グラスを受け取る。口をつけた。苦味のあとに、炭酸が抜けていく。「……美味しい」「だろ?」 圭はもう一口飲んだ。 すると斗真の手が伸びてきた。指先が、圭の口元に触れる。「ソース」 指で拭われる。斗真はその指についたソースを舐めた。「たく、お前は昔からその抜けたところがなぁ」 笑いながら言う。 圭は少し戸惑いながら、自分の口元を左手で拭った。その手を、斗真が手拭きで包むようにして拭いてやる。「右手、良くなったみたいだけど」「うん」「まだ左手中心だな」「そうだね。つい、左手で何でもしようとする癖がついて」「左手だけで何でもできるってのも器用だよな。デザインだって左で描けてる」「この数年で……かな。まだまだだけど」 圭は笑った。斗真が一瞬、黙る。「……すまん。仕事の話、こういうところでするもんじゃなかったな」「いいですよ。別に」 圭はグラスを口に運んだ。さっきよりも、少しだけ大胆に飲む。「美味いか?」「ええ」 圭はグラスを置いて笑った。「最高です」 斗真が少し意外そうな顔をした。「……笑った君、初めて見たよ」「そうですか?」「ああ。宙の隣にいた時も、あんまり笑ってなかった」 その名前を聞いて、圭の表情がほんの少しだけ止まった。「……そうでした?」「そうだったよ」 斗真はビールを一口飲んだ。「いつも周りを見てた」「周りを?」「宙が何してるかとか。誰と話してるかとか」 圭は返事をしなかった。 図星だった。「まあ、今はいいけど」 斗真はそれ以上追及しなかった。 その代わり、少しだけ身体を圭のほうへ向けた。「今日はどう?」「何がですか?」「楽しい?」 圭は店内を見渡した。 相変わらず音は大きい。煙草や酒や香水の匂いもする。自分には場違いな気もする。 それでも。「……はい」 少し考えてから、圭は答えた。「思ってたより」「ならよかった」 斗真が笑う。それから少し間を置いて、「圭はさ」「はい」「こういうところにいる時くらい、難しいこと考えなくていいんじゃない?」「……難しいこと?」「仕事とか、手のこととか。宙のこととか」 圭の指が、グラスの縁で止まった。「今日は忘れろよ」 斗真の声は、不思議なくらい穏やかだった。「俺がいるんだから」 圭は斗真を見る。 その言葉に、
آخر تحديث : 2026-10-01 اقرأ المزيد