All Chapters of スターの冷たいプロポーズ〜今さら愛してると言われても……: Chapter 51 - Chapter 60

71 Chapters

51.夏から秋へ…変化の兆し

「野菜の種か。家庭菜園を庭でやりたいって前に言ってたやつ?」その夜、帰宅した大雅を迎えた花。……ソファの前のテーブルに、野菜の種が置きっぱなしだったことに気づいた。「そうです……早々に種を買っちゃって」「やってみたらいいよ」「はい……」すでに春希は寝室で眠っている時間。花は大雅の前に夕食を用意した。「あ、今日……春奈さんと圭一さんが来てくださいまして」「そうみたいだな。メッセージが来てた」「は……春くん大喜びで、もう、飛んだり跳ねたり大変で……あの、だから今日もいつもより早く寝ちゃって……」話さなければいけないことがいくつもあるのに、そんな話題を出せば、私たちの暮らしが変わってしまいそうで怖い。「春希は、本当にあの夫婦に懐いてるよな」「え?」言い方に違和感を感じて、つい聞き返してしまった。「実は少し前から2人に言われてるんだ。……春希の、幼稚園入園のこと」「あ、そういえば、そんな年齢ですよね」「そう言われて、少し考えているんだけど」花が用意した料理に手を付けながら、大雅は思い切ったように話し始める。「鈴里大雅っていう存在が、幼稚園や小学校に通うようになった春希に、相当な不便を強いるようになるんじゃないかって」押しも押されぬ国民的スターが保護者である子供を、近所の幼稚園に通わせるわけにはいかないということだ。「それじゃ、芸能人の子供が多く通うような幼稚園に?」そんなところがあるのかわからないけれど……そういう場所に通わせるとしたら、大雅さんは春くんと一緒に園内見学とか行くのだろうか。……そしたら、子供と一緒に暮らしていることが世間に知られるかもしれない。自分の子供ではないとしたら誰の子なのかと話題になって……亡くなった姉の子供だと暴かれたら、春くんもマスコミに狙われる?同時にもし……私との結婚が公になったら。その関係性は、センセーショナルに世間を賑わすだろう。そうなった場合、一番にダメージを負うのは誰?大雅さん……そして春くん……スキャンダルでドラマやCMを降板になったら、莫大な違約金を背負う可能性があると聞いた話を思い出した。「花……?まだ、決まったわけじゃないから」「え……あの、ごめんなさい。ちょっと考え事をしていて」いつの間にか大雅の話を聞き漏らしていたらしい。テーブルの向こうから花の手を取り、じ
last updateLast Updated : 2026-08-29
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52.守るために……

「はなちゃん……ちゅくしんぼないよ?」 庭に出て遊んでいる春希が、ソファに座る花に声をかける。 「今はないねぇ……つくしんぼは春に出てくるよ?」 「あちゅいのおわったらはる〜?」 「ううん。寒いの終わったら春!」 理解したのか、ニコッと笑う春希がひどく可愛らしくて、花もサンダルを履いて庭に出た。 「……こっち、さわっちゃだめ」 「うん!覚えてた?えらいね〜」 庭の一部を使って家庭菜園にした。植えたのは大根とほうれん草、そして白菜。 「たいがーとみんなでやったの。にょきにょき〜って、でてくるんだよ」 「そうだね!芽が出るの、楽しみだね」 抱き合って泣いた夜から数日後、大雅はめずらしくオフだと言って朝早く起きた。 「今日は、家庭菜園の日だ!」 やる気満々の姿でガッツポーズを作る大雅を見れば、当然春希も早起きする。 大雅の運転でホームセンターに出向き、野菜を育てるのに適した土やスコップなど、必要なものを買いそろえた。 早朝のホームセンターには客も少なく、難なく買い物ができてホッとした花。 家に帰ると早速庭に出ようとする大雅を慌てて止めた。 「……大雅さんが、庭を耕すんですか?」 「当然。俺以外に適任者はいないと思うが?」 「だ……だめですよ!まだまだ紫外線が強力に振り注いでいるのに日焼け止めも塗らないで。ドラマの撮影、まだありますよね?」 なぜか家庭菜園への熱をみなぎらせ、無防備なTシャツ姿で庭に出ようとするのを、花は必死で止めた。 「まずはですね、ツバの広い麦わら帽子の下にタオルを挟んで首の日焼けを防いで、この割烹着を着て虫対策をしてください」 暑いと文句を言う大雅を寝室に押し込め、くるぶしまでのジャージに着替えさせると、シューズインクローゼットから長靴を持ってきて渡した。 「こんなの、うちにあったのか……」 「はい。去年出演したバラエティ番組で農作業をしたので、その時持ち帰ったんじゃないですか?」 記憶をよみがえらせ、納得する大雅。 「なんでそんなこと知ってるんだ?」 「大雅さんの出演したバラエティは全部観ましたから」 なんでもないことのように言う花。大雅が頬を染めて見つめたことに、彼女はまったく気づかない…… 「あ、そうだ!……サングラスもしてください
last updateLast Updated : 2026-08-30
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53.父の痕跡

その後、哲平から追加情報のメッセージが送信されてきた。 「2年前……」 情報によると、父が叔父の暮らす地方都市でたびたび目撃されていたのは、2年ほど前のことだとわかった。 ……ということは、会社も家族も大雅の姉も放り出して消えたあと、父は弟を頼ったことになる。 「嘘をつかれてたのか……」 母の突然の訃報を知らせたが、怪我をしているからと葬式には来なかった叔父。……もともと親密な親戚付き合いをしていたわけではないから、不自然だとも思わなかった。 会社が大変なことになっていること、そして父の失踪も伝えた。 あの時叔父は確かに言った。 「しばらく兄さんには会っていない」と。 「はなちゃん……おきた」 春希の寝ぼけた声が聞こえてハッとした。振り向くと、テナガザルのぬいぐるみの手を引いてトボトボ歩いて来る。 「うん、よく寝たね?!麦茶飲もっか」 携帯は一旦閉じて、花はキッチンに向かった。今日のおやつは朝のうちに作って冷やしておいたスイートポテト。 最近は考え事が多くて、妙に料理が捗る…… いつものようにお昼寝のあとは春希の好きなアニメを流し、お茶を飲ませながら少しずつ目を覚ましてもらう。 この時、いつまでもゴロゴロしていたら要注意だ。体調を崩している可能性がある…… 「はなちゃ〜ん、おなかすいたぁ」 「うん!おやつにしようね」 ……良かった。今日も元気で過ごせそうだ。 花は春希のお気に入りの皿にスイートポテトを盛って、リビングへと向かった。 一緒におやつを食べていると、携帯がメロディを奏でる。……哲平からのメッセージだとしたらあとにしよう。 「……あ、」 少しだけ携帯を覗いて、意外な人からの連絡に思わず声が出てしまった。 『しばらくぶりたけど……元気かな? ミミです!』 メッセージは花園ミミからだった。 春希が庭に飛び出していったタイミングでメッセージを開いてみる。 『山崎哲平って、はなちゃんの昔の友達だって聞いて驚いちゃった!』 「……えっ?なんで、」 しかも昔の友達……そこは訂正すべきか、流していいところか。 それにしても哲平とミミ、どういう繋がりなんだろう。 大雅に言わずに父の捜索に協力してもらっている。ミミから大雅につたわる危険が出てきた……?2
last updateLast Updated : 2026-09-01
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54.秘密の電話

「わぁ……たいがーおはなししてる〜」 数日後の朝、起きてきた春希がリビングの大きなテレビの前で立ち尽くした。 「うん。お仕事がひとつ終わったみたいだね」 カメラのシャッター音とフラッシュの点滅、その中で大雅が、花園ミミを隣に置いて笑顔を作っている。 開局50周年を記念して制作されたドラマのインタビュー会見だ。 ……今朝大雅が、朝のワイドショーで生放送されるから観るよう言ったもの。 『クランクアップお疲れ様でした!主演のおふたりは、ドラマ「トップス」の一番の見どころはどのあたりだとお考えですか?』 『そうですね、雄大な景色と特徴的な街の雰囲気でミステリー感を演出できた海外編でしょうか』 大きな画面いっぱいに大雅が映し出され、料理をしていた花も、思わずテレビに近寄っていく。 『私も同じです。海外編は物語の大きな転換場面なので、ぜひじっくりご覧になっていただきたいです』 画面が花園ミミに変わり、続いて2人で手を振っている。 他にいくつかの質問に答え、インタビュー終盤の場面。1人のリポーターが何かに気づいたようだ。 『あれ……大雅さん、首に何か跡がありますね』 『あぁ、これですか』 画面のなかで大雅は慌てずに首に手を当て、にこやかに笑った。 そしてチラリとカメラに目をやる。 それを見て花は持っていたお玉を落とし、2〜3歩後ろへ後ずさった。 『蚊に刺されたみたいで。無意識に掻きむしったんでしょうね』 「はなちゃん、おたま……」 春希が渡してくれるのも気づかず、花は両手で口元を覆う。 『そんなこと言って大雅さん……!もしかしたら噂の恋人にうっかりつけられちゃったのでは?』 リポーターはそう誘導尋問を口にしながら隣にいた花園ミミに視線をやる。すると彼女は高らかに笑い始め、その明るい笑い声は、観る人にどこか否定を感じさせた。 『まぁ、蚊です』 カメラに向けた笑顔が、自分へ向けたものだとわかる花。……いや、本当にあれは蚊だ。昨夜、パチンっと首を叩く音で目を覚ましたのだから間違いない。 「跡になったら大変だから薬を塗ろうとしたのに……」 これ以上リポーターに意地悪なことを聞かれないよう祈ったところで、インタビューからはけていく2人。 あの虫刺されの跡は、突っ込まれることがわかってたに
last updateLast Updated : 2026-09-03
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55.春希の幼稚園

「大雅さん、それじゃあまるでお葬式ですよ……」 春希の就園について意見をくれた春奈・圭一夫妻の紹介で、とある幼稚園に見学に行くことになった大雅。 「そうか?……なるべく目立たないように、地味に、と思ったんだけど」 「ダダ漏れるスターのオーラは、そんなんじゃ隠せません」 「……じや、どうすればいいんだよ」 頬を染め、拗ねたような表情で見下ろす大雅に心臓を撃ち抜かれ、思わず胸を押さえる花。 こういう表情はテレビドラマの中では見せない……ホント、反則だと思う。 「と、とりあえず喪服スーツは脱ぎましょう」 寝室に続くウォークインクローゼットへ行き、花は紺色のスーツと薄い水色のワイシャツ、ブルー系のネクタイを選ぶ。 リビングに持っていこうとしたが、下着1枚という姿で仁王立ちで待つ大雅が寝室にいた。 「こ、これを……お召しくださいませ」 「おう」 そんな、見せつけるように割れた腹筋を見せることないのに……下半身に目がいかないように、花はわざと天井に顔を向けた。 「何やってんの?」 「いえ、不躾な視線を向けないように……ですね、」 「いいよ」 思いがけない返事に、花は思わず大雅を見てしまった。するとまだ下着1枚の大雅。……なにしてんの?! 両手で顔を隠しながら、指の間から目をのぞかせる花を笑い、大雅は花の手を取る。 「出血大サービス……花だから、特別」 自分の胸に、腹筋に、花の手を置く大雅。すべらかな感触に鼻血が出そうになる。 「はなちゃ〜ん!ごはんたべたよぉ」 リビングから春希の声が聞こえてハッとした。 いかんいかん、鼻の穴を膨らませて大雅さんの腹をサワサワしてる場合じゃない! 「い、今行くね」 慌てて離れた花の手首を取り、あっという間に抱きすくめ、唇を奪う大雅。 「今度、もっと触って……」 「……っ?!」 沸騰したやかんのように、花の頭から勢いよく蒸気が吹き出した。 「本当に大丈夫かよ……」 「大丈夫です!もし入園させたいと思ったら、その時理由を明かせばいいので!」 大雅は花の提案で、分厚いレンズの黒縁丸メガネと、付けヒゲをさせられていた。 「いいですか、名前は偽名で書いてくださいね?」 「……はい」 これから行くのは「サンサン幼稚園・入園ご案内
last updateLast Updated : 2026-09-04
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56.花の決意

「どした……?春くん、疲れちゃったかな?」 春奈に抱かれ、あやされながら、春希のまぶたが閉じかかるのがわかる。 ……寝ぼけてたから、自分たちの方に来なかったのだろうか。 そっと顔色をうかかえば……多分私と同じ表情。寂しいような不安なような、複雑な表情だ。 春希は春奈さんの腕のなかで揺られ、そのうち眠ってしまった。見ていると、ずっと……ずっと長い時間、優しく揺らし続けていた。 それを見守る圭一のまなざしと同じく、春希への愛情に満ちていた。 ふと、大雅が言っていた話を思い出す。 春奈・圭一夫妻が春希を養子に迎えたいと言っているという話。 きっと、このおふたりなら……春希を幸せにしてくれるだろう。 それほど夫妻と春希が寄り添う姿は自然で、慈愛に満ちていた。 「本当に、いいの?」 「うん。明日から撮影で地方に行くから」 まどろみから起きた春希と食事をしてしばらく歓談したあと、帰る素振りを見せた夫妻に大雅が春希を連れて行くよう言った。 春希は喜び、花は複雑な気持ちを抱きながら笑顔を添える。 「それじゃ、3日後にまた来るわ!」 間に春希を挟み、玄関の向こうに消えた3人。笑顔で見送った表情が、2人同時に素に戻る。 「あんなこと言って……本当は寂しいんじゃないですか?」 「それは花のほうだろ?」 「そ、そうですよ。明日から大雅さんも帰らないなんて、私……ひとりじゃないですか」 大雅はリビングへと花の背中を押しながら、意外なこと言う。 「この機会に、花も少し羽を伸ばせよ」 「え……?」 「ここに来てからずっと、春希の世話に追われてたじゃん。買い物したり友達に会ったり、旅行に行ってもいいぞ?」 そんな贅沢は、ついこの間させてもらったばかりだ……花は黙って大雅を見上げる。 「大雅さんの紹介の美容室、行って来たんですけど……そういえば褒められませんでした」 「そうだっけ?!」 本気でびっくりしてる……? 意外な大雅の天然に笑みがこぼれた。 「それじゃ私も……ひとつ大事な用事を済ませてきますね」 広いベッドに横になり、仰向けで手をつなぎながら大雅に言う。 「……誰に会うの?友達?」 「久しぶりに会えるかもしれない、大事な人です」 つないだ手に、わずかに力がこもった気
last updateLast Updated : 2026-09-05
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57.過去にできない

「どこに行ってた?」 帰宅した花を、2泊3日の予定で出かけたはずの大雅が迎えた。 ……どうして家にいるのかを聞き返そうとして、大雅の苦悩の表情に気づく。 ここは、取り繕ったり嘘を言ってはいけない。 「父に、会いに行ってました」 調べた住所の近くで偶然顔を合わせた父は……あの後踵を返して走り去ってしまった。追いかけようにも、まるで父と自分たちを分けるかのように車が何台か通りかかり、その間に父は姿を消した。 その後、父が走り去った方へ行ってみたが行方はわからず、先に住所から叔父の家を突き止める。 そこはかなり大きな家だった。どちらかといえば別荘のような雰囲気……何度も呼び鈴を押すも応答する人はなく、建物をぐるりと見て回ったが、中に入れる隙はなかった。離れた隣近所にも聞いて回ったが、対応してくれる人は少なく、そのわずかな人も、父の写真に心当たりはないという。 途方に暮れて、帰ってくるしかなかった。 腕を組み、ため息をつく大雅。 「それで?……会えたの」 「偶然にも……でもまた、逃げてしまいました」 「だったらさ、もういいだろ?」 ソファのアーム部分に浅く腰掛けていた大雅が、立ち上がって花に向き直った。 「1人で行ったのか?……じゃないよな?」 「哲平に、捜索の協力をお願いしてて……叔父の引っ越し先に潜伏してることがわかったんです。……それで、あ……哲平というのは、お話した前の、恋人です」 立ち尽くす花に近づき、大雅はすぐそばで彼女を見下ろした。 「今はもう、何の感情もありません。ゆ、友人として……私の両親を知ってる人でもあるので、父を探したい気持ちを理解してくれて」 言葉にするほど、ドツボにはまる気がする…… 「なんで探す必要がある?」 怒りと悲しみが混じった苦悩の表情……花はゴクリと唾を飲み込んだ。 「それは、大雅さんのお姉さんのためでもあるし、それに……」 「姉さんは死んだっ!」 声を荒げる大雅は初めてで、花はビクッと体を震わせ、2〜3歩後ろへ下がった。 「哲平……山崎哲平さんは、ACTRESS.Flowerの社員らしいな」 花園ミミが所属する事務所のことだろう。 「今日、山崎さんが突然休暇を取ったって大御所女優がぼやいててな。代わりのマネージャーが使えないってことで今日の撮影が飛んだ。だから予定を切り上げて帰っ
last updateLast Updated : 2026-09-06
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58.2人の決断

「……ごめんなさいね、こんな奥まった席に」「いいえ、お忙しいのに……誘ってくれてありがとうございます」「いやいや、今日は撮影飛んだから暇だったのよ!」そうだ……大雅にも言われたが、撮影が飛んだのは哲平が急遽休みを取ったせい。「すいませんでした。今日山崎さんが休んだのは、居所がわかった父に会いに行く私に、付き添ってくれたからなんです」ミミはメニューを眺める視線を花に向けつつ、注文する料理をチョイスする。「子牛のローストと米糀のパスタ、そうめんサラダと……キャラメリゼプリンかな。それと赤ワインソーダ」「結構食べるんですね、女優さんは食べないイメージなのでびっくりです」「食べなきゃ持たない!キッツい商売なのよ!?女優なんてさ!」放り投げたメニューを受け取り、花も料理をチョイスした。「私は……牛と豚のケンカ盛りと、グリーンサラダウルフ、整うパスタとぶどうみかんゼリーで」「……さすが。大雅が惚れた女だけあるわね」言われた意味はよくわからなかったが、とりあえず笑っておく。「大雅は、初めは今とは全然違う気持ちであなたに近づいたのよ。でもそのうち本気であなたに惹かれたって頭を抱えて悩んでたわ」「そう……だったんですか」「でも私から言わせれば、初めて会った夜に手を出したんでしょ?その時点ですでに惹かれてたのよ。大雅はあんな見た目だけど、女性関係は本当にクリーンで、芸能界に入って私と出会ってから、初めて恋をした相手が花ちゃんだったのね」先に運ばれてきた赤ワインソーダをがぶ飲みするミミ。飲み物を頼み忘れた花の水のグラスに少し入れてくれて……薄紅色の水が出来上がった。「だから山崎のことは、お父さんに会いに行くから同行してもらうとか、ちゃんと言ってあげてほしい」「はい、それはもう……」「ああ見えて大雅は、何かを守ろうとすると全部自分で抱え込むから。それでなくても、春くんの今後について悩んでるみたいよ?」それは花も感じていることだった。だから父を探すことを拒否するのだろうか。……決して、父に春希を託そうとは私も考えていないけれど。「春くんが成長して、もしも自分が何者であるのか悩んだ時、ちゃんと話をしてあげられる姉でいたいと思ってます。そして……父が失踪した理由が、あまりに身勝手なものであるなら、今後春くんにむやみ近づかない約束をさせたい。……だから
last updateLast Updated : 2026-09-07
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59.叔父との再会

前回訪ねた時とは違って、冷たい雨が振っていた。半袖シャツの上に、薄いカーディガン……地方の山奥に行くには少し軽装すぎたかと、花は少し後悔する。「ごめんね、こんな雨の中……」「いや、へっちゃら。今回はレンタカー借りたしな」大雅から直接連絡をもらって、哲平はとても驚いたようだ。でもその分、花を予期せぬ事態から守らなければ、という使命感も生まれたらしい。「哲……山崎さん、車のドアぐらい自分で開けますって」「いや、もし手が滑って怪我でもさせたら……俺マネージャーとしてあの業界でやってけないから」本気とも大げさとも取れる話だと思ったが、哲平はいたって真剣だ。「……このへん、だったな」覚えのある道を走り、記憶にある通りに入る。車を邪魔にならないところに停め、前回見つけた叔父の家を目指した。「そういえば、俺は山崎さんになったのか」「あ……うん。一応私、人妻なので」「おぉ〜……なんだかイケナイ響き!」軽口を叩くのは、緊張を和らげてくれているとわかる。今日こそは2人とも、家にいるだろうか。「……はい」インターホンを押してみると、意外なほど素早く応答があって哲平と顔を見合わせた。「お久しぶりです。……高坂、花です」「……花、」「お父さんはいますか?……ずっと探してて、叔父さんと一緒にいるって調べてきたんです」花が話している間に、哲平は裏口に続く道を確認した。……前回のように逃げ出されては困る。「叔父さん、開けてもらえませんか」「……」ガチャっと玄関のドアが開いた音で、哲平もこちらに戻ってきた。出てきたのは、記憶よりもかなり年を取った叔父だ。「ごめんなさい、叔父さん」花は門をくぐり、開いた玄関ドアに走り寄る。叔父への挨拶は後にして、制止されるより先にその脇をすり抜けた。2年前から追い続けた父が、この家のどこかにいるかもしれない。そう思ったら、礼儀を考える余裕などなかった。「お父さん……!いるの?……花です。話がしたくて調べてきたの!お父さん?!」目につくドアを片っ端から開けていく。リビング、物置き、庭に続くドア……洋間、父の姿はない。「花、お父さんなら……ここにはいないよ」叔父の言葉を無視して2階に駆け上がる。洗面室、トイレ、空き部屋、そして。誰かが使っていた部屋……その部屋と反対側に位置する最後のドアを開けると、そこ
last updateLast Updated : 2026-09-08
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60.父は今……

「……どういう意味?」花は思わずにじり寄った。叔父は写真が表示された花の携帯をじっと見ている。「叔父さん、この子のこと知ってるの?」答えて……という花の言葉に覚悟を感じたらしい叔父が目線を合わせる。「兄さんから聞いたことがある」「聞いたって、この子の母親のこと?それとも、この子自身のこと?」「事故のあと、一度話を聞いただけだ」苦しげな表情は、娘である自分に話をするには酷だと思っているのか……再び下を向いてしまった。「私……今この子と一緒に暮らしてるの」驚いた表情がなんだか悲しくなった。そんなに、歪な関係性なのだろうか。「……子供も助からなかったと思っていた」「叔父さん、事故のことを聞いてるんだね?」「兄さんは、ここにいた頃は元気だった。ただ、お前たちには会えないと言っていた」叔父がついに白状した。「……いつまでここにいたの?今どこにいるの?」隣で哲平が携帯を取り出したのが見えた。居場所をメモろうとしてくれているのだろう。「会わないほうがいい」「どうして?」すでにこの近くで姿を見かけたことを思い出した。花はその時のことを叔父に伝えていない……「少し前に、このあたりに来たの。ここにたどり着く前に、偶然父に会った」「……なに?」「目が合って、私の名前を呼んだ。少し痩せてたけど、あれは間違いなくお父さんだった」追いかけようとした瞬間に車が通りがかり、その間に走り去ってしまったことを伝えると、叔父の顔が驚きからホッとした表情に変わったように見えた。……なぜ。「雨が、やみそうだな」ふと窓の向こうを見てつぶやく叔父。ひとつ、ため息をついて、叔父は手元のコーヒーカップを見ながら話し始めた。「兄さんは確かに、一時期この集落にいて、一緒に暮らしてた。だが、半年くらい前に忽然と姿を消した。ありがとうって……携帯にメッセージを送ってきて、それ以降はこっちから連絡をしても繋がらない」嘘だとは思えなかった。父の捜索は、振り出しに戻ったということか……「何か、置いていきませんでしたか?おじさん……花がここへ来るの予想したんじゃないでしょうか。だとしたら、少しくらいなにか……」哲平がたまらず話に入ってきた。すると叔父は、決心したように言う。「兄さんは逃げたんじゃない」花は叔父の言葉に混乱した。「逃げたんじゃないなら、どうして出
last updateLast Updated : 2026-09-09
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