星間覇道 ― 銀河最大の内乱 ―의 모든 챕터: 챕터 31 - 챕터 40

70 챕터

第31話……名分の転覆

 第五総管区外縁―― 航路図にも、資源リストにも記載されない、名もなき宙域。 重力の癖が悪く、恒星光も届きにくいその場所には、観測価値のない瓦礫として扱われてきた小さな小惑星が漂っていた。 角度を変えれば、背景の星海に溶け込み、センサーを通せば、ただの質量ノイズとして処理される。 誰も気に留めず、誰も探そうとしない――まさに「宇宙の盲点」とも言うべき位置である。 その小惑星の内部は、丁寧に、そして緻密にくり抜かれていた。 外殻の自然な歪みをそのまま残した空洞は、人工構造物の反応を極力抑え、内部に灯る最低限の光だけが、そこが基地であることを示している。――秘密基地。 反乱軍の、そして帝国の目が決して届かぬ場所。 その中央区画に、一隻の小さな次元潜航艇が、怯えた獣のように身を潜めて停泊していた。「……ふぅ。この船、空調が死にかけてるんじゃないかい?」 ハッチが開き、這い出るように姿を現したのは、紅い髪を無造作にかき上げた女海賊――ツーシームだった。「そりゃ禁煙にもなるわけだねぇ……」 彼女を迎えたのは、反乱軍側の研究者たちだった。 白衣の裾を翻しながら、興奮と緊張を隠しきれない様子で彼女を見つめている。「あなたは本当に……宇宙のエネルギーの潮流が『見える』のですね」「理論では理解していましたが、実際に目の当たりにするまでは信じられませんでした」 ツーシームは肩をすくめる。 彼女は、通常のセンサーでは捉えられない種類のエネルギーの流れを読み取り、潜航中は極端に鈍足となる次元潜航艇を、まるで追い風を受けた帆船のように走らせてみせたのだ。「この航路データは驚異的だ……!」「磁気嵐を利用した区間は、ここで合っているのか?」「あってるかどうかなんて知らないよ」 ツーシームは素っ気なく言い放つ。「あたいは成功報酬さえもらえりゃ、それでいいのさ」「……ああ、もちろんだとも」 研究者の一人が頷く。「例の『アレ』も、惑星ヴァルカンへ急いで輸送させよう」 差し出されたのは、高額なエーテル兌換札の束。 ツーシームはそれを手慣れた指で数えながら、壁のモニターへ視線をやった。――帝国公共放送。『――聖帝国ノヴァ皇帝陛下、崩御――』「あらら……皇帝陛下がお亡くなりかい」 彼女は特段驚くこともなく、硬いパイプ椅子に腰を下ろし、安煙草に
last update최신 업데이트 : 2026-06-10
더 보기

第32話……分岐の惑星ワーグ

 聖帝国暦六四四年十月初旬――。 第六総管区の管区長アーヴィング侯爵とその側近たちが、善戦を続ける第五総管区からの同盟要請に頭を抱えていた頃。 第三総管区と第六総管区の境界近く、見向きもされぬ辺境宙域で、やがて両管区全体を揺るがす「些細な火種」が燻り始めていた。 第六管区側に属する資源惑星「ワーグ」。 同惑星の巨額の開発資金は、惑星そのものを担保として、第一総管区の大商人たちから借り受けたものだった。「いやいや、子爵様のご手腕なら、返済などすぐでしょうなぁ」 最初は軽口のように聞こえたが―― 莫大な元本に対し、日々の利子は雪だるま式に膨れ上がっていく。 返済の見込みが消えたと悟ったファイアフライ子爵は、返済猶予を求めた。 だが返答は冷徹だった。「お約束通り――惑星ワーグをお渡しください」「……ば、馬鹿な! 冗談もほどほどにせよ、この成金どもが!!」 確かに約款には、返済不能の際は「惑星統治権の99年間譲渡」と明記されている。 しかし、貴族の統治権を商人階級が接収する前例など、帝国史上ただの一度もなかった。 屈辱に震えるファイアフライ子爵は即断する。「兵を集めよ! 腐れ金の亡者どもを追い払え!」 かくして子爵は武力で大商人たちの代理人を排除した。 だが、大商人たちは日頃から第三総管区の権威ある貴族たちに、多額の献金をばら撒いていた。 その“投資”は即座に実を結ぶ。「借金を返せぬ貧乏貴族風情を追い払え!」 第三総管区の重鎮、アーバイン伯爵。 彼は大商人たちの要請を受け、支配域全域から艦艇を動員し、即席の遠征艦隊を再編。 資源惑星ワーグへと、怒涛のごとく迫った。そして――「――主砲斉射!!」 資源惑星ワーグの衛星軌道上に散在するワーグ防衛衛星群。 それらは旧型ながら、セラミック複合装甲などで外殻を覆われ、容易には崩れぬ「殻」を備えていた。 青白いビーム光が衛星表面に降り注ぎ、高温の閃光が幾重にも走る。 しかし、砲撃直後の戦術モニターには、衝撃的なデータが映し出される。「……装甲、貫通せず。表面温度――三千度到達。膨張によるクラック発生……しかし、まだ動いています!」 セラミック複合装甲は高熱に晒され、外殻は溶けながらも分子構造を歪ませ、衝撃を散らしていく。 衛星の回転砲塔が、焦げついた表面を軋ませながら姿勢制
last update최신 업데이트 : 2026-06-10
더 보기

第33話……帝国の外に開く門

 聖帝国暦六四四年十月下旬――。 帝国中央と刃を交える決意を固めたアーヴィング侯爵家の大広間には、侯爵に与する第六総管区の地方貴族たちが集っていた。 彼らにとって帝国の大義や理想など二の次だ。自らの領地と権益を守ってくれる者こそが、すべてだった。 広間には、磨き上げられた長卓がいくつも並び、香草を纏った焼き獣の塊、琥珀色に艶めく燻製肉、宝石のように盛られた果実、湯気を立てる濃厚な煮込み鍋、銀盆に整列した海産の珍味が、惜しげもなく供されている。 名酒は氷で冷やされ、甘く芳醇な香りが、談笑の輪をくすぐっていた。 その中に、ユリウスたちの姿もあった。「諸君――!」 立食パーティーの只中、アーヴィング侯爵が杯を掲げる。 照明に照らされたワインが赤く揺れた。「我々は皇帝陛下には弓を引かぬ。此度は奸臣たるノクターン公爵政権を討つ正義の戦いである! 幼帝を擁立し、全宇宙に覇を唱えようぞ!」 喝采が起こり、銀食器が鳴り、杯が次々と打ち合わされた。 幼帝――。 前皇帝の子らの多くは既に亡くなり、その無数の孫たちが有力貴族を後ろ盾に、帝位を巡って水面下の暗闘を繰り広げているという噂が、会場のあちこちで囁かれていた。「うへっ、旨い!」 会場の末席では、ツーシームが分厚く切り分けられたロースト肉にかぶりつき、香辛料の効いたソースをたっぷり絡めて頬張っていた。 黄金色の酒をあおり、次は塩漬けの魚卵に手を伸ばす。「政治の話より、こっちの方がよっぽどオツだねぇ」 彼女にとって侯爵の演説など背景音にすぎない。 並ぶ名酒と珍味こそが、今宵の主役だった。 やがて照明が落とされ、天井そのものが巨大なスクリーンへと変貌する。 星図と航路が浮かび上がり、会場のざわめきは静まった。 侯爵は熱気を保ったまま、作戦説明へと移る。「……現在、第五総管区の友邦に危機が迫っておる。至急艦隊を編成し、援軍を送りたい。皆はどう思う?」 沈黙。 この場で異を唱えることは、侯爵の不興を買うに等しい。 会場が無言の賛意を示そうとした、その時――。「侯爵閣下!」 澄んだ声が響いた。 ユリウス少年である。「おお! 辺境の勇者アストレア殿じゃったな。よい、思うところを述べよ」「はっ。第五総管区へ援兵を送れば、彼我の兵力は拮抗いたします。悪い策ではありません。ですが――より良
last update최신 업데이트 : 2026-06-10
더 보기

第34話……金銀の枷

 アーヴィング侯爵家館の奥深く。 人の気配が途切れる、装飾も控えめな裏廊下に、二つの影が並んでいた。「え?」 ツーシームが片眉を上げる。「人類統合共和国に伝手はないか、だって? てっきり何か腹案があって言い出したのかと思ったよ」 ユリウスは肩をすくめ、悪びれもせずに答えた。「うん。正直に言うと――賭けだね。僕、皇帝になりたいからさ。こんな辺境でグズグズしてる暇はないんだ」 一拍置き、すぐに笑って付け加える。「……っていうのは冗談だけど。でも、ツーシームなら『ある』と思ったんだ」 彼は周囲を一瞥し、誰もいないことを確かめてから、懐に手を入れた。 音もなく現れたのは、分厚いエーテル兌換札の束。 淡く光る紙面が、薄暗い廊下でいやに存在感を放つ。「外交用の予算は、思った以上に出たよ。成功報酬も含めて――お礼は、たんまりできる」 ツーシームは一瞬、ため息をついた。 それから、口元を歪めて苦笑する。「……うーん。ほんと、しょうがない坊っちゃんだねぇ」「そう言ってくれると思ってたよ」 ユリウスは、どこか確信めいた笑みを浮かべた。 彼は知っていた。 ツーシームが位相鉄を売り捌くため、帝国、連邦、共和国――表も裏も区別なく、様々な連中と付き合いを持っていることを。 そして同時に、彼女のいちばん分かりやすい弱点が――金であることも。「ま、交渉相手が共和国ってんなら、厄介なのは確かさ」 ツーシームは兌換札を指で弾きながら言う。「でも……あたいに頼むってことは、それなりの覚悟はあるんだろ?」「もちろん」 ユリウスは即答した。「失敗したら、全部僕の責任だ」 その言葉に、ツーシームは一瞬だけ真顔になり―― やがて、いつもの皮肉っぽい笑みを取り戻した。「まったく……、皇帝様を目指す坊っちゃんの初仕事が、裏外交たぁね」 薄暗い廊下に、小さな笑い声が溶ける。 こうして、帝国の命運を左右しかねない交渉は、一人の少年と一人の女海賊―― 極めて非公式な同盟から、静かに動き始めたのだった。◇◇◇◇◇ 数日後――。 海賊船「モリガン」と、識別信号を意図的に曖昧化した謎の船影が、バルバロッサ宙域の小惑星帯で向かい合っていた。 この宙域は、恒常的に恒星風が吹き荒れ、磁気嵐が渦巻く異常空間である。 センサーは虚像を映し、レーダーは雑音に沈む
last update최신 업데이트 : 2026-06-10
더 보기

第35話……銀と商会

 アーヴィング侯爵家の首府、惑星クラウゼンへと向かう航路。 海賊船「モリガン」の居住区では、恒星光が鈍く差し込み、機関の低い鼓動だけが静かに響いていた。 テーブルに肘をつき、ユリウスは難しい顔で天井を見上げている。 その向かいで、ツーシームは安煙草をくわえ、ゆっくりと紫煙を吐き出した。「まぁ……あたいにも銀が必要なのは分かるけどねぇ」 軽い口調とは裏腹に、その視線は真剣だった。「いい方法はないかな?」 ユリウスは身を乗り出す。「他の宙域からも銀を集めたいんだ。第六総管区だけじゃ、どう考えても足りない」「……商会制度、かなぁ」 ツーシームは煙を吐きながら、ぽつりと答える。 この世界でいう「商会」とは、株式会社に近い存在だ。 様々な物資を扱うための、合法と非合法の境界線に立つ事業体。「でも、僕たちは商会を設立できないよ?」 それはユリウス自身が誰よりも理解している掟だった。 地方を治める帝国貴族は、事業を興してはならない。 力と富が結びつくことを恐れた、帝国中枢の古い縛りである。「いやさ」 ツーシームは煙草を咥え直し、口の端をつり上げた。「坊っちゃんが、商会の『主』になる必要はないんじゃない?」「……じゃあ、誰が?」 一瞬の間。 それから彼女は、悪戯っぽく笑った。「あたい。……じゃ、だめかな?」「なるほど」 ユリウスはすぐに理解し、頷いた。「つまり形式上は、僕は出資者にすぎないんだね?」「うん」 ツーシームは指を折って説明する。「でもさ、それだけじゃ全然足りないだろ? だから他の星系の貴族や――二級市民に至るまで、出資を募るのさ」「えっ!?」 ユリウスは目を丸くする。「星系外からも? しかも……二級市民?」 通常、商会は星系単位で完結する。 しかも、先々代皇帝が『投機』を嫌った影響で、出資の最低単元は庶民には手の届かない額にするのが暗黙の了解だった。「中央政府に、怒られないかな……?」 不安げなユリウスに、ツーシームは肩をすくめる。「表向き内乱だからって、星系を跨ぐ商取引や物流を全部止めたら、中央だって損するさ」 この世界では、制裁と黙認が同時に存在する。 経済活動を「ほどほど」に許すことで、中央は独立心旺盛な地方を縛り、揺さぶり、従わせてきたのだ。 だからこそ―― 地方貴族家にとっては
last update최신 업데이트 : 2026-06-10
더 보기

第36話……グラストヘイム会戦・序幕

 聖帝国暦六四四年十一月中旬――。 ハルダー元帥率いる第六総管区の艦隊は、第三総管区境界を突破すると、まるで雪崩のような勢いで侵入した。 わずか十日で二つの無人星系を攻略し、艦隊は目的地である「グラストヘイム要塞」の周辺宙域へと進出する。 おおよそ宇宙要塞とは、航行可能空間が著しく制限された宙域に築かれるものだ。 グラストヘイム要塞周辺も例外ではなく、厳しい航行環境により、細い回廊状の航路が複雑に入り組んでいる。 しかもここは辺境でありながら、第一総管区へ通じる交通の要衝でもあった。 ゆえに、この宙域には各種戦略物資が備蓄され、さらには――中央政府軍が第五総管区反乱討伐のために敷いた主要兵站線が存在していた。「予定通り、偵察艦を四方へ展開せよ!」「了解!」 ハルダー元帥は、要塞周辺の「伏兵」を何より警戒した。 艦隊は一時行軍を停止し、警戒態勢を崩さずに偵察艦が四方へ散っていく。 その間、旗下の艦艇群は交代制で補給艦へ接舷。 新鮮な食料、水、エーテル燃料、そして戦闘用食の嗜好品まで積み込んでいく。 船体間を行き交う小型艇のエンジン音が、補給作業の緊張感を際立たせる。「副長、缶入りラム酒は各艦に行き渡ったか?」「はっ、補給科より士気向上に資するとの要望により、余剰分も割り当て済みにございます」 元帥は小さく頷いた。 今回の兵站線は急造ゆえ、戦いは短期で終えるしかない。 兵士の士気と持久力を支えるものは、嗜好品を含むすべてを活用せねばならなかった。 艦橋の大型パネルには、偵察艦の航跡が蜘蛛の巣のように描かれていく。 その先に何が待つのか―― 誰もが息を潜めていた。◇◇◇◇◇ 各所に散開した偵察艦から、旗艦「オクトパス」へ通信が矢継ぎ早に飛び込んできた。「敵影発見! 数およそ二百――大型艦の反応は無し!」 オペレーターが報告を叫ぶと、戦術士官が即座に指示を重ねる。「各指揮艦艇へ、敵座標を即時送信! 対処準備に入れ!」「了解!」 モニターに浮かぶ敵編隊は、明らかに要塞防衛を任された守備部隊だった。 さらに分析結果が付け加えられる。「敵艦艇、旧式多数――おそらく予備戦力です!」 ハルダー元帥は顎を撫でながら短く応えた。「第五総管区から遠すぎる……本隊の支援もままならぬというわけだな」 そして迷いなく命じる。「
last update최신 업데이트 : 2026-06-10
더 보기

第37話……グラストヘイム要塞戦

 グラストヘイム要塞内・司令部。 巨大な作戦円卓の中央で、淡く青白いホログラムが踊っていた。 第六総管区艦隊の編隊が、まるでじりじりと獲物ににじり寄る狼のように描かれている。 この要塞の指揮官は、カタコン上級大将。 銀髪を撫でつけ、片眼鏡越しに戦況を見据える老将であり、爵位は男爵家当主。 帝国への忠誠は厚く、無駄口を嫌うことで知られた人物であった。「第六総管区の艦艇群、射程距離に入りました!」 情報将校が声を上げる。 だが老将カタコンは、わずかに顎を引いて肯定しただけであった。「敵、ビーム砲撃開始! 着弾まで二秒!」 報告と同時に、艦橋全体が青い光に包まれる。 数百条のビームが要塞外郭に突き刺さった。 だがその多くは、濃密なガス雲を潜る過程で減衰し、さらに液体金属層に反射されることで力を削がれていく。「敵、ミサイル艦群が前進!」 ビーム砲艦列が後退し、代わって腹部に巨大な弾頭を抱えたミサイル艦の戦列が前へ。 参謀たちは息を呑む。 数百隻規模の巨大ミサイルでの飽和攻撃は、いかなる巨大構造物といえど無視できなかった。「敵、ミサイル発射!」「うむ」 老将カタコンはゆっくりと立ち上がり、静かに宣告した。「逆徒を塵と化す刻ぞ。重力制御装置へ電力供給開始」「供給開始! 電力網最大負荷!」 要塞内部の巨大な電力網がうなりをあげ、液体金属の海が引き潮のように沈んでいく。 その奥から現れたのは、常識外れの巨砲――。「要塞砲ギガント、砲口露出完了!」 ガス雲が中心に向かって収束し、巨大な台風の渦のように外へ巻き上がっていく。 渦の中心だけが晴れ渡り、射線が開いた。「制御第二段階へ!」「了解! 射線確保!」 老将カタコンは剣の柄を握るように手を背に回し、声を発した。「帝国万歳。反乱軍へ――最後の慈悲を与えよ」 ごくり、と誰かが息を呑む。「ギ、ギガント砲――斉射!!」◇◇◇◇◇ 周囲の宙域が、瞬間的に真白へと塗りつぶされた。 閃光は超新星爆発を想わせ、要塞内部の主センサーにさえ飽和エラーを走らせる。 うねるエネルギーの奔流が、敵艦隊右翼を直撃した。 艦艇の外殻は剥がれ、艇体は波に呑まれる流木のように千切れ飛ぶ。 そして、押し流された残骸が爆ぜ、火花を散らしながら暗黒空へ鋳物のように散っていった。「……め、命中確
last update최신 업데이트 : 2026-06-10
더 보기

第38話……伝説という兵器

 ――グラストヘイム要塞攻防戦の最中。 ツーシームとユリウスは久方ぶりに惑星ヴァルカンの地を踏んでいた。 そしてアーヴィング侯爵の派遣した参謀、レングナー準男爵が控えめに付き従う。 彼の役目は表向き参謀、実態はお目付け役である。 その夜、三人は在地領主たちと共に、館の屋上テラスで晩餐会に参加していた。 夜空には交易船の航跡が線を描き、以前は錆びた資源惑星にすぎなかったヴァルカンが、いまや便利な交易路として再発見されつつあることを雄弁に物語っていた。 長いテーブルには、温かい蒸気を立てる肉料理、芳香の強い根菜のポタージュ、不透明な酒精飲料、そして貴族向けの濃厚なチーズや果物、菓子まで並ぶ。 見たこともない珍味を前にして、参加者たちの顔には活気と欲望と希望が入り混じっていた。「皆様の輝かしい未来に――乾杯!」「「乾杯!」」 グラスが重なり合い、小気味よい音がテラスに散った。 惑星ヴァルカンには、多数の移民が流入し始めている。 治安、自治、徴税、都市計画――あらゆる行政機構を急いで整えねばならない。 父亡き今、ユリウスが政治的に頼れるのは、この経験豊かな在地領主たちであった。 さらに今夜はもう一つ目的がある。 銀を集めるための商会設立に向け、出資を募るのだ。「だりぃねぇ……」 ツーシームがグラスを傾けながらぼやいた。 表向き彼女はフォックス社の社長であり、銀の調達に向けて急速に成長する大商社の顔役であった。 立ち振る舞いは華やかでなければならず、愛想笑いも求められる。 それが彼女には何より億劫だった。「……ささ、こちらへどうぞ」 出資受付の実務はゾル婆が一手に仕切る。 その隣に無言で立つビッグベアの存在は、言葉以上の威圧効果を放っていた。 酔った小役人が涎を拭いながら聞く。「婆さん、それって幾らから出資できるんだ? 成功したら儲かるんだろ?」「成功したら分け前は大きいよ。募集は一口1000帝国ルーブルから。支払いは銀貨が嬉しいね」「ほぉ、一口やるわ!」「俺もだ!」「うちも!」 1000帝国ルーブルとは、惑星ヴァルカンの平均労働者の一か月分の給金に相当した。 それでも、一攫千金を夢見る人々にはちょうど手が届く額である。 そして評判は足の速い鳥のように広まり、領内の住民に加え、交易商や旅の者まで続々と口数を買い
last update최신 업데이트 : 2026-06-10
더 보기

第39話……神話は一度だけ撃たれた

 聖帝国暦六四四年十二月中旬――。 惑星破壊砲「オーディンの剣」は、白熱する跳躍波を曳きながらグラスヘイム要塞の宙域にワープアウトした。 砲身前端の重装防盾が展開し、超巨大砲口が静かに要塞へ向けられる。「要塞側、反応なし!」 陽動目的の投入のはずだったが、肝心の要塞は微動だにしない。 ハルダー元帥は舌打ち交じりに命じた。「もう一度、降伏勧告を送れ!」 第五総管区に進出する帝国中央の艦隊の補給線を制するため、戦線を一気に押し返す切り札がこの欺瞞作戦だった。 早く要塞を攻略せねば中央帝国軍が反転し、この宙域へ到達する可能性が高まる。 そうなれば、大勝利を逃す可能性が高かったのである。だが数分後――「応答なし!」「やむを得ん。レングナーに――撃てるなら撃てと伝えろ」 その通信は随伴する巡洋艦「アストレア」に届いた。「なんだって!? 撃つなんて聞いてない!」 艦橋でユリウスは蒼白となった。 ツーシームはアルテミス商会での従事で、今ここにいない。 だが、無断発射など知れたら怒鳴られる程度では済まない。「子爵殿、これは何十万の将兵の命に関わる案件ですぞ」 レングナー準男爵の静かな説得に、ユリウスは唇を噛み、やがて黙した。 その沈黙を了承と受け取ったレングナーは、即座に砲に前進命令を下す。 本来なら要塞側の砲撃が飛んできてもおかしくない局面だったが、要塞砲「ギガント」はハルダー元帥の艦隊が押さえ込んでいた。「エネルギー充填開始!」 四隻の特設輸送艦から伸びる極太チューブが接続され、膨大な電力が射撃炉へ注ぎ込まれていく。 それでも不足し、数隻のビーム艦までが発電船に転じて接続を開始した。「充填率四〇・二%――砲身内殻、溶融を開始! これ以上は危険です!」「よし、そのまま撃て!」 レングナーは躊躇しなかった。 次の瞬間、砲口から青白い咆哮が奔った。 だがその咆哮は、ただ要塞を目指すだけではない。 砲身そのものが悲鳴を上げていた。 内部の加速コイルは踊るように焼き切れ、内殻は剥離して吹き飛び、外殻装甲が熱で膨張して裂けた。 撃つという行為そのものが、砲の自殺的崩壊を意味していたのだ。 奔り出たエネルギーの奔流は要塞外殻を容易く貫き、内部の耐爆隔壁を溶断、反対側の砲塔区画へ突き抜けていく。 瞬間、要塞の巨大構造物は串刺
last update최신 업데이트 : 2026-06-10
더 보기

第40話……相場で流れる血

 グラストヘイム要塞で泥臭い地上戦が繰り広げられているその頃―― ツーシームは、星間ギルドが運営する秘密取引所へ向かっていた。 それは小惑星帯に埋め込まれた人口天体で、公の地図には存在しない。 外観は錆びた看板のバー。 油と古い酒と電熱蛍光灯が混ざった、どこか懐かしい匂いがする店だ。 古いロックが割れたスピーカーから流れ、カウンターでは負けた相場師が黙ってグラスを回していた。 ツーシームは安物の未熟成ウイスキーを頼み、氷を溶かす音だけが耳に残る。 マスターがそっと酒を置いた瞬間、彼女はポケットから会員証を指先だけで見せた。「……こっちだ」 カウンター内の床板が軋みながら開き、薄暗い階段が下へと延びる。 降りた先は、バーとは別世界だった。 量子端末が整然と並び、モニターが煌めき、電子音が飛び交い、空気は熱気と香水と金の匂いで満ちていた。 客は一様に怪しいが、服装だけは上等だ。 この場所の金の匂いに相応しい者ばかりなのだ。「トム、周りを見張っておいて」「了解です」 ビッグベアは壁際の警戒用モニターに視線を送りながら立った。 壁の巨大スクリーンには、銀、コバルト、タンタル、小惑星採掘権、貿易枠、食糧配給枠――そして戦場特有の需給が反映された相場が、量子もつれを利用した取引システムにより、次々と更新される。 当然ツーシームの狙いは銀だった。 帝国内で銀は上等な資材であり、工業用にも貨幣用にも需給がタイトだ。 そこに「事件」が起きた。「おい、聞いたか! 第六総管区の外縁辺で巨大な銀鉱床が見つかったらしい!」「埋蔵量は百数十万トン規模だとよ!」 取引所は一気に沸騰した。「売りだ! 先物でぶん投げろ!」「銀証券を貸せ! 売りを浴びせろ!」 ツーシームは口元を歪める。 この噂は、以前ゾル婆と丹念に仕込んだ「偽装情報」そのものだった。 注文は端末からでも出来たが、わざわざ美女型アンドロイドに口頭で伝えるのが流行だった。 所詮ここは成金たちの遊技場でもある。「よ〜いしょっと」 ツーシームは取引所の片隅の端末で、逆に黙々と買い注文を入れていく。 先物板には凄まじい量の信用売り注文が積み上がり、銀の価格は雪崩のように沈んだ。 その安値で、帝国中の銀の権利証券が次々と彼女の手に転がり込む。「……こんなものでいいかな」 最
last update최신 업데이트 : 2026-06-10
더 보기
이전
1234567
앱에서 읽으려면 QR 코드를 스캔하세요.
DMCA.com Protection Status