聖帝国暦六四四年七月初旬―― 銀河聖帝国ノヴァ中央政庁、摂政府大広間。 冷えきった大理石の床を、規則正しい靴音が断固たる行進のように打ち鳴らされる。 高くそびえるドーム天井には、銀河星図を模した光学投影が巡り、紫紺の光が居並ぶ行政官たちの肩章を鈍く照らしていた。 階段状に設けられた傍聴席には、各総管区より召集された行政官、財務監察官、軍政監督官、司法卿補佐らが隙間なく居並び、私語はおろか、咳一つ響かない。 羊皮紙と端末を抱えた官僚たちは背筋を張りつめ、沈黙そのものに縛られるかのように、ただ前方――黒曜石の玉座を凝視していた。 やがて、重く低い鐘音が一打、空間を震わせた。 大広間の奥、玉座の上で、ゆるやかに一つの影が立ち上がる。 漆黒の外套をまとった若き貴人――摂政、ヴィルヘルム・ノクターン公爵である。 老帝はすでに病床に伏し、帝国の実権はすべて、この若き摂政の掌中にあるといわれている。「摂政様――」 震える声で、ひとりの財務官僚が一歩前に進み出た。「これほど各地で反乱が相次ぎ、なおパニキア連邦の蛮族とも泥沼の全面戦争状態となっては……いかに国庫に財貨がございましても、もはや支えきれませぬ」 額ににじむ汗をぬぐいながら、彼は巨大なスクリーンに次々と資料を投影した。前線の軍の維持費、治安維持費、広大な補給線。 それは赤く染まった損耗曲線を描き、無慈悲な数字が大広間の空気をさらに冷やしてゆく。 公爵はそれを黙して見つめ、やがて小さく頷いた。「……ふむ。では、かつて提出されたパニキアとの停戦案を再び俎上にのせるよりあるまいな」 その言葉に応えるように、前列の一角から静かな声が続く。「左様にございます」 銀の光を帯びた長い髪を揺らし、マリアンヌ・ローゼンタール宰相が一歩進み出た。理知と苦渋を同時に湛えたその瞳が、公爵を真っ直ぐに射抜く。「パニキアは我らと正式な国交を持たぬ野蛮の連中。仲介は人類統合共和国に委ねる他ありませぬが……」「問題は、彼らが何を欲するか、だな」 公爵の低い声に、宰相は一瞬だけ視線を伏せ、そして断言した。「……奴らはエーテル資源に執着しております。取引条件としては、第六総管区のゴチエ大鉱区の一部くらいを差し出さねば、交渉の卓にすら着かぬでしょう」 その言葉が落ちた瞬間、大広間に重苦しい沈黙が広がった。
최신 업데이트 : 2026-06-08 더 보기