星間覇道 ― 銀河最大の内乱 ―의 모든 챕터: 챕터 61 - 챕터 70

70 챕터

第61話……英雄の終わり

 私の名はダミアン。 元帝国軍伍長だ。 その経歴を買われて、いまはアーヴィング大公国の惑星地上軍に雇われている。 ――報酬は、悪くない。 私が乗るトロント重戦車は、この惑星クレイドの戦場でよく働いた。 敵の陣地を踏み潰し、田舎貴族どもを捕虜にし、奴隷として扱われていた連中を解放した。 正直、気分は悪くなかった。 一週間前なんて―― 解放された民衆に囲まれて、歓声を浴びた。 若い娘に抱きつかれながら、田舎町の狭い通りを戦車で進んだものだ。 英雄気取り、ってやつだな。 だが。 五日前から、様子が変わった。 補給が――来ない。「こちらダイムラー中尉だ! 地上司令部、応答しろ! 燃料が尽きる!」 部隊長は、毎日のように通信機に怒鳴りつけている。 だが、返事は一度もない。 燃料も、飲料水も、食料も。 減る一方だ。 誰も口には出さないが、分かっている。 ――見捨てられたのかもしれない。 その夜。 私は眠れず、外に出た。 この星の夜空は妙に澄んでいて、やけに遠くまで見通せる。 だからだろうか。 最初は、ただの流れ星だと思った。「……?」 だが、違和感があった。 軌道が、おかしい。 私は双眼鏡を取り出し、落下物を追う。 そして――気づいた。「……おいおい」 流星じゃない。 ――船だ。 しかも。「味方の……輸送船?」 識別灯が、かろうじて確認できる。 その瞬間、嫌な予感が胸を締めつけた。 やがて。 輸送船は、遠方の地平へと突き刺さるように落下し―― 閃光。 続いて、地鳴りのような爆発音が遅れて届いた。 炎が、夜空を赤く染める。「……」 言葉が出なかった。 背後で、ドアが乱暴に開く音。「クソがッ! 応答しろ、司令部!!」 ダイムラー中尉だ。 また通信機に怒鳴り始める。 だが、その声には――もう焦りしか残っていなかった。 私はそれを背にして、空を見上げたまま立ち尽くす。 そして、ふと気づく。 さっきの爆発地点から―― 新たな光が、いくつも落ちてきていることに。「……まだ、落ちてくるのかよ」 呟いたところで、急に眠気が押し寄せてきた。 先ほど飲んだ睡眠薬が、ようやく効いてきたのだろう。 意識が、ゆっくりと沈んでいく。 燃え上がる夜空を見ながら―― 私は、そのまままどろみに
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第62話……退路なき艦隊

 帝国領内深くで、後方を遮断されたアーヴィング大公国軍艦隊。 その中で、なお戦意を失わぬ者たちは――逃走ではなく、突破を選んだ。「退路は読まれている! 待ち伏せを避けよ!」 怒号が、艦橋に響く。「――正面を食い破る! それが唯一の生路だ!」 統制を失いかけていた艦隊は、ここでようやく一つの意思を持ち始める。 逃げ散らなかった艦艇――それはすなわち、選りすぐりの精鋭であった。 彼らは急ごしらえの隊形を整え、一個の戦闘集団として再編される。 その中心に立ったのは―― エグモント伯爵。 元帝国軍人にして、艦隊司令の経験を持つ歴戦の指揮官。 誰からともなく推挙され、その場の総指揮を引き受けた男であった。 艦隊は進む。 突破のために。 確かに、緒戦の小規模戦闘においては連戦連勝であった。 だが―― 一週間後。 その進路を、完全に塞ぐ影が現れた。「……来たか」 キスリング上級大将率いる、近衛艦隊。 帝国最精鋭の艦隊が、正面に展開していた。「右翼を伸ばせ! 半包囲で押し潰す!」「敵の矛先を砕け! 逆に包囲してしまえ!」 双方、ほぼ同時に指示が飛ぶ。 ――金床戦術。 片翼を伸ばし、敵を挟撃する古典的機動。 戦闘艦艇数、双方およそ千隻。 乗員練度、指揮官の技量――いずれも拮抗していた。 だが。 決定的に異なるものがあった。「――光子魚雷、発射!」 帝国の近衛艦隊の最先鋒。 五十隻の新鋭高速駆逐艦群が、同時に牙をむく。 放たれたのは、短距離光速兵器――光子魚雷。 通常のミサイルは、威力こそ大きいが、速度と機動に限界がある。 ゆえに迎撃可能な兵器であった。 だが、この魚雷は違う。 ダークエネルギー場の表面張力を利用し、空間そのものを「弾く」ように加速。 軌道は不規則に跳ね、まるで水面を飛ぶ魚のように防御網をすり抜ける。 ……ゆえに、凡そ、迎撃不能。 次の瞬間。 エグムント艦隊の前衛に、無数の閃光が突き刺さった。 爆発。 装甲が裂け、艦体が内側から吹き飛ぶ。「お味方の前衛、崩壊!」「隊形維持できません!」 エグモント艦隊の先鋒は、ほぼ一撃で瓦解した。 崩れた陣形に、近衛艦隊の砲火が集中する。 艦隊側面が晒される。 そこへ、さらに追撃。 ――半包囲が、完成した。「……」 エグモント伯爵は
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第63話……見えざる傷

 聖帝国暦六四五年六月初旬――。 グラストヘイム要塞宙域。 その宙域は、異様であった。 航行可能な空間は細長く、幾重にも折れ曲がり、まるで巨大な洞窟が宇宙に穿たれたかのように複雑にうねっている。 その最狭部。 わずかな進路の収束点に―― グラストヘイム要塞は鎮座していた。 ここを抜けねば、先へは進めない。 ここを落とさねば、新たな戦線は開かない。 ゆえに、この要塞は単なる拠点ではない。 ――戦域そのものを制御する「栓」であった。 たしかに要塞は、先日の戦闘で深刻な損傷を受けていた。 だが。 パウルス元帥の指揮のもと、修復は異様な速度で進められていた。 内部構造には未だ致命的な脆弱性を残しているものの―― 外観は。 依然として「不落」の名にふさわしい威容を保っている。 外殻は、高耐熱ニッケル超合金。 その表層には、絶えず流動する液体金属の層が波のようにうねり、あらゆる衝撃を分散させる。 さらにその上空。 プラズマ化した濃い茶色の気体嵐が渦を巻き、接近するエネルギー波を歪め、拡散し、無力化する。 センサーは撹乱される。 照準は収束しない。 並の艦隊では、接近することすら許されず、有効打を与えるなど論外であった。 そして。 あの傷もまた――隠されている。 惑星破壊砲「オーディンの剣」によって穿たれた、要塞中央部の致命的破孔。 それは今、液体金属と嵐の下に埋もれ、外部からは完全に識別不能となっていた。 だが。「……完全ではない」 その「見えない傷」を、見抜こうとする者がいた。 帝国軍総司令部。 クライツ上級元帥。 彼の率いる大艦隊が、いま――この宙域へと迫りつつあった。◇◇◇◇◇「……傷は見えない、か」 帝国軍旗艦「ゼウス」艦橋。 総司令クライツ上級元帥は、グラストヘイム要塞を見据え、低く呟いた。 液体金属の奔流。 その上空を覆う、プラズマ嵐。 要塞は、視覚的にも、計測的にも、完全に「覆われている」。 だが。「ですが、完全には隠しきれませぬ」 参謀が一歩進み出る。「液体金属層の流動に、局所的な乱れ。周期が揃っておりません」「気体嵐の偏流も同様だな」 クライツの目が細められる。「……構造の『継ぎ目』か」 即座の理解。 防御層は完璧でも、その下の「傷痕」は完璧ではない。「観測デ
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第64話……鉄壁

 グラストヘイム要塞の周辺宙域に帝国軍が侵入した頃。 惑星ヴァルカンの衛星軌道上には、無数の作業灯が青白くまたたいていた。 資源輸送船、武装商船、修理待ちの巡洋艦。 それらがひしめく宇宙艦艇用桟橋の一角に、ひときわ異様な艦影が沈黙している。 謎の宇宙戦艦『ハンニバル』。 艦体は旧帝国式にも見えたが、艦首形状は現行艦とは明らかに異なり、装甲の継ぎ目には見慣れぬ重厚な意匠が走っていた。 まるで、誰かが建造艦船の歴史そのものを削り直して造ったのではないかと感じさせる古めかしい軍艦である。 艦橋区画の薄暗い操作室で、ツーシームは苛立たしげに端末を叩いた。「また駄目かい……機関、姿勢制御、索敵、通信。ぜんぶ目を覚ますのに、なんで火器管制だけが死んだままなんだよなぁ」 青い表示光が彼女の頬を照らす。何度目かの起動手順も、虚しく弾かれた。 認証拒否。 権限不明。 接続不能。 背後では、痩せた男が壁にもたれていた。トロスト技師。 かつて星間ギルドで禁制技術を扱った男であり、今は宇宙麻薬に神経を焼かれた半ば廃人じみた技術屋である。 だが、その頭脳だけは時おり刃物のように冴えた。「壊れてるわけじゃない」 しわがれた声で、トロストは呟いた。「配線も生きてる。中枢演算核も応答してる。なのに撃てない。そういう壊れ方は、きっと機械の故障じゃない」 ツーシームは眉をひそめた。「じゃあ何さ。呪いだって言うのかい?」 トロストは乾いた笑いを漏らした。「似たようなものだ。多分、前の持ち主の意志だよ。こいつは、まだ主人を選んでる」「機械が、かい?」「古い軍艦ほど、設計者の執念が深い。特に火器管制は艦の心臓だ。艦長認証、戦術思想、交戦規定……ただ鍵を開けりゃ済む話じゃない。おそらく『ハンニバル』は、最後の艦長以外に砲を渡さないよう封じられてる」 その言葉に、室内の空気がわずかに冷えた。 ツーシームは無意識に艦首方向へ目を向けた。厚い装甲と隔壁の向こう、沈黙する主砲群。 撃てぬ戦艦など、ただの高価な鉄屑。 だが逆に言えば、そこさえ開けば、この超大型艦はアストレア家の戦力を塗り替えかねない。「面倒な置き土産だねぇ……」 彼女は煙草をくわえかけ、さすがに制御室ではまずいと気づいて握りつぶした。「で、どうすればその『意志』とやらを黙らせられる?」 
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第65話……潜航

 巨艦「ハンニバル」の現在位置から、およそ六光秒。 その虚空に、音もなく一本の潜望鏡が浮かび上がっていた。 否。 正確には、浮かび上がったように「見えた」だけである。 新型海賊船「モリガン」は依然として位相空間の膜を半ば残したまま、現実宇宙の縁に爪をかけている。 巡洋艦級の船体で異次元潜航を維持するなど、本来なら狂気の沙汰であった。 だが、その狂気を形にしたのが、いまこの艦である。 潜望鏡越しに戦場を覗いていたツーシームは、細く息を漏らした。「……へぇ、やるじゃないか。あの巨艦」 視界の彼方では、「ハンニバル」が帝国軍の集中砲火を正面から受け止めていた。 幾百もの火線。無数の誘導弾。 それらをものともせず進む艦影は、もはや艦艇というより移動する要塞であった。 隣に控えるトロスト技師が、乾いた笑みを浮かべる。頬はこけ、指先はかすかに震えていたが、声音だけは妙に弾んでいた。「そりゃあそうでしょう。あの艦の主機関、燃料はエーテルじゃない。小型とはいえ、人工重力井戸――要するに、ブラックホールです」「本物かい?」「ええ。本物ですとも。生きた地球文明の超兵器。帝国中枢の工廠でも、あそこまで頭のおかしい代物はそうそう作れません」 ツーシームは片眉を上げた。「褒めてるのか、けなしてるのか、よく分からないねぇ」「技術屋にとっては最大級の賛辞ですよ」 彼女は再び潜望鏡に目を戻した。 「ハンニバル」の艦腹には、あの巨大な砲身が抱え込まれている。 戦場へ現れた瞬間から、帝国軍はあれを恐れていた。だが。「だが、やはり撃てないようだね?」 そのひと言で、トロストの笑みがわずかに薄れた。「ええ。火器管制はまだ沈黙したままですな。防壁も対空火器も化け物じみているが、肝心の牙が閉じたままです」「それさえ出来れば、単艦で帝国軍を追い払うこともできように……」「できましょうな。いや、追い払う程度で済むかどうか」 ツーシームは舌打ちし、潜望鏡から目を離した。 艦橋に投影された簡易戦術図では、「ハンニバル」を中心に帝国軍の針路が歪んでいる。 一隻が戦場の戦術力学そのものを書き換えていた。「ヤツを前にしては、この新型『モリガン』の性能がかすむなぁ……」 その声には、珍しく本気の落胆が混じっていた。 海賊船「モリガン」の大改造は、彼女が執着して
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第66話……停戦の代償

 停戦成立の報せが銀河を駆けめぐった翌日――。 ヴァルカン軌道上、アルテミス商会の私室では、場違いなほど気の抜けた空気が流れていた。 長椅子にだらしなく寝ころび、ツーシームは片脚を投げ出したまま新聞を広げている。 唇の端には、いつもの安煙草。紫がかった煙が、照明の下でゆらゆらとたなびいた。 紙面の一面には大きな活字が躍っていた。 ――帝国中央政府軍、アーヴィング家率いる反乱軍、停戦成立。 ――グラストヘイム要塞戦線、当面の戦闘停止へ。 ツーシームは鼻で笑った。「ようやくかい。随分と高くついた花火だったねぇ」 その声には、呆れ半分、満足半分の色があった。 今回の戦は、同じ帝国圏に属する者同士が噛み合う内輪揉めに近い。異星人相手の外征戦争とは訳が違う。 補給線の先にも後ろにも、敵味方と縁を持つ地方貴族家がいる。 交易路が詰まれば、その領内経営は痩せる。鉱山の産出は滞り、農業衛星の資材も届かず、税収もまた細る。 つまり――。 戦場で勝ちさえすればよい戦ではない。 帝国中央も、アーヴィング家も、地方貴族たちの支持なしには戦争を続けられぬ。 兵も金も糧食も、最後にはそこへ行き着く。内乱とは、剣だけでは終わらぬ戦なのであった。 ツーシームは灰を落とし、新聞の経済欄へ視線を滑らせた。 そこには、停戦成立を受けた星間株式市場の混乱が細かく載っていた。 造船。鉄鋼。軍需輸送。 いずれも戦時特需を見込んで買い上げられていた銘柄である。 だが停戦の一報で流れは一変し、値は崩れ、投げ売りが投げ売りを呼んでいた。 彼女の口元が、ゆっくり吊り上がる。「ゾル婆、そろそろゆっくり買いを入れてみるかね?」 部屋の隅で端末をいじっていたゾル婆が、顔も上げずに答えた。「あいよ。どのへんから拾うんだい?」「まずは造船屋だ。慌て者が投げた分を、底でさらう。鉄鋼も悪くないね。停戦したからって、艦隊が消えるわけじゃない。傷んだ船は直さにゃならないし、要塞だって補修が要る」「……ほほう。狼狽売りした連中の逆を行くってわけだね」「そういうこった」 数日前。 停戦の気配を、誰より早く嗅ぎつけていたアルテミス商会は、戦時特需銘柄を大きく売り浴びせていた。 グラストヘイム戦線での空気の変化も、極低周波通信から拾った断片も、彼女らには十分な材料だった。 市場
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第67話……革命はパンを焼かない

 数か月前――。 旧第六総管区の片隅に、惑星リチャードはあった。 豊かな鉱脈、繁忙な港、絶えず上下する株価。 この星を治めるドリス伯爵は、善政家か悪政家かで評価の割れる男であったが、ただ一つだけ確かなことがあった。 彼は何よりも経済を優先する統治者である、という事実である。 税制は企業寄り。 港湾使用料は安く、投資家には甘い。 その一方で、労働者への配慮は薄く、景気が悪化すれば真っ先に切られるのは現場の人間たちだった。 たしかに数字の上では繁栄している。 だが、その繁栄が誰の懐を温めているのかは、街路の空気を吸えばすぐに知れた。 そんな折――。 第六総管区を実質的に統治するアーヴィング侯爵が、帝国中央政府へ反旗を翻した、という報せが届いた。 その一報は、遠い戦場の政変では終わらなかった。 人々の胸に長年たまっていた不満へ、火のついた油を注いだのである。 伯爵邸の執務室へ、青ざめた家令が駆け込んだ。「伯爵様! 民衆どもが暴徒となり、屋敷へ押しかけております!」「なんだと!?」 机上の端末から顔を上げたドリス伯爵は、肥えた喉をひきつらせた。「警備隊は何をしておる!」「各所で手が回りませぬ! 銀行街も襲われ、大手保険会社の支店も炎上中にございます!」 伯爵は立ち上がり、窓辺へ走った。 夜の街に、いくつもの火の手が見える。 怒号。 警報。 銃声。 経済優先で築き上げた秩序が、たった一夜で紙細工のように崩れはじめていた。「……すぐ脱出するぞ!」「はっ!」 中央政府に近しい立場を取ってきたドリス伯爵は、民衆にとって旧体制そのものであった。 日頃より不満を募らせていた労働者階級は、侯爵の挙兵を合図に一斉蜂起したのである。 暴徒たちは銀行や保険会社を『資本の城』と叫んで打ち壊し、倉庫を略奪し、酒に酔った群れは婦女子へも牙をむいた。 火は商業区画から住宅街へ広がり、正義を名乗った怒りは、たちまち無差別な暴虐へ変わっていった。革命。 革命と言う甘い言葉を口にする者は多い。 だが現実の街路を埋めるのは、理想ではなく、煙と血と恐怖である。 このままでは星そのものが壊れる。 そう悟った者たちがいた。 教師、下級役人、教会関係者、町工場の親方――いわゆる良識派である。 彼らは広場へ集まり、拡声器を奪い、暴徒たちへ必死
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第68話……同じ寸法の世界

 停戦成立後、アーヴィング大公家の艦隊は、グラストヘイム要塞へ必要最小限の守備兵力を残し、主力をいったん後方へ下げた。 そのすぐ後方にある補給拠点として選ばれたのが、惑星ヴァルカンである。 衛星軌道上には、巨大なエーテル・タンカーが数珠つなぎに並んでいた。 鈍く光る船腹のあちこちへ補給アームが食らいつき、青白い流体が脈打つように移送されてゆく。 宇宙桟橋の一角では、VLS用の長大なミサイルコンテナが何列にも寝かされ、整備員たちが汗まみれで搬入指示を飛ばしていた。 また別の区画では、砲弾、予備反応炉部材、艦載機部品、食糧コンテナ、医療資材までが山となって積まれている。 桟橋と地上を結ぶ専用シャトル群も、まるで蜂の群れのように休みなく往復していた。 上がってくるのは物資。 降りてゆくのは、休暇を許された兵員たち。 疲れ切った水兵や機関兵たちは、シャトルの扉が開くや否や、ヴァルカンの酒場街へ吸い込まれていった。 酒、女、賭博、熱い飯。 前線帰りの兵に必要なものは、昔から大して変わらぬらしい。 戦艦ハンニバルの艦橋でも、補給士官たちが目を回すような忙しさで働いていた。「第三倉庫、誘導弾積載完了!」「機関部予備材、右舷搬入口より受領!」「食糧補充、基準値の〇・六倍! この艦、兵員数のデータに消費が読めません!」 怒鳴り声と足音、端末の警告音がひっきりなしに交差する。 その只中で、ユリウスだけは少し離れた高座に座し、正面スクリーンへ映る補給桟橋の光景を静かに見つめていた。 彼の脳裏を占めていたのは、戦況でも、物資量でもなかった。 もっと根源的な、奇妙な違和感である。 ミサイルも、弾薬も、艦内配管の継手も、果ては工具規格に至るまで、帝国軍の軍需物資は地球規格で統一されている。 それだけなら、まだ分かる。帝国は地球文明の流れを汲む国家だからだ。 だが奇妙なのは、その規格が人類統合共和国でも通用し、さらには地球文化を起源に持たぬはずのパニキア連邦でさえ、大筋では同じ規格を用いているという事実だった。 ユリウスは低く呟いた。「……なぜだろう」 そばに控えていた副官が顔を上げる。「何がでございますか、閣下」「規格だよ」 ユリウスは視線を外さずに言った。「国家が違えば、思想も言葉も法律も違う。敵同士であればなおさら、兵器体系など別
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第69話……目覚めた金印

 夜明け前の薄青い光が、ヴァルカンの館の回廊へ静かに差し込んでいた。 ユリウスが外交使節として出立する朝――その少し前、ツーシームは館の奥に設けられた一室へ足を向けていた。 荒鷲の金印を持つ少女。 帝国軍特殊部隊が昨夜あれほど執拗に探した以上、もはやこの館も絶対安全とは言い切れない。 どこか別の隠し場所へ移す必要があった。「さて、寝ぼけ眼のまま運ばれてくれると助かるんだがねぇ……」 安煙草をくわえたまま、ツーシームは扉を押し開けた。 だが、そこで彼女の足が止まる。「……ん?」 部屋の中央に、少女が立っていた。 いつもは伏せがちで、どこか夢の中を漂うような目をしていた娘が、いまは背筋を伸ばし、凛とした面持ちでこちらを見返している。 あきらかに空気が違った。 ただ起きているのではない。自分が誰であるかを、ようやく思い出した者の眼だった。 ツーシームは片眉を上げ、煙を細く吐いた。「お加減はどうさね?」 少女は小さな顎を上げる。「悪うない。余は、ようやく記憶を取り戻したぞ……」 その言葉は幼い顔立ちに似合わぬほど重く、古い響きを帯びていた。 ツーシームは一瞬だけ黙り込み、それから肩をすくめて笑う。「あはは、そいつはめでたい。……いや、こっちの都合で言えば、もうちょっと忘れていて欲しかったんだけどね」 少女は「ふん」と鼻で笑うだけだった。 だが、その仕草にさえ、ただの怯えた娘にはない気品がある。 荒鷲の金印。 帝国が血眼になって追う理由が、ようやく輪郭を持ってきた気がした。「余をどこへ連れてゆく気だ?」「安全な場所さ。少なくとも、昨夜みたいに犬ころが窓から雪崩れ込む場所じゃない」「そなた、存外に世話焼きだな」「海賊と商売人はねぇ、預かった品が傷つくのを嫌うのさ」 少女はわずかに目を細めた。 その視線は幼いのに、妙に人を洞察し値踏みする。 ツーシームは心の中で舌を巻いた。 ――こりゃ本物だねぇ。 そのころ館の表では、ユリウスの出立準備が整っていた。 正門前に待つ陸上ホバークラフトの周囲には、護衛のSPたちが忙しく動いている。外交使節の旅とはいえ、向かう先は異星人国家パニキア。 警戒は当然だった。 二階のバルコニーへ出た幼い妻イオナが、身を乗り出すように手を振る。「あなた、行ってらっしゃいませ!」 下で振
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第70話……海の向こうも同じ

 休戦ラインを越える瞬間まで、星間ギルドの商船「銀の秤」の船内には、張りつめた空気が満ちていた。 パニキア連邦側の警戒宙域では、数度にわたり検問艇が接近し、古びた船腹へ鋭い捜査光を這わせてきた。 だが、「銀の秤」は武装を持たぬ旧式商船であり、しかも星間ギルド所属の古参船である。 積荷目録も航路記録も、それらしく整えられていたため、大事には至らなかった。「船籍確認完了。積荷照会、一致」「……よし、通してやれ。こんな骨董品で戦をしようって奴もおるまい」 管制側の声が同時翻訳機を通して流れると、操舵席のヘッジボックが小さく肩を落とした。「いやはや、寿命が縮みますな」 ユリウスは商人風の外套の襟を整えつつ、静かに答える。「ご配慮ありがとうございます」 それから「銀の秤」は数度の短距離ワープを重ね、ようやくパニキア連邦最前線の辺境惑星「レーベ」へ到達した。 暗褐色の海に覆われた惑星だった。 低い雲が空一面へ垂れこめ、海上には巨大な浮体構造物がいくつも連なっている。 宇宙桟橋のような洗練された設備はなく、旧式の水上宇宙港へ直接降りるしかないらしい。「こちら『銀の秤』、入港を許可されたし……」 ヘッジボックが送信すると、すぐ応答が返る。「了解。三番ゲートへの接岸を許可する」「助かりましたな」「まだ早いですよ」 ユリウスは窓の外を見たまま言った。「降りるまでが航海ですから……」 次の瞬間、船体が大きく震えた。 「銀の秤」は一気に大気圏へ突入し、外殻がみるみる赤熱してゆく。 老朽化した船体が低く軋み、接合部が悲鳴を上げた。 窓外では、剥がれた耐熱タイルが火の尾を引きながら後方へ流れてゆく。「おいおい……まだ持ってくれよ」 操舵士が舌打ちする。「左舷外板、熱負荷上昇!」「分かっている! だが今さらどうしようもない!」 激しい振動の末、「銀の秤」はどうにか海上宇宙港の三番ゲートへ滑り込み、重い音を立てて接岸した。 船内に安堵の息が広がる。 ヘッジボックは額の汗を拭い、苦笑した。「いやぁ、長年のワープで船が悲鳴を上げております。応急修理に二日、いや三日ほど日をいただきたいですな」 ユリウスはうなずく。「はい、安全第一でお願いします」 この間、彼は商人の服へ着替えていた。 付き従うグレゴールも、護衛らしさを隠すため、目
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