星間覇道 ― 銀河最大の内乱 ―의 모든 챕터: 챕터 21 - 챕터 30

70 챕터

第21話……停戦の代償と反乱の兆し

 聖帝国暦六四四年七月初旬―― 銀河聖帝国ノヴァ中央政庁、摂政府大広間。 冷えきった大理石の床を、規則正しい靴音が断固たる行進のように打ち鳴らされる。 高くそびえるドーム天井には、銀河星図を模した光学投影が巡り、紫紺の光が居並ぶ行政官たちの肩章を鈍く照らしていた。 階段状に設けられた傍聴席には、各総管区より召集された行政官、財務監察官、軍政監督官、司法卿補佐らが隙間なく居並び、私語はおろか、咳一つ響かない。 羊皮紙と端末を抱えた官僚たちは背筋を張りつめ、沈黙そのものに縛られるかのように、ただ前方――黒曜石の玉座を凝視していた。 やがて、重く低い鐘音が一打、空間を震わせた。 大広間の奥、玉座の上で、ゆるやかに一つの影が立ち上がる。 漆黒の外套をまとった若き貴人――摂政、ヴィルヘルム・ノクターン公爵である。 老帝はすでに病床に伏し、帝国の実権はすべて、この若き摂政の掌中にあるといわれている。「摂政様――」 震える声で、ひとりの財務官僚が一歩前に進み出た。「これほど各地で反乱が相次ぎ、なおパニキア連邦の蛮族とも泥沼の全面戦争状態となっては……いかに国庫に財貨がございましても、もはや支えきれませぬ」 額ににじむ汗をぬぐいながら、彼は巨大なスクリーンに次々と資料を投影した。前線の軍の維持費、治安維持費、広大な補給線。 それは赤く染まった損耗曲線を描き、無慈悲な数字が大広間の空気をさらに冷やしてゆく。 公爵はそれを黙して見つめ、やがて小さく頷いた。「……ふむ。では、かつて提出されたパニキアとの停戦案を再び俎上にのせるよりあるまいな」 その言葉に応えるように、前列の一角から静かな声が続く。「左様にございます」 銀の光を帯びた長い髪を揺らし、マリアンヌ・ローゼンタール宰相が一歩進み出た。理知と苦渋を同時に湛えたその瞳が、公爵を真っ直ぐに射抜く。「パニキアは我らと正式な国交を持たぬ野蛮の連中。仲介は人類統合共和国に委ねる他ありませぬが……」「問題は、彼らが何を欲するか、だな」 公爵の低い声に、宰相は一瞬だけ視線を伏せ、そして断言した。「……奴らはエーテル資源に執着しております。取引条件としては、第六総管区のゴチエ大鉱区の一部くらいを差し出さねば、交渉の卓にすら着かぬでしょう」 その言葉が落ちた瞬間、大広間に重苦しい沈黙が広がった。 
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第22話……繁栄の影、奈落の底

 帝国第六総管区の行政府が混乱の渦に沈むその頃――。 ユリウス少年はツーシーム、そして老臣グレゴールを伴い、イーグル星系に属する鉱山惑星モロの視察に赴いていた。 イーグル星系は、本来アーヴィング侯爵家から派遣された代官が統治する予定であったが、その代官は実務を丸ごとアストレア子爵家へと委託してきた。 名目上は中央の支配網に属しながら、実態はほとんど地方貴族の裁量に任されている、辺境らしい統治形態である。 イーグル星系には有人惑星ハヌマーンのほか、四つの資源惑星が存在した。 そのうちの一つが、この鉱山惑星モロである。資源惑星とはいえ、完全な無人ではなく、採掘・精錬・輸送に従事する者たちが定住し、最低限の行政と治安維持を必要としていた。 元クロイツ家に仕えていた役人が、ユリウス一行を電動ホバーに乗せて案内する。 荒涼とした赤褐色の大地を滑るように進むホバーの先に、やがて“それ”は姿を現した。――巨大な露天掘り鉱山。 大地は抉り取られ、何層にも重なる環状の斜面が、奈落へと続くように螺旋を描いている。 谷底では、山のような巨躯を持つ掘削機が唸り声を上げ、鋼鉄のアームで土砂と鉱石を引き裂いていた。 空気には金属粉と赤土の微粒子が満ち、太陽光を受けて鈍く輝く粉塵が、薄霞のように漂っている。 磁力索道に吊られた巨大な鉱石コンテナが、断崖の縁を規則正しく往復し、そのたびに低く重い駆動音が惑星の大気そのものを震わせていた。「子爵様、どうぞこちらになります」 役人がそう告げた先では、無数の小さな人影が、蟻の群れのように斜面に張り付いていた。「……あの人たちは、何なの?」 ユリウスは思わず眉をひそめた。 掘削機の陰で働く人影は、人間にしては小柄で、胴が太く、ずんぐりとした体格をしていたからだ。「ノーム人たちですな」 グレゴールが低く答える。「古の空間異変以来、我ら人類と友誼を結んでおる異星種族です。地底作業と鉱物の見分けにかけては、比類なき才を持ちます」 だが、ユリウスの目に映るノーム人たちは、友邦というよりも――監視され、酷使される労働者であった。 彼らの背には管理端末付きの拘束具が装着され、周囲には武装警備兵が等間隔に立っている。 岩粉にまみれたその背中は、あまりにも小さく、あまりにも重かった。 その視線の意味を察したかのように、ツー
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第23話……饗宴の裏で

 総督府に直結する専用駅へと降り立った瞬間、ユリウスは思わず息を呑んだ。 駅構内は総督府の内部とは思えぬほど広大で、天井には重厚な金属装飾と星図文様が施され、白銀色の照明が床の黒曜石を鏡のように照らし出している。 物々しい数の軍人たちが警備についており、空気そのものが張り詰めていた。 そもそも帝国の軍組織は、任務ごとに各地の貴族が保有する私兵を束ね、再編成して運用されるという特殊な体制を取っている。 編成された軍や艦隊を指揮するのは中央政府の将軍や提督だが、皇帝直轄の常備軍は全体の二割にも満たない。 つまり、侯爵家ともなれば――その私兵と艦隊は、もはや一国の軍勢にも等しい規模を誇るのだ。「子爵閣下へ、総員――敬礼っ!」 正装に身を包んだユリウスの姿を認めるや、将校が慌てて号令を発した。 ずらりと並んだ警備兵たちが一斉に敬礼し、金属音の揃った響きが駅構内に反響する。 その光景に、ユリウスは思わず背筋を正した。「へへっ、兵隊さんに敬礼されるのは、なかなか気分がいいねぇ~」 一行が緊張気味に歩を進める中、ツーシームだけは相変わらずの調子で、きょろきょろと辺りを見回しながら歩いている。「フォックス殿。あまり珍しそうに見渡していると、田舎者と笑われますぞ」「へいへい」 グレゴールにたしなめられ、ツーシームは頭をかきながら軽く返事をした。 今日の彼女は瓶底眼鏡に地味な外套という完全な変装姿で、表向きの肩書は『惑星ヴァルカンの産業顧問にしてフォックス社社長』という設定になっている。 将校に先導され、長い回廊を抜けていく。 通路の壁は白大理石で磨き上げられ、金糸を織り込んだ深紅の絨毯が足音を柔らかく吸い込む。 天井からは多面カットの水晶照明がいくつも吊るされ、歩むごとに光がきらきらと反射して、まるで星の中を歩いているかのようであった。 やがて扉が開かれ、一行は大広間へと通された。 そこはもはや行政施設の中とは思えぬ、完全なる宮殿の広間であった。 巨大な円柱が林立し、天井には金箔で彩られた銀河と神話の絵巻。 壁際には歴代総管区長の肖像画が並び、床は一切の機械装置を思わせぬほど静謐な大理石の光沢に包まれている。「アストレア子爵殿、大儀である……」 簡潔な謁見を終え、ユリウスは胸をなで下ろした。 供応役を務めるのは、オズワルド=グリムウ
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第24話……反乱総管区の惑星ルーニー

 幾度目かの長距離ワープを越え、ツーシームたちの乗る宇宙船は、ついに第五総管区の管轄宙域――その外縁部へと到達した。 ワープという超光速航行は、決して万能ではない。 脱出と帰還の座標は、空間の質量分布が極端に小さい「静穏域」を選ばねばならず、もし逸脱すれば、ワープアウト時に生じる重力震が周囲の質量と共鳴し、船体そのものを内側から引き裂く危険がある。「ワープアウト完了! 船体ダメージ、極めて軽微! 航行に支障なし!」 ブリッジに報告が響いた。「よし。機関部、エーテル燃料の急速充填に移れ。次の長距離ワープは二時間後だ」「了解!」 短く力強い応答とともに、クルーたちが一斉に持ち場へ散っていく。 再充填用のエーテル流動音が、船体の奥深くで低く唸り始めた。 その喧騒の片隅で、ツーシームは操舵席の後方に腰を預け、ぼんやりと前方の観測窓を眺めていた。窓の向こうでは、宇宙嵐が渦巻いている。 恒星風に吹き飛ばされた微細な氷粒と金属粉が、淡い光を反射しながら乱舞し、船体前面に淡い光の尾を引いて流れていく。 遠方には、捻じ曲がった磁気嵐の筋が、青白い稲妻のように走っていた。 一般的な民間宇宙船の通常航行速度は、およそ〇・〇五単位が限界だ。 星系内では強大な重力井戸や、濃い質量分布のため、ワープはほぼ使用できず、結局はこのノロイ「通常航行」に頼るしかない。 だからこそ、長距離ワープの合間に訪れる、この静かな通常航行の時間は、クルーにとっても、束の間の休息でもあった。「……さて、と」 ツーシームは咥えていた安煙草を灰皿に押し付け、くるりと肩を回して大きく伸びをする。「食事にでも行きますかねぇ」 そう呟く彼女の声とは裏腹に、船はなおも第五総管区の重い影へと近づきつつあった。 この後、さらに二度の長距離ワープを敢行し、一行は有人宙域であるドミナント星系へと突入することになる。◇◇◇◇◇ それから二十日の航行ののち――。 ツーシームたちの乗る宇宙船は、ドミナント星系内の第四惑星ルーニーへの着陸を企図した。 衛星軌道上に入ると、宇宙港管制塔との間で即座に交信が始まる。 船籍証明、外交許可証、通商免許、身分照合データ――ありとあらゆる情報が暗号化され、高速通信で管制側へと送り込まれていった。「――貴船の大気圏突入を許可する。第二〇八ゲートへ入港せよ
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第25話……歓待の檻

 晩餐の席には、アーヴィング侯爵家の使節団一行が揃っていた。 席次こそ主賓とは違えど、並ぶ料理は実に豪華である。 黄金色の砂漠薬草スープ、天球貝の冷製、白鱗魚の蒸し焼き、岩角獣の厚切りステーキ――皿が運ばれるたびに香りが広がり、ツーシームはすっかり上機嫌だった。「こりゃあ当たりだねぇ」 彼女は酒と料理を気の向くまま楽しみ、満腹になった頃にはすっかり酔いが回っていた。 ふらつきながら従者用控室に戻り、いつもの安煙草を一服。 豪華な寝台へそのまま倒れ込むと、瞬く間に深い眠りに落ちた。 ――目が覚めたのは、翌日の正午近く。 ツーシームは、豪奢すぎる晩餐の余韻をまだ体内に残したまま、寝台からゆっくりと起き上がるのだった。◇◇◇◇◇ 翌日の午後。 昼食後は実務者レベルの会談に入るため、ユリウスは饗応役の案内で星の外縁部へと足を運ぶことになった。「この星には、誇れるような観光地は少なくて……」 饗応役はどこか歯切れ悪くそう前置きし、神聖ノヴァ帝国の国教の関係からルドミラの寺院見学が見送られたことを告げる。 代わりに一行が案内されたのは、荒涼とした大地を穿つ巨大な鉱区であった。 赤褐色の地面は何層にも削り取られ、露出した岩肌からは鈍い金属光が覗いている。 掘削機の咆哮が絶え間なく響き、空には粉塵が漂い、油と金属と焼けた土の匂いが重く淀んでいた。 その斜面の縁に―― ノーム人と、人類統合共和国の二級市民と思しきバイオロイドたちが、ずらりと整列していた。 背丈の低いノーム人は顔を伏せ、無機質な目をしたバイオロイドたちは、感情のない視線で前方を見据えている。「……あ、あの、これは……?」 異様な光景に、ユリウスは声を潜めた。「子爵閣下への贈り物にございます」 饗応役もまた、小声で答えた。 地方星系の一部には、今なお労働力そのものを「献上」とみなす旧習が残っている。 それを頭では知っていても、現実に「人の列」として突きつけられると、言葉を失わずにはいられなかった。「……侯爵様へ、ですね?」 そう言うと、返ってきたのは予想外の答えであった。「いえ。侯爵様へは別にご用意しております。こちらは――使節団長である、子爵閣下へ」 ユリウスは思わず咳き込み、視線を逸らした。 その様子を見て、老臣グレゴールが静かに耳打ちする。「若様、ここ
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第26話……裏切りの航路

 惑星ルーニーを飛び立った宇宙船は、二度の長距離ワープを繰り返したのち、本来の航路を逸れ、予定にない小さな資源惑星へと降下を開始した。 船内がざわめく。「……おい、ここは惑星グラウゼンじゃないぞ?」「どういうことだ……?」 乗客たちが不安げに周囲を見回す中、重い金属音とともにハッチが開かれた。 そこから乗り込んできたのは、統制の取れていない武装集団――荒くれ者たちであった。 先頭に立つ髭の巨漢が、下卑た笑みを浮かべながら一歩進み出る。 手には電気鞭。青白い火花を散らしながら、ぴしりと空を裂いた。「へへっ……ご乗客の皆さま。これより――レアメタル鉱山で、ありがたく働いてもらいやすぜ」 一瞬、理解できない沈黙が流れた。「……馬鹿を言え! この船は惑星グラウゼン行きのはずだぞ!」「そうよ! なんで私たちが、訳の分からない労働なんか……!」 怒号と悲鳴が入り混じり、乗客たちは行政府だ、警察だと口々に叫び始める。 だが―― 髭の男は、まるで芝居でも見るように肩をすくめた。「残念でしたぁ~。あんた方を“売った”のは、行政府のお偉いさんでぇ~す」 そのふざけた口調が、事の残酷さを一層際立たせた。 次の瞬間、賊たちは一斉に動いた。 悲鳴を上げる暇すら与えず、乗客たちの腕に電子手錠が嵌められていく。抵抗した者は容赦なく電気鞭で打ち倒され、床に転がされた。 泣き叫ぶ者、抵抗しようとする者、呆然と立ち尽くす者――そのすべてが、無慈悲に「労働力」へと変えられていった。 当然のように、ユリウスたち三人も例外ではなかった。「……っ!」 抵抗する間もなく、ユリウスの両手に冷たい金属の感触が走る。 グレゴールも、ツーシームも、同様に拘束された。「……やられたね」 ツーシームは小さく呟き、悔しそうに舌打ちする。 こうして彼らは――行き先も、帰路も、すべて断たれたまま、未知なる鉱山惑星の地下へと引き立てられていったのであった。◇◇◇◇◇ 二週間後――。 赤黒い粉塵が舞い、硫黄と金属と血の匂いが入り混じるレアメタル鉱山の底で、ユリウス一行は今日も強制労働に従事していた。 頭上には照明代わりの粗末な投光器がいくつも吊るされ、白く冷たい光が岩壁を照らしている。 だがその明かりが照らすのは、希望ではなく――汗と絶望と疲弊した肉体だけであった。 
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第27話……帰還と決意

 暗い官舎の片隅。 湿った石壁にはぼんやりと照明が滲み、鼻をつく鉱山臭と粗末な食事の臭いが混じり合っていた。 ユリウスは、硬いパンを前にうつむきながらぽつりと言った。「……第五総管区の政治は腐っているな」 すると、ツーシームはグレゴールに視線を投げ、皮肉めいた笑みを浮かべた。「第六総管区と、どこが違うんだい?」 その言葉に、老臣グレゴールは言葉を失った。 ユリウスは驚きに目を丸くする。「え? え? 第六総管区もこうなの?」 しばらく沈黙した後、グレゴールは観念したように頷いた。「ええ……正直申しますと、帝国全土で重税を払えぬ者が拘束されております。その安い労働力で得た財は、中央官僚や地方役人たちの懐に……」「そんな……」 ユリウスの顔から血の気が引いていく。 そこへツーシームが、臭い脱脂粉乳をぐいっと飲み干しながら軽く言い放った。「なんのことはないさ。嫌なら坊ちゃんが何とかすればいい」「……ぼ、僕が?」「そうだよ。そんな連中を一掃したいなら――坊ちゃんが次の皇帝にでもなればいいのさ」 ツーシームは、カビの生えた黒いパンを指でくるくる回しながら、軽やかに笑った。 ユリウスは返す言葉もなく黙り込む。 するとツーシームはパンを放り投げ、立ち上がった。「まぁ、考えるのはあとでいいさ。――今はこうする」 次の瞬間。 ばしゃっ! 彼女は冷え切った麦粥を、見張りの看守の顔へ派手にぶちまけた。「!? な、なにをする――」 看守が叫ぶ間もなく、ツーシームの拳が顔面にめり込む。 ガンッ! 看守は泡を吹いて崩れ落ちた。「さて、逃げますか」「え、え!? どこに!??」 混乱するユリウスをよそに、ツーシームは迷いなく廊下を駆け出した。 ユリウスとグレゴールは追わざるを得ない。 たどり着いた先にあったのは、小型の脱出用宇宙艇――錆びて古びているが、まだ生きている。「乗るのか? 乗らないのか? 坊ちゃん、早く!」 その剣幕に押され、ユリウスもグレゴールも飛び乗る。 ツーシームは操縦席に滑り込み、乱暴にスイッチを叩き込んだ。 ゴオオオ――ッ! 艇は闇の宇宙へと射出された。「ツーシーム殿、この宇宙艇は長距離ワープなどできませんぞ!」 老臣の言葉どおり、即座に警報が鳴り響く。 追手の反応――四隻の小型武装艇だ。 ビーム
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第28話……不可避の戦争

 聖帝国暦六四四年九月初旬――。 第五総管区に対して幾度となく派遣された中央の使者は、ついに何の成果も得られぬまま戻った。 説得も、懐柔も叶わず、帝国中央政府はついに重い腰を上げる。 反乱は、武力によって討伐されることが決定されたのだ。 帝国の女傑と称されるローゼンタール宰相は、即座に軍首脳部の招集を命じた。 会議室の中央、禿げ上がった頭に脂汗をにじませた肥満体の男――作戦部長クライツ上級元帥が、恭しく一礼し、作戦案の要綱を読み上げる。「不埒な逆賊どもを討伐するにあたり、惑星地上軍二百八十個師団。加えて、宇宙艦隊六個艦隊の投入を具申いたします」 その数字が意味するものは明白だった。 兵員およそ四百万――帝国が近年動員したことのある最大の戦力だった。「……反乱軍相手に、そこまでの戦力が必要だと言うのか?」 財政の逼迫を誰よりも理解している宰相は、露骨に不快そうな視線を向けた。「はい、左様にございます」 クライツは臆することなく答える。「戦とは守る側が有利。敵の三倍の兵力を用意するのが定石にございます。本音を申せば――六倍あれば、より確実かと」 会議室に、含み笑いが広がった。 軍の高官たちの口元に浮かぶその笑みは、勝利への自信というより、別の算段を物語っている。 装備調達を巡り、巨大企業から多額の賄賂が流れている――そんな噂が絶えぬ理由も、宰相には嫌というほど分かっていた。「たかが反乱軍相手に六倍の戦力を要するなど、貴様らが無能だと白状しているようなものだ」 ローゼンタール宰相の声は冷え切っていた。「それだけの兵を養うために、どれほどの民の血税が吸い上げられるか……一度でも考えたことはあるのか?」「……恐れ多いことにございます」 クライツは一瞬だけ言葉を選び、すぐに続けた。「では、当初案――三倍戦力での編成ということで」 帝国の軍制は、地方軍閥の寄せ集めに過ぎず、常に不安定である。 その危うい均衡を、人事と予算で辛うじて束ねているのがクライツ上級元帥だった。 ゆえに彼は、宰相といえど無視できぬ存在でもあった。 やがて作戦案は、摂政ノクターン公爵の決裁を受ける。 その瞬間、帝国全土に動員令が発せられ、歯車は静かに、しかし確実に回り始めた。 こうして――第五総管区討伐作戦は、避けられぬ大戦争として幕を開けたのであった
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第29話……第五総管区侵攻

 二百隻のビーム艦が放つ硬X線ビーム砲が、旧式の宇宙要塞に一斉にたたきつけられる。 外殻のタングステン合金は即座には貫通されないが、表面は白く泡立ち、結晶構造が崩れて装甲片が剥がれ落ちる。 巨大な外殻ブロックが回転しながら宇宙へ散り、要塞の装甲は見る影もなく痩せ細っていった。 要塞も黙ってはいなかった。老朽化した砲塔群が咆哮し、粒子砲と重レーザーが反撃として放たれる。 数隻のビーム艦が直撃を受け、艦体を裂かれて炎の残骸となる。しかし火力の劣勢は否めず、反撃火力は次第に薄くなっていく。 致命的だったのは要塞の第二殻だ。ニッケル合金層は散乱した硬X線で脆化し、内部骨格が崩壊。 外殻は支えを失い、自重で裂け落ちる。併設された歴史ある貿易用宇宙港は歪み、係留中の宇宙商船が爆散して漂流する。 有力商人たちの商館区画では遮蔽壁が破断し、密集する倉庫群が焼け崩れる。 要塞司令部は理解した――これ以上の反撃は意味がないと。 やがて要塞は全砲門を沈黙させ、古い通信帯域で降伏信号を発した。 旧式の城塞は、装甲をぼろ布のように剥がされ、反乱討伐軍の前衛艦隊に屈したのだった。◇◇◇◇◇ ――ネビール回廊、制圧完了。 その報は、後方に控える主力艦隊を率いるクライツ上級元帥のもとへ、速やかに届けられた。 彼は重たい体をソファーから持ち上げ、艦橋正面に展開された巨大戦術パネルへと視線を向ける。 そこには、前衛艦隊を率いるベルナー中将の姿が映し出されていた。「要塞内を、くまなく調査せよ」 クライツの声は低く、だが油断の欠片もない。「爆発物は言うに及ばず、サーバー内に潜むソフトウェアの類まで徹底的に洗え」「はっ、かしこまりました」 短い返答を残し、通信は切れる。 クライツ上級元帥の日頃の汚職や非倫理的な振る舞いは、帝国中枢の高官たちからしばしば蔑まれてきた。 だが同時に、彼がその奸計と異様なまでの用心深さによって、軍の中枢へと登り詰めてきたのもまた事実である。 前衛艦隊が、老朽化した宇宙要塞の完全制圧を終えてから三日後。 反乱鎮圧軍の主力艦隊は、慎重に艦列を保ったまま、狭隘なネビール回廊へと侵入した。 後方から続く補給艦の到着を待つ必要もあり、艦隊は要塞周辺宙域で一時停泊する。「……ふん。もぬけの殻、というわけか?」 クライツは自ら要塞内部を視
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第30話……補給線の崩壊

 第五総管区中央部で、両軍主力艦隊が激突しようとしていた、まさにその頃――。 狭いネビール回廊では、前線の艦艇と将兵を支えるため、膨大な物資が絶え間なく運び込まれていた。 輸送の中核を担うのは、帝国規格における大型輸送船である。 全長二キロメートル、幅二百メートル、高さ二百メートル。 直方体に近いその船体は、ワープ航法時の燃費効率を最優先して設計され、全備質量は数百万トン級に達していた。 だが、その合理的な形状は、狭隘なネビール回廊では仇となる。 鈍重な巨艦を、寸分の狂いもなく操艦するには、極度の慎重さが要求された。「艦長! 右舷に高速接近する質量反応を複数探知!」「対艦ミサイルと思われます!」「……な、何だと!?」 回廊は狭く、巨体を翻す余地など存在しない。 放たれた高速ミサイルは、細長い艦列を成す輸送艦隊の先頭艦――その機関部と推進施設を、まるで狙い澄ましたかのように撃ち抜いた。「機関室、火災発生!」「機関停止! 至急、消火班を向かわせろ!」「了解!」 被弾した大型輸送艦は、被害のために急減速を余儀なくされる。 だが、後続艦には止まる余裕などなかった。 寿司詰め状態で進んでいた輸送部隊は、次々と追突し、玉突き事故が連鎖的に発生する。「第402輸送艦、大破!」「第362輸送艦、中破! 機関停止!」「第84輸送艦、大破、炎上中!」 報告が重なるたび、輸送艦隊を指揮する補給司令官の顔色は、みるみる青ざめていった。「後続を止めろ!」「各隊、ネビール回廊への進入を即時中止!」「修理艦艇を前線から呼び戻せ!」「了解!」 結果として、大型輸送艦六隻が失われた。 だが、それ以上に致命的だったのは、損傷艦が回廊を塞ぎ、ネビール回廊そのものが事実上封鎖されたことである。 物資輸送の速度は、航路に存在する最も狭いボトルネックでの輸送速度によって決まる。 しかも、この回廊を迂回すれば、補給にはおよそ四十日もの追加時間が必要だった。 この攻撃を成し遂げたのは、情報からすると、わずか一隻の次元潜航艇のようであった。 その艦は、宇宙空間外壁の表面張力が生み出す特殊な位相空間に潜むことができる。 だが代償として、潜航中の航行速度は致命的なまでに遅い。 だが――待ち伏せには、それで十分だった。 寡兵だからこそ可能な戦術だったと
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