「迎え撃つぞ」樹の一言で、篠原邸の使用人たちはすぐに動き出した。「朝比奈千夏と門倉悠真は、現在こちらへ向かっています」「到着予定は?」「約三十分後です」樹は静かに頷く。「警備へ連絡しろ」「はい」「二人が来ても騒ぎを起こすな。俺が話を聞くまで、小春には近づけるな。橘」「承知しました」橘が部屋を出ると、樹は窓の外へ目を向けた。庭では、小春が庭師たちと笑いながらラベンダーを覗き込んでいる。花が咲くのを楽しみにしていると言っていた。咲いたら教えてくれるとも。その穏やかな笑顔を見つめながら、小さく息を吐いた。ようやく取り戻した穏やかさを、まためちゃくちゃにしようとしている。小春は彼らの望むように朝比奈家を出たのに。そのときの悲しみも苦しみも無視して。自分たちの都合で振り回す。その理不尽さに、樹の胸の奥が熱くなる。◇◇◇その頃、篠原家に向かう車の中には、重苦しい沈黙が流れていた。運転する悠真は前を見つめたまま、一言も口を開かない。その横で、朝比奈千夏はスマートフォンを眺めながら小さく笑った。「どうした?」悠真は視線を向けることなく尋ねる。「別に」「……そうか」悠真がそれ以上追及しないことに千夏が目を釣り上げる。「いったい何?」「いや……時差のせいか、疲れがな」悠真は大きく息を吐いた。疲れている。でも、精神的な疲れもある。以前なら、小春の話題が出れば『また何かしたのか』と思った。当たり前のように。ろくに考えず。でも、いまは違う。小春は本当にそんな人だったのか?千夏たちが言うような人間だったのか?でも、それを疑う勇気はない。もし嘘なら?千夏は?(考えたくない)でも、時間が経つにつれ、以前は気づかなかった違和感が、少しずつ形になっている。「ねえ、悠真。お姉ちゃんのこと考えてるでしょ」「……どういう意味だ」「そのままの意味」そんなことないと否定することを千夏が求めていることは分かった。でも、悠真は否定しなかった。「少し気になるだけだ」千夏は不機嫌な顔になったが。「今、お姉ちゃんは篠原樹のところにいるんでしょう?」「らしいな」悠真は小さく頷いた。「気にならない?」千夏は意味深に微笑む。「お姉ちゃんと篠原樹って、どういう関係何だと思う?」「……え?」「だって、一緒に暮らし
Last Updated : 2026-09-15 Read more