西園寺は名刺を一枚差し出した。「もし何か困ったことがあれば、いつでもご連絡ください」「えっ?」 佳苗は驚いて目を丸くする。「私にですか?」「はい」 西園寺は柔らかく微笑んだ。「社長は仕事になると周りが見えなくなることがありますから」「そんなときは、朝倉さんにお伝えした方が早い気がして」 佳苗は思わず笑ってしまった。「分かりました」「よろしくお願いします」 二人は連絡先を交換し、笑顔で別れた。     ◇ 一方その頃。 ホテルのラウンジでは、一人の男性が電話を終えようとしていた。「ありがとう、助かった」 通話を切ると、小さく息をつく。「そうか……」 手元には、来月以降の取引予定企業の資料が置かれていた。 その中の一社に、男性の視線が止まる。「内部監査、か」 最近、その会社について気になる話を耳にしていた。 経理処理に不自然な点があり、社内で調査が始まるらしい。 まだ噂の段階で、事実かどうかは分からない。 しかし、取引を控えている以上、念のため情報は集めておく必要がある。「まあ、こちらには関係ない話ならそれでいいが……」 男性は資料を閉じる。 その時点では、ただの仕事の一つに過ぎなか
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変わったね

 マンションへ戻る頃には、夜もすっかり更けていた。「お疲れさま」 玄関のドアを開けながら、雄吾が優しく声を掛ける。「今日は本当に頑張ったな」 佳苗は靴を脱ぎながら照れくさそうに笑う。「緊張しすぎて、まだ夢みたいです」「そうか?」「はい」 リビングへ入ると、佳苗は思わずソファへ腰を下ろした。「ふぅ……」 ようやく緊張の糸が切れたようだった。 雄吾はキッチンへ向かい、二人分の温かい紅茶を用意する。「ほら」「ありがとうございます」 湯気の立つカップを両手で包み込むと、不思議と心が落ち着いていく。 しばらく静かな時間が流れた。 先に口を開いたのは雄吾だった。「今日はどうだった?」 佳苗は少し考えてから微笑む。「最初は、皆さんに嫌われるんじゃないかと思っていました」「でも」 今日出会った人たちの顔が浮かぶ。 山岡。 西園寺。 女性社員たち。 誰一人として、佳苗を見下したり、冷たく接したりはしなかった。「皆さん、とても優しかったです」「それは佳苗が誠実だったからだ」 雄吾は迷いなく言う。「違います」 佳苗は小さく首を振った。「きっと、雄吾さんのおかげです」「俺?」「皆さん、雄吾さんを信頼しているのが伝わってきました」 だからこそ、その恋人である自分にも温かく接してくれた。 そう思えた。 雄吾は少しだけ考えるような表情を浮かべ、それから穏やかに笑う。「半分はそうかもしれない」「え?」「でも、残り半分は佳苗自身だ」 今日、佳苗は誰に対しても笑顔で挨拶をし、相手の話をきちんと聞いていた。 取り繕うことも、背
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新しい一週間

 週が明けた月曜日。 佳苗はいつものように出勤すると、デスクへ鞄を置いた。「おはようございます」「おはよう、朝倉さん」 同僚たちが笑顔で挨拶を返してくれる。 以前はそれだけで緊張していた。 けれど今は、自然に笑顔を返せるようになっていた。「朝倉さん」 朝礼が終わると、課長が佳苗を呼び止めた。「少し時間ある?」「はい」 応接スペースへ移動すると、課長は一枚の資料を差し出した。「今度、新しい取引先を担当してもらおうと思ってる」「私がですか?」 佳苗は目を丸くした。「まだ早いんじゃ……」「いや」 課長は笑って首を振る。「この前の件、よくやってくれたからね」 例の取引先とのトラブル。 佳苗が最後まで諦めず対応したことで、大きな問題にならずに済んだ。「あれを見て、任せても大丈夫だと思ったんだ」 佳苗は驚きを隠せなかった。「ありがとうございます」「もちろん一人じゃないよ」 課長は安心させるように続ける。「最初は私も一緒に行く」「分からないことがあれば、その場で聞けばいい」 佳苗はほっと胸を撫で下ろした。「よろしくお願いします」「こちらこそ」 課長は満足そうに頷いた。     ◇ 昼休み。 佳苗は社員食堂で昼食を取っていた。「朝倉さん」 声を掛けられ、顔を上げる。「あ、一ノ瀬さん」 同じ部署の女性社員だった。「隣、いい?」「もちろんです」 一ノ瀬はトレーを置きながら笑う。「課長から聞いたよ」「新しい担当、おめでとう」「ありがとうございます」 佳苗は少し照れくさそうに笑った。「でも、まだ不安で……」「最初はみんなそうだよ」 一ノ瀬は気さくに言う。「朝倉さん、真面目だから頑張りすぎちゃうけど」「肩の力を抜いた方がうまくいくこともあるよ」「そうですね」 佳苗は素直に頷いた。 以前なら、一人で抱え込んでいただろう。 でも今は違う。 相談できる人がいる。 頼ってもいいと思える人がいる。 そんな環境が、少しずつ佳苗を変えていた。     ◇ その頃――。 別の会社では、一冊のファイルが机の上へ置かれていた。「部長」 若い社員が資料を差し出す。「先日お話しした件です」「内部監査の資料になります」 部長は静かにファイルを開く。 そこには複数の伝票のコピーと、赤字で
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不穏な動き

「朝倉さん」 午後になり、課長が佳苗を呼んだ。「来週の取引先訪問だけど、先方の都合で日程が変更になったよ」「そうなんですか?」「うん。その代わり、別件で一つお願いしたい仕事がある」 課長は一冊のファイルを差し出した。「この資料、内容を確認して簡単にまとめてもらえる?」「はい」 佳苗は両手で受け取る。「ありがとうございます」「急ぎじゃないから、分からないところがあったら聞いてね」「はい」 佳苗は自席へ戻ると、さっそく資料を開いた。 以前なら、見慣れない書類を見るだけで身構えていただろう。 けれど今は違う。「まずは読んでみよう」 落ち着いて一枚ずつ目を通していく。 分からない用語があればメモを取り、あとで質問する。 そんな余裕も少しずつ生まれていた。「朝倉さん」 一ノ瀬が通りかかる。「順調?」「はい。まだ時間はかかりますけど、前より楽しくなってきました」「それならよかった」 一ノ瀬は嬉しそうに笑った。「朝倉さん、本当に変わったね」 その言葉に、佳苗も少し照れくさそうに笑う。「そうでしょうか」「うん」「最初の頃は、いつも『私なんか……』って言ってたもん」「……あ」 言われてみれば、その通りだった。 失敗する前から諦めて。 自分には無理だと決めつけていた。「今はちゃんと挑戦してる」「その違いは大きいよ」 佳苗は小さく頷いた。「ありがとうございます」     ◇ その頃――。 悟の勤務先では、会議室のドアが静かに閉まる。「それでは始めます」 内部監査担当者
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呼び出し

 会議が終わると、社員たちは重い足取りで席へ戻っていった。「まさか内部監査なんてな」「珍しいよな」 そんな声があちこちで聞こえる。 悟も平静を装いながら自席へ戻った。(大丈夫だ)(まだ俺だと決まったわけじゃない) そう自分に言い聞かせる。 だが、パソコンを開いても仕事に集中できない。 頭の中では、あの日処理した伝票のことばかりが浮かんでいた。 そのときだった。「藤倉さん」 顔を上げると、総務部の女性社員が立っていた。「部長がお呼びです」「……今ですか?」「はい」 心臓が大きく脈打つ。「分かりました」 立ち上がる足が少しだけ重かった。     ◇ 部長室のドアをノックする。「失礼します」「入ってくれ」 部長はいつもと変わらない表情だった。「座って」「はい」 悟は向かいの椅子へ腰を下ろす。 机の上には数冊のファイルが積まれていた。「そんなに緊張しなくていい」 部長は苦笑する。「今日は評価面談だ」「……評価面談?」 悟は思わず聞き返した。「ああ」 内部監査とは関係ないらしい。 胸をなで下ろす。「最近の仕事ぶりを確認したくてね」「はい」 部長は資料を見ながら話を続ける。「藤倉くんは仕事自体は早い」「ありがとうございます」「ただ、一つ気になることがある」 悟の背筋が伸びる。「経費処理や申請書類で、細かな修正が少し増えている」「え……」「大きなミスではない」 部長は穏
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説明してください

「藤倉さん、少しお時間よろしいでしょうか」 内部監査担当者は穏やかな口調だった。 だが、その一言だけで悟の背中に冷たい汗が流れる。「……はい」「会議室でお話しできますか」「分かりました」 悟は努めて平静を装いながら、担当者の後を歩く。 会議室のドアが閉まる。 中には監査担当者がもう一人と、総務部の社員が一人座っていた。「お忙しいところ申し訳ありません」「いえ……」 悟は椅子へ腰を下ろす。 机の上には数枚の伝票のコピーが並べられていた。「今日は確認したいことがあります」 担当者は一枚の書類を悟の前へ置く。「こちらの経費精算ですが、藤倉さんが処理されたもので間違いありませんか?」 悟は書類を見る。 見覚えがあった。「……はい」「ありがとうございます」 担当者は淡々と続ける。「では、この領収書について教えてください」 別のコピーが差し出される。「金額と添付資料に、一部食い違いが見られます」 悟の心臓が大きく跳ねた。(これか……) 表情だけは変えない。「確認不足だったのかもしれません」「なるほど」 担当者はメモを取る。「では、こちらはどうでしょう」 二枚目。 三枚目。 次々と書類が並べられる。 どれも、悟が処理したものだった。「偶然でしょうか」 担当者は穏やかな口調のまま言う。「同じ担当者の書類に修正が集中していまして」 悟は唇を噛む。「申し訳ありません」「まだ事実関係を確認している段階です」 担当者は静かに首を振
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逃げ場はなかった

 翌朝。 悟は重い気分のまま会社へ向かった。(昨日は確認だけだ)(まだ決まったわけじゃない) 何度も自分に言い聞かせる。 会社へ着くと、同僚たちはいつも通り仕事をしていた。「おはよう」「あ、おはようございます」 誰も普段と変わらない。 そのことに少しだけ安堵する。 しかし――。「藤倉さん」 背後から声を掛けられた。 振り返ると、昨日の内部監査担当者だった。「部長がお呼びです」「……今ですか」「はい」 昨日と同じ言葉。 だが今日は違う。 嫌な予感が胸を締めつけた。     ◇「失礼します」 部長室へ入ると、昨日とは空気が違っていた。 部長だけではない。 内部監査担当者も同席している。「座ってくれ」 悟は無言で椅子へ腰掛けた。 机の上には、一冊の分厚いファイル。 部長は静かに口を開く。「昨日、確認した件だが」「はい」「追加で調査したところ、同様の処理が複数見つかった」 悟の喉が乾く。「今日は、その説明をしてもらいたい」 監査担当者がファイルを開いた。「こちらをご覧ください」 机の上へ並べられていく書類。 一枚。 二枚。 三枚。 昨日より明らかに多い。「これらは、すべて藤倉さんが処理されたものです」 悟は息を呑む。「確認したいのですが」 担当者は静かに尋ねる。「なぜ同じような修正が繰り返されていたのでしょうか」 言葉が出ない。「藤倉さん?」 部長も真っすぐ悟を見る。「説
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自宅待機

「……確認不足でした」 悟はもう一度繰り返した。「私の確認が甘かっただけです」 担当者はその言葉を静かに記録する。「確認不足とのことですが」「はい」「こちらの処理は一件だけではありません」 机の上には何枚もの資料が並んでいる。「複数回にわたり、同様の処理が行われています」 担当者は淡々と続けた。「単純なミスなのか、それとも別の事情があるのか」「そこを確認する必要があります」 悟は何も答えられなかった。 部長も静かな声で口を開く。「藤倉くん」「はい……」「現時点で故意だと決めつけているわけではない」 その言葉に、悟は少しだけ顔を上げる。「だからこそ、これから詳しく調査する」「……」「その間、通常業務からは外れてもらう」 悟は目を見開いた。「え……?」「今日付で自宅待機とする」 頭の中が真っ白になる。「待ってください!」 思わず声が大きくなった。「まだ何も決まってませんよね!?」「決まっていない」 部長は冷静に頷く。「だから解雇ではない」「しかし、調査対象となっている以上、通常どおり経費処理を任せるわけにはいかない」 それは会社として当然の判断だった。 悟も反論できない。「必要があれば会社から連絡する」 部長は静かに告げる。「その間は、自宅で待機してください」 悟は力なく俯いた。「……分かりました」     ◇ 私物をまとめ、自席へ戻る。 周囲の社員たちは何も聞いてこない。 けれど、時折向けられる視線が痛かった。「藤倉さん」 隣の席の同僚が心配そうに声を掛ける。「大丈夫ですか?」「ああ……ちょっと調査が入ってるだけだから」 無理に笑ってみせる。 だが、その笑顔は自分でも引きつっていると分かった。 会社を出る。 まだ昼前だった。 平日の昼間に会社を出ることなど、入社以来初めてだった。「……はぁ」 行く当てもなく駅前を歩く。 周囲ではスーツ姿の会社員たちが昼食へ向かっている。 自分だけが、その流れから取り残されたような気がした。     ◇ マンションへ戻る。 鍵を開けても、「お帰りなさい」 と言ってくれる人はいない。 静まり返った部屋が迎えるだけだ。 ソファへ腰を下ろし、スマートフォンを取り出す。 誰かに話を聞いてほしかった。 けれど、連絡先を
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最後の頼み

 静かな部屋。 悟はスマートフォンを見つめたまま動けずにいた。 画面には、一つの名前。佳苗「……」 もう終わった相手だ。 自分から裏切り、傷つけ、捨てた相手。 今さら連絡する資格などない。 頭では分かっている。 それでも――。(佳苗なら……) 困っていると言えば、放っておけない。 そんな都合のいい考えが、頭をよぎる。「……違う」 悟は首を振った。 そんなことを考える資格は、自分にはない。 そう思いながらも、指は勝手に画面へ触れていた。 発信ボタンを押す。 呼び出し音が鳴る。 一回。 二回。 三回――。『……もしもし』 聞き慣れた声だった。 悟は思わず息を呑む。「佳苗……」『どうしましたか』 穏やかな声。 怒っている様子もない。 だからこそ胸が痛んだ。「少しだけ……話を聞いてくれないか」 電話の向こうが静かになる。『何かあったんですか』「会社で……少し問題があって」 悟は言葉を選びながら話す。「内部監査が入って、自宅待機になった」『そうですか』 短い返事だった。 以前の佳苗なら、『大丈夫ですか』『何か私にできることはありますか』 そう聞いてくれただろう。 だが今は違う。 しばらく沈黙が続いたあと、佳苗は静かに口を開いた。『それで、私に何をしてほし
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もう終わったことです

 電話を切ると、佳苗は静かにスマートフォンをテーブルへ置いた。「佳苗」 すぐ隣から、雄吾が優しく声を掛ける。「悟か?」 佳苗はゆっくりと頷く。「会社で問題があったそうです」「そうか」 雄吾はそれ以上、驚いた様子を見せなかった。「自宅待機になったと……」 佳苗は少しだけ俯く。「話を聞いてほしいと言われました」 雄吾は黙って続きを待つ。「でも……」 佳苗は小さく息を吐いた。「もう私には何もできませんって、お断りしました」 そう言ったものの、胸の奥が少しだけ重い。「これでよかったんでしょうか」 雄吾は静かに佳苗を見つめる。「佳苗」「はい」「一つだけ聞く」「……はい」「もし今日、俺と出会っていなかったら」「もし離婚もしていなかったら」「悟は佳苗を助けていただろうか」 その問いに、佳苗は言葉を失った。 考えるまでもない。 答えは分かっている。「……助けなかったと思います」 小さな声だった。 前世でも。 今世でも。 悟は佳苗が苦しんでいても、手を差し伸べることはなかった。 雄吾は穏やかに頷く。「佳苗は優しい」「だから困っている人を見ると、自分が助けなければと思ってしまう」「……」「だが、それと利用されることは別だ」 その言葉が、静かに胸へ染み込む。「今日の電話は」 雄吾は落ち着いた口調で続けた。「佳苗を心配して掛けてきたものじゃない」「自分が苦しくなったから、佳苗を思い出しただけだ」 佳苗は何も言えなかった。 否定できない。 もし悟が順調だったら。 
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