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7.乱入

last update 公開日: 2026-07-05 19:03:00

陽向side

結婚式場の控室。あと数時間で俺の人生は華やかに変わるはずだった。それがまさか、あんな事態になるなんて……。

「ドレスがなくなるなんて、一体どういうこと!? 代わりのものは安っぽいし、おまけにサイズが大きくて貧相に見えてしまうじゃない!」

挙式の一時間前、控室には結愛のヒステリックな声が響いていた。ドレスが盗まれたせいで、急遽用意されたサイズの合わないドレスを着る羽目になり、結愛の機嫌は最悪だった。胸元がぶかぶかで不格好に浮いている。

「……結愛、そんなに怒るなよ。あのドレスがよかったのは分かるけれど、無い物は仕方ないじゃないか。ドレスなんてどれも一緒だろう」

「ドレスなんてどれも一緒……!?」

俺の失言に結愛は殺気立った視線で睨みつけてくる。これ以上機嫌を損ねるのは危険だと判断し、必死で言葉を取り繕った。

「……いやっ、どんなドレスを着ても結愛なら可愛く着こなせるからどれも一緒、そういう意味だよ」

機転が利いたおかげで結愛の眉間のシワが少しずつ消えていき、心の中でそっと胸を撫で下ろす。俺は式が執り行われるのを待ち侘びていた。

(まったく……衣裳なんてただの飾りだろう。たかが数時間着るだけのもののために、目くじらを立てやがって。こっちは、今後何十年もの人生が掛かっているんだ。この式が終われば、南雲の財産も権力もすべて俺の思い通り……。早く終わってくれ)

南雲社長の話では、英玲奈がこの式に参加できないようホテルの部屋の前にボディーガードを張り付かせて監禁しているらしい。 これで俺の邪魔をするものは何もない。すべては計算通りだった。

大勢の招待客から盛大な拍手を浴びながら結愛の手を引いて祝福をされながらバージンロードを歩く。レッドカーペットを踏みしめる一歩一歩が、俺のこれからの成功を約束しているようで最高に気分が良かった。

「新郎、あなたは妻・結愛を愛することを誓いますか?」

「はい、誓います――」

神父が読み上げた誓いの言葉に、俺は胸を張って声高らかに宣言したその瞬間だった。

――バァンッ!!!

式場の扉が静寂を切り裂くような大きな音を立てて開かれた。 きらびやかなシャンデリアの光が逆光となって入り口に立つ影を照らし出す。

(……おい、式の途中だぞ!? なんで扉が開くんだ?)

周囲の視線が一斉に扉へと向かう。ざわざわと広がっていく地鳴りのような騒然としたどよめき。 そこに立っていたのは、純白のウェディングドレスを纏った英玲奈だった。

遠目からでも分かる仕立てのいい生地で作られたドレスを纏った英玲奈は、結愛の安物とは比べものにならない圧倒的な気品を放ちながら、一人、堂々とレッドカーペットを歩いてこちらに近づいてくる。

「英玲奈……っ! どうしてここに……!」

動揺で声が裏返る俺と結愛を英玲奈は余裕に満ちた冷徹な笑顔で見下ろした。

「どうしてここに?私から、家も会社の地位もすべてを奪おうとしたあなたたちを、最後に一目見ようとお祝いを言いに来たのよ」

「お祝いだと……? そんな姿で乱入してくるなんて非常識極まりないだろう!」

「非常識? それなら、あなたたちのやったことはどうだと言うの?今、ここにいる全員の前で打ち明けて判断してもらってもいいのよ?」

英玲奈の凛とした声が式場中に響き渡り、会場はより一層のパニックに包まれる。招待客たちの顔が興味と疑念、そして軽蔑の色に変わっていった。

「何をやっている! 英玲奈を早く外に出せ!」

前列にいた義父が顔を真っ赤にして怒号を上げると、今日のために雇われた臨時のボディガード達が慌てて英玲奈を押さえつけようと飛びかかる。

(そうだ、英玲奈を今すぐ捕まえて、すべて狂女の虚言ということにすればいい。白いドレスで式に乱入するなんて正気の人間がすることじゃない、誰もあいつの言葉なんて信じないはずだ――!)

ボディガードの強靭な手が英玲奈の手首を掴もうと迫った、その時。

「――止めろ。今すぐ彼女から離れるんだ」

低く地響きのような威圧感を含んだ声が式場全体を支配した。

遮られたボディガードたちが動きを止め振り返ると、 ゆっくりと一人の男が歩いてきた。 端正な顔立ちと自信のある堂々とした姿は成功者独特の圧倒的なオーラを醸し出している。

(なんだ……この男は。それに背筋が凍るようなこのプレッシャーは一体……!?)

俺が一歩後ずさりする中、男は英玲奈の細い腰を引き寄せるようにして冷酷な笑みを浮かべた。

「彼女は私の妻になる人だ。――気安く触るな」

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