All Chapters of スターの冷たいプロポーズ〜今さら愛してると言われても……: Chapter 31 - Chapter 40

71 Chapters

31.夏のアクシデント

「……はなちゃんっ!」 「春くん……久しぶりっ!」権堂に連れられ、春希が戻ってきた。パチンっとハイタッチする2人を見て、権堂の頬も緩む。「大雅さんは、無事に……?」「はい。到着時刻は、日本時間の夜中だそうです。時間的に連絡はしないとおしゃってました」「あ、それはもう……」熱を出してから、大雅の変化についていけていない花。名前を口にしただけで赤面してる気がする。「それでは私は、一旦これで」「あ、はい!ありがとうございました」玄関を出ていく権堂を春希と一緒に見送り、花はリビングに戻って腰に手を当て、高らかに宣言した。「今日はお買い物に行かなくてはなりません!」「おかいもの?……にんじんと、たまねぎ?」おもちゃ箱からボールを取り出しながら、首をかしげる春希がひどく可愛い……「うん。あときゅうりとおにくとおさかなも!」今の季節、炎天下を避けると、夜の一歩手前……夕方の遅い時間になってしまうとわかった。「はやくいこう!よるはおまけさんがでるから」……「おまけさん」とは「おばけ」のことだと教えてくれたのは権堂。子供らしい間違いを可愛らしく思う。暗くなる前に帰れるだろうかと不安を抱えながら、春希に手を引かれ、花は玄関の外に出た。……意外と明るくて吹く風も心地良い。「あ、春くん待って!」時間的に子供連れが少ないと思われたスーパーだったが、春希はまるで吸い寄せられるように同い年くらいの子供を見つけ、駆け寄っていく。肉や魚を十分品定めできないまま、春希の後を追った花。「でもりどん(デモリドン)とね〜、さぎゃるん(サギャルン)がたたかったからぁ、でもりるん(デモリルン)ができたの」「ちがーよっ!でもりるんはおとーとだよっ!」……なんの話だかさっぱりわからず立ち尽くす花を横目に、春希と話す男の子の母はにこやかに頷いている……?!異次元の言葉を理解する母に頭が下がる。キャッキャと楽しそうな子供達だったが、ヒートアップしてスーパーの中を駆け回りそうだったので、花の方からサヨナラを伝えた。わずかに名残惜しい雰囲気を感じて嬉しくなる……ところが、再会の機会はその後すぐにやってきた。「あっ!るーきくんだっ!」買い物帰りに通った公園で再び出くわしたのだ。頭を下げ合い、子供たちを見守りながら、少し話す雰囲気になった。「あの、さっきは突然
last updateLast Updated : 2026-08-05
Read more

32.言いしれぬ違和感

崩れ落ちた花を支えたのは権堂。 花と春希に近寄り、かばうように2人の腕を取りながら、後ろにいる女に視線を移した。 「どなた?……ママ友かなんか?」 「あ、あの……」 花の肩に置いた手を離しながら、女は2〜3歩後ずさる。 「……帰ったらいないから、買い物に出かけたんだと思った。迎えに行こうと思ったのに」 どうやら、このアパートに住む夫婦という設定らしい。 チラリ女に目をやる権堂。その視線は凍りつきそうなほど冷たい。 「あ……わかった!」 少しずつ後ろに下がりながら、女が震える指で権堂を指さす。とっさに嫌な予感がよぎった。 「あなた、大雅の第1マネージャーでしょ?前に出待ちしてた時見たことある!」 心なしか、どこか嬉しそうな女。花は春希を抱きしめ、そっと権堂の後ろに隠れた。 「勘違いでしょう」 権堂は女性に数歩近づき、腕を組む。 「俺は芸能人のSPはやってない。なぜなら、本職のデカだからな」 ポケットから特徴的な身分証明書を出して掲げる権堂。……警察のマーク入り?まさか本当にそうなのかと思わせる堂々とした振る舞いに目を見張った。 「大雅って、鈴里大雅のことだよな?芸能人だからってプライベートがないわけじゃない。安易に踏み込むと、2度と近寄ることができなくなる場合もあるから用心しろよ?」 「そ、そんなことしてない」 女は震えながらもまくし立てた。 「大雅の家がこの辺だって噂が出回って、子供がいるとかお母さんと暮らしてるってSNSで見たから来てみただけ!そしたらその子、すごく可愛い顔してるし、女も挙動不審だったから……」 「挙動不審はあんたの方だ」 ハッキリ言われ、言い返すことができない女は、さっきから不安そうに自分を見上げる子供の手を引き、早足で歩いて行った。 「……あのっ!」 権堂の後ろに春希を置いて、花はとっさに女に歩み寄る。 「龍騎くんのこと、抱っこして帰ってください!……子供の足で公園まで戻るの、つ、疲れちゃうからっ!」 足を止め、振り向いた女に、権堂も声をかけた。 「2度とこの辺に来るな。来たとしても俺の妻と子供に近づくなよ?」 返事の代わりに唇を噛み締め、子供を抱き上げて歩き出す女。姿が見えなくなったところで、ヘナヘナと力が抜けた。 「大丈夫ですか、花さん」 「はい……いや、あの、迂闊でした」 知
last updateLast Updated : 2026-08-06
Read more

33.大雅の留守に……

「お邪魔します……」「どうぞ……っていうか、ちゃんと許可得てるから大丈夫だよ」「いや、それでもさ……万が一携帯のカメラが作動しちゃって内部を撮っちゃって間違えてSNSに投稿したら大変だから……荷物は全部ここに置いてく」権堂がやってきた翌日、花は瑠璃に連絡して遊びに来てもらった。突然の誘いだったが、ふたつ返事で来てくれてホッとしたところ。昨夜、権堂が大雅のリラックスウェアを着て風呂から出てきたことに、花は大きな違和感を感じていた。もしかしたら、2人の間でそんな約束がされているのかもしれないと思うことにして、何とか一緒に食卓を囲んだが……「大雅さんのベッドにはどちらが寝ますか?」と聞かれてこれは本格的におかしいと感じた。「寝室では春くんと私が2人で寝ます。権堂さんはお帰りになったほうがいいと思いますが」毅然と言い放つ花に、権堂は少し驚いたようだ。「そう……ですか。さっきストーカーみたいなファンに遭遇したから、怖いだろうと思ったんですけどね」「抜かりなく施錠して休むので大丈夫です」視線が険しくなった気がして、背筋に冷たい何かが走る……「わかりました。それじゃ……これだけいただいたら帰りますね」手にしたカップアイスを掲げて見せ、食べることに集中した権堂。「あの、玄関ドアは2ヶ所の鍵だけをかけてもらえますか?ドアチェーンをかけられると、何かあったときに入れないので」「わかりました」その後何ごともなかったように着替えて帰っていった権堂。ホッとして家中の窓のシャッターを下ろそうと各部屋へと走る。立ち入りを禁じられている部屋だけは約束を守り、そのままにして。『お疲れさまです。まだ現地に到着していないと思うのですが、ひとつご相談があって連絡しました』迷って……大雅にメッセージを送ってみることにした。『大雅さんが帰るまでの間、友人を招いてもいいでしょうか。天野不動産の令嬢で天野瑠璃という、私の親友です。いろんな事情を知っている人なので大雅さんのプライベートを口外する心配はないと思うのですが……』派手な身なりに関わらず、瑠璃は幼稚園教諭と保育の資格を持っていてこども園で働いている。確か毎年この時期は夏休みのはずだ。久しぶりに買い物に出て怖い思いをして、助けてもらったはずの権堂もおかしくて……大雅が戻るまでの数日、ここに春希とふたりで過ごすの
last updateLast Updated : 2026-08-07
Read more

34.続くラリー

「じゃ〜んっ!春希くん、プール持ってきたんだよ?」「わぁ…………」「大きな袋を抱えてきたと思ったら、瑠璃……こんなもの持ってきたの?」目を輝かせる春希を見て、花は言葉にできない感謝を感じた。スーパーでの一件があって、少し外に出るのが怖くなっていた花。このままでは春希をどこにも連れ出せないと思っていたから。「いいのいいの!子供の喜ぶ顔を見るのが何より好きなんだもん!それに……これだけ大きければ私たちも入れるでしょ?」「え……私も入っていいの?」「もちろん!そのかわり、水着は私の趣味で選んでるから!」花が水着を持っていないことを見越してプレゼントする瑠璃。「もちろん!どんなのでも着るよ〜ありがとう!……お昼ご飯は美味しいの作るから!」春希の水着はすぐに見つかり、着替えさせてから花も寝室で着替えることにする。置きっぱなしにしていた携帯が目に入り、何気なく確認した。「え、大雅さん?」どうしたのかと慌ててメッセージを開いてみる。『今日もそっちは暑いだろ。できるだけ涼しいところで過ごせよ』外国らしい風景の写真も添付されていた。「……あ、今こんなこんなところにいるんだなぁ」白とくすんだオレンジ色の建物が並ぶ街並み、石畳の小道……映画のワンシーンのようだが、きっとここがドラマの撮影現場なのだろう。『素敵なところですね。日本は今日も鬼のように暑いです!……瑠璃が大きなプールを持ってきてくれて、これから皆で水浴びです』プールで遊ぶスタンプも一緒に送ると、すぐに既読がついて驚いた。『動画撮って送って』……やっぱり離れている春希のことが心配なのだろう。『もちろんです!ちょっと待っててください!』ミッションを与えられたようでワクワクする。瑠璃が持ってきてくれた水着がビキニで少し驚きながらも……花は携帯を手にリビングへと走った。簡単に組み立てられるものらしいプールには、庭に引いた蛇口から水がいっぱいに満たされていた。春希はお風呂で遊ぶおもちゃを浮かべ、先に瑠璃と遊んでいる。近づいていくと、水鉄砲で攻撃され、歓声を上げながらしばらく撃ち合った。窓にはサンシェードが取り付けられており、直射日光も防げるようになっていて……とても快適だった。「はるくん、去年はたいがーとこんなプールに入ったの?」「ん?わかんない」……そうか。おしゃべりが上
last updateLast Updated : 2026-08-08
Read more

35.Side.大雅 海外ロケ

『先ほどはお見苦しい動画を送ってしまい、すみませんでした……』大げさに頭を下げるカバのスタンプ。ふと笑う俺を、ミミが横目で見る。『動画は削除しましたので、どうかすべてお忘れになり、お仕事に励んでくださいませ』そうするだろうと思って、すでに保存済み。いつでも俺は水着姿の花に会えるが……『わかった。でもビキニは似合ってたぞ?』迷って、ハートを抱えるクジラのスタンプを送る……ちょっと待て。俺はさっきから何をやってるんだ?「楽しそうだね?日本に残してきた彼女とラブ通信?」「通信って……」メッセージのラリーを最近ではそう言うのか。こちらは夜中だが……屋外での撮影が続いている。終わって寝る頃になっても、日本はまだまだ昼間だろう。メッセージのやり取りができなくなるのが少し惜しい。「大雅さん、ミミさん……こちらでシーン125を撮りますので、スタンバイお願いします!」三井に上着を預け、俺は涼しい夜の風を浴びる。夜中でも蒸し暑い日本とは違う空気に身が引き締まる。「ちゃちゃっと終わって早く帰ろう。……ったく、権堂さんが同行しないなんて」「俺も直前まで知らなかったから」撮影場所までお互いのマネージャーに付き添われて歩く俺たち。ミミの言葉に、三井の目が光った気がした。「Take2にならないように、思い切っていくからな?」「あぁ。ダルいからそうして」スタートの位置にスタンバイし、監督の掛け声と共に走り出すミミ……清水朱里。「待てよ……!」追いかけていく大雅……青木省吾。やっとのことで捕まえた朱里を、省吾は力任せに抱き寄せる。……あらゆる角度から撮られているこのシーンは、このドラマのクライマックスだ。「離してよ、」「離さない」「離してってば……!」「……離せない」省吾は抱き寄せた朱里を強く抱きしめ、肩口に顔を埋める。……とたんに静かになる朱里。はぁ……本当に、因果な商売だよな。省吾役を演じながら、大雅は心のなかでため息をついた。それを表に出さないよう、抱きしめている朱里の頬を、焦ったように包み……口づけた。感動の初キスシーンだ。明日はこの場面を切り取って番組ホームページに載せられる。もちろんSNSにも投稿され、視聴率のさらなるアップを目指すのだ。「……はい、カーットっ!」監督の掛け声で、俺たちはさっと離れ、お互いに口を拭う。そ
last updateLast Updated : 2026-08-10
Read more

36.海外での活躍

『大変申し訳ありません。……大雅さんの言いつけを破ってしまい、入るなと言われていた部屋にうっかり入ってしまいました。本当に、申し訳ありません』……これを、海外で仕事中の大雅さんに送ったら、彼はどう思うだろう。秘密にしておきたいものが白日のもとに晒されたのだ。……当然、動揺もするだろう。「やっぱり今は……何も言わないでおこうか」もしかしたら動揺して、セリフを間違えてしまうかもしれない。……セリフだけじゃなく、もし街中を歩くシーンでもあって、行く道を間違えて迷子になってしまったら……花は打ち込んだ携帯のメッセージを消し、リビングのソファでお昼寝中の瑠璃を見つめた。反省しきりだった瑠璃。さすがに遺影があれば、簡単に踏み込んでいい話ではないことは察してくれたらしい。……聞かれたところで私も何も聞かされていないのだけど。一緒になって意気消沈する春希を、花は慌てて励ました。「私も、この部屋のことは何も知らなくて。でも……ちゃんと説明してもらわなくちゃって思ってたの」いいきっかけができた!……と言って、3人で部屋のドアを閉めた。ランチの冷やし中華を食べ終わり、デザートのあんみつも食べて満腹になった2人は、すっかり安心してお昼寝中というわけだ。……けれど花は眠れなかった。開かずの間で見た黒いリボンの遺影。優しげに笑う人は、とても綺麗な人だったことを思い出す。年齢は多分30代。あの人が春希の母親で、大雅さんが唯一愛した人だったとしたら……胸がキュッと苦しくなった。私は、あの女性の代わりとしてここにいるんだろうか……余計なことを考えるのをやめたくて、携帯で最新のニュースを検索してみる。「大型台風が発生したとか竜巻とか雹とか……」洗濯物を外に出して干すことが趣味の花にとって、気になることの上位に翌日の天気がある。大雅さんが留守の間に、ベッドパッドを干すとか枕を干すとか洗うとかしておきたい。そんなことを考えてネットニュースを開いてみれば……「わぁ『鈴里大雅、海外ロケで輝く!』だって……」……そんな記事を見つけてしまえば、やっぱり姿を見たくなってしまうというもの。トップ画にはすでに、白いシャツとサングラス姿で街を歩く大雅の写真が使われている。開局50周年記念ドラマに出演・VÉLOURSの鈴里大雅(30)画面をタップしてみると、他にも何
last updateLast Updated : 2026-08-11
Read more

37.大雅がくれた夏休み

「それじゃ行ってきます!……花は今日1日、有意義に過ごしてね!」 「うん、ありがとう!夕飯は美味しいの作っておくから!」 瑠璃が春希をプールと動物園がセットになった、子供ランドに連れ出してくれることになった。 保育士仲間と3人で、春希の他にもう1人5歳の男の子を連れて行くという。 瑠璃が私にも、少しのんびりする時間を作ってくれた、というわけだ。 とはいえ、春希と過ごす時間にまったくストレスはなく、癒しの時間ですらあるのだが…… 「そういえば長いこと、美容室に行ってない……」 贅沢できないようになってから、ずっと自分で適当にカットしていた髪だったが……花園ミミのサラサラヘアを見て、少しは綺麗になりたくなった。 だから瑠璃の申し出はとてもありがたかったのだ。 春希の外出は、もちろん大雅も許可してくれてのこと。 『春希を預けたら、家事に勤しむとかしないように』 家にいたら絶対そうなってた…… メッセージのラリーはずっと途切れず続いていた。 『あの、大雅さんの落書きされたパネル、外そうと思ってました』 『あの鼻毛の?』 『そうです。勢いよく飛び出してるヤツ』 春希がいると危ないので、ずっと手を付けられないでいた。ふと目に入ってそうメッセージしてみたら、意外なことを言われのけぞってしまう。 『俺の顔忘れて欲しくないから、そのままにしておいて』 え……鼻毛付きの顔をインプットしたままでいいのでしょうか。 そしてさらに意外な提案までされてしまった。 『美容室へでも行ってきなよ。それで……化粧品とか服でも買いに行ったら?』 ものすごくハッとした。 私はそんなにみすぼらしかったかと思ったから。 『はい、そうします……』 『権堂に運転手をさせる。こちらから伝えるから、時間は何時頃がいい?』 権堂、という名前に嫌な胸の高鳴りを覚え、慌ててメッセージを送信する。 『いえ。権堂さんは結構です。タクシーを飛ばして行ってきていいですか?』 『その方がいいならもちろん』 本当はタクシーが使いたかったわけではもちろんない。けれどこれで、権堂さんは大雅さんに何も伝えていないということがわかった。 あの……恐ろしきファンのこと、留守中にご飯を食べて風呂に入り、大雅さんの服を着てリラックスし
last updateLast Updated : 2026-08-13
Read more

38.花、服を買う

「ここが、大雅さんオススメの……」「はい。さすが大雅さんです。おしゃれな服が置いてありそうでしょ?」磨き抜かれたガラス張りの外壁が美しい、誰もが知る高級ブランド店。……の、隣の店に入っていく花。味のあるTシャツや季節外れのコートも売っていて、履き潰されて逆に履き心地の良さそうなスニーカーも置いてあるリサイクルショップ。「探しがいがありそうです……」「いやいや、花さん!そちらではなくて、」慌てて連れ戻され、高級店の方に向け、背中を押された。「大雅さんの趣味なんだと思いますよ?……ホホホ」de.san.Jaleno……シンプルで質の高い、着心地のいい服を作っているブランドだ。母と一緒に子供の頃から訪ねていたのは銀座の本店だったが、よく似た店構えで懐かしさがこみ上げる。「いらっしゃいませ、マドモアゼル」ガラスドアを開けると、ウッド系の落ち着いた香りと共に、洗練された雰囲気の女性が私に向かって笑顔を向けた。マドモアゼル、の言い方に覚えがある……50代くらいの女性……本店の店長だった人だ。確かお名前はスザンナ伊藤さん。「もしかしたら、KOSAKAコーポレーションの、花お嬢様では?」「はい。花です。……お久しぶりです」「まぁ、大きくなられて……」最後に来店したのはいつだろうかと話ながら、スザンナさんはハッと何かを思い出したようだ。「あの、もしかして……俳優の鈴里大雅さんからのご紹介だというのは、」「……私です」花は唇に人さし指を立てた。「……あぁ、ここに転勤になって良かったわ!また花お嬢さまをコーディネートできるなんて!」「スザンナさん、お嬢さまというのは……」「あらやだ!私ったら、もうすっかり大人の女性でいらっしゃるのに」……とはいえ、大学を卒業するまではよく来ていた。就職してスーツが必要になって、別のブランドに行くことが多くなったのを思い出す。「鈴里さまは当店のメンズブランドのアンバサダーを務めていただいたご縁で、よくご利用いただいてるんですよ」「そうなんですか……私、何も知らなくて」このブランドのメンズ服は、父も好んで着ていた。……銀座の本店には両方置いてあって、家族で来ると父と弟、母と私に別れたものだ。スザンナさんはこちらの希望を聞きながら、骨格や肌色を見て、的確に服を選んでくれた。「鈴里様からは、一式揃え
last updateLast Updated : 2026-08-14
Read more

39.花の過去

「お召し物まで変わると……別人のようなレディに変わりますねぇ」スザンナさんに見送られ、ショップから出てきた私に、ドライバーさんは携帯のカメラを向けた。Vサインをして見せたのは、彼女との話が深刻すぎて、落ち込んだ気持ちを隠すため。「それでは、次のお店に向かいますね」大雅さんに指示をされているらしく、花を乗せ、ドライバーさんは車を走らせる。ほどなくして、バッグにしまった携帯がメッセージの着信を知らせた。『よく似合う。さすがde.san.Jalenoのスザンナさんだな』「え……さっき撮った写真、大雅さんに送っちゃったんですか?」「あ……そのように指示を受けておりまして。申し訳ありません」ついでに車内の様子も録画してあり、それも送信済みだと聞かされ、花は思わずあたりを見渡す。「あ……!カメラ、あれ?」「ホホホ……さようでございます」トロピカルな車内を演出してもらった時……ノリノリで踊った気がする。……しかも着替える前だからタマネギのTシャツで?「やだ……っ恥ずかしい」顔を覆う花に、追い打ちをかけるメッセージが届く。『カメラ、見つかっちゃったか。……すべて俺の指示だからドライバーを責めないように』花は見つけたカメラに絆創膏を貼ってやった。『全部見られてたなんて恥ずかしいです!』『ごめん』だいたい、私の様子を見て何が面白いというのか……こちらでは連日、大雅さんと共演している花園ミミさんの熱愛疑惑がワイドショーを賑わせているというのに『私はきっと、大雅さんにとって動物園のパンダなんでしょうね』癒し……とかじゃなくて娯楽。気まぐれに結婚して、利用されて。あの、開かずの間で見た遺影を思い出した。『そのあたりの話については、帰国したら時間を作る』『疑問に、答えてくれるんですか?』『……答える』どうやら、大雅さんも決意を固めたみたいだ。『だから今日は楽しんで欲しい。化粧品のことはよくわからなくて、同僚の女優に聞いたコスメショップを紹介するから』同僚の女優……花園ミミさんのことだ。『はい。ありがとうございます』大雅さんは今、噂の女性と一緒にいるんだな。ドラマの撮影なんて、私には想像できないような毎日を送っていて……本当に、私はどうしてあんなスターのそばにいられるんだろう。「もう……違うって!アイシャドウはまず、明るめの色を
last updateLast Updated : 2026-08-16
Read more

40.元カレと再会

「……連絡先って、」それを聞いて私にどうしろというのだろう。「会いたいって、花に。……なんか髪も切って久しぶりに小ざっぱりしたみたいだし、この機会に会ってきたら?」「美容室代を払ってくれたのは大雅さんだよ……化粧品も服も…全部大雅さんがプレゼントしてくれたものなのに?」「それは普段の花を労ってのプレゼントでしょ?……いろいろ真相がわかる前に、会っておいた方がいいような気がするけど?」確かに……そうだ。それに、あの日何も言わずに彼を避けて、傷つけたかもしれないと思ったのは一度やニ度ではない。大雅が帰ってくるまであと3日……明日から週末金曜日と土日が続く。春希を瑠璃に頼める今が、チャンスなのかもしれない。「花……変わらないね」震える指で連絡をしてみると、哲平はすぐに都合をつけてくれた。落ち合ったのは、当時よく一緒に行ったイタリアンレストラン。奥の窓際の席が好きで、空いていればかならず座っていたテーブルに彼はいた。「あの……当時は何も言わずに、ごめんなさい」着席する前に、花はまず頭を下げた。「父が失踪して母が亡くなって……会社のことと自宅のことでキャパオーバーで、誰のことも信用できなくなって。本当に、あの当時は何も言わずに避け続けてごめんなさい」謝罪しながら気付いた……私はずっと、哲平くんに謝りたかったのだと。彼はそんな花に笑いかける。「いいからまずは、座りなよ」自分の席から立ち上がり、迷いなく花の肩に触れ、椅子に座らせる。それはとても自然で優しい温もりだった。「それとなく状況は耳にしてたよ。確かに、花の口から聞きたいと思ってたけど……時間がたって、今話してくれるなら嬉しく思う」これだけ時間が経っても話を聞きたいと言ってくれる哲平に感謝の気持ちが湧き上がる。……同時に、離れていった友人たちと彼を一緒にしてしまった自分の人を見る目の無さに絶望した。「父の失踪は、本当にある日突然のことだったの。……父の会社に勤めてたけど、理由はまったくわからなくて、それは役員たちも同じで。それで家に帰ってみたら……まとまったお金と、売れそうな高額商品がことごとく無くなってた。それで、父は自分の意思で会社と家族を捨てたって理解するしかなかった」程なくして母が倒れて亡くなった話は、哲平も瞳を潤ませた。弟の家庭教師として家に出入りしていたあの
last updateLast Updated : 2026-08-17
Read more
PREV
1234568
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status