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6.監禁

last update 公開日: 2026-07-04 19:03:42

英玲奈side

陽向と結愛の結婚式当日。早朝、まだ皆が眠っている時間に加藤は私が泊まっているホテルのスイートルームに訪ねてきた。

「英玲奈様、加藤です。例の物をお持ちしました……」

周囲に誰もいないことを確認し、そっと中に招き入れる。頼んでいた品を受け取りすぐさまベッドの上に置いて確認すると、母が私のために作ったドレスに間違いない。

母が私のために作ったドレスは完成していた。しかし、父はそのドレスをあろうことか結愛に着せようとしていうことを知った私は、加藤に奪ってくるようにお願いをしたのだ。

「加藤、最後の最後にこんな我が儘を頼んでしまってごめんなさい。これ、少しだけれど私からの気持ちよ。……今までありがとう」

鞄から五百万円の小切手を手渡すと、加藤は両手を振って受け取りを拒否した。

「英玲奈様……こちらは受け取れません。私は、お金のためにやったのではございません。……生前、奥様には大変お世話になりました。ですので、奥様の思いを踏みにじることは、いくら旦那様でも許せなかったのです」

「ありがとう。母も喜ぶわ。回収してくれたドレスは絶対に大切にする」

母の形見であるこのウェディングドレスだけは父や結愛に渡さない。加藤を見送ってから、スーツケースにドレスを綺麗に詰め込んで、その場を後にしようと部屋の扉を開けた時だった。

「英玲奈様、どちらへ行かれるのですか?」

父のボディーガード二人が扉の前で仁王立ちで立ちはだかり行く手を阻んでいた。

「何って……あなたたちこそなんでここにいるの?父の護衛はどうしたのよ?」

「我々は、旦那様の命令で英玲奈様を本日夕方までこちらに『保護』するよう仰せつかっております。式が終わるまで、この部屋でおとなしく待機していてください

「保護?冗談言わないで。いくら父の命令でも許さないわよ。私は今すぐここを出るわ!」

その時、隣のスイートルームの扉が開き、宿泊者が部屋から出てきた。男は一瞬こちらを見たが、特に気にすることなくそのまま通り過ぎていった。彼に続いて私も外に出ようとした瞬間、ボディーガードの一人がすでに通話状態になっている状態でスマートフォンを突き出してきた。

「英玲奈、往生際が悪いぞ」

スピーカーから父の濁った声が響き渡った。既に式場に到着しているのかクラシック音楽が微かに流れている。

「……お父様?私を監禁するなんてどういうつもりですか!?」

「監禁だと?人聞きの悪いことを言うな。お前なんかが式に出たら周りも祝福しにくいからな。可愛い結愛の大事な晴れ舞台を台無しにされるわけにはいかない。お前は、その部屋で大人しくしていろ」

受話器の向こうで父の下品な笑い声がしてから電話は切れた。亡き母の思い出までも踏みにじり、愛人の子を全肯定する実の父親。怒りで奥歯がガタガタと震えている。

ボディーガードたちは強引に私を部屋の中へ押し込むと、ドアが目の前で閉められた。

(困ったわね、式まで時間がないわ。……どうにかしてここから出ないと)

その時、私の頭にある考えがよぎった。 父は愛人との間に子どもを作り、長年母を裏切り、今度は私のすべてを奪おうとしている。私の仕事の居場所も、加藤も、母のドレスも。

(いいえ、奪わせてたまるもんですか。思い通りになってたまるものか……)

胸に手を押さえて大きく息を吸い込んでから、私は意を決してもう一度ドアを開けてボディーガード達に立ち向かった。

「英玲奈様、早く部屋に入ってください。外に出ようとしても無駄です」

「……あなたたちにいいことを教えてあげるわ。南雲厳一郎がどうやってここまで上り詰めたか知っている?父は、役に立たなくなった人間は容赦なくゴミのように切り捨ててきたわ……そう、今の私のようにね」 

動揺してゴクリと息を呑むボディーガード達に、畳みかけるように力強く言い渡した。 

「もし、このまま部屋に閉じ込められたままなら、私は窓を割ってでも飛び降りて招待客やマスコミの前に血塗れで乱入するか、受付か警察に連絡して事件として大々的に取り扱わせるわ。……そんなことをしたら南雲グループの株価は大暴落。父はあなたたちを真っ先にクビにする。私を今ここから通すのとどちらが賢い選択かしら?」

「……英玲奈様、落ち着いてください。脅しても無駄です」

その時だった。ボディガードのスマホが震え着信を知らせている。通話に切り替えると父の焦りと怒りに満ちた声が廊下中に響き渡った。

「結愛のドレスがなくなっている、何としてでも探せ。お前たちは徹底的に英玲奈の身元を洗って見つけ出すんだ!」

父の怒号にボディーガードたちの目が私のスーツケースへと向けられた。

「英玲奈様。失礼ですが、そのスーツケースの中身を拝見させていただきます」

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