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05.決戦前夜

last update Data de publicação: 2026-06-15 12:59:54

 隣同士の部屋に住んでいることが発覚した、あの衝撃的な夜から一ヶ月が経過した。

 あれから、鷲尾冴臣と甘崎りとの関係に大きな変化があったかといえば、答えは〝否〟である。

 会社では相変わらず、完璧主義で冷徹な鬼上司と、それに怒られ続けるドジな部下という、圧倒的な縦社会の構図が維持されていた。

 アパートでも、朝出くわさないようにゴミ出しのタイミングを見計らったりと、お互いに暗黙の了解で不可侵条約を結んでいる状態だ。

 ただ一つ変わったことがあるとすれば、りとの心の中に「でもこの人、夜は〝あんなこと〟してるんだよなぁ」という、圧倒的な秘密の優越感が鎮座していることくらいだった。

 そして、待ちに待った冬のボーナス支給日。

 お昼休み、オフィスの自席でこっそりと給与明細のWEB画面を開いたりとは、思わず「おぉっ!」と小さな歓声を上げた。

 画面に表示されていた振込額は、入社三年目の彼女が予想していたよりも、ずっと多かったのだ。どうやら、会社全体の業績が良かったことと、先月りとがなんとかまとめた新規プロジェクトの案件が評価されたらしい。

(やった、やった! これなら……いける!)

 りとは
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  • 限界OL、女風のナンバーワン〝レイ〟を指名したら上司の特等席でした   107.さよなら、ウィルクエス

     数日後。 ウィルクエスの第一会議室には、重苦しい空気が漂っていた。 長机を挟んで、葛城部長、監査委員会の面々、そして鷲尾と依千が並んで座っている。りとは案内された席に腰を下ろし、膝の上でギュッと手を握りしめていた。 ヤオノード側への正式な調査照会、そして依千が提出したアクセスログの解析結果が出揃ったのだ。結論から言えば、りとの情報漏洩疑惑は完全に払拭された。 りとのアカウントは外部から不正利用された可能性が極めて高く、アクセス元はヤオノード側の検証環境だったこと。不審なアクセス時刻と、りとの社内での入退室ログが一致しないこと。さらにはヤオノードのサブサーバーに、漏洩を偽装するためのダミーファイルが事前に用意されていたこと。 最終的には八尾蓮真自身も証言に立ち、「甘崎さんは一切関係ない」と明確に認めたことで、事態は収束を迎えた。「甘崎さん」 葛城部長が、いつもの温厚な顔つきに戻り、深く頭を下げた。「情報漏洩疑惑について、君に重大な非は認められなかった。……会社として、君を守り切れなかったことを、心から謝罪するよ。本当に申し訳なかった」「……っ」 その言葉を聞いた瞬間、りとの目からボロボロと安堵の涙がこぼれ落ちた。自分が会社を裏切った犯罪者ではないと、ようやく公式に認められたのだ。 しかし、泣きながらも、完全に晴れやかな笑顔にはなれなかった。疑いが晴れたからといって、あの日のフロアで浴びた冷たい視線や、事実無根の噂話の恐怖が、綺麗になかったことにはならないからだ。「だがね……」 葛城部長は少しだけ表情を引き締め、言葉を続けた。「ガールズバーで副業をしていた事実は、就業規則上、どうしても処分対象になってしまうんだ」 情報漏洩は濡れ衣でも、副業規定違反は紛れもない事実だ。りとは涙を拭い、静かに、けれどしっかりと頷いた。「はい。……それは、私が悪いです。会社のルールを破っていたことは、言い逃れできません」 ここで言い訳をして逃げるような真似はしたくない。自分の非を真っ直ぐに認めるりとの誠実な態度に、葛城はふっと目を細めた。「懲戒解雇にするつもりはないよ。会社としても、君が経済的な事情を抱えていたことや、今回の件で理不尽な被害を受けたことを考慮する。処分はけん責、または一定期間の減給に留める。……希望するなら、別部署への配置転換で再スター

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  • 限界OL、女風のナンバーワン〝レイ〟を指名したら上司の特等席でした   104.三人の反撃

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    「鷲尾課長。……少し、お時間よろしいですか」 不意に静寂を破って背後から声をかけられ、鷲尾はハッとして振り返った。 そこに立っていたのは、りとの隣の席に座る幼馴染、依千だった。 普段は温厚で、誰に対しても一歩引いた穏やかな態度を崩さないはずの彼の瞳には、今は明確な敵意と、ふつふつと燃え上がるような静かな怒りが宿っていた。「……構わないが。ここで話すような内容ではないな」 鷲尾が静かに立ち上がり、二人は社内の人気のない非常階段の踊り場へと移動した。 重い鉄の扉が閉まり、完全に二人きりの空間になると同時、依千は鋭い声で口を開いた。「甘崎さん、今日……泣きそうな顔をして早退しました」 コンクリートの壁に反響したその声は、押し殺したような低さでありながら、刃のような鋭さを帯びていた。普段の業務で見せる、人当たりの良い営業スマイルなど微塵もない。そこにあるのは、大切なものを理不尽に傷つけられた一人の男の、剥き出しの感情だった。「あの後、僕が何度メッセージを送っても既読すらつきません。電話にも出ない。……今日のフロアの空気、まさか気づいていないとは言わせませんよ。彼女が、あることないこと噂されて、どれほど孤立していたか。昼休みも給湯室の隅で、一人で震えていたことを」 依千の言葉に、鷲尾は黒縁メガネの奥の目を細め、おそろしく深い皺を眉間に刻んだ。 鷲尾とて、自身のチーム内で起きている異変に気づいていないわけがない。今朝から突如として湧いて出た、競合他社への未公開データ漏洩の疑い。その首謀者として、甘崎の名前がまことしやかに囁かれていること。彼女のアカウントから不審なアクセスログが見つかったという噂は、またたく間にフロア中に広まり、彼女を透明な檻の中に閉じ込めてしまった。「課長は、彼女を見捨てるつもりですか」 一切の濁りがない、真っ直ぐな糾弾。 上司に対する言葉としてはあまりにも無礼で、完全に一線を越えた発言だった。しかし、今の依千にとって、社内のヒエラルキーや人事評価など、紙屑ほどの価値もなかった。目の前に立つ男が、自分の愛する女性を無情にも切り捨てようとしている冷徹な組織の歯車にしか見えなかったのだ。「……そんなつもりは、毛頭ない」 鷲尾は、感情を一切交えない、地を這うような低い声で即座に否定した。「俺が彼女を見捨てるなど、あり得るはずがない

  • 限界OL、女風のナンバーワン〝レイ〟を指名したら上司の特等席でした   102.最後の居場所を手放して

     その日の午後、りとは逃げるように会社を後にした。 事の次第がはっきりするまで自宅待機。それは早退という名目の、事実上の追放だった。 夏の刺すような日差しが痛くて、りとは俯いたまま、ふらふらとした足取りでアパートへと帰り着いた。 カーテンを閉め切った、薄暗い部屋。 ベッドの端に座り込み、りとは震える指でスマートフォンを操作した。 宛先は、ガールズバー〝ルージュ・ラパン〟の剛堂店長だ。『剛堂店長、ごめんなさい。私、お店に迷惑をかけてしまうかもしれないので、今日で辞めさせてください。今まで本当にありがとうございました』 送信ボタンを押し、剛堂店長からの返信を待たずに、スマートフォンの電源を長押しして完全に落とした。 会社にも、彼にも、実家にも迷惑をかけた。この上、自分の大好きな居場所であるあの店にまで、面倒な騒動を持ち込むわけにはいかない。 社会的な繋がりを自ら断ち切り、りとは真っ暗な部屋の中で膝を抱えて、声を殺して泣き続けた。 数時間が経った頃。 ピンポーン、ピンポーン、と、静まり返った部屋に突如としてインターホンの呼出音が鳴り響いた。 りとはビクッと肩を震わせ、膝を抱えたまま壁際に身を潜めた。しかし、音は一向に鳴り止まない。それどころか、何度も連続して激しく呼び出しを繰り返している。 重い頭を上げて壁のモニターを覗き込むと、そこには一階のエントランスに設置されたインターホンの前に、息を切らせて必死な表情を浮かべた綾が立っていた。 スマートフォンの電源を切ってしまったため、剛堂店長から連絡を受けた綾が、直接このアパートまで生存確認にやってきたのだろう。 居留守を使おうと息を殺したが、モニター越しの綾は諦める様子もなく、画面に向かって大声を張り上げた。「りと! いるんでしょ!? 店長からメール見せてもらったよ! お願いだから一回開けて、アタシの顔を見て!」 綾の必死の訴えに、りとの胸がズキリと痛んだ。大好きな先輩に、これ以上心配をかけるわけにはいかない。 りとは震える指先で解錠ボタンを押し、エントランスの自動ドアを開いた。 それから一分も経たないうちに、今度は302号室の玄関ドアを、ドンドンと激しく叩く音が聞こえてくる。「りと! アタシだよ、開けて!」 りとはフラフラとした足取りで玄関へ向かい、ゆっくりと鍵を開けてドアを引いた

  • 限界OL、女風のナンバーワン〝レイ〟を指名したら上司の特等席でした   04.ネギとスーツと隣の部屋

     ――そして、運命の週明け、月曜日。 朝からオフィスの空気は、いつも以上に重く感じられた。 いや、実際に重いわけではない。りとの心が、勝手にそう感じているだけだ。 亜麻色のショートカットを揺らしながら、りとは自分のデスクでパソコンの画面を見つめていた。しかし、タイピングする指はさっきから完全に止まっている。 視線の先にあるのは、斜め前に座る営業部一課の絶対的権力者、鷲尾課長の背中だ。 土曜日の夜の出来事が、フラッシュバックする。 あのホテルでの、甘く、熱く、とろけるような時間。あの冷徹な鬼上司が、夜はあんなにも優しく、情熱的に自分を愛撫してくれたのだ。 あの長くて綺麗な指先。首

  • 限界OL、女風のナンバーワン〝レイ〟を指名したら上司の特等席でした   03.秘密にしましょう

     激しい波が何度も押し寄せ、ようやく静まり返ったハイクラスホテルのスイートルーム。 間接照明の柔らかな光の中、りとは真っ白なシーツにすっぽりと包まれながら、指一本動かせないほどの心地よい疲労感にどっぷりと浸っていた。「お疲れ様でした。少し、汗を拭きましょうか」 レイ――鷲尾課長の声は、昼間の冷徹さからは想像もつかないほど甘く低く、どこまでも優しかった。 温かいホットタオルが、りとの火照った身体を丁寧に拭い清めていく。その手つきには一切のいやらしさがなく、ただ大切なものを慈しむように扱われているという絶対的な安心感だけがあった。 ふわりと鼻腔をくすぐるのは、彼から漂う落ち着いた〝ウッ

  • 限界OL、女風のナンバーワン〝レイ〟を指名したら上司の特等席でした   02.メロウルーム

     土曜日の夜。 職場である都心のオフィス街から電車を乗り継ぎ、一時間以上離れた閑静なエリアにあるハイクラスホテル。 りとは広々としたスイートルームのふかふかの上質な絨毯の上で、落ち着かない様子でウロウロと歩き回っていた。 女性向け風俗、出張型リラクゼーションサービス〝メロウルーム〟。 予約を完了した日から今日まで、りとは仕事中も上の空になるほど、この日のことばかりを考えていた。下着も奮発して、少し透け感のある黒のレースのランジェリーを身につけている。上には、ホテルに備え付けられていた肌触りの良いバスローブを羽織っていた。(あの写真の人……本当に鷲尾課長なのかな。いや、まさかね。いく

  • 限界OL、女風のナンバーワン〝レイ〟を指名したら上司の特等席でした   01.限界OL

    「はぁ、はぁ……っ、ん……」 お互いの吐息が混じり合う、狭くて、どこか安っぽいビジネスホテルの客室。  部屋の明かりは落とされ、枕元のスタンドライトだけが、不気味にオレンジ色の光を放っている。 甘崎りとは、見知らぬ男の身体の下に敷き調えられていた。  男の硬い胸板が押し当てられ、鼻を突くのは、どこのものとも分からない安価な香水と汗が混じったような匂い。りとが望んでいた展開とは、あまりにもかけ離れた現実がそこにはあった。「ねえ、もっと力抜いてよ。そっちから誘ってきたんでしょ?」 男の濁った声が耳元で鼓膜を震わせる。  太い指が、りとのタイトスカートの裾を強引に捲り上げ

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