鍵が回る音がした。愛音はリビングでタオルを畳んでいた。玄関から聞こえたのは、航生の声ではない。 「お邪魔するわね。あら、ちゃんと家にいるじゃない」 午前中は出かけると航生は言っていた。その航生が貴子を連れてリビングへ入ってくる。貴子は靴を脱ぎながら室内を見回し、畳みかけの洗濯物へ目を落とした。航生は玄関に置いた鍵を拾い、貴子の後ろから部屋へ入る。愛音は畳みかけのタオルを膝から外し、端を揃えてテーブルへ置いた。 「陽太くんから聞いたのよ。最近よく出かけてるんですって?」 愛音はタオルを重ねてから立ち上がった。 「いらっしゃい。何か飲みますか?」 「その前に、ちょっと見せてもらおうかしら」 貴子は返事を待たず窓際へ向かった。航生は何も言わず、その後ろについていく。愛音も二人のあとを追った。 貴子は最初にリビングの窓へ向かった。カーテンを少し引き、外側から光が入る角度で桟を確かめる。愛音は声をかけず、貴子の肩越しに指先を見ていた。 貴子の指が窓枠の桟をなぞる。指先を裏返して確かめたが、何も付いていない。次は洗面所だった。鏡の下から蛇口の根元へ指を滑らせ、最後にキッチンへ向かう。排水口の縁をなぞっても、指先は白いままだった。 洗面所から戻るときも、貴子は鏡に映った愛音を見ただけだった。何か言われるかと思っていたが、彼女は口を開かずにキッチンへ向かう。愛音は半歩遅れて続いた。 貴子は指を軽くこすり合わせた。スリッパが床を擦る音がして、リビングへ戻る。航生の足元は動かなかった。愛音は二人の後ろで手を組み、貴子が次にどこを見るかを待った。貴子はソファの背に目をやってから、今度はテーブルの表面を指先でなぞった。そこでも手を止めることなく、キッチンへ視線を戻す。愛音は畳みかけの洗濯物が崩れていないことを確かめ、手を伸ばしかけてやめた。 「お昼、まだでしょう。何か出せるの?」 貴子が時計を見た。午前十一時半を少し過ぎている。愛音は冷蔵庫を開けた。残っていた豚肉と小松菜、昨日の煮物。それから卵を二つ取り出す。 「すぐ用意しますね」 冷蔵庫の中身を見れば、作れるものはすぐに決まった。愛音は豚肉を取り出しながら、煮物の
آخر تحديث : 2026-10-15 اقرأ المزيد