All Chapters of スターの冷たいプロポーズ〜今さら愛してると言われても……: Chapter 21 - Chapter 30

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21.春希の病気騒ぎ

花の手は、うつ伏せに寝ている春希の背中に置かれている。……ポンポンと落ち着かせるよう小さく叩いて、そのうち眠くなってしまったのを覚えている。 今、その手の上に大きな手が重なっているのだ。その手はもちろん…… 大雅の手。 ……大雅さんも寝ぼけて、私と同じようにポンポンしようとしたのかもしれない。 春希はよく眠っているが、そのすぐ向こうに大雅さんの寝顔がある。 その距離の近さに、花の心臓が踊りだす。 ……リビングに戻って寝るべきだろう。そう思って大雅の手の下にある自分の手を引き抜こうとした。すると、瞬間的にギュッと掴まれ、声を上げそうになる。 なんだろ、これ…… 春希の背中の上でつながれた手は、花に意外なドキドキと喜びを与えた。 「……うわっ!」 再びウトウトしたらしい花が目を覚ましたのは、大雅の驚いた声と離れていく手の温度を感じて。 「あ……おはようございます。こんなところにいてすみません。リビングへ戻ろうとしたのですが、手……手が離れていかなくて、ですね」 朝イチ、眉間にシワを寄せた怖い顔。 ……悪いのは私ではないと言いたい。 「私の手を離さなかったのは大雅さんなので……一応言っておきますが」 尻すぼみに小さくなる声を聞きながら、大雅は体を起こした。 ……出かける準備をするだろう。 それを合図にして花も立ち上がり、その拍子に春希の寝顔を見た。 「あ、れ?春くん?」 顔が赤く、呼吸が早い…… 「これ、病気ですね……インフルエンザとかの、感染症」 「……え?」 花はすぐに部屋の窓を少し開けた。 「ダメっ!近寄らないでくださいっ」 大雅が春希のそばに寄り、あろうことかおでこをくっつけて熱の具合を確かめようとしている。 「なにやってるんですか?!熱は体温計で測るんです!」 「だいたいこれで熱がわかるから、確かめようとしただけだろ」 「は?……昭和ですかっ?!……とにかくうつるといけないので、さぁっ!どいたどいたっ」 突っ張りよろしく大雅を追い出し、花は春希のそばに行った。 「春くん、お熱あるみたいだね……どこか痛いところあるかな?」 朦朧とした様子で……返事はない。 急いで部屋を出ると、目の前に大雅がいた。心配で部屋の外にいたのだろうが、それにしてはラ
last updateLast Updated : 2026-07-25
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22.花の寝言 Side.大雅

「……私はパーティには参りませんっ!」朝方……そっと寝室のドアを開けたのは、春希の様子を見るため。そしてクローゼットの服を取りに来たからだ。本当に、驚かせるなと言いたい。春希の看病のためかもしれないが、昨夜と同じようにベッドの下、床にいる花。今日は大の字にひっくり返っている……まさか一緒に体調をくずしたのかと、そっと寝顔を覗き込んだ瞬間、大きな寝言に度肝を抜かれた。「パーティは、花は好みませんと……申し上げた、はず、」寝言の続きを言って、花はくるくると小さな体を丸める。なんだなんだ……どんな夢を見ているんだ?懲りずに寝顔を見つめ、閉じたまぶたから涙がポロポロ流れてくるのを見て、思わず後ろによろめく。寝ながら泣いてる……起こしたほうがいいのか……ベッドの上の春希は、薬が効いているのかよく眠っている。つらそうでもなく、顔色もいいようだが……どちらかというと問題なのは花のような気がするが……俺に、何ができるんだ。……ふと重たい気持ちがよみがえった。傷つけるために出会い、自由を奪って縛り付けている自分に、してやれることなんてない。ため息をついてクローゼットに向かう途中で、床に1枚の紙が落ちていることに気づく。「処方箋か……」そこには短い間隔をあけて薬を飲ませるよう指示が書いてある。……その通りにやっていたとしたら花に睡眠なんて取れない。もしかして、寝たばかりだった?……傍らには花柄のケースに入った携帯。持ち上げてみると画面が明るくなって、検索していたらしい画面になった。「3歳以下の子供の看病について……?」そんなことを調べながら、花は一晩中春希の様子を見て、医者の指示通りに薬を飲ませていた……思わず、丸まって涙を流している花を見下ろした……次の瞬間……手にした花の携帯が、聞き覚えのあるメロディを奏で、震えはじめる。……なんだよこれ、VÉLOURSの俺の曲じゃねぇか。どうしたものかと携帯を手にウロウロしていると、むっくり起き上がった花が四つん這いで何かを探し始めた。寝ぼけているのか目は開いていない……そこで、そっとそばに携帯を置いてやると、手がぶつかってサッと手に取り音を消す。再びそこに携帯を置くから……待ち受け画面がVÉLOURSなのも見てしまった。「……春くん、お薬飲もっか」その場で動けない俺に気づかず、
last updateLast Updated : 2026-07-26
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23.三井の思惑

「……あ、れ?大雅さんは朝早くお仕事に向かわれましたが……」「そんなことはわかっています。……ちょっと、失礼しますよ」どうぞ、と言われるのも待たず、三井は部屋の中に入っていく。……いつか大雅が、玄関チャイムを押さずに車の中で待機するよう言っていたのを思い出した。勝手に中に入れて良かったのだろうか。厳しい視線も去ることながら、嫌な予感もおおいに沸き上がってくる。その予感はリビングに入った途端、的中した。「……まぁ何ですか?この有り様は?!」「あの、春くんが高熱を出しまして、それで……病院に連れて行って看病に明け暮れていまして、」聞いているのかいないのか。花は勝手に片付け始める三井を後ろから追いかけ、事情を説明する。「これは?……あぁ、大雅さんの匂いがする」脱ぎ捨てられたTシャツを手に取り、ふわりと香る匂いで持ち主を判定した三井。「え、あの……?!」花は見逃さなかった。三井はそのまま自分のバッグに突っ込んだのだ。「ままままさか、オークションにでもかけようってんじゃ……?」「……こんなところに出しっぱなしにしておくのが悪いんじゃありません?」赤く彩られた薄い唇を上に引き上げ、三井は悪びれもせずその後もリビングを歩き回る。もう何ひとつ持ち出せないよう、花は急いで三井の前に回り、散らかった服を抱えランドリールームに押し込み鍵をかけた。「食事は……?ちゃんと食べさせてます?」「あ、あまりこちらでは召し上がりませんので……」服がなくなったと見ると、次は勝手にキッチンに入っていく三井。そちらに向かうと嫌でも目に入る大雅の写真パネル……手描きの鼻毛を見て彼女も吹き出した。「あなたこれ……よくこんなものをいつまでも飾っておけますね?」緩んだ口元を引き締め、三井は咎めるような厳しい目を花に向ける。「はぁ。見慣れたら何ともないと言いますか……」実際大雅も、己の鼻から飛び出す大量の鼻毛が描かれた写真に平然としている。「でも、まぁ……あの、外します」三井はすでに冷蔵庫を開けていた。何かをチェックするように両開きの冷蔵庫を片方ずつ開け、上から順に保存してある食材を覗き込む。「春希くんのお弁当、賞味期限が近いようですが……ちゃんと発注して新鮮なものを食べさせてもらわないと困りますよ?!」冷凍庫を覗いて、鬼の首を取ったかのような勢いで言
last updateLast Updated : 2026-07-27
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24.花の異変

「またまじゅいのやだなー……」「でもお利口に飲んでるからすごく早く元気になったね?」「……うん」ベッドに座らせ、病院でもらった薬を春希の口に入れる花。そのたびに泣きそうな顔になり、うなずくようにして飲み込む春希はとても愛らしい。「あ……お水、と……パインジュース!」寝室にも小さな冷蔵庫があり、花はそこに入れた飲み物を取りに走った。……そういえばここを使うって大雅さんに断ってない。水のペットボトルとジュースの他に、どこかの外国産らしいビールと小さな瓶のワインが入っている。体調が戻りかけている春希は自分から飲み物を取りに来て、まずい薬のあとのうがいをすませ、幸せそうにパインジュースを飲みはじめた。そんな姿を見て、花はホッと一息つく。「そうだ……間違えて春くんが飲んだら大変だから、お酒は見えないところに隠しておこう」冷蔵庫内には引き出しのような収納スペースがあり、そこにまとめてお酒を入れようと思いついた。そっと開けてみると……白い紙の袋が入っている。「……心療内科?」袋に入っている病院名が見えてしまった。大雅さん、心療内科にかかることがあるのか……薬を邪魔しないようにお酒をしまい、冷蔵庫のドアを閉めた。春希はすでにジュースを飲み終え、おとなしくベッドに横になっている。……動き回らないことろを見ると、やはりまだ、だるいのだろう。そう思って立ち上がった瞬間、花もクラッとめまいを感じ、とっさに壁に手をつく。きっとあまり寝てないせいだ。今日は無理をせず眠ろうと、ベッド下の床に横たわってから思い出した。……三井さんが来てるんだった!リビングに行ってみると、三井の姿はもうどこにもなかった。「あ、これ……置いていったんだ」大雅さん愛用の香水がほんのり香るTシャツ……何かなくなっていたら報告する、ときっぱり言ったのが良かったのかもしれない。オートロックだとわかってはいるが、一応玄関の施錠を確かめ、リビングに戻ってくると、大きなガラス窓の向こうに、夏の青空が広がっている。「あ……洗濯、しなくちゃ」洗濯物はランドリールームにある大きな洗濯機にセットすれば、すべて自動で洗って乾かしてくれる。だが花は外に干して乾かすことに喜びを感じるタイプだった。「洗濯機を回している間に、掃除機も」ポンポンっと2回手を叩けば、四角い形のロボット掃除機が
last updateLast Updated : 2026-07-28
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25.どうして彼女がいるの?

……ふわっと体が浮いた気がした。ぼんやり目を開けてみれば、誰かに自分が抱えられていることがわかる。「大丈夫ですか?花さん……」あぁ……声が違う。とんでもない妄想をしてしまった。大雅さんが駆けつけてくれるなんて。背中の感触からして、べッドに寝かされたらしい。ベッドといえば、この家には寝室にしかない。毎夜、大雅と春希が眠る神聖なベッド……「ここは……おとぎの国のベッドれす……私のような平民には似つかわしくございません……」「何を言ってるんですか、花さんは今、大雅さんの奥さまなんですよ?これがおとぎの国のベッドなら、堂々と寝てやればいいんです!」権堂が話した言葉の半分も理解できなかった。……隣で春希も自分を覗き込んでいるのが見えて、首を横に振る。「のろいちゃらめれす……らおっらばらりらんらから……らうるん、れやのそろへ……」……花の記憶はそこで途絶えた。「……はぁい、今来てもらってます。診察始まったばかりなんでなんとも。……あぁ先生、遠慮なさらずめくってください。……失礼しました。今診察をしてくださるお医者さんが聴診器を当てづらそうにしてたのでぇ」遠慮のないすました冷たい声が聞こえれば、嫌でも目が覚めるというもの……どうやら、医者の往診を受けているらしい。午前中来た三井が権堂と交代しているようだ。「あ、目が覚めたようですが、変わりますか?……あぁ、そうですか。はぁ、なんか食べてよく寝とけ?はいはい、伝えます〜」失礼します、と電話を切った三井。「検査の結果、インフルエンザですね。春希くんと同じタイプのやつ」医師はそう診断して、三井を呼んだ。「これ、吸入タイプの薬ね?お嬢さんに飲ませてやりなさい」「……はっ?お嬢さんって……この人私の娘なんかじゃありませんけど?!」医師の勘違いに怒りをあらわにした三井だったが、医師は薄笑いを浮かべてさっさと帰ってしまう。「……ったく、しょうがないわね。ほら、体を起こせます?」薬を片手に近づいてくる三井に、花は息を止めてやっと起き上がった。「なに赤い顔してるんですか……変な気起こさないでくださいよ?」「そ、そうじゃ……なくて、」近くで呼吸したら移してしまう気がしたのだ。……マスクを持ってきてほしいところだが、三井にそんな気は使えないと予想して、仕方なく近くにあった枕で鼻と口を押さえた
last updateLast Updated : 2026-07-29
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26.春奈と大雅の関係は?

怪しい会話に聞こえるのは、高熱で脳内が沸騰しているせいだと思うことにして、花は壁に手をつきながらベッドに戻る。……後で大雅さんはまた、クローゼットに服を取りに来るかな。「乾いた洗濯物の中から着ていけるか……」確かTシャツを洗った。「あ……また柔軟剤入れるの忘れた」夏の強い陽射しでガビガビに乾いた服を手に取って、いつも眉間にシワを寄せる大雅さん。また不機嫌そうに顔をしかめるかな。春奈さんなら風合い良く洗い上げそう……目撃したばかりの2人の様子を思い出し、花は入っていけない雰囲気に押しつぶされそうになっていた。「私は、大雅さんに愛されない……」意外なほどがっかりした気持ちになって、目元に涙が浮かぶ。花は目を閉じながら思った。次に起きたら、半年後の未来になっていないかな……と。ウトウトしながらも、高熱で長くは眠れない。……だるい体を起こして冷蔵庫にたどり着き、命の水(普通のミネラルウォーター)を口に運ぶ。「あ……中身が充実してる」春希に飲ませたので、命の水は残り1本だったのに、いつの間にか5本に増えていた。他にゼリー飲料やプリン、のど飴やなぜか豆腐も入っている。もちろんスプーンも添えて。きっと春奈さんが入れておいてくれたのだろう……感染のリスクを犯してまで……感謝の気持ちが湧き上がる。「ただ……トイレだけはここにはない」廊下の奥にある広いトイレを目指し、花はまたも壁伝いに部屋を出る。……するとリビングのドアが開いているようで、大画面のテレビの光が漏れていることに気づいた。明かりは落としてあるので、もしかしたらテレビを見ながら寝てしまったのかと思った。ならばスイッチを切ってあげよう。高熱に侵された病人にもそれくらいならできる。そこで……見てしまった。L字型ソファが倒されてベッド状になっていること。そしてそこに眠る大雅と春希。……春奈はL字の反対側のソファで眠っていた。頭がちょうどコーナー部分で、大雅の頭とくっついている。その光景は、さっき見た2人よりもっと、近い関係を思わせた。見てはいけないものを見た気がして……花はトイレに駆け込む。寝室の冷蔵庫を充実させてから眠ったんだろうな。ありがたい……今見た光景を頭から追い払うように、花はベッドに戻ってからも、感謝の念仏を唱え続けた。『お父さ……社長が、いなくなった?』『はい、
last updateLast Updated : 2026-07-30
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27.スターの家は私が守る!

「……え、」「その間に、君は体調を整えて」ポン、と右肩に大雅の手が乗った。驚いて自分の肩を見つめ、次に真剣な表情で大雅を見上げた。それは、そんなに気安く肩を叩いてくれるのか……という嬉しい喜びだったのだが。「あ……ごめん、勝手に触れて」視線が合い、大雅はパッと手をどかしてしまった。……そんなに親しい気持ちはなかったらしい。つい下を向いてしまう。「春希くんさえよければ、1週間くらい預かりたいんですけど……あ、もっと長くてもうちは全然大丈夫!」春奈はにこやかにそう言ってくれた。「はなちゃん、たいじょうぶぅ……?」春希は眉をハの字にして心配そうに花を見上げる。「うん。……寂しいから早く治すね」寂しいのは本当。だってこんなに大きな家にしばらくひとりぼっち……当然、春希がいないこの家に、大雅が帰ってくるはずはない。やがて仕事に向かう大雅を迎えに権堂がやって来た。春奈と春樹も一緒に出かけてしまい……花は静かになった寝室に1人残された。ウトウトしながら時間は過ぎ、やがてお昼を過ぎて、日も傾きかけた頃……やっと少しだけ空腹を感じてベッドから起き上がった。シン……っと静まり返った広いリビング。今日も鼻毛の勢いがいい大雅の写真パネルに少しはかり笑みがこぼれる。三井さんは失礼だから外せと言ったけれど、こんな時は笑顔にさせてくれると知った。病気から復活しても外さないでおこう。本物も写真も含め……大雅さんを見て一番自然に笑える貴重な1枚なのだから。冷蔵庫を開けると、小鍋に野菜スープが作ってあることに気づいた。昨夜の3人の残りものかと思ったが、残飯に文句はない。温めていただくことにする。「あれぇ……春奈さんらしくない切り方だなぁ」乱切り、というよりぶった切り。不揃いの野菜たちに笑顔がこぼれる。優しい味のスープは食べやすくて、結局全部食べてしまった。まだフラフラするものの、洗濯物だけやっておこうとランドリールームに行ってみた。すると鍵がかかって開かないどころか手書きのメモが貼ってある。「洗濯は俺がやるから寝ていなさい。(洗濯物があれば遠慮なく出しておくように)」そういえば発熱して汗をかいた……花は言われた通りその場で着替え、洗濯物を出してから寝室へ向かった。再び横になって……そういえばやたらリアルな夢を見ていたことを思い出した。専
last updateLast Updated : 2026-07-31
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28.2人きりの夜

「なにしてんの……?」「し、侵入者から大雅さんの私物を守ろうと……」「そんなのいいから……」大雅は難しい表情をしつつ、思いのほか優しい声で手を差し出す。花は少し考えて手のひらをパチンっと当てた。「違うだろ……」ハイタッチ的なことかと思った……「手を握りなさいよ」「あ、はい……すみません」「そっちの手かよ……ほんと、全部おかしいな?!」向かいあって右手を差し出され、つい左手で握ってしまった。……手をつないで歩くときは正解だが、向かいあって握るとおかしなことになる。けれど無事に、驚いて腰が抜けた状態から助け出された。「……熱は?」「た、多分もう、あまりないと思います」答えてから気づいた。往診の医師が来てから、1度も熱を測っていないと……とっさにおでこに手を当ててみる。手も同じくらいの熱さでまったくわからない……「頬が赤い……」向かい合って立ち、とても近い距離で花を見下ろす大雅。頬が赤いのはそのせいです……と、声にならない返事をして視線を落とし、目の端に腕時計の文字盤が映った。「あっ、そうでした……大変」時計やアクセサリーが床に散らばったままだ。花はウォークインクローゼットに落ちたそれらを拾い集め、真ん中あたりにある飾り棚にひとつひとつ収納する。いつの間にか大雅も一緒に拾いはじめた。「時計も指輪も、ちゃんと飾ってなかったろ」「はい。上にドチャッと置いてありまして、侵入者のいいおみやげになるところでした」大雅はふと手を止めて花を見る。「さっきから言ってるけど、その侵入者って何?」「あ……ドアが閉まる音がしたので、もしかしたら侵入者が入ってきたのかと思いました」「……ドアが閉まる音、聞こえたのか」「はい。その音で目が覚めて……」「じゃあ、その前のことは、気づいてない?」その先を話そうとしたのに遮るように質問され、その意図がわからないながら答える。「気づいてないです。……それであの、侵入者が熱狂的ファンだったら、まずは大雅さんの私物を狙うだろうと、慌ててウォークインクローゼットに隠れて……」「わかった。ドアの音で目が覚めたならいい」残りの時計はそのままに、大雅は花の背中を押してベッドへと導く。「今日は、俺もここで休むから」「あ、はい」ベッドに横になった瞬間、あまりにもナチュラルに宣言され、それがどういう
last updateLast Updated : 2026-08-01
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29.大雅の変化

しばし見つめ合う2人……2人きりの家、同じベッド……コトを起こそうとすれば、私は抵抗できない。目を閉じながら思う。それを、私は望んでいるのだろうか……相手は芸能界という特殊な場所で活躍する国民的大スター。もしかして春奈さんに道ならぬ恋をしてるかもしれない人で、入れない部屋の秘密や春くんの母親は誰なのかも秘密にしたまま私を招き入れた不可解な人なのに。半年後、私は平気な顔でここから出ていけるかな。もしそうしたいなら、私は心のどこかに高い壁を作らなくちゃいけない。……こんなところで一緒に寝てる場合じゃない!「あの……」目を開けて起き上がろうとした瞬間、頭を撫でられたことに気づいた。さっきと同じ体勢で、大雅さんの表情は柔らかく、そしてなぜか切なそうだと感じた。結局ずっと私の頭を撫でながら、大雅さんはすぐ近くに横向きに寄り添うように眠ってしまった。何かされるなんて妄想したことを申し訳なく思うくらい、彼は紳士だった。翌朝、大雅さんは知らない間にいなくなっていた。お見送りもできない日々が続いて申し訳ないと思いながら、花はそっとリビングに向かう。今朝は劇的に体調が戻った感覚があった。これくらい体が軽いなら、たまった家事をしなければ……まずは昨夜、大雅さんが回したと言ってた洗濯物だ。洗われて、そのまま乾燥されているはず。花はランドリールームの大きな洗濯機を覗く。……何も入っていない。消えた洗濯物の行方を追ってリビングに戻って驚いた。「大雅さんが、洗濯物を干した……?」不器用に吊るされた大雅さんのTシャツ……慌てて庭に出て救出するも、すでにカンカン照りの夏の太陽にさらされガビガビに乾いている。「真似しなくていいのに……」その他の洗濯物もすべて乾いているようだ。花はすべて取り込もうとした。……そこに自分の下着上下が紛れていること気づいてハッとする。意識が朦朧としたまま、ここで服を着替えた記憶がよみがえった。洗濯物を出しておけ、と書いてあったメモはすでに剥がされていたけど、あの時素直に出してしまったんだっけ……色気のない、グレーのスポーツブラと揃いのショーツをたたみながら、変にヒラヒラしているものでなくて良かったと思う。……それにしても、直接肌に触れたものを洗わせ、手に取って干してくれたと思うと……「本物の夫じゃないかっ!」…
last updateLast Updated : 2026-08-02
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30.Side大雅.

「君とは、ちゃんと話さなければと思っている」 唇を離すのを惜しむ自分を自覚した。 けれど……これ以上はダメだ。今はまだ。 「……話って、」 すぐに触れそうな位置に、花の唇がある。彼女からも離れていかないことに、胸を締め付けられるような喜びを感じた。 「明日からドラマの撮影で少し海外に飛ぶ。……それまでに話をまとめておくから、待っていてくれる?」 「も、もちろんです。私の……」 花は一旦言葉を切った。それはきっと、俺のせいだ。……迷わせている。今の自分の立ち位置を、今後の行方を。 「あの、春くんはいつ戻るのでしょうか」 「体調が大丈夫なら、明日にでも戻そうか」 「今夜は……?」 一瞬、自分と2人の夜は居心地が悪いのかと心配になった。 「大雅さん、明日から海外なら、春くんと会えないんじゃないかと思って」 「あぁ……明日空港に見送りに来てくれるから。春奈が春希を連れて、」 わずかに表情が曇った気がして、俺は思い立って付け加える。 「花も……来る?」 「あ、いえ……私は。3人の時間を大切にされてください」 ちょっとおかしなことを言われた気がしたが、花が腕から離れていくことに気を取られた。 料理はどれも美味しかった。……ただ、それをうまく伝えられたかはわからない。役柄を与えられたら簡単にできるのに、本物の自分はどこまでいっても不器用だ。 「買い物とか……困ってない?」 「あ……はい。春くんと一緒にスーパーに行ってちょこちょこ買ってます。あと駅前商店街のお肉屋さんに顔を覚えてもらってオマケしてもらえることも多くて、」 「商店街の肉屋って、Meat The ハートのこと?」 以前買い物に行ってもらった三井に聞いたことがある……商店街の肉屋の店主がとんでもないイケオジだと。 「あ……そうです。オーナーのおじさんが面白い人で、話し出すと止まらなくて」 「あの店は……やめたほうがいい」 話し出すと止まらないだと? そんなのナンパみたいなもんだ。……冗談じゃない。花は今、俺の妻だ。 「……わかりました。それであの……実はちょっと前から思ってたことがありまして」 思い切ったように話し出す花。 ……もしかしたら今までにも話したいことは多くあったのかもしれない。けれど俺の態度が固いから、話しづらかったのだろう。 「どうした?……何
last updateLast Updated : 2026-08-04
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