ツーシームは惑星ヴァルカンの軌道上に浮かぶ、宇宙船用の中型ドックに姿を現していた。 広大な格納空間には白色灯が並び、無数の整備アームが忙しなく伸び縮みしている。 金属を切削する甲高い音と、冷却材の噴き出す低い唸りが、油と焼けた鉄の匂いを伴って充満していた。 その中央で、海賊船「モリガン」は外装を剥がされ、まるで解体途中の獣のように横たわっている。「商会長、こんな油臭いところへようこそ」 振り返った男――元星間ギルドの主任技師、トロストは、作業服の袖をまくり上げたまま笑った。 頬はこけ、目の奥は妙に冴えている。「ああ。いつ戦いがあるかわからないからね」 ツーシームは周囲を見回し、眉をひそめる。「……それより、宇宙大麻を少し控えたらどうだい? 身体にさわるよ」「はは、これがないと脳みそに数字が踊りませんや」 冗談とも本音ともつかぬ調子で、トロストは肩をすくめた。 彼は今、惑星ヴァルカンにおける位相鉄鉱の精錬事業に、ほぼ寝ずに打ち込んでいる。「で、精錬効率は上がっているのかい?」「ええ、品質はもう商業ベースに乗っています」 トロストは作業端末を叩き、数値を表示させた。「位相鉄は、単体で使うよりも他の素材と混ぜた方が、コストパフォーマンスが跳ね上がる。純度を四割台で抑えれば、競合相手にも勝てますからね」「あんた、意外と経費のことも考えるんだな」 ツーシームは鼻で笑う。「研究者ってのは、純度さえ上げれば後は知らん、って連中だと思ってたよ」「ですが――」 トロストはちらりと彼女を見る。「商会長の『モリガン』の装甲だけは、位相鉄鋼九九・八九パーセント指定でしたよね?」「ああ」 ツーシームは即答した。「その件は、皆には黙っとけよ」「了解です」 即座に頷き、トロストは不敵に笑う。「その代わり……こちらを覗いてもらえませんか?」 彼が指し示したのは、ドック奥に据え付けられた巨大な量子顕微鏡だった。 複雑な配線と冷却管に囲まれ、青白い光を放っている。 ツーシームは無言で覗き込む。「……ん? これか?」 レンズの向こうで、青い粒子の流れが、左方向へと緩やかに引きずられている。「なんだか……青い物質が、左に流れてるな」 次の瞬間だった。「うは――っ! あんた最高だよ!!」 トロストが、作業台を叩いて大声で叫んだ。
최신 업데이트 : 2026-06-10 더 보기