星間覇道 ― 銀河最大の内乱 ―의 모든 챕터: 챕터 41 - 챕터 50

70 챕터

第41話……設計図の亡命

 海賊船「モリガン」は連続跳躍を繰り返し、やがてゴチエ宙域の外縁圏へと滑り込んだ。 跳躍余熱が船体の外殻を淡く光らせ、反射板の亀裂を白く際立たせる。 そこから通常航行に切り替え、二日の巡航の後、小惑星帯に埋もれるように漂う古い宇宙ステーションが視界に入った。 外壁は錆と隕石痕で汚れ、補修パッチが無数に貼られている。 排気口からは薄く冷却蒸気が漏れ、照明は時折ちらつく。 貨物船の往来も乏しく、まるで宇宙の果てに置き去りにされた小さな港町のような光景だ。「入港の許可をされたし」「船籍のデータを申告せよ」「了解」 やり取りのたびに通信波がノイズ混じりに歪み、基地側の旧式回線の貧弱さが露呈する。「……データ照合完了。第四ゲートへの寄港を許可する」「感謝する」 数度の確認の後、「モリガン」はガタついた宇宙桟橋に接舫した。 磁気アンカーが噛み合うと同時に、甲板側の警告灯が短く点滅する。 タラップを降りると、薄暗い接続通路の向こうで、事前に買収しておいた星間ギルドの技術主任トロストが出迎えていた。 痩せ細った体格に無精髭、眼の下には深い隈。 栄養不足の研究者に特有の匂いがした。 ツーシームは握手の瞬間、そっと高額のエーテル券を掌に滑り込ませる。「……どうぞ、こちらになります」 トロストは足取りの危うい酩酊者のようにふらふらしながら先導した。 歩くたびにステーションの床板が軋み、遠くで古い配管の唸りが聞こえた。「船長、コイツ大丈夫なんですかい?」 レッドベアが低く囁く。「問題ないよ。ヤツは宇宙阿片のヘビーユーザーなだけさ」 その返答にレッドベアは肩をすくめ、何も言えなくなった。 通路を抜けると小さな展望窓があり、ゴチエ鉱区の古びた設備が見えた。 虹色の空間歪曲の帯を突き抜け、複数のエーテル掘削管が宇宙空間へ伸びている。 採掘用クレーンが無重量域でゆっくりと回転し、廃棄された油井管が小惑星に突き刺さったまま放置されていた。「……ほぉ」 ツーシームは思わず声を漏らす。 錆びついた港町と極秘技術が同居するその光景は、彼女の企みを進める上で、確かに価値のある場所だった。◇◇◇◇◇「……おお、これは素晴らしい」 ステーションの展望窓に密集した惑星ヴァルカンの技術者たちは、虹色の歪みに向かって伸びる油井管と採掘フレームを見つめ
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第42話……壊された玩具

 惑星ヴァルカンの宇宙港に、異様な影が降りてきた。 それは艦でも貨物でもない。曳航され、軌道を外れ、まるで瀕死の獣のように引きずられてきた巨大な残骸だった。 かつて惑星破壊砲「オーディンの剣」と呼ばれたそれは、見る影もない。 全長2kmを超える外殻は焼け爛れ、装甲は裂け、内部構造が無惨に露出している。 ツーシームは港湾管制室の窓辺で、それを目にした瞬間、言葉を失った。「……は?」 隣に立つユリウスの存在に気づき、ゆっくりと視線を向ける。 そして、もう一度、窓の外を見る。「……貸すだけって言ったじゃないか?」 低く、押し殺した声だった。 だが次の瞬間、その声は鋭く跳ね上がる。「撃つなんて話、してないだろうが!!」 怒気が室内を満たす。 ユリウスは肩をすくめ、耐えきれなくなったように一言だけ呟いた。「……ご、ごめん」 それきり、彼は俯いて黙り込んだ。 言い訳も、弁明もない。 ツーシームは歯噛みし、拳を握りしめたまま、ふと気づく。 傍らに控える老臣グレゴールの表情――それが、ただ事ではないほど沈んでいたことに。「……断れない状況だったのか?」 その問いに、グレゴールは静かに頷く。「あのままであれば、将兵たちの死傷者は数えきれないものとなったでしょう。 それを見通せた若様は……その決断をなされました」 ユリウスは、耐えきれずに一歩前に出る。「……ご、ごめんなさい」 深く、深く頭を下げる。 代償を求められるなら、払う覚悟はある。 だが相手は古代超文明の遺産だ。 金でも権力でも、どうにもならないかもしれない。「ちっ……」 ツーシームは舌打ちし、視線を逸らした。「どうせ坊ちゃんは、間違ってないさ。……でも、それが余計に腹立つんだよ」 そう吐き捨て、再び窓の外を見る。 宇宙港に横たわる、無惨な姿の惑星破壊砲。 そこへ、背後からしわがれた声がかかる。「修理してみるかい?」 ゾル婆だった。 ツーシームは、かすかに首を振る。「そんなことをすれば、天文学的な予算が吹き飛ぶ。修理できる保証もない。……まぁ、生きてる部品を抜いて、あとは廃棄だね」「あいよ」 短い返事。 それ以上、誰も何も言わなかった。 ツーシームは、まるで大事なおもちゃを壊された子供のように肩を落とし、背を向ける。「……ちくしょう」 小さ
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第43話……幕間:帝国艦艇要覧(主要主力艦・性能抜粋)

――帝国艦艇要覧 本資料は、銀河聖帝国ノヴァ軍が運用する主力艦艇の概要を、報道関係者向けに整理したものである。 帝国艦隊は、広大な宙域における秩序維持を目的とし、多数の実用艦を戦列として運用することを特徴とする。 本要覧に記載される艦艇は、その中でも戦列運用の中核を成す代表的艦種であり、帝国艦隊の全貌を示すものではない。 詳細な性能・配備状況については、安全保障上の理由により公開を制限している。――銀河聖帝国ノヴァ宇宙艦隊・総作戦本部付き広報課■ 帝国主力戦列艦の基本構成  帝国艦隊の戦列は、ビーム艦とミサイル艦を立体的に複数のブロックとして配置することで構成される。 帝国主力艦艇は、艦首砲および巨大ミサイルの運用上、•急旋回•高G機動•単艦突進 を意図的に排除して設計されている。 駆逐艦・巡洋艦クラス以上は単艦性能も高く設計され、艦隊内においてはブロックごとの長として指揮担当役を担う。■ 主力艦艇性能〇艦首砲装備ビーム艦(主力戦列艦タイプ) 帝国艦隊戦列の中核を成す量産型主力艦。•艦種:ビーム艦•全長:約200メートル•全幅:約 50メートル•標準搭乗員:120名•主機:中型エーテル反応炉×1•機関出力:4.5ペタワット(4.5PW)主武装•艦首固定式・重収束ビーム砲×1o口径換算:約8メートル(収束時:o有効射程:約1.5光秒(約450,000km)o出力:機関依存副武装•近接戦闘用ビーム連装砲×6•多用途VLS(40セル)•防御重力場発生装置•対ビーム電磁防壁発生装置機関性能•常用巡航速度:0.02c(光速の2%)•最大速度:0.15c〇艦腹収納型質量弾装備艦・戦列型ミサイル艦タイプ 帝国艦隊戦列の中核を成す量産型ミサイル艦。•艦種:ミサイル艦•全長:約225メートル•全幅:約 55メートル•標準搭乗員:180名•主機:中型エーテル反応炉×1•機関出力:3.0ペタワット(4.5PW)•地上戦用舟艇×2主武装•艦腹搭載超大型誘導弾×1o全長:約155mo弾頭:可変式(対艦・対編隊・攪乱)o最大射程:約30光秒(約900万km)※ 発射後は艦隊後方に退避、 再装填は補給艦依存。副武装•25mm対空レーザー機銃座×4•多用途VLS(20セル)•防御重力場発
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第44話……黒い金

 恒星の淡い光が、薄く曇った空を通して地表を撫でていた。 惑星エデムの荒野に、ツーシームはひとり降り立っていた。 重力は軽く、風は弱い。 靴底に伝わる感触は、岩でも砂でもない、どこか湿り気を含んだ柔らかさだった。 彼女がこの星を選んだ理由は単純だ。 惑星破壊砲の一件以来、ユリウスと同じ空気を吸い続ける気にはなれなかった。 ――許せないわけじゃない。 だが、すぐに水に流せるほど大人でもない。 その感情を抱えたまま、彼女はここへ来た。 惑星エデムは人口も少なく、開発も進んでいない辺境世界だ。 だが、この星には他の惑星にはない価値があった。 掘り出されるのは鉱石ではない。 黒く、湿り気を帯びた表土――「土」そのものだ。 土は兆単位の種類の地球の微生物たちが、長い年月をかけて織り成した結果であり、地球以外の宇宙には殆どないものであった。 太古、地球から持ち出された土壌は、幾度もの核戦争と環境崩壊を経て汚染され、微生物と有機物を保持した「使える土」は銀河全域で極めて希少となっていた。 多くの惑星では人工培地で作物を育てていたが、味も栄養も、本物の土には及ばない。 それゆえ、帝国の貴族や富裕層たちは今も、土で出来た食料を珍重している。 だが近年、地球文明が「土の貯蓄場」として秘匿していた施設が、この辺境惑星エデムで発見されたのだ。 ツーシームはしゃがみ込み、素手で地面を掴んだ。 指の間からこぼれる黒土は、微かな匂いとともに生命の気配を宿している。 微生物、有機物、失われた地球の循環―― それらを内包するこの土は、農業惑星にとって貴金属以上の価値を持っていた。 遠く、地平線の向こうでは巨大なドーム状の土壌集積地が並び、圧縮土壌コンテナを満載した輸送船が、低軌道へとゆっくり上昇していく。 発進のたびに大地がわずかに震え、埃が舞い上がった。 地球文明の残骸を継ぐ帝国において、土は文化的に肉親であり続けたのだ。 それは静かで、しかし時に戦争の引き金ともなる戦略資源だった。 ツーシームは立ち上がり、恒星を仰いだ。「……不思議なもんだね。こんな黒いものが人々の心を突き動かすなんて」◇◇◇◇◇「……この土、いい匂いがするねぇ。湿り気もある。腐ってない」 ツーシームは革張りの椅子に腰掛けたまま、指先で小さな試料箱を開け、黒土を軽くつ
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第45話……荒鷲の金印

 大銀河を統べる帝国枢要部、その最奥に位置する一室。 荘厳な白壁と遮音結界に囲まれた空間には、帝国各地から集められた王族たちと、その背後に控える有力貴族の顔が並んでいた。 重厚な円卓の上には帝国紋章が刻まれ、天井から落ちる白光が、金糸の衣装や宝飾を冷たく照らしている。 誰一人として無駄口を叩かない。 この場に集められた意味を、全員が理解していたからだ。「……では、ご遺言を開封いたしまする」 沈黙を破ったのは宰相ローゼンタールだった。 美しい指先で厳重な封蝋を割り、羊皮紙を静かに広げる。 紙が擦れる微かな音すら、この場では異様に大きく響いた。「……皇位継承者は――荒鷲の金印を持つ者とする」 言葉が落ちた瞬間、空気が止まった。 王族たちは思わず互いの顔を見交わす。 彼らの指にはそれぞれ、自家の紋章と同じ刻印を施した特別な指輪が嵌められている。 つまり、荒鷲の家紋を持つ王族こそが、正統な帝位継承者となるはずだった。「……」「…………」 だが、誰も名乗り出ない。 金属が擦れる音も、衣擦れもない。 沈黙だけが、室内に重く沈殿していく。「荒鷲の家紋を持つお方は――いらっしゃいませぬか?」 宰相の問いかけにも、返答はなかった。 その瞬間、ここにいる全員が悟ったのだ。 この部屋に、帝位継承者はいない。「そもそも……荒鷲の家紋など、聞いたこともないぞ」「先帝の……知られざる落とし胤という可能性もあるまいか?」 囁きが波紋のように広がり、ざわめきが生まれる。 困惑、疑念、そして――期待。 宰相ローゼンタールは、羊皮紙を静かに畳み、告げた。「正当な後継者がおられぬ以上、本日はこれまで。散会といたします。改めて、帝位を持つお方が現れるのを待つしかございますまい」「……ふむ」 不満げな表情を浮かべる者は多かった。 だが、その表情はほどなく消え、代わりに計算高い静かな目つきへと変わっていく。 誰が見知らぬ帝位継承者を見つけ出すか。 誰が最初に手を伸ばすか。 これは言わば宝探しの始まりだった。 重い扉がゆっくりと閉じていく。 帝国の玉座は空席のまま、だが陰ではすでに無数の手が動き始めていた◇◇◇◇◇ その二十日前――。 第五総管区の反乱を討伐すべく編成された反乱討伐総軍、四個艦隊は、グラストヘイム要塞救援のため虚空を
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第46話……その日、帝国はハーフタイムに壊れた

 ツーシームは、複数の星系を束ねる総管区の一つ、第四総管区に属する観光惑星へ、ふらりと降り立っていた。 帝国中枢からは遠く、かといって第六総管区の混沌とも距離がある。 ここ第四総管区は、政治的な熱量が低く、代わりに経済と娯楽が幅を利かせる地域だった。 イデオロギーよりも収支、正義よりも契約。 そんなリベラル気質の経済人たちが、この宙域の空気を作っている。 恒星光を反射する高層ホテル群の間を歩いていると、屋台と広告ホログラムが賑やかに客を呼び込んでくる。 香ばしい揚げ物の匂いと、人工香料の甘ったるさが混じった、いかにも「平和な星」の匂いだ。「ジャガースとグリフォンズの試合のチケットはいらんかね?」 呼び止められて、ツーシームは足を止めた。「……二枚貰おうか」「毎度あり!」 紙と電子データが融合した簡易チケットを受け取り、彼女は肩をすくめる。 本当は一人で来るつもりだった。 だが、護衛役のビッグベアがどうしても付いてくると言って聞かなかったのだ。 ギャラクシーフットボール―― 広大な帝国全域で親しまれている、サッカーを原型とした競技。 重力や気圧条件を調整したフィールドで行われ、帝国外の異星文化圏にも熱狂的なファンがいると噂されている。 スタジアムに足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。 歓声、罵声、金属音、振動。 観客席はすでに熱を帯び、中央上空には巨大スクリーンが浮かび、スター選手の動きを克明に映し出している。「ジャガース! 今日は勝てよ!!」「おい! 今年も最下位だけは勘弁してくれよ!」 愛情と諦めが入り混じった叫びが、スタジアムを満たしていた。「船長も、ジャガースファンとは……物好きですな」 ビッグベアの呟きに、ツーシームは即座に振り返った。「うるせぇな!!」 一喝。 彼女は昔からのジャガースの熱狂的ファンで、チームの話になると周囲が見えなくなる性質だった。「ごるぁ~! パスだパス! ルーキーがイキがってんじゃねーぞ!」「ベテランのカス共もライン上げろ! 走れ! 走れボケェ!!」 ジャガースは、かつて植民地惑星の下町で結成された伝統あるチームだ。 そのファン層も、日雇い労働者や荒くれ者が多く、応援は常に荒っぽい。 だが、その声は本気だった。 同じ調子で罵声を飛ばすツーシームの姿を見て、レッドベアは
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第47話……静かなクーデター

――クーデター騒ぎから、三日前。 帝国作戦部長クライツ上級元帥率いる反乱討伐軍は、巨大な艦列を連ねて帝国首都星ネオ・ベルゼブブへ帰還していた。 首都宙域は平穏そのものだった。 軌道上には防衛艦隊が整然と巡回し、地表では地上部隊が訓練任務を淡々とこなしている。――あまりにも、平和すぎる。 その光景を背に、クライツは一刻の猶予もなく、摂政ノクターン公爵の私邸へ出頭した。 上級元帥は、決して高潔な人格者ではない。 功績も、地位も、評価も気にする。 だが同時に、彼は友軍を見捨てることを良しとしない軍人でもあった。 だからこそ、グラストヘイム要塞を見殺しにする判断が、今なお喉に刺さった棘のように残っていた。「公爵閣下」 深く頭を下げ、クライツは切り出す。「現在、首都星には十分な地上兵力と艦艇が集結しております。艦隊と兵力の一部を割き、グラストヘイム要塞へ派遣することをご検討いただけませんでしょうか」 だが、ノクターン公爵はすぐには答えなかった。 苦いものを噛み潰したような表情で、しばし沈黙する。「……それは出来ぬ」 そして、静かに――だが決定的な言葉を続けた。「それよりも先に、首都にいる王族と、その後ろ盾となっている有力貴族を拘束する」「……なんですと?」 一瞬、クライツは言葉を失った。「それは……もはやクーデターではありませんか?」 ノクターン公爵は、ゆっくりと頷いた。 否定も、言い訳もない。 帝国の王族や有力貴族の多くは、領地での退屈な田舎暮らしを嫌い、首都星ルシフェルの中枢都市である帝都ネオ・ベルゼブブに居を構えている。 つまり、まとめて拘束するのは、軍の手をもってすれば容易だった。 クライツがその現実的な計算を頭の中で転がしていると、扉が静かに開き、室内の空気が一変した。 銀髪をゆるやかに揺らし、女性宰相ローゼンタールが姿を現す。 その眼差しは冷静で、どこまでも澄んでいた。「作戦部長殿」 彼女は柔らかな声で、しかし逃げ道を塞ぐように言った。「ここは、我らの言うとおりになさってください。悪いようにはいたしません。このまま帝位後継者が定まらなければ、帝国は確実に瓦解します」「……」 クライツは沈黙した。 彼は欲に弱い。 だが同時に、帝室という存在に対しては、子供の頃から刷り込まれた畏敬の念を捨てきれずに
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第48話……大公国建国宣言

「各戦線が、ようやく落ち着いてきてな。やはり貴公の外交的成功が大きかったよ」 重厚な扉の奥、広く豪奢な接見の間へユリウスは招かれていた。 磨き上げられた床石は鏡のように光り、壁には歴代の戦勝を描いた巨大なタペストリーが並ぶ。 正面のソファに深く腰掛けているのは、今や大公を自称するアーヴィング卿であった。 帝国における大公とは、単なる称号ではない。 時に皇帝代行として高位の人事を行い、複数星系の命運を左右できる―― まさに「人臣を極めた」地位である。「恐れ入ります」 ユリウスは背筋を伸ばし、丁寧に頭を下げた。 グラストヘイム要塞ではなお激戦が続いているものの、戦局は明らかに味方優勢へと傾いていた。 要塞近隣の辺境惑星からは、次々と和を乞う使者が訪れている。 アーヴィング侯爵はその流れを逃さず、旧第六総管区内の帝国中央に味方する勢力に対して、友邦貴族の私兵を次々に投入。 結果として、新たに六つの有人星系を勢力圏に組み込むことに成功していた。「失礼いたします」 控えめな声とともに、メイドが銀のトレイに紅茶を載せて運んでくる。 湯気の立つ香りに、ユリウスはわずかに肩の力を抜いた。 ゆっくりとカップに口をつけた、その瞬間だった。「貴公は……まだ結婚しておらなんだな」 何気ない口調。 だが、次の言葉は雷のように落ちた。「どうじゃ。ワシの娘を娶ってはくれんかな? 辺境の英雄と名高い貴公なら、我が血族に迎えるに相応しい」「――っ!?」 ユリウスは、あやうく紅茶を吹き出すところだった。 必死に咳を堪え、顔が一気に熱くなる。 貴族の家に生まれ育った以上、政略結婚そのものに違和感はない。 だが、幼少より子爵家の跡取りとして勉学一筋で生きてきた彼は、女性との縁に極端に乏しかった。 その純情が、今になって露骨に表へ出てしまったのだ。「……あ、ありがたき、幸せにございます」 声が少し裏返ったが、言葉は間違っていない。 寄り親とも言える大公家との婚姻は、アストレア家の隆興に直結する大事である。 だが、ユリウスは慎重さを失わなかった。「しかしながら……我が家の家格では、大公家と釣り合いませぬ。そのあたり、どのようにお考えでしょうか?」 アーヴィング大公は、楽しげに口角を上げた。「心配するな」 彼はソファに大きく身を預け、重厚な葉
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第49話……忠臣の選択

 聖帝国暦六四五年一月初旬――。 新年を迎えたこの日、アーヴィング大公から伯爵に叙せられたユリウスは、大公主催の新春の宴に参列していた。 広大な祝宴の間には、金糸を織り込んだ絨毯が敷かれ、天井からは祝祭用の宝珠が柔らかな光を降らせている。 長卓には山のような料理と香り高い酒が並び、貴族たちは杯を掲げて笑い声を交わしていた。 だが、その笑顔の裏で、誰もが戦況の行方を気にしている。 帝国は割れ、戦は終わっていない。 宴もたけなわとなった頃、ユリウスは静かに名を呼ばれた。 大公の控室へ――と。 重厚な扉の向こうは、宴の喧騒が嘘のように静まり返っていた。 暖炉の火が揺れ、壁にかかる星図が赤く照らされている。 ソファに腰掛けたアーヴィング大公は、杯にも手を伸ばさず、思案に沈んでいた。「……のう、アストレア伯よ」 低い声で、大公が口を開く。「いまだにグラストヘイム要塞は落ちぬ。このままでは、わが大公国の威信にも関わる。如何するべきであろうか?」 その言葉には、苛立ちと焦りが混じっていた。 要塞が持ちこたえている事実は、敵味方双方にとって象徴的な意味を持つ。 ユリウスは一歩前に出て、静かに答えた。「もはや、帝国中央からの援軍が来ないことは明白にございます。これ以上の流血は無益。降伏を勧告すべきかと存じます。――よろしければ、その役目、私が務めましょう」 一瞬、暖炉の薪が弾ける音だけが響いた。「うむ……」 大公はゆっくりと頷く。「敵将カタコンは、帝国でも名高い忠臣だ。説き伏せるのは容易ではあるまい。だが……他に適任もおらぬ。何とかしてほしい」「畏まりました」 短い返答だったが、その内には覚悟が込められていた。 これは単なる使者ではない。 戦を終わらせるか、さらに長引かせるか――その分岐点に立つ役目だ。 こうしてユリウスは、新年の祝宴を後にした。 華やかな灯りを背に、彼が向かったのは戦火の残る宙域である。 アーヴィング大公国の国境宙域を越え、前線へ。 そして、グラストヘイム要塞包囲軍を率いる前線指揮官――ハルダー元帥のもとへと赴くことになったのであった◇◇◇◇◇ アーヴィング大公国第一艦隊旗艦「オクトパス」。 艦橋は低い電子音と計器の光に満ち、戦場特有の緊張が張り付いていた。 ユリウスは、前線指揮官ハルダー元帥と向か
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第50話……勝者の宴

 聖帝国暦六四五年一月下旬――。 アーヴィング大公による、旧第六総管区内の有人星系平定は、ほぼ完了していた。 さらにグラストヘイム要塞を制圧したことで、その影響力は隣接する第三総管区の一部星系にまで及びつつある。 版図は急速に広がり、大公国はもはや一地方勢力とは呼べぬ規模に達していた。「皆、ご苦労であった!」 広間に響く大公の声に、居並ぶ貴族たちが一斉に頭を下げる。 この日の式典は、新たに征服・編入した惑星を、功績に応じて味方の貴族たちへ分配する場でもあった。 惑星名が読み上げられ、次々と与えられていく所領。 それを聞きながら、ユリウスの側近であるグレゴール翁は、思わず眉をひそめた。「……大公殿、少々気前がよろしすぎはしませぬかの」 その囁きに、ユリウスは小さく首を振り、声を落として応じる。「爺、それは違うんじゃないかな。きっと大公は――味方を繋ぎ止めるのに、必死なんだと思うよ」 広間を満たす喝采の裏で、結束はまだ脆い。 それを、ユリウスは肌で感じ取っていた。 そしてこの日、誰よりも注目を集めているのは―― 他ならぬ、彼自身であった。「難攻不落と謳われたグラストヘイム要塞を陥落させた、建国随一の功労者――アストレア伯ユリウス殿に、余は侯爵の称号を授けたいと思う」 ざわり、と空気が揺れる。 上座の高台に進み出たユリウスは、厳かな儀礼に従い跪いた。 大公から印璽と証紙を受け取るその手に、確かな重みが伝わる。 それは栄誉であり、同時に新たに与えられた支配地での民への責任でもあった。 こうして授与式は滞りなく終わり、 場はやがて、華やかな立食パーティーへと移る。 長卓には、各星系から取り寄せられた料理がずらりと並んでいた。 黄金色に焼き上げられた大型獣肉のロースト、香草と果実を詰めた鳥類の丸焼き、甲殻を割ると海鮮の風味の強い湯気を立てる深海産の甲殻生物。 透き通った寒天質に包まれた海産物の前菜や、黒い土壌で育てられた穀物から作られた芳醇な白パン。 甘く香る蒸留酒や、星果を絞った色鮮やかなワインが惜しげもなく注がれていく。 脂と香辛料と酒の匂いが混じり合い、戦の血臭を塗り潰すかのように広間を満たしていた。「侯爵閣下、はてさて、流石のご武運ですな!」「いやはや、あの要塞を落とすとは……」 次々と杯を差し出され、ユリウ
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