配信を休止してから、三日が過ぎた。部屋は静まり返っていた。机の上には、開いたままのスケッチブック。ペンタブレットの画面には、真っ白なキャンバスが映っている。相沢ひまりは、その前に座ったまま動けずにいた。「……描かなきゃ」小さく呟く。締切は待ってくれない。出版社も、読者も、自分の新しい絵を待っている。そう分かっているのに、手が動かなかった。ペンを握る。キャンバスへ近づける。しかし、その瞬間だった。『またパクリって言われるよ』頭の中で、あの言葉がよみがえる。ひまりは思わずペンを置いた。「違う……」首を振る。「私は、ちゃんと自分で考えて描いてる」それでも、不安は消えてくれない。何を描こうとしても、「誰かの真似だと思われたら」そんな考えばかりが浮かんでしまう。結局、その日も一本の線すら描けなかった。***昼過ぎ。冷蔵庫を開ける。中には、昨日買ったサンドイッチと牛乳が入っていた。「食べなきゃ」袋を開ける。一口だけ口に運ぶ。けれど、喉を通らない。無理に飲み込もうとしても、胸の奥が詰まるような感覚がした。「……だめだ」サンドイッチをそっと包み直す。コップに水を注ぎ、一口飲む。それだけで精一杯だった。食欲がない。いや、それ以前に、何かを食べようという気持ちになれなかった。鏡を見ると、少しだけ頬がこけているように見えた。「こんなんじゃ……」力なく笑う。「絵を楽しみにしている子どもたちに心配されちゃうよね」その言葉さえ、どこか空しかった。***午後。担当編集者の三浦から電話が入る。「相沢さん、お加減はいかがですか?」「すみません……」その一言しか出てこない。「謝らなくて大丈夫ですよ」優しい声だった。「でも、絵が……」「まだ描けませんか」「はい」ひまりは唇をかんだ。「ペンを持つだけで怖くなるんです」「そうですか」三浦は急かすことなく、静かに耳を傾けてくれた。「締切は調整できます」「でも、ご迷惑を……」「迷惑なんて思っていません」その言葉に、思わず涙があふれる。「相沢さん」「はい」「絵本は、笑顔で描いていただきたいんです」「……」「今は、無理に描く時期ではありません」電話を切ったあとも、その言葉が心に残っていた。笑顔で描いてほしい。その願いが、今の自
Last Updated : 2026-08-19 Read more