あたりまえの事実だった。けれど、医師の口から余命という言葉が落ちた瞬間から、どこかで自分がもう半分、死の側へ引かれていたのかもしれない。だからその言葉が、思いのほか強く胸に刺さった。「……はい」 ようやくそれだけ返すと、ヴィルレオは一歩近づいた。いつもなら躊躇う距離を、今日はためらいなく詰める。リュゼリアが座る椅子の脇へ立つと、彼は少しだけ膝を折り、視線を同じ高さへ持ってきた。「お前が考えるべきことは、次の薬を飲むことと、次の食事を少しでも口にすることだ」 低い声。「それ以上は、いま俺が考える」「そんなの……」「お前に任せる気はない」「でも、それでは」 まるで子ども扱いだ、と言いかけて、言葉が止まる。 昨日までなら、そう思っただろう。彼が自分を守ろうとするたび、それは公爵夫人を壊さぬための管理に見えていた。けれど今、その言葉の奥にあるものは管理欲ではない。あまりにも露骨な、焦りと執着と恐怖だ。 あなたを失うことを受け入れたくない。 そう言われたわけではない。けれど、彼の目はもうそれに近いことを語っていた。「……旦那様は」 リュゼリアはゆっくり言葉を選ぶ。「そうして全部をご自分で背負って、平気でいらっしゃるのですか」「平気ではない」「でしょうね」 思わず、少しだけ笑ってしまう。ひどく苦い笑いだった。「お顔が、今にも壊れそうですもの」 その一言に、ヴィルレオははっきりと息を止めた。 彼はいつも崩れない。崩れまいとする人だ。公爵としても、男としても、長いあいだずっとそう在るように育てられてきたのだろう。だからこそ、その彼がいま、壊れそうだと言われて言い返せないこと自体が、どれほど切羽詰まっているかの証だった。「わたくし、死ぬのが怖いです」 ふいに、言葉が零れた。 それは今日初めて、嘘ではない感情の形だった。「すごく怖いです。半年なんて、あまりにも短すぎる。まだ何も終わっていないのに。まだ、何も……」 そこで初めて、涙が出た。 目の端からひとすじだけ、熱いものが落ちる。泣けば喉に障るのに、もう止められなかった。半年という数字が現実になるまで、たぶんこの一滴が必要だったのだ。「リュゼリア」 ヴィルレオの声が震える。「怖いです」 繰り返す。子どものように、ただそれだけを。「当たり前だ」 彼は言った。「怖くな
Zuletzt aktualisiert : 2026-06-29 Mehr lesen