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家族だから

Author: 影畑凛星
last update publish date: 2026-08-30 14:55:40

 数日後。

 美佐子から佳苗へ、一通のメッセージが届いた。

『来月、主人の誕生日なの。佳苗さんも一緒にお祝いしてくれない?』

 佳苗は少しだけ緊張した。

 美佐子との関係は、以前よりぎくしゃくしている。

 それでも、雄吾の父親の誕生日なら断る理由はない。

『はい。ぜひ』

 そう返信した。

     ◇

「父さんの誕生日?」

「はい。お母様から誘っていただきました」

「俺にも来てる」

 雄吾がスマートフォンを見る。

「行くか?」

「もちろんです」

「そうか」

 佳苗は少し笑った。

「何を持っていけばいいでしょう」

「何もいらないだろ」

「そういうわけにはいきません」

「じゃあ酒」

「お酒がお好きなんですか?」

「ああ」

「じゃあ、一緒に選んでください」

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  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   過去にいる男

     藤倉悟。 名前を調べること自体は、難しくなかった。 絢子は佳苗から直接、詳しい事情を聞いたことはない。 けれど、美佐子との何気ない会話の中で、以前結婚していたことは知っている。 そして。 雄吾が佳苗と出会った頃、彼女がひどく傷ついていたことも。(どんな人なのかしら) ただ知りたいだけ。 絢子は自分にそう言い聞かせた。 佳苗を困らせたいわけではない。 雄吾がこれほど守ろうとしている女性が、どんな人生を送ってきたのか。 少し気になっただけ。 そう思いながら、絢子は知人に連絡を取った。     ◇ 数日後。「……これだけ?」 送られてきた情報を見て、絢子は眉を寄せた。 藤倉悟。 佳苗の元夫。 現在も会社員。 離婚後も同じ会社に勤務している。 ただ。『あまり評判はよくないみたい』 知人からのメッセージが続く。『最近、社内でちょっと問題になってるって話もある』「問題?」『そこまでは分からない。経費とか取引関係とか、そのあたりみたいだけど』「……」 絢子の指が止まる。 仕事上の問題など、今はどうでもいい。『それより、この人で間違いない?』 続けて一枚の写真が送られてきた。 絢子は画面を見つめる。 どこにでもいそうな男だった。 少なくとも。 雄吾とはまるで違う。「この人が……」 佳苗の夫だった人。 なぜ別れたのか。 そこまでは分からない。 けれど。 もし悟が佳苗にまだ未練を持っていたら? 絢子はそう考えて、すぐに首を横に振った。「……何考えてるの、私」 人の離婚に首を突っ込むなんて。 そんなことをしてはいけない。 スマートフォンを伏せる。 それなのに。 藤倉悟という名前は、頭から離れなかった。     ◇ 一方。 悟は会社のデスクで、目の前の書類を睨んでいた。「藤倉さん」「はい」「これ、もう一度確認してもらえます?」 経理担当者から差し戻された資料だった。「何か問題ありました?」「この支出なんですけど、添付されてる資料と金額が合ってなくて」「……ああ」 悟の喉がわずかに動く。「それ、前にも説明しましたよね?」「説明は聞きました。でも確認できる書類がないので」「細かいな……」「監査前なんで、お願いします」 担当者はそう言って去っていった。「……くそ」

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    「私だって、雄吾さんが好きなんです」 佳苗の声を、絢子は廊下で聞いていた。「だから、一条さんが傷つかないようにするために、私と雄吾さんの関係まで小さくすることはできません」 美佐子は何も答えない。 絢子も動かなかった。 やがて、美佐子が小さく息を吐く。「……そんなつもりじゃなかったのよ」「はい」「私はただ、絢子ちゃんも大切で」「分かっています」「小さい頃から知ってるの。娘みたいなものなのよ」「それも分かっています」 佳苗は静かだった。「だから、お母様と一条さんが家族のように付き合うことを、私はやめてほしいなんて思っていません」「……」「でも、一条さんが雄吾さんを好きなことと、それは別です」「そうね」「一条さんが雄吾さんのことで傷つくたびに、私が何かを譲らなきゃいけないなら……」 佳苗は一度言葉を切った。「私も苦しいです」「……ごめんなさい」 今度の謝罪は、これまでとは少し違って聞こえた。「私、絢子ちゃんが泣いているのを見たら、つい……」「はい」「あなたが何かしたわけでもないのにね」 佳苗は目を見開いた。「お母様……」「今日だってそうだわ。あなたは何も言っていないのに」 美佐子が苦笑する。「私が勝手に先回りして、お願いしてしまったのね」「……はい」「ごめんなさい」 佳苗の胸から、少しだけ重いものが消えた。 ようやく。 分かってもらえた気がした。「ありがとうございます」 そのときだった。「……ごめんなさい」 背後から声がした。 二人が振り返る。「絢子ちゃん?」 絢子が立っていた。 目に涙を浮かべて。

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     数日後。 美佐子から佳苗へ、一通のメッセージが届いた。『来月、主人の誕生日なの。佳苗さんも一緒にお祝いしてくれない?』 佳苗は少しだけ緊張した。 美佐子との関係は、以前よりぎくしゃくしている。 それでも、雄吾の父親の誕生日なら断る理由はない。『はい。ぜひ』 そう返信した。     ◇「父さんの誕生日?」「はい。お母様から誘っていただきました」「俺にも来てる」 雄吾がスマートフォンを見る。「行くか?」「もちろんです」「そうか」 佳苗は少し笑った。「何を持っていけばいいでしょう」「何もいらないだろ」「そういうわけにはいきません」「じゃあ酒」「お酒がお好きなんですか?」「ああ」「じゃあ、一緒に選んでください」「分かった」 久しぶりに。 何の不安もない話ができた。 佳苗は少し嬉しくなった。     ◇ 誕生日当日。 雄吾と佳苗が美佐子の家へ着くと、玄関には見覚えのある靴があった。 佳苗の足が止まる。「……もしかして」 雄吾も気づいたらしい。 眉を寄せた。「絢子か」 リビングへ入る。「あ、来たわね」 美佐子が笑顔で迎えた。 そしてその隣には。「こんにちは」 絢子が立っていた。「……こんにちは」「絢子ちゃんも呼んだの」 美佐子は当然のように言った。「主人も小さい頃から知っているし、毎年お祝いしてくれてるから」「そうなんですね」 佳苗は笑顔を作った。 美佐子と絢子

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     ほんの一瞬だった。 美佐子に向けていた柔らかな笑顔が消えた。 驚いたというより。 苛立ったような――。「……そうよね」 けれど次の瞬間には、絢子はいつもの表情に戻っていた。「ごめんなさい、おばさま。やっぱり旅行はやめましょう」「でも絢子ちゃん」「雄吾さんの言う通りよ」 絢子は困ったように笑う。「昔と今は違うもの」「……」「私、つい昔と同じ気持ちでいちゃうから駄目なのね」「絢子ちゃんが悪いわけじゃ――」「ううん」 絢子は首を横に振った。「私もちゃんと変わらないと」 そして雄吾を見る。「ごめんね、雄吾さん」「……」「もう昔のことを持ち出さないようにする」「ああ」「じゃあ、私はこれで」 絢子は美佐子にも頭を下げ、その場を離れていった。 雄吾は、その後ろ姿をじっと見つめていた。「雄吾?」「何?」「さっきからどうしたの?」「別に」「絢子ちゃんに冷たすぎない?」「普通だろ」「どこがよ」 美佐子はため息をついた。「旅行くらい、みんなで行けばいいじゃない」「行きたいなら母さんと絢子で行けばいい」「佳苗さんも誘って、仲良くなれば――」「無理に仲良くなる必要はない」「どうしてそんな言い方するの?」 雄吾は母を見る。「母さん」「何?」「最近、絢子から昔の話をよく聞くのか?」「……どういう意味?」「俺と絢子の結婚の話。昔の旅行。それまでほとんど話してなかっただろ」「それは、この前ア

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   私は、代理母だった

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     ホテルへ入る佳苗と雄吾。 暗い夜道で撮られたはずなのに、驚くほど鮮明だった。「……どうして」 佳苗の指先が震える。 まるで誰かに見張られていたみたいだった。『ねぇお姉ちゃん』『その人、誰?』『もしかして浮気?』 次々届くメッセージ。 佳苗は顔を青ざめさせた。 浮気。 その言葉に胸が痛む。 裏切っていたのは悟たちの方なのに、なぜ自分が責められなければいけないのだろう。「見せろ」 雄吾が静かにスマホを受け取る。 メッセージ画面を見た瞬間、その目が冷えた。「……なるほど」「先輩」「撮られていたな」 低い声。 感情を押し殺したような響き。「どうしよう……」

  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   今夜だけでも、俺を頼れ

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  • 夫の子を産まされ、妹の身代わりとして死んだ私――今世では冷徹CEOに執着されています   監視されていた女

     もう二度と、お前をあいつらのところへ戻したりしない。 その言葉が、佳苗の胸に重く落ちる。「……どうして」 気づけば口にしていた。 雄吾が視線を向ける。「どうして、そこまでしてくれるんですか」 本当に分からなかった。 大学時代、少し関わりがあっただけ。 卒業後は一度も会っていない。 それなのに、この男は突然現れて、自分を助けると言う。 しかも、まるで最初から全部知っていたみたいに。「昔世話になった」 雄吾は短く答えた。「レポート、覚えてるか」 佳苗は目を瞬く。 大学二年の頃。 雄吾が長期入院していた時期があった。 単位が危ないと聞いて、佳苗は講義ノートをまと

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