それは、ある夜のことだった。 宙は仕事で出かけていて、帰宅するのは遅くなると言っていた。 渉は一人、宙の部屋にいた。 リビングの大きな窓からは、東京の夜景が一望できる。 何度見ても飽きない。 窓の向こうには無数の光が広がっている。車のライトが流れ、ビルの窓にはそれぞれ違う生活がある。 数ヶ月前まで、渉は壁を目の前にしてノートパソコンを打ち込んでいた。 今は違う。 広くて大きな机。しかも昇降式で、立ったり座ったり、その時の気分で机の高さを変えられる。「これ、便利だな……」 宙のすすめで買ってもらったものだった。最初はこんなものまで必要なのかと思った。 大学の課題をするだけなら、今までの机でも十分だった。 けれど、実際に使ってみると意外と快適だった。 長時間座りっぱなしにならないよう、途中で机を高くして立って作業する。 疲れてくればまた下げる。 椅子も、まるでゲーマーが使うような大きくて座り心地のいいものだった。 ゲームをするわけではない。 けれど、長時間座って勉強しても腰が痛くなりにくい。「これなら勉強も捗るな……」 自分では買おうと思わなかったものばかりだ。でも、一度使い始めると手放せなくなる。 それは家具だけではなかった。 服もそう。靴もそう。食事もそう。 知らなかったものを宙に教えてもらい、与えてもらうたびに、渉の生活は少しずつ変わっていった。 宙がいない時でも、この部屋にいる。 それが最近では当たり前になっていた。 広い部屋に、こんな立派な机と椅子を置いても、まだ窮屈にはならない。「……すごいよな」 改めて部屋を見回す。 自分の一人暮らしのアパートとは、何もかも違う。 いや……。 最近は、自分のアパートへ帰ることのほうが少なくなっていた。 親から仕送りをもらっている以上、勝手に契約を解除するわけにもいかない。 家賃も払っている。 けれど、ここ数日はほとんど宙の部屋で過ごしている。自分のアパートが、なんだか勿体なく感じるほどだった。 課題のレポートを一段落させると、渉は椅子から立ち上がった。 ふとクローゼットの前へ行く。 扉を開ける。中には宙の服が並んでいる。 スーツ。シャツ。コート。 季節ごとにきれいに整理されていた。 けれど、その一角には渉の服もある。最初は数着だった。「ここ
آخر تحديث : 2026-09-11 اقرأ المزيد